Phase32 翳なる舞姫の存在


ブルーコスモス・ファミリーによるゾロアシアでのライブステージ大騒動事件が鎮静化していた頃、隠密行動に出ていた卓也たち4人は、デュランダル率いるエターナル・フェイスの誘導で、彼らの活動拠点“ジェネシス・フォートレス”に足を運んでいた。

そこで卓也たちは、彼らに関するこれまでの経緯を耳にした。


血のバレンタイン以後、ゾロアシアワールドは完全にコーディネイターだけの住む国となった。

しかし、コーディネイターの中にはこの事件を快く思っていない人間も数多く存在した。

国内でも、ナチュラルとの共存を目指す“穏健派”サイドと、ナチュラル完全抹殺を主張する“主戦派”サイドに分かれていた。

それは無論、この国の最高機関である“ゾロアシア最高評議会”も同じであった。

特に、評議会の最高議長の立場にあるパトリックは、自分の妻をナチュラルに殺されてしまったと言う過去を持っているが故、現在における主戦派のリーダー格でもある。

しかし、国の中だけで敵味方に2分されてしまっては収集すらもつかない。

そこで、“国内の治安”を目的にゾロアシアの私立機動部隊を設立することにした。

それが現在の彼ら、独立親衛騎団“エターナル・フェイス”である。


組織としての歴史はそんなに深くはないものの、国の平和を守りたいと言う一心は、てれび戦士やライガーシールズと一緒であった。

「我々の考えは理解してくれるかな、諸君。」

「もちろんです。貴方方の考えは僕たちと一緒です。そう判れば、僕らも貴方方に関してそれ以上追求する意思はありません。」

すると、ここでデュランダルが意味深な言葉を口にした。

「ところで君たちは、先ほどのあのラクス・クラインをどう思っているのかね?」

「え…っ…?」

藪から棒に言われたその言葉に、卓也たちは戸惑った。

口を開いたのは甜歌だった。

「どうって言われると、とても明るい印象だったと言うことでしょうか…?」

デュランダルは周囲に眼を向けて何かを確認した後、極めて周囲に聞こえないような声でてれび戦士たちに告白した。

「もしやとは思うが、ニュートラルヴィアに同姓同名の“ラクス・クライン”がいるのではないのかね……?」

同じ名を使っている姿形が酷似した少女がニュートラルヴィアに居るのか?

デュランダルはそう尋ねた。

「……えぇっ?」

4人は揃って声を上げたが、周囲を見渡し、デュランダルに視線を移した。

「どうしていきなりそんなことを……?」

「…ラクス・クラインは元々、このゾロアシア・ワールドの住人だったんだ。」

デュランダルが言うには、ラクスは以前、かつてのゾロアシアの最高評議会の議長であった父・シーゲルの愛娘だったと言う。

ナチュラルとの共存を願う穏健派の議長と、平和を愛する歌姫。

まさに、ゾロアシアの平和の象徴と言っても過言ではない存在であった。

しかし、忌まわしき“血のバレンタイン”事件のとき、シーゲルはコーディネイターの過激派の凶弾に命を奪われたと言う。

幸い、娘のラクスは難を逃れたらしいのだが………。

「それが、ある日突然メディアを通じて再び表舞台に姿を見せた。ザラ議長と共にな…。」

その日以来、彼女はザラ議長と行動を共にしていた。

だが、デュランダルはどこか疑問を感じるようになった。

ラクス・クラインと言えば、淑やかなイメージが強く、その言葉と歌声はみんなの心を和ませてゆく。

ところが、今表舞台にたっているラクスは、活発で明るく、積極的にアピールをする活動派の存在。

イメージは変わってもラクスはラクス。

住人たちはそう思っているのかも知れないのだが………。

「私情を挟ませてもらえば、私は今の彼女に納得がいかない。」




ニュートラルヴィア市街地郊外・ボイラーヴィレッジ。

その片隅に1件の家がある。

古き“蒸気”の伝統を受け継ぐ村には不釣合いな洋風の小さな屋敷。

この家は、ニュートラルヴィアでも特に変わり者の詩集売りとして有名な少女の家でもあった。

「………。」

黙々と、一人静かにペンを走らせる少女。

長い金髪に、真紅の瞳、そして服装全体が漆黒で彩られていた。

黒きフランス人形と言っても差し支えない風貌であった。

彼女がこの屋敷の主、ベルナデッド・シモンズ。

表向きの顔は、先刻の通り“詩集売り”。

自費出版している詩集の販売を、アプリリウス銀座を中心に展開している。


――――カタン。


「…………?」

外に響いた郵便受けの音。

ペンを止め、それを傍らに置くと、すぐさま郵便をとりに言った。

入っていたのは1通の手紙。

差出人が書かれていない真っ白な封筒。

首をかしげたベルナデッドは、自室に戻り封を切った。

中には一枚の手紙。

その内容を確認した瞬間、彼女の目つきが一変した。

「…久しぶりの仕事ね…フフフ……。」

部屋に響く彼女の不気味極まりない笑い声。

それは、彼女が“狂気”に変身する瞬間でもあった………。




ゾロアシアの高級住宅街の片隅に位置する、最高評議会議長・パトリックの屋敷。

その地下にある、謎の空間。

パトリックはそこに一人佇んでいた。

ふと、何かの気配を感じ取った彼は、笑みを浮かべ、言葉を切り出した。

「叉丹か……。」

目の前に魔法陣が現れ、そこから黒き炎が燃え盛り、その中から黒き侍の風貌を見せる一人の青年が姿を見せた。

「ニュートラルヴィアに隠棲している例の少女に、手紙を渡しておきました。あとは、時を待つのみ…。」

「ご苦労であった。」

すると、別方向からも魔法陣が出現し、その中から黒き翼を背中に持つ魔性の女が現れた。

「殺女(あやめ)か。どうであった。」

「は。パトリックさまのおっしゃっていた件を調べましたが、結界の力が強力なせいか、以前とて手がかりが掴めておりません。」

「封印されている思われる場所は、特定できているのか…?」

「ニュートラルヴィア周辺かと思われるのですが、それ以外はまだ……。」

パトリックの表情がわずかに険しくなった。

“あの力”を一刻も早く手に入れて、我こそがこの世の支配者だということを知らしめなければ。

そうでなければ、何のためにここに着たのかというのか。

「殺女、引き続き調査を進めろ。叉丹と共にそこに向かうのだ。」

「はっ。」

指示を受け取ると、二人は魔法陣と共にその場から消えた。

それから程なくして、もう一人の少女が現れた。

ラクス・クラインに酷似した舞姫である。

彼女の存在を確認すると、パトリックは微笑んだ。

「待っていたぞ、ミーア・キャンベル。」

「パトリックさま……。」

ミーア・キャンベル――――――。

それが彼女の本当の名。

ラクスがゾロアシアを去って数ヵ月後に、突然表舞台に姿を見せたラクスの替え玉。

その事実を知っているのは彼ら以外にはアスランのみ。

彼は全てを承知している上で、エターナル・フェイスに復帰したのだ。

だが、この少女はパトリックの特殊な術によって洗脳を施されていることを、アスランはもちろん、全ての人間たちは知るはずもなかった。

今の彼女はパトリックの人形同然なのだ……。

「今日もその体で、私を満足させておくれ。可愛い人形よ。」

「あぁ、ご主人さまぁ……。」



やがて、男の愛撫によって淫らに動く少女の甘美な声が、部屋中に響いた。



---to be continued---


あとがき:
久々の更新なのに……終盤の展開はなんじゃこりゃ!?ほんとにすみませんっ!!!(土下座)
これでもホントにギリギリなんですよね………危ない危ない。(汗)

さて、予告どおり今回はサクラシリーズから新参者。しかもどれもダークサイドです。
これから先てれび戦士たちにとってどう絡んでいくのか、見ものです!
……とは言っても、次回はいきなりベルナデッド絡みなんですよね。しかも、またまたサクラシリーズから新参者登場予定です!
(どこまでキャラ増やすんだよ!!!)








inserted by FC2 system