ホテルの最上階エリア。
白煙がわずかながら、でも確実に濃くなってきている周囲、ブルーコスモスファミリーが仕掛けた時限爆弾のタイムリミットが迫る極限のプレッシャー、そして、ラクス(に酷似した少女)が逃げ遅れたと言う最悪のシナリオ。
有沙女王は、その危機迫る最上階・15階に来ていた。
「時間がない…早くせねば…!」
時間が迫るたびに焦りが募る。
「女王様!」
「!?」
背後からの声を聞き、目を見開いた有沙は振り向いた。
そこに居たのは愛実の幼馴染だった。
「甜歌!?いつのまに…!」
「話している時間はありません!早く、ラクスさんを!」
「そ、そうじゃな。」
二人は早歩きで通路を突き進み、ラクスを探した。
だが、煙が濃くなる一方で視界が悪化し、甜歌と有沙も立っているのがやっとと言う状況になってきた。
「げほっ、げほっ…!だれか…誰か助けてぇぇっ!!!」
――――――!!!
この声は!!
聞き覚えのある少女の叫びを聞き取った二人は、その方向に向かった。
やがて、『1569』のナンバーが書かれた扉にたどり着いた。
「たすけて、だれかっ!」
少女の叫びはこの扉の向こうから聞こえた。
「ここですよ!」
「甜歌、下がれ!」
有沙は、どこからか取り出した愛用のステッキを取り出した。
「プラズマ魔導術・“エレクトリック・ブラスター”!!」
強力な電撃エネルギー波が杖の先端から放たれ、いとも簡単に扉を引き裂いた。
その扉の向こうには、うつ伏せ状態になって倒れている少女が居た。
「大丈夫ですか!?」
甜歌が真っ先に少女の下へ向かい、体を揺すった。
「う…うぅ……っ………?」
少女の瞳は、一人の女の子を写した。
「もしかして…、私を、助けに来たの……?」
「いかにも。わらわたちが来たからには、もう大丈夫じゃ。」
有沙の言葉に安堵したのか、少女の目に涙が。
孤独と言う恐怖があったのだろうか…。
それは堰を切ったように止まらなかった。
だが、絶望はすでにそこまで迫っていた。
突如RGリモコンから、警告を知らせるブザーが鳴り響いた。
甜歌はすぐにそれを起動させた。
『危険!危険!時限爆弾爆発マデ、アト1分!時限爆弾爆発マデ、アト1分!』
「やっばい!!もう間に合わない!」
甜歌とラクスは、自分たちの危機に動揺する一方だった。
だが、有沙は全く動じず、杖を使って部屋の奥にある窓ガラスを破壊した。
「二人とも、こちらへ参れ!」
彼女の声を聞いた二人は、足早に彼女の傍に寄った。
破壊された窓の下を見下ろした。
予想以上の高さに、甜歌とラクスは絶句した。
ふと、ラクスはこの状況からする今後の展開を予測して、眼を見開いた。
「あの…、もしかして…。」
「時間がない。このまま飛び降りるぞ!」
ちょうどその頃、メイリンたちを連れてホテルから一足先に避難した卓也と愛実は、外からホテルを見上げた。
そのとき、メイリンの眼に信じられない光景が飛び込んだ。
「ああ〜っ!!!あれってもしかして…!!」
彼女の声を聞き、ただならぬ不安を察知した3人は、上を見上げた。
すると、卓也たちの眼にも仲間の姿が映った。
「ゲッ!甜歌と有沙女王さま!?」
「ラクスさまも一緒だわ!」
「あの様子、もしかして……飛び降りるつもり!?」
階段で駆け下りる時間が無いとすれば、もはやそれしか方法が無かった。
しかし、これは自殺行為だ。
確実に助からない!
現場を見つめていた全員が絶望していたそのときだった。
卓也と愛実はアイコンタクトを交わし、甜歌たちが降りてくるであろう地点を確保した。
その瞬間、最上階15階の一室から3人の人影が飛び降りた。
周囲から悲鳴が飛び交う中、二人は急速落下してくる3人の人影をみつめ、距離を測った。
「今だっ!」
「「ダブルリモコンアタック・“ハイパー・スロー”!!!」」
――――ビビビビビ……!!
――――おお〜っ!?
周辺の反応が一変したのに気付いたのか、メイリンとその姉は視線を戻した。
「あれっ!?お姉ちゃん、あれ!!」
メイリンが指をさした先は、先ほどの急速落下とは打って変わったゆるやかなスピードで落ちてくる人影があった。
「ど、どうなってるのよ?!」
「とにかく、行ってみよう!!」
落下ポイントと思われる場所に向かうと、そこには卓也たちがいた。
すると、愛実が懐から小さなカプセルを取り出した。
「ノーション・カプセル、“衝撃吸収マット”!」
―――カチッ!
カプセルの先端にあるスイッチを押してそれを投げると、目の前に中くらいのマットが現れた。
それと同時に上から落ちてきた3人が、運良くそのマットの上に落ちてきた。
その速度はパラシュートで落下する速度とさほど変わらなかった。
「ふぅ…、たすかった〜。」
甜歌は自分たちが助かったことを知り、ほっと胸をなでおろした。
「もう!甜歌ったら、あたしたちが気付かなかったらあんたたちは死んでいたわよ!」
「愛実、文句だったら有沙女王さまに言ってよ。『飛び降りるぞ』って言ったのはこの人なんだからぁ。」
愚痴を漏らしていた甜歌に対し、指摘された有沙も少々ご機嫌ななめだった。
「仕方がなかろうて。最上階の時限爆弾のタイムリミットが迫っていたのだから、背に腹は替えられん。」
「まぁまぁまぁ、とにかく無事でよかったじゃん。」
卓也が宥めていたそのとき、RGリモコンのブザーが再び鳴り響いた。
『危険!危険!時限爆弾爆発マデ、残リ15秒!!爆発マデ残リ15秒!!直チニ、現場カラ離レテクダサイ!』
警報を聞いた全員の背筋が一瞬凍りついた。
そして、その現場に居合わせた二人の姉妹も、現場周辺の市民たちもまた……。
「お姉ちゃん…、これって…!!」
「やっばい!!」
――――逃げろ〜〜っ!!!!
弾かれたように住人たちは一目散に現場から離れた。
そして運命のときはやってきた。
『時限爆弾爆発、5秒前、4、3、2、1!』
ドッカ――――ン!!!!!
大爆発とともにホテルは崩れ去った。
しかし、これは後に知ることになるのだが、今回の事件においてけが人は出たものの、幸い死者は一人も出ることは無かった。
てれび戦士たちの活躍の甲斐あってかもしれない。
あとかたもなく崩壊したホテルを見守っていたてれび戦士たち。
すると、背後から声が。
「みんな…。」
声をかけられた卓也たちは、声をかけたメイリンたちに眼を向けた。
「お姉ちゃんと、ラクスさまを助けてくれて……ホントにありがとう。」
あふれんばかりの感謝の気持ちに、メイリンは深々と頭を下げた。
だが、4人は笑みを浮かべた。
「礼には及ばぬ。おぬしたちの愛する存在が生きているのであれば、それだけで十分だ。そうであろう、皆のもの。」
「そうそう、そんなに頭を下げなくていいですよ。」
彼女らの声を聞き、メイリンはどこかで聞き覚えがあるような感じがした。
すると、今度はどこからか別の人の声が聞こえた。
「お―――い!」
「ルナマリア!メイリン!」
名を呼ばれた二人の姉妹は振り向くと、二人の男の子がこちらへ走ってくるのが眼に飛び込んだ。
「シン!」
「アスランさんも!」
様子からして、どうやら彼女らの仲間のようだ。
だが、シンと言う名の赤い瞳の少年は、彼女らの後ろにいる子供たちを見て、頭の中で疑問符を浮かべた。
「ルナ、あのガキどもは?」
「あたしたちとラクスさまを助けてくれたのよ。」
それを聞き、シンはもちろん、アスランと言う名の蒼い髪の少年もまた驚いた。
様子を見ていたてれび戦士たちも困惑した。
自分たちはもともとこの世界の人間ではない。
余計なことをしたかもと、今頃になって後悔した。
しかし、二人の少年は笑みを浮かべた。
「君たち、ルナマリアたちを助けてくれたそうだな。感謝するぞ。」
「俺たちより年齢が低いように見えるってのに、大したもんだぜ!」
「いやいや…、それほどでも…☆」
すると、アスランはこんな言葉を口にした。
「もしよかったら、君たちの名前を聞かせてはくれないか?」
だが、それに応じるてれび戦士ではなかった。
「いや、わらわたちはそう名乗り出るほどのものではない。今はな…。」
「でも、近いうちわたしたちのことを知るときがくるはずだよ。」
「ひとまず、あたしたちはこれで失礼するわ。」
「また、ゾロアシアのどこかであおうぜ!」
4人は、この日最後のリモコン機能を作動させた。
「プラズマリモコンアタック!“早送り”!!」
――――ピッ!!
――――ヒュンッ!!
「うわっ!?」
「おっと!?」
「「キャッ!」」
一瞬で彼らの走る速さが上がったと言う目の前の出来事に、シンたちはしばし唖然としていた。
「忽然と現れて、嵐のように去っていった…。」
「あのガキども…、只者じゃなさそうですよ…。」
彼らが子供たちを見つめている中で、メイリンだけはどこか気にかけていた。
―――やっぱりどこかで聞いたのよね…。どこで聞いたのかしら……?
一方、その様子を建物の影から見ていた一つの影。
「……ちっ!作戦失敗か…。ティアーズの連中がこんなところにまで来ていたとは…!」
だが、お前たちの目的が何であれ、僕たちブルーコスモス・ファミリーを怒らせた代償は、高くつくからな!
せいぜい、つかの間の平和を楽しんでおくんだな……。
---to be continued---
あとがき:
何だか、一気に書き上げてしまったような感じですな……。
少々判りづらい内容となったかと思いますが、それでも楽しんでくれた方がいらっしゃるのならば幸いです。
今回はてれび戦士たちは意外なところで活躍してくれました!
でも、あのビルから飛び降りると言うシーンは、書いていた自分でもドキッとしましたね……。(^^;)
さて、次回は再びニュートラルヴィアに舞台が移ります。
ラクスの過去の記憶にスポットをあててみましょう!