「ふわぁ〜……。」
大あくびする、一人の少女。
卓也たちと共に隠密行動の任務を遂行しているはずの甜歌である。
エターナル・フェイスの基地にて、最高指揮官ギルバート・デュランダルの話を聴いてから数日、ゾロアシア中のあらゆる情報を集めて回っていたのだが、これといって大した物は手に入らずじまいとなっていた。
どこか退屈さが増してきた甜歌は、ちょっとした気分転換に一人でぶらぶらと出歩いていた。
「……あれ?ここは…?」
当てもなく彷徨っていると、知らず知らずのうちに、ある場所にたどり着いてしまった。
ふと眼に留まった看板の文字。
そこには、こう書かれていた。
―――“魂の眠る場所”ユニウス・セメタリーガーデン―――
「……墓場…かな………?」
目の前に数多くの墓石が立ち並ぶことから、少なからず間違いないだろう。
「……いかにも、何かが出そうな雰囲気………。」
テレヴィアの“グルグル屋敷”の暗い雰囲気を彷彿とさせるムード。
興味をそそられた甜歌は、その墓場の敷地内に足を踏み入れた。
周囲をグルグルと見渡しながら、ゆっくりと歩を進め、さらに奥へと進む。
―――ドンッ!
「ひゃっ!?」
「おっと?」
前方不注意。
ふとした拍子に誰かにぶつかってしまったようだ。
「す、すいませ………。」
言いかけて甜歌は固まった。
ぶつかった相手が、見た目からしてとても悪かったみたいだ。
外見上から年齢は20代くらいで、白い髪。
鋭い視線に、罅の入ったメガネ。
………明らかに怖かった。
言葉を失い、震える足取りで後ずさりする甜歌。
ふと、目の前の女性の目線が甜歌の服に入り、あるところに目が入ると――――。
「おい、あんたもしかして“ティアーズ”…って奴らの仲間か……?」
「…えっ!?」
「その、胸元についている“RG”のマーク……、そうなんじゃねぇのか?」
「え、あ、あの…、その通り、ですけど………。」
見ず知らずの人が“ティアーズ”の名を口にする白髪(はくはつ)の女性。
甜歌も思わず困惑した。
「やっぱりかい。脅かしちまって悪かったな。」
そう言って女性が懐から取り出したのは、戦士の証たる“大鷲のピンバッヂ”。
「ええぇっ!?あ、あ、あなたもスピリチュアル・キャリバーだったんですか!?」
「ああ。あたしはロベリア・カルリーニ。よろしくな。」
「どうした?ロベリア。」
不意に聞こえた第三者の声。
外見上からして、甜歌とほぼ同年代くらいだろうか……。
しかもその格好はどうみても……。
「…ピエロ……さん……?」
「…まぁ…確かに、外見的に言えば間違いではないのだがな…。」
現れた第三者は、苦笑い気味に答えた。
「紹介するぜ。あたしのパートナーであるスピリチュアル・キャリバーのサポーターの、サリュだ。」
「は、はじめまして。ティアーズの甜歌と申します。」
「ほぅ。そなたがティアーズのメンバーか。」
甜歌は、自分たちティアーズの一部のメンバーたちがこれまで行った行動を、一字一句、間違えないように二人に告白した。
もちろん、その中には“もう一人のラクス・クライン”の内容も含まれていた、と言うよりは、それが話題の大部分を占めていた。
それを聞いた途端、二人の表情はさらに険しくなった。
いや、どこか納得しているような、そんな表情――――。
「道理であの子が狙われるわけだ…。」
「あぁ。あのときの報告も肯ける。」
「……?あの…何のことですか?」
「……実はな………。」
ロベリアは周囲に聞こえないように耳打ちした。
それは、3日ほど前に届けられた緊急報告の内容だった。
「――――えっ?」
脳内に入ってきた情報を、一時は処理できなかったのだが、全てを理解した瞬間、甜歌はパニックになった。
えええええぇぇぇぇぇ!!???
「声がデカイッ!!!」
「あっ!?」
今、自分たちがいる場所は墓場。
静けさが逆に音を響かせる場所。
こんな場所で大声を出してしまってはひとたまりもない。
「す、すみません。」
あやまりつつも、やはり甜歌の頭の中は混乱していた。
「で、で、でも、これってホントの話なんですか!?」
「間違いない。あたしたちのリーダーを通じて、仲間たちから連絡が来たからな。」
しかし、甜歌は信じられなかった。
“本物のラクス・クラインが命を狙われた”なんて……!
「……そうだ。あんたに見せたいものがある。ついて来てくれるか…?」
「………??」
不意に意味深な言葉を口にしたロベリア。
甜歌は、とりあえず言われるとおりについて行くことにした……。
たどり着いたのは一軒の小さな家。
ロベリアとサリュがこの国で暮らしているときの、隠れ家らしい。
すると、そのままついていくと、いつの間にか家の地下室にまで足を踏み込んでしまった。
ロベリアは部屋の電源を入れて、部屋全体の電気を点けた。
地下室の内部は、さながら小さな秘密基地をイメージさせるような造りになっていた。
「いいか?テンカ。」
不意にロベリアが口を開いた。
「これから見せるものは、本来ならあんたたちみたいなガキどもには絶対見せられない、非常に刺激が強すぎるものだ。」
「だが、これは君たちが我らの同盟的存在だからこそ、見せる価値があるものだ。」
どうやら、これから見ようとしているものは、かなりヤバイもののようだ。
「………よし。覚悟はいいな!?」
心を落ち着かせた甜歌は、意を決して、ゆっくり頷いた。
「サリュ。」
名を呼ばれたサリュは、地下室の片側の壁に設けられた、正方形状の引き出しのようなものに近づいた。
「これは、死体を冷凍保存するための特殊装置だ。もっとも、普段は使わないものなんだがな…。」
ロベリア曰く、詳しく調べるための死体解剖を行うためには、これは絶対必要なんだとか……。
だけど、なぜこんなものがあるのだろうか……?
そんなことを考える甜歌を尻目に、サリュはその装置のなかの一つを引き出した。
その死体には、体全体を覆うように大き目の布がかぶせられてある。
サリュは仰向けになっている死体の顔の傍で姿勢を低くし、布の端を握った。
「……この死体の顔、どこかで見た覚えはないか?」
そう言ってサリュは、顔面を覆っている布だけをめくった。
その顔を見た瞬間、甜歌は固まった。
一瞬、誰の顔かと思ったのだが、それはすぐさま理解された。
いかつい表情に独特の髪型。
見間違いとも思われたのだが―――――。
「あ、ふえ?あ…ぇ、え、ええ?」
死体を指差し、体を震わせ、明らかに動揺している甜歌の声、そして―――――。
ふええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!????
本日二度目の大絶叫。
後日知ることになるのだが、さすがに秘密の地下室ということもあってか、防音補強が施されており、外部には漏れなかったという。
「こここここっ、この人って、この人って、ううぅ…そ、そ、その…なに?!?!」
あまりにも予想外すぎたのか、甜歌は激しく動揺していた。
無理もない。
なぜなら、死体として眠っていた人物は―――――。
「ななな、なんで、なんでパトリック・ザラ議長が?!うそ??!ふええええぇぇぇぇぇぇっ!!!??」
夢なら今すぐ覚めて!!
そう念じるかのように、甜歌はしばらくの間パニック状態になっていた。
---to be continued---
あとがき:
長らくお待たせ!の第39話。
それにしても、甜歌の慌てぶり、「リリなの」第1期シリーズのなのはに匹敵する大絶叫でしたね。(苦笑)
さて、SEEDPIAの物語もようやく中間地点に差し掛かりました。
振り返ってみれば、僕って結構長く書いてきたんだなぁ………。
……と言うわけで、第2章『Deepen Mystery』編は、次回第40話を持って、終了としたいと思います。
その第40話、物語の急展開を見せる場面がそこら中に出てくる上、『リリカルなのはA's』から、キーパーソンキャラクターが多数参戦します!
さらに!次回はなんと“おまけ”として、第3章の予告も緊急掲載しようと思います!ご期待下さい!
(………といっても第3章の構成、実はまだ練れてないんだよね…(おい!))