Phase38 黒き魔導師と少女と…


てれび戦士たちの船の内部は、異常なまでの重苦しい雰囲気に包まれていた。

マユの口から次々と明かされた、彼女の自身の過去。

そして、ひょんなことから保護している少女・ステラとの意外な関係性。

まるで懺悔をするかのような告白に、レッドもゴルゴもラビも、そしててれび戦士やステラはもちろん、偶然駆けつけてきたさくらたち3人も、驚くしかなかった。

「ごめんね……みんな……。」

場の重い空気を感じたのか、思わず謝罪の言葉を口にするマユ。

「いやいや、謝る必要はないやろ。今までずーっと記憶がなかったらしいからな。」

レッドは彼女をフォローする。

今まで記憶の断片すらも曖昧だった彼女が、謝罪をする必要はない。

「しかし、疑問が残るな……。彼女の言葉が本当だとしたら、彼女を蘇らせたのが一体誰なのかと言うのも気にかかる。」

ちひろが言わずもがな、全員は大方その疑問は予測できた。

非科学的な魔法の力がなければ、こんな奇妙な出来事は起こせるはずがない。

全員が首を傾げる。


『その疑問ならば、私が答えるとしよう……。』


―――――!!??

周囲に響いた謎の声。

その声は、その場にいた全員の耳にしっかりと響いていた。

全員が周りを見渡す。

『お前たちの…真正面だ。』

その言葉と同時に、彼らの目の前に不思議な陣形が現れた。

灰色の二重の円形、摩訶不思議な文字がその内面を飾り、その中央部には正方形が二つ、互い違いに回っていた。

その陣形の中央から、一人の女性がゆっくりと上昇してきたのだ。

「おぉ〜!?な、な、何やこれ!?」

「一体どうなってんだ!?」

現れた女性は、灰色のロングヘアー。

衣服は、黒と紫を基調とした、いかにも“自分は魔法使いだ”と思わせるような風貌だった。

その風貌を見たスピリチュアル・キャリバーの面々は、まるでタイミングがいいかのように、さくら、ジェミニ、フワニータの三人は眼を見開いたまま言葉を発した。

「その顔にその格好……まさか、あなたは!!」

「「プレシア・テスタロッサ!!??」」

名を呼ばれた女性は、ゆっくりと目を開き、自分を見つめる者たちに微笑を見せた。

「いかにも…………。」

低い声で答えると同時に、足元に展開されていた陣形も姿を消した。

「私こそ、プラズマ界に並ぶ者のないであろう大魔導師、プレシア・テスタロッサだ。」

スピリチュアル・キャリバーにとっての顔見知りと言うことに、てれび戦士も驚いた。

ちひろが、ジェミニに尋ねた。

「ジェミニさん、あのお方は?」

「プレシア・テスタロッサ……、このシードピアにおいて、自他共に認める、一流の魔導師。」

「以前はわたしたちスピリチュアル・キャリバーにも協力してくれたこともあるんだけど、ある日を境に急にどこかにいなくなっちゃったの。」

「一説では『既に亡くなられているのではないか』と言う話もあったのですが、やはり生きていたのですね……。」

どうやら、シードピアの中で彼女の影響力は大きく、特にスピリチュアル・キャリバーにとっては大きな印象を残したようだ。

プレシアはてれび戦士たちの所に歩み寄り、さくらたち3人に目を向けた。

「久方ぶりよのう、スピリチュアル・キャリバー。」

「こちらのほうこそ。」

「ごぶさたしています。」

ジェミニとさくらが丁寧に、彼女を出迎える。

そして、その場にしゃがみフワニータと目線を合わせ、彼女の髪を撫でてあげた。

「フワニータも、久しぶりだな。元気にしていたか…?」

「はい。プレシアさんも、お元気そうでなによりです。」

「うむ。」

立ち上がり、目線をてれび戦士たちに向けたプレシア。

彼女の視線に多少ビクつくも、先ほどのジェミニたちとの会話からして、穏やかそうな雰囲気が伺えた。

「ところで、そなたたちは?」

代表して、レッドとゴルゴの二人が簡略に説明した。

「あ、これは申し送れました。我々は、異次元世界“テレヴィア”から来た公安組織“ティアーズ”と申します。」

「非公式ながら、スピリチュアル・キャリバーとの同盟関係を結んでおります。」

シードピアとは異なる世界からの来訪者。

プレシアも少なからず興味を示した。

「ほぉ…。このプラズマ界にも、シードピア以外の世界が存在しようとは…。」

ここで、竜一がプレシアに本題を質疑した。

「プレシアさん、早速なんですが、マユちゃんの事に関して、何かご存知なんですか……?」

彼女は、青年の質疑に対し、意表をつく言葉を持って答えた。

「……何を隠そう、その少女をこの世界に蘇らせたのは、他ならぬ私なのだ。」

―――ええっ!?

確信と驚きが入り混じったかのような声が、わずかに響いた。

マユにいたっては、見ず知らずの相手が自分を生き返らせたという言葉に、驚きを見せていた。

言葉に出来ぬ感情を抑えつつ、さくらとジェミニは反論した。

「それは不可能ではないですか?私たちが普段使っている“霊力”を用いても、死者を復活させることは到底できません。」

「強いて言うならば、霊力と相対する“妖力”を用いた“反魂の術”くらいしかありえないですよ。」

だが、彼女たちの静かな反論も、プレシアは認めなかった。

「“反魂の術”を使わずとも、出来る方法はある……。私は、コレを使って蘇らせたのだ。」

プレシアが懐から取り出したのは、人間の手のひらよりは少し小さめの銀色に輝く不思議な結晶体。

時折それは、一瞬強い輝きをも放っていた。


「そっ、その宝石は!!」

「「シード・クリスタル!!!」」


さくらたち3人が発した宝石の名称に、てれび戦士たちも驚きを見せた。

「あ、あれがシード・クリスタルだって!!?」

彼らの反応を見たさくらたちとプレシアは、眼を見開いた。

「そなたたち……この宝石の名を知っているのか?」

「あ…偶然聞いただけで、詳しいことは…。」

「なるほど…。」

てれび戦士たちのもとへ歩み寄ったプレシアは、シード・クリスタルに関する事を語り始めた。

「シード・クリスタルは、このシードピアにおいて希少価値が極めて高い宝石。この世界全土のどこかに幾つか存在すると言われているのだが、正確な数はわかっていない。」

てれび戦士もマユも、その宝石をまじまじと見つめている。

「唯一つ判っていること、それは、この宝石は無限のパワーを生み出す奇跡の力があると言うことだ。」

無限のパワーを生み出す不思議な石、シード・クリスタル。

この宝石には、未だに解明されていないことがたくさんあるようだ。

「……ところでプレシアさん、先ほどあなたはこの宝石を使って、マユちゃんを生き返らせたと言いましたよね…?一体、どうやって……?」

ちひろの質問を耳にしたプレシアは、しばしの沈黙の後、何を思ったのか、自らの手の中にあるシード・クリスタルを回転させた。

すると、ちひろはクリスタルのある異変に気付いた。

「ん?これは……。」

「どうかしたか、ちひろ?」

「このクリスタル……一部が欠けているぞ!?」

――――欠けている!??

全員の目線がクリスタルに向けられ、クリスタルを直視した。

確かにちひろの言うとおり、クリスタルの一部分が欠けているのが確認された。

「そんなに驚くこともあるまい。このシード・クリスタルは“自由自在に加工することが出来る”と言うのも、大きな特徴の一つだ。
また、このようにたとえ一部が砕けてしまおうとも、破片を一箇所に集中させれば元に戻ることも可能だ。」

「…あれ?自由自在に加工できる………まさかっ!?」

プレシアの発言を聞いたドクターレイシーの思考回路は、一つの結論に達した。

「ちょっと待ってください!まさか、プレシア女史、そのシード・クリスタルの欠片をマユちゃんの心臓の代わりにしたと言うのではないでしょうね!?」

ドクターレイシーの推測に対し、プレシアは数刻の間の後、言葉を紡いだ。

「“クリスタルの欠片でマユを生き返らせた”、と言うところまでは正解に近い。だが、私はそれを単に“マユの新たな心臓として”使ったわけではないぞ。」

意味深なプレシアの言葉。

では一体、どうしたと言うのだろうか………?

「実は、マユを生き返らせる儀式のとき、そのクリスタルの中に“もう一つの命”を宿らせたのだ……。」

――――もう一つの命???

「そうだ………。今からそれを、見せて進ぜよう。」

静かにその言葉を口にした彼女は、困惑する少女・マユのもとへと歩み寄り、自らの手を少女の胸にかざした。

思わずマユは体を強張らせたが、プレシアの表情は穏やかな笑みそのものだった。

「案ずるな…。痛くはしない。」

その言葉と同時に、プレシアの足下に再びあの円形の陣形が浮かび上がった。

かざした手から光の筋が現れ、マユの胸の中から“クリスタルの欠片”が現れた。

「少女の命として動く奇跡の石“シード・クリスタル”よ……、その身に宿りし“もう一つの魂”を、今ここに、復活させよ。」

呪文のような言葉の後、クリスタルの欠片が光を発し、その輝きから人影があらわれた。

風になびくような金色のツインテールの髪と、それを束ねるリボン。

さわやかなスカイブルーカラーのジャケットとスカート。

そして、ステラの瞳と同等の、赤紫色の瞳。

さらに、その背丈はマユとほぼ同等の大きさだった。


「…目覚めたか…我が愛しき娘、アリシア………。」

「…おかあさん…。」


―――――おかあさん??



---to be continued---


あとがき:
ついに来ました………!
いよいよシードピアの物語に“魔法少女リリカルなのは”シリーズが電撃参戦でございます!
今回はそれに先駆け、第1期シリーズのキーパーソンキャラクターである、
プレシアとアリシアのテスタロッサ親子にご登場頂きました!これからどんな活躍を見せてくれるのでしょうか?
まぁ、せめて本編と同様な悲運の道は辿らせないようにしたいですね……。








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