Phase36 紡がれし記憶の解放(リベレート)


「コーディネイターに関する色んな資料は幾つか見つかったけど……。」

「エクステンデッドに関することまでは判らずじまいだったな………。」

表情がやや暗い状況でリーフに帰還したレイシー兄弟。

一時的に保護している少女・ステラの遺伝子構造に関する手がかりを掴もうと、“エヴィデンス歴史館”に足を運んだのだが、コレと言った情報はなかなか見つからなかった。

しばらくこれは難航しそうだ。

「あれ?お前たち。」

「「…?」」

険しい表情で竜一が二人に駆け寄ってきた。

「何処行ってたんだ?」

「ちょっと、歴史館でエクステンデッドに関する情報がないか探していたんですよ。」

「そうか……それよりも、ちょっと来てくれないか。ややこしいことが起こっちまってさ。」

ややこしいこと……?

どうやら自分たちが席を外している間に何かハプニングが起こったらしい……。


レッドが手に入れた驚愕の情報。

その内容を聞いたてれび戦士たちもまた、自分たちの心に巨大爆弾が投下されたかのような大衝撃を受けた。

――――――えええぇぇぇぇっ!!!!!

船全体が大激震し、周囲のものが崩れるかのような状態になった。

「ちょっと待てレッド!それ、マジか!?」

「ああ。スピリチュアル・キャリバーからの最新情報や!」

そう言ってレッドは、彼女らからもたらされた手紙を手渡した。

受け取ったゴルゴは思わず、頭の中が混乱した状態で、手紙の内容を朗読した。

「…!?“ラクス・クラインを暗殺しろ、それなりの報酬は約束する。byパトリック・ザラ”……!何これぇ!!??」

「レッド隊長、これってどういう事!?」

「さくらさんから聞いた話なんやけど……。」

レッドは、この一件に関する内容を語り始めた………。




「なにぃっ!?」

気が強い女の怒声が、墓場中に響いた。

ゾロアシア・ワールド市街地“ヤヌアリウスタウン”郊外の墓地、“ユニウス・セメタリーガーデン”。

「そんなバカな話があるかってんだよ!!」

ここの墓守的存在であるロベリアは、スピリード島本部からの緊急通信を受け、我を忘れて怒声を放っていた。

『それが、ベルナデッドからの情報だと、言ってでもか?ロベリア。』

冷静に言い放った、総司令・大神の言葉。

「ハッ、冗談じゃないね。ベルナデッドはもう組織をクビにされたんだぜ。そんな奴から情報がもたらされるなんざ……。」

『エリカくんからの報告だ。』

遮られ、きっぱりと言い放ったその言葉。

ロベリアの表情がさらに険しくなった。

エリカはあらゆることを純粋に受け止め、それを伝えるバカ正直な性格。

普段ならそれで大迷惑を起こしてしまうのがオチなのだが、様子からして今回ばかりは――――――――。

「冗談抜きで…って…わけか……!?」

彼女の質疑に、モニター内の男はゆっくりと大きく頷いた。

『今、幻夜斎の手配で根来衆がそっちに向かっているはずだ。悪いが、そいつらと一緒に新たな調査を頼む。』

「…ちっ…わかったよ……。あいつらと行動するってのが性に合わないが、仕方ねぇか…。」

渋々、任務を受託し、行動することにした。

通信を切り、サリュのもとへと向かう。

ロベリアが合流したときには、すでに彼のところに黒き忍者たちが…。

…………相変わらず、根回しが効いてるな…。

「ロベリア、大神司令から何か聞いているか?」

「あぁ。ついさっき連絡が入った。そいつらと一緒に隠密行動をしてくれってさ………。」

やはりか、と言いたいような複雑な表情を見せるサリュ。

ふとそのとき、サリュの脳裏に一つの気配が過った。

「―――!?」

表情を険しくさせ、サリュは別方向に眼を向けた。

それに気付かず、ロベリアは今後の調査内容について話し合っていた。

「……?ロベリアさま、サリュさまが……。」

ふと、一人の忍者の発言で、ロベリアもようやくサリュの様子がおかしいことに気付いた。

「…?どうした、サリュ!?」

彼女の声に気付いたのか、サリュは歩みを止め、ゆっくりと指をさした。

その方向は墓地の奥、沖合いに出る方角だった。

「向こうからただならぬ気配を感じる……。」

その一言の後、サリュは瞳を閉じ、その気配の出所を探った。

自らの意識を飛ばし、墓場を越え、ゾロアシアの領海の中間にさしかかろうとしていたとき――――――。

「――――――!!!」

不意にサリュの眼が見開かれた。

「……どうした、何か宝物でも見つかったか…?」

「……それよりも…、遥かに信じがたいものを発見してしまった…っ…!!」

「…は???」

よくみると、サリュの体が僅かに震えていた。

ロベリアは彼の現在の思考を読み取るべく、自らの手を彼の頭部に置き、霊力でそれを読み取った。

すると、彼の視界が見る見るうちに広がっていき、やがて、先ほどの言葉の意味を理解することになる。

サリュが霊力で見据えていたもの……それは、一人の水死体だった…!




一方、てれび戦士たちはレッドからの衝撃的報告を受け、周囲は静まり返っていた。

「まさか…ラクスさんが狙われていたなんて……。」

特に、ライガーシールズたち以外でラクスと接していた杏奈にとっては、ショックなことであった。

「それで、レッド。その…ベルナデッド…だっけか?あの女の子はどうした?」

「話によれば、スピリード島の教会で保護されていると言う話や。ただ、向こうも自分の間違いに気付いて相当なショックだったらしいで……。」

どういう言葉をかけてあげるべきかすらも判らない…。

そんな雰囲気が漂っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、大変デシ大変デシ〜!」

息を切らしながらブリッジに上がってきた一人の少女。

有沙女王直属の特殊部隊“黒い団子三兄弟”のリーダーの里穂だ。

「お?里穂じゃないか。」

「大変、大変〜!」

―――ドテッ!

勢いあまって転んだが、10秒もたたずに起き上がり慌てた顔つきのまま言葉を発した。

「大変デシってば!」

「いや…大変って何が?」

「…………なんだったっけ???」

――――ドンガラガッシャ〜ン!

………てれび戦士全員ズッコケ。

「お前のその“天然トルネード”、どうにかしろよ!」

ゴルゴのツッコミからおよそ5秒後、里穂はようやく何かを思い出した。

「あ、思い出したデシ!メディカルラボルームで、マユちゃんが倒れているデシよ!」

――――ええぇぇ〜っ?!






マユは奇妙な場所に浮かんでいた。

ふと眼を覚まし、周囲を見渡す。

そこは一面真っ白の世界だった。

「ここは……どこ…?」

呟き、周りを何度も見渡す。

すると――――――――。

『いいか、シン、マユ。』

背後から聞き覚えのある声が。

振り向くと、そこには空間に浮かぶ映像が。

その映像の中には、一組の親子と思える4人と、金髪の女の子が対面している様子が映っていた。

『この子は、お前たちの新しい兄弟になる。マユにとってはお姉さんに当たる存在だ。仲良くな。』

30代後半と思しき男性の言葉。

“マユにとってのお姉さん。”

その言葉がどういうわけか、彼女の心に深く焼き付けられているような感覚に見舞われた。

『初めまして、お姉ちゃん。お名前は?』

あどけなさが残る、聞き覚えのある声。

それはすぐに、自分の声だということに気付いた。

『…ステラ…、ステラ・ルーシェ。』

『わたしはマユ、マユ・アスカ。よろしくね。』

『俺はシン。シン・アスカ。』

硬い握手を交わし、いわゆる、義兄弟の関係を結んだ3人。

マユは、この様子を見て、どこか懐かしさを感じた。

これはまるで……と言うよりも……もうこれは……!

「ひょっとして…あの女の子…、昔の……マユ…?」

そう考える間もなく、背後からまた新たな声が。

『さぁ、ここが私たちの家よ。』

振り返ると、別の映像が浮かんでいた。

それは、マユたちがステラを自分たちの住んでいる家に連れてきているところだった。

『ステラたちの…あたらしい…おうち……?』

『そうよ。』

受け答えするのは、男性の妻と思しき女性の声。

おそらく、マユのお母さんだろう。

『ねぇねぇ、写真撮ろうよ、ステラがお家にやってきた記念に☆』

『そうだな。ステラも今日から俺たちの家族だし、いいんじゃない?』

『はいはい、分かったわ。』

過去の時の流れがゆっくりと刻まれていくのと同時に、マユの脳裏にも変化が…………。

今の今までは、自分の記憶は断片的なものであったが、それがフラッシュバックされていくかのように、まるでジグソーパズルが急ピッチで完成されるかのように、次々と記憶が戻っていった。

そして、自分の心の奥底にある最期の記憶が、目の前に映し出された……!

『死ね!コーディネイター!』

『蒼き清浄なる世界のために!!』

過激派組織“ブルーコスモス・ファミリー”の一団であろう、ナチュラルの武装集団の襲撃。

その惨事に、マユたちも巻き込まれていた。

兄・シンとはぐれ、さらにステラすらもいつの間にかいなくなっていた。

しかし、二人を探す間もなく、残された3人はブルーコスモス・ファミリーの凶弾の乱射にやられてしまった。

――――おにい…ちゃ…ん…。

愛する兄を心で呼びつつも、マユの全身から力が抜け、その場に倒れた。

『…あ…あぁぁ…うぁ…ぁぁあ…っ…!』

どれくらい気を失っていただろうか、遠くで誰かがすすり泣く声が聞こえた。

必死に眼を開いて視線を動かすと、そこには、今にも大泣きしそうな兄の姿があった。

『…お…にい……ちゃ…ん……?』

『……っ?!…マユ…!?』

足をふらつかせながらも、自分のところへ歩み寄ったシン。

表情は既に涙に濡れていた。

でも、マユにとってはどうでもよかった。

だって、愛する兄に、出会うことが出来たのだから……。

そう思うと、笑顔を見せずにはいられなかった…。

『よかった……おにい…ちゃん…に…あえて……。』

『マユっ……どうして…こんな…っ……ちくしょう…っ……!!』

自分がもうすぐ逝ってしまうことを嘆いているのか、シンの涙は止まらなかった。

せめて、自分の生きた証を残してあげたい。

マユは、かすれた声で兄を呼び、震えた手で懐にあったお気に入りの携帯電話を差し出した。

『マユ……それ…!』

『おにいちゃん…これ…持ってて。』

『え…?』

『離れ離れは…嫌……だから…これ………。』

『………ああ、大丈夫。俺たちはいつまでも一緒だよ。』

シンは今にも消えそうな妹の魂を離したくないと言う一心で、彼女の手を握り返した。

『おにい…ちゃん…。ステラと、はぐれ…ちゃっ…た。お願…い、探して……。』

『判った…わかったから…っ…。もう、それ以上喋らないでくれっ…!』

必ず、ステラを見つけるから……、俺が絶対に…!

その力強い言葉を聴き、ぎこちない笑顔を見たとき、マユは安心しきったような笑顔を見せ、最期に一言。


『…よ…かった……。』


その一言を期に、小さな命の灯火は消え、動かなくなった。

『―――!!!』


『マユ……父さん…母さん……ごめん…っ…。』


『う…ううっ…うぁぁっ…く…っ……うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!!』



ティアーズに出会って以来、おぼろげだった彼女の記憶のピースが、完全に形作り、ここに完成した。

しかし、マユの心に大きな戸惑いすらも同時に創りだしていた。

「じゃあ……マユは……、マユ…は……っ…!!!」

困惑しきった彼女の心は次第に暴走をはじめ、それが現実世界にも影響を及ぼし始めた……!





里穂からの報告を聞きつけたレイシーたちはすぐさま持ち場に戻った。

ステラが寝ている傍らには、もう一つのカプセルで眠るマユの姿が…。

「僕らが眼を放した隙にマユちゃんが居たなんて……あ〜あ…。」

「…にしても…どうしたんだろ……。」

ドクターレイシーが頭を抱える中、チアキはふと呟いた。

カプセルの中で眠っているマユの表情が、どこか苦しそうな様子が窺えたのだ。

「何か、悪い夢でも見ているのかも……。」

そう考え始めた矢先、突然、緊急事態を告げるアラートが部屋全体に響いた。

「…?…何だろ?」

そそくさにチアキは一台のコンピュータに眼を向ける。

「…え?何?どうなってんの??」

いつもの弟の様子がおかしいことに気付いたドクターレイシーは、すぐさま彼の傍らに。

「……どうした、チアキ?」

「いや……マユちゃんのカプセルに何か異常が…!」

よく見ると、彼女の脳波が異常な数値を記録しているのが伺える。

一体何が…………。

『警告!警告!カプセル耐久制度臨界点突破!』

「「え?」」

コンピュータから発せられた人工音声。

一瞬、何かの聞き間違えかとも思っていたが、それはあっさりと否定された。

『カプセル耐久制度臨界点突破!マモナク爆発シマス!!』

「「え゛っ!!??」」

レイシー兄弟が驚愕の声を上げる間もなく、カプセルから電流が漏れ出し、同時にマユの絶叫が響いた。

「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

次の瞬間――――――――――――。







ズド――――――――――ン!!!!






「どひゃああぁぁっ!!」

「わああぁぁっ!!」





てれび戦士たちの船に、黒煙が立ち上った………。



---to be continued---


あとがき:
ここに来てようやくマユちゃん、過去の記憶を取り戻しました!
それに伴い、マユのキャラプロフィールも緊急で微更新しました!
さて、これがてれび戦士たちにどんな心境を作り出していくのでしょうか!?
皆さんだったらこんな風な状況、どんな風に受け止めますか………?








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