Phase21 城塞都市の歌姫


シードピアの城塞都市、ゾロアシアワールド。

それは、コーディネイターだけの街。

たとえ、ニュートラルヴィアのコーディネイターといえど、その街には立ち入ることすら、できなかった。


その市街地“ヤヌアリウスタウン”の一角に、人知れず、謎の4人組が入国した。

「何とか、入り込めたな。」

「でも、さっきの検問の時には、ドキドキしましたよ〜。」

ティアーズのメンバーである、有沙女王、卓也、甜歌、愛実の4人は、極秘任務遂行のため、ゾロアシアに足を踏み入れた。

幸い、彼らてれび戦士は偶発ながらもこの世界に入り込んだ、いわば“旅行客”。

その口実が利いたのか、あっさりと入国を許可されたのだ。

「それにしても……、雰囲気的に“ダークタウン”によく似ているな…。」

「そうね…あたしたちはこういうのは慣れているけどね。」

すると、なにやらザワザワと声が聞こえ始めた。

「…!?な、何じゃこの声は?」

「あっちのほうからみたい!」

「行ってみよう!」

4人は一斉に駆け出し、その方向へ向かった。

たどり着いたところは、何かのライブのセットがあるにぎやかそうな場所だった。

そのステージの前にはすでに大勢の観客が。

「どうやらここのようだけど……何か始まるのかしら?」

愛実がそう呟いた、次の瞬間。

途端に前方のモニターが作動して、同時に四方八方から音楽が流れ出した。

その曲調はアップテンポで、かなりノリノリのペースに仕上がっていた。

『ゾロアシアのみなさ〜ん!!こんにちわ〜!!』

「「「「えっ!!?この声は!!」」」」

スピーカーから流れた声に聴き覚えがあり、周囲を見渡してみると、甜歌がすぐさまその姿を確認した。

「もしかして、あれじゃないですか!!??」

甜歌が指差した先は、空。

―――えっ!!まさか!!??

そう予感した卓也たちは、その視線を空に向けた。

すると、そこから巨大ロボットにのった“ラクス・クライン”が現れたのだ。

「「「ええぇぇぇ〜〜っ!!???」」」

どうやらこれは、“ラクス・クライン”の慰安ライブだったようだ。

てれび戦士たちはその真っ只中に迷い込んでしまったのだ。

この大歓声にはさすがの卓也たちもお手上げ状態だった。

思わず卓也は、その場から逃げようとしたのだが、ここは踏みとどまった。

「みんな、ここはひとまず、ライブの様子を見てみよう!何事も敵を知ることが不可欠だよ!」

「…やむを得ないな。」

4人は、ひとまずライブの様子を観察することにした。

愛実は、ドクターレイシーから借りてきた特殊カメラ“パチリパチリ”を使い、“偽者の”ラクス・クラインの動作を写真に収め、さらに卓也は、チアキが作り出した“プラズマ・ボイスレコーダー”を使って、彼女の声を正確に記録した。

ライブも終盤に差し掛かったころ、ここでライブの最後の曲が披露された。

「皆さん、このライブも残すところ、あと1曲となりました。最後を飾るのは、私の新曲“EMOTION”です!お聞きください!!」

イントロが流れ始め、“ラクス”は踊りだした。

それに合わせて、観客も一斉に拍手をし始めた。

それからしばらくして、大興奮のうちにライブは閉幕した。


てれび戦士たちはその後、ゾロアシア内で有数のリゾートホテルに泊まることになった。

その一室では、今後に関する対策が練られていた。

「それにしても、あのライブの影響は計り知れぬのう。」

「あの少女の人気はとても根強いみたいね……。」

「これから、どうします?」

4人はしばらく考えてみたが、なかなかいいアイデアが浮かばなかった。

「ひとまず、今は様子を見ましょ。いきなり飛び出してもいけないし……。」

ふとそのとき、甜歌がぽつりと呟いた。

「あの人が有名人なら、所属している“芸能事務所”とかに入り込めないかな〜。」

「…ん!?……それだっ!!!」

卓也は彼女の何気ない一言を聞き、ひらめいた。

そして、荷物の中からノートパソコンを取り出した。

「ここから、その“ラクス”に関する情報を探し出して、その芸能事務所のホームページに入り込めば、なにか手がかりがあるかも!」

ノートパソコンを起動させ、検索エンジンを引き出した。

「よし、検索ワードは…そうだな。“ラクス・クライン&芸能事務所”っと。検索開始!」

すると、適切な検索結果が表示された。

卓也はそれを調べてみると、“彼女”のデータが発見された。

「見つけた!……?なに?“スターダスト・プロダクション”???」

スターダスト・プロダクション――――。

それは、ゾロアシア有数の芸能事務所の名前である。

その所属メンバーの中に“ラクス・クライン”の名前はあった。

彼女の今後のスケジュールなどを調べていた、そのときだった。


―――ズドーン!!


―――!??


突如爆発音が聞こえた。

しかも、距離はここから遠くはなかった。

弾けたように、てれび戦士たちは外に飛び出した。

ベランダから周囲を見渡すと、すぐに爆発場所は判明した。

てれび戦士はすぐさま行動に移した。

「皆の者、行くぞ!」

「「了解!」」

「アイアイサー!」


現場周辺には、すでに多くのマスコミと消防部隊が駆けつけていた。

てれび戦士たちはホバーボードをつかい、現場に到着した。

火災場所は、ゾロアシアのリゾートホテルのひとつ。

先ほどの爆発音の影響か、すでにビルの大半が炎に包まれていた。

しかし、ここで重大な事実がマスコミの口から発せられた。

「ここで速報が入ってきました。たった今入った情報によりますと、こちらのリゾートホテルに、ラクス・クラインさんがチェックインしているとのことです!現在消防部隊が入って現場に急行していますが、彼女の安否が気遣われます!」

―――!?

これを耳にした彼らは、すぐさま行動に移した。

アイコンタクトで合図を交わし、RGリモコンとUWFブラスターを取り出した。

「「レインボーアタック、“早送り”!」」

「「リモコンブラスト、“早送りモード”!」」

「「「「3倍速!!」」」」

―――ピッ!!

―――ビビビビビ…………。

―――シュババッ!!

速度が増した4人は、一斉に炎の中へと突入した。

リモコン機能のおかげで、楽々と内部に入り込めたが、そこはすでに炎の海と化していた。

「あちち!!ここまで炎が燃え上がっているなんて。」

「気を緩むな!わらわたちが焼け死んでは元も子もないぞ!」

そのとき、愛実がUWFブラスターのマップ機能を使って、ホテルの現状を調べていた。

すると、意外な事実が明らかになった。

「みんな!この炎の勢いじゃ、あと2〜3時間も経たないでこのホテルは崩壊するよ!!」

「なんじゃと!?」

「しかもまだ炎が燃え移っていないところに、まだ生き残りの人間がいるわ!」

「ええ〜っ!!??それってやばくない!?」

もしかすると、そこに“ラクス・クライン”もいるかも知れない。

危機迫るタイムリミットに、焦りを覚えたてれび戦士たちは、すぐさま行動を移した。

「もう時間がない!リモコンの早送り機能を最大限に高めよう!!」

「よし、皆のもの、ゆくぞ!」

「「レインボーアタック、早送り!!」」

「「リモコンブラスト、早送りモード!!」」

「「「「10倍速(マックススピード)!!!」」」」

リモコン早送り機能の最大パワーを発揮させたてれび戦士は、超光速で上の階へと向かった。



炎の勢いがまだ届いていない11階以降の上の階の一室。

そこには、逃げ遅れていた客人たちも若干残っていた。

そしてその中には、不運にもそれに見舞われてしまった姉妹も居た。

「う……っ………うう…ぅ…っ…。」

メイリンは意識を覚醒させると、ひどく噎せた。

周囲を見渡すと、視界が白い煙で覆われそうになっていることに気付いた。

思わず彼女は脱出しようとしたが、咄嗟に一緒にここに来ている姉のことを思い出した。

一緒に泊まっている姉が気がかりになったメイリンは、手足を床につけて、這いずり回るようにして姉を探し出した。

「はぁ、はぁ……お姉ちゃん…どこなの……!?」

煙が予想以上に濃くなっていき、意識もだんだん薄れてきた。

「お姉ちゃん、聞こえたら返事して!……ゴホッ…ゴホッ!!」

叫ぶたびに口の中に入ってくる濃い煙。

視界もぼんやりして、這いずっていく力すらも無くなっていった。

そんな中、遠くから足音が聞こえてきた。

お姉ちゃんか、あるいは助けがきたのか。

どちらにせよ、今は誰でもいい、自分を見つけてくれることだけを願った。

「誰か……誰か、助けてぇっ!!」


手分けして救助活動を行うことにしたてれび戦士。

甜歌と愛実は、現在12階部分を調べていた。

周囲を見渡していたとき、突如どこからか叫び声が。

「…だ……たす……ぇっ…。」

それを聞いた甜歌は立ち止まった。

「愛実、待って!今、誰かの叫び声がしなかった!?」

「えっ!!?ど…どこなの?」

再び耳を澄ますと、今度ははっきりと聞こえた。

「……誰か助けてぇぇ…っ!!」

これを聞いた二人は眼を合わせた。

「今の声は……!!」

「あっちよ!」

声のした方向に向かって走り続けると、だんだん声が近くなってきた。

「助けてぇぇっ!!」

そして二人は、声が聞こえた場所の近くまで来た。

「この部屋みたいよ!」

しかし、ドアをこじ開けようにも、その鍵がとても頑丈だった。

押しても引いてもびくともしない。

「う〜〜〜ん!!はぁ、はぁ、このドア開かないよ。」

「任せて!」

愛実は、懐からUWFブラスターを取り出し、それをマグナムモードに設定した。

それを2〜3発ドア目掛けて発砲した。

次第にドアにひび割れが入り、体当たりでも壊せるくらいにもろくなった。

「甜歌、行くわよ!」

「OK!せーのっ!!!」


―――バッコーン!!


目論みどおり、ドアは粉々になり、二人はどうにか部屋に入り込めた。

そして、体当たりして倒れこんだ場所に、偶発ながらも逃げ遅れた少女を発見した。

ツインポニーテールが特徴的な可愛い女の子だった。

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」

いつの間にか気絶してしまってようだ。

しかし、体を揺さぶられ意識を覚醒させると、自分が助けられたことを悟った。

その途端に、少女の目じりに涙が。

「う…うう……っ…、ああああぁぁぁぁ…!!」

安心しきったのか、少女は甜歌の肩口に顔を埋め、泣き喚いた。

「こわかった……さびしかった…わたし…、わたし…っ、うわあああぁぁぁぁ……!!」

ひたすらに泣き続けていた少女に、甜歌も愛実も困り顔になってしまったが、とりあえずあやすようにして彼女の気を落ち着かせることにした。

「大丈夫ですよ、あたしたちが助けに来ましたからね。」

すると今度は、愛実の後ろから声が。

「メイリンッ!」

「「えっ…?」」

振り向くと、そこに居たのは赤紫の髪の少女だった。

おそらく、甜歌があやしている少女の名前のことを叫んだと思える。

知り合いかな……?

甜歌と愛実はそう考えていたのだが、予想もしない言葉がメイリンの口から発せられた。

「…お…ねえ…ちゃん……っ…!」

「え!?」

―――おねえちゃん?!

二人が驚くまもなく、メイリンは彼女の胸に飛び込んだ。

「ごめんね…っ…一人っきりにして……さびしかったよね…っ。」

「おねえちゃん……っ…!」

多分、先ほどのメイリンの叫び声を聞いて駆けつけたのだろう。

ややあって、二人は抱擁の後、甜歌たちに眼を向けた。

「あなたたちが助けてくれたのね。ホントにありがとう。」

「い、いえ、お礼なんて……。」

思わず甜歌は頬を染めたが、そんな暇はなかった。

「褒められている場合じゃないわよ、甜歌!こうしている間にも、炎はもうすぐここに到達しちゃうわよ!」

「ああっ!そうだった!早く脱出しないと……って、ちょっと待って!」

二人を連れて脱出しようとした愛実だったが、甜歌が重大なことに気がついた。

彼女はRGリモコンを起動させ、卓也と連絡を取った。

「卓也さん、そちらにラクスさんは居ましたか!?」

『甜歌!?俺は今13階を探しているんだけど、とりあえず逃げ遅れたほかの人たちを助けて、避難はさせておいたけど……、肝心の彼女がぜんぜん姿が見当たらないんだ。』

二人の連絡を聞き、メイリンとその姉は目を見開いた。

「ちょ、ちょっと待って!もしかして、ラクスさまがここに泊まっているんですか!?」

「テレビ局の人がその話をしていたから、多分間違いないと思うわ。」

愛実の言葉に、二人は血が引くような感覚に見舞われた。

これだけ広いホテル、ましてやその部屋の数は予想以上に多い。

その中からラクスを見つけるのは、とても絶望的に思えた。

ところが、思いも寄らない連絡が入ってきた。

『皆のもの、聞こえるか!?』

『「「有沙女王さま!?」」』

『今わらわは最上階15階の一室におるのだが、この階にラクス・クラインと思しき声を確認した。』

彼女がまだ生きているかもしれない。

そう安堵した矢先、最悪の事態が起こった。

『じゃが、この15階に特殊時限爆弾が仕掛けられているのじゃ!』

時限爆弾―――。

それを聞いただけで背筋が凍ってしまったにもかかわらず、さらに驚愕の事実が判明した。

『しかもそれを調べた結果、あの忌まわしきBCFの所有物であることが判明したのじゃ!!』

――――ブ、ブルーコスモス・ファミリー!!!???

このことから判明した事実。

それは、今回のホテル爆破事件が、ブルーコスモス・ファミリーによる無差別報復テロだったということ。

『この時限爆弾が爆発するまであと僅かしかない。早く彼女を見つけねば、わらわたちも危ないぞ!』

言葉を聴いた甜歌は、決断した。

「愛実、この人たちを連れて脱出して!あたしは今から15階に行く!」

それを聞いたメイリンは反論した。

「無茶です!ラクスさまが心配なのはわかりますけど、もうこれ以上ここに居るのは…。」

「ムチャは承知の上よ。甜歌、急ぎなさい!」

「OK!レインボーアタック・早送り!10倍速(マックススピード)!!!」

メイリンの反対をよそに、甜歌は最高速の早送りモードで一気に15階に駆け上がった。

音速をはるかに超えたスピードに、メイリンもその姉も唖然とした。

この間に愛実は、卓也と連絡を取った。

「卓也?悪いけど、あとは甜歌と有沙女王に任せて、あたしたちは撤収するわよ!」


二人が必ず、ラクスを助けてくれるだろうと信じて……。


ホテルが完全に倒壊するまで、あと5分足らず……。



---to be continued---


あとがき:
更新再開第1弾は、同時にこの作品の第2部開始と言う形になりました!
……ですが、SEEDPIA第2章開始早々、てれび戦士がいきなり大事件に巻き込まれてしまいました!
しかも、もう一人のラクスがいきなり大ピンチ!
甜歌と有沙は果たして救出に間に合うのか!?











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