ズド――――――――――ン!!!!
「うわわわっ!」
リュミエール岬近郊にて休息をとっていたジェミニは、突然の大爆発を聞き、心臓が飛び出るくらいに驚いた。
爆発音が聞こえた方角に視線を向けると、現在地から数百メートル離れた場所から黒煙が上がっているのが見えた。
確か、あの辺りにはてれび戦士たちの戦艦があったはずだ。
「ジェミニさん!」
「ジェミニ!」
自分の名を呼ぶ二人の声。
共に休息を取っていたさくらとフワニータだ。
「今の爆発音は何ですか!?」
「多分、あそこだ…。てれび戦士たちの戦艦の辺り…!」
ジェミニが指差した先。
確かに、大異変を告げているかのように黒煙が上がっている……。
「ジェミニ、行こう!」
「オッケー!」
すぐさまジェミニとフワニータは、パートナーである愛馬ラリーにまたがった。
「ハイヤー、ラリーッ!!」
手綱を引き、ラリー走らせる瞬間、ジェミニは間髪入れずにさくらの着物の襟を鷲掴みにし、そのまま全力疾走した。
「ちょ、ちょ、ちょっとジェミニさ〜ん!!く、くるし……。」
さくらがそのまま気絶したことにジェミニが気付いたのは、てれび戦士の戦艦に到着した直後だった………。
「なんだなんだ!?」
「一体、何が起こったんや!?」
船の中で突然起こった大爆発。
レッドやゴルゴはもちろん、艦内に居たてれび戦士たち全員も状況がわからず困惑していた。
しかし、すぐさまブリッジにいたオペレーターアンドロイドのユリアからの緊急報告で、衝撃的な事実が明らかになった。
『ブリッジより緊急報告!爆発ポイントは、艦内・メディカルラボルームと判明!総員、大至急現場に急行してください!』
――――メディカルラボルーム!?
「あの科学者兄弟、またドジをやりやがったな!?」
ゴルゴは怒りに任せて即座に現場に直行した。
「お、おいゴルゴ!……と、とにかく俺たちも行くぞ!」
「了解!」 「アイアイサー!」
みんなよりも一足先に現場に到着したゴルゴ。
「うわ……随分ド派手にやってくれたな……。」
煙がたちこめ、視界すらもまともになっていないこの状況。
明らかに尋常ではなかったが、ひとまず部屋の中へと入り込んだ。
「まったく……マユちゃんとステラの治療中におかしな発明でもやらかしたんじゃねえか?」
明らかに怒りが含まれているゴルゴの言葉。
はき捨てるかのように言葉を紡ぎ、部屋の中を探索した。
「おーい!ドクターレイシー!チアキー!無事か〜?」
彼らの名を呼び、無事かどうかを確かめるゴルゴ。
しかし、未だに視界が安定しないこの状況では、自分が今どこにいるかすらも判らなくなってきそうだった。
そう思った矢先、部屋全体を覆っていた煙が急に晴れた。
「お?」
目線をそらすと、外壁が崩れている後が見受けられた。
どうやらあの穴から煙が外へ漏れたようだ。
この瞬間と同時に部屋の全体の現状がわかった。
「か〜……コンピュータやカプセルが無茶苦茶じゃねぇか……。」
被った被害は予想以上にひどいものだった。
様子からして、爆発の中心は一つの医療ポッドのようだった。
そこから爆発が起こり、今回の惨事に繋がったと見える。
「……ん?」
ふと、自分の足下でレイシー兄弟が倒れているのに気付いた。
「ドクターレイシー!チアキ!おい、大丈夫か!?」
二人に声をかけるが、返事がない。
どうやらさっきの爆発で気を失ってしまったようだ。
「うわわ、何だこりゃ!?」
「結構ひどいわね…。」
背後から聞こえた悲観も含められた声。
ふり向くと、レッドと杏奈が。
どうやら他の面々もようやく到着したようだ。
「あ!ゴルゴ伯爵!レイシー兄弟は?」
「二人揃って気を失っている。俺はこいつらを見ておくから、お前らはマユちゃんとステラを頼むぜ。」
「よし。他のメンバーたちはこの部屋の後片付けを頼む。」
てれび戦士たちが手分けして事後処理を行う中、レッドの眼に、呆然と佇んでいるマユとうつ伏せになって倒れているステラの姿が映った。
しかし、どうも様子がおかしい……。
よく見るとマユの体が小刻みに震えていた。
「マユちゃん…、どうした…?」
レッドが声をかけるが、反応する様子はない。
彼の気遣う声が耳に届いたのか、ゴルゴとてれび戦士たちもその方向に目線を向けた。
「……??」
マユは、自分の手のひらを見つめて震えたまま、動こうともしない。
しかもその表情は、恐怖に満ち溢れていると言う表現が取れるような状態だった。
明らかに異常だ。
「おい……どうしたんだよ、マユちゃん。」
レッドの手が肩に添えられたのを感じたのか、マユはビクッとした。
その反応にレッドも若干驚き、すぐさま添えた手をどけた。
壊れた人形のように首を動かし、振り向いたマユの視線には、自分を心配してくれたのであろう、てれび戦士のみんなの姿が映った。
自分の傍らには、レッドも……。
「レッドさん……、みんな……。」
彼女の瞳の奥にある戸惑いの色は、明らかに消えてはいない。
と、そのとき、ずっとうつ伏せで倒れていたステラが、ここでようやく眼を覚ました。
すると、マユの姿が彼女の眼に映り、それと同時に何かを思い出したのか、眼を見開き彼女の名を呼んだ。
「……!マユちゃん!?」
――――えっ!?
眼を覚ましたばかりの少女が発した、彼女の名。
てれび戦士たちにとっては、寝耳に水といっても過言ではない状況だった。
さらに――――。
「ステ…ラ…!」
マユもまたステラの名を呼び、互いの存在を認めた。
どうやら様子からして、知り合いのようだ。
ステラがマユに歩み寄ろうとしたそのとき―――。
「近づかないで!」
「え……っ…?」
突然、拒絶されたステラは、何がなんだかわからなかった。
そのマユは、大困惑しているかのように挙動不審になっていた。
この様子にレッドや杏奈はもちろん、ゴルゴたちも混乱しかけた。
「マユちゃん、どうしたんや?」
「落ち着いてよマユちゃん、言いたいことがあったら、私たちにもわかるようにゆっくり話して。」
「…っ…わかった……。マユの記憶も全部戻ったし、ホントのことを話すね……。」
記憶が戻った。
その言葉にてれび戦士たちは各々で眼を合わせあった。
どうやら治療中にすべてのことを思い出したようだ。
「あのね……、マユはもう、この世界にはいない人なの。」
――――――え?
意味深な言葉を口にした少女に、てれび戦士たちは眼が点になった。
だが、それもお構いなしに、マユは涙目の表情のままとんでもない爆弾発言を投下した。
「マユは…マユは…っ……!!」
――――――もう3年以上も前に死んじゃってるのよ〜っ!!!!
――――――――えええぇぇぇぇっ!!!!!??
またしても船全体が大激震した。
と、そのとき――――――。
「あぁっ!ゴルゴ伯爵…!」
「なんだ望。」
「今、マユちゃん、“死んじゃってる”って言いましたよね…?!」
望の発言に、一瞬ゴルゴは何のことだと思ったが、目線を逸らした先のステラの様子を見て、すぐさまハッとする。
「いやぁ…っ…!!死ぬの…怖い…っ……!」
ステラは自分の体を描き抱くかのように腕を絡ませ、全身を小刻みに震わせていた。
しかも、尋常ではないこの状況。
「ゲッ!やばい!」
「ブ、“ブロックワード”による暴走や!ちひろ、抑えてくれ!」
「了解!!」
すぐさま飛び掛って体全体を抑え込んだ。
「いやああああぁぁぁぁ!!!怖い!死ぬのコワイィィ!!!」
「くっ!こら!ステラ、落ち着け!」
ちひろが抑えている間、幸生は医療道具のかごの中から、ブレッドから託された“アタラクティク・ドリンク”を取り出した。
「杏奈先生!これを!」
幸生が投げたドリンクの小瓶を、杏奈がナイスキャッチ!
「ありがと!」
ビンの栓を開け、暴れているステラのところへ。
「さ、これを飲みなさい!」
ちひろが強引にステラの首を上に向けさせ、その間に彼女にドリンクを飲ませる。
ゴクゴクゴク………………。
飲み干してから10秒も立たずに、ステラの暴走状態は収束し、彼女は落ち着きを取り戻した。
とりあえず、胸をなでおろす。
「ふぅ〜……、まずは一安心やな…。」
「いや、それよりも…。自分がすでにこの世界にいないって、どうしてそう言えるんだ、マユ。」
「それは……。」
本題に入ろうとした矢先、今度は自分たちの背後から声が。
「その話、ボクたちにも聞かせてくれない?」
振り返るとそこには、いつの間にかこの船に上がりこんでいた3人の女の子が。
「ジェ、ジェミニさんとフワニータ!?」
「さくらさんも!?」
彼女ら3人の表情は、怒りとも悲しみともとれる複雑なものだった。
---to be continued---
あとがき:
記憶が戻ったと同時に出てきてしまいました、マユの爆弾発言!
実は今回の話、原稿書き上げ当初から書きたかった展開の一つだったりします(苦笑)
さて、いよいよまもなく、当サイトの新ジャンル『魔法少女リリカルなのは』シリーズが緊急参戦いたします!!
次回第38話は、それに先駆け、第1期シリーズのキーパーソンが先陣を切って登場します!
ちなみにその方々、現時点においては敵か味方かは判断できてないんですけれどもね。(苦笑)