シードピアの城塞都市、ゾロアシアワールド。
それは、コーディネイターだけの街。
たとえ、ニュートラルヴィアのコーディネイターといえど、その街には立ち入ることすら、できなかった。
その市街地“ヤヌアリウスタウン”の一角に、人知れず、謎の4人組が入国した。
「何とか、入り込めたな。」
「でも、さっきの検問の時には、ドキドキしましたよ〜。」
ティアーズのメンバーである、有沙女王、卓也、甜歌、愛実の4人は、極秘任務遂行のため、ゾロアシアに足を踏み入れた。
幸い、彼らてれび戦士は偶発ながらもこの世界に入り込んだ、いわば“旅行客”。
その口実が利いたのか、あっさりと入国を許可されたのだ。
「それにしても……、雰囲気的に“ダークタウン”によく似ているな…。」
「そうね…あたしたちはこういうのは慣れているけどね。」
すると、なにやらザワザワと声が聞こえ始めた。
「…!?な、何じゃこの声は?」
「あっちのほうからみたい!」
「行ってみよう!」
4人は一斉に駆け出し、その方向へ向かった。
たどり着いたところは、何かのライブのセットがあるにぎやかそうな場所だった。
そのステージの前にはすでに大勢の観客が。
「どうやらここのようだけど……何か始まるのかしら?」
愛実がそう呟いた、次の瞬間。
途端に前方のモニターが作動して、同時に四方八方から音楽が流れ出した。
その曲調はアップテンポで、かなりノリノリのペースに仕上がっていた。
『ゾロアシアのみなさ〜ん!!こんにちわ〜!!』
「「「「えっ!!?この声は!!」」」」
スピーカーから流れた声に聴き覚えがあり、周囲を見渡してみると、甜歌がすぐさまその姿を確認した。
「もしかして、あれじゃないですか!!??」
甜歌が指差した先は、空。
―――えっ!!まさか!!??
そう予感した卓也たちは、その視線を空に向けた。
すると、そこから巨大ロボットにのった“ラクス・クライン”が現れたのだ。
「「「ええぇぇぇ〜〜っ!!???」」」
どうやらこれは、“ラクス・クライン”の慰安ライブだったようだ。
てれび戦士たちはその真っ只中に迷い込んでしまったのだ。
この大歓声にはさすがの卓也たちもお手上げ状態だった。
思わず卓也は、その場から逃げようとしたのだが、ここは踏みとどまった。
「みんな、ここはひとまず、ライブの様子を見てみよう!何事も敵を知ることが不可欠だよ!」
「…やむを得ないな。」
4人は、ひとまずライブの様子を観察することにした。
愛実は、ドクターレイシーから借りてきた特殊カメラ“パチリパチリ”を使い、“偽者の”ラクス・クラインの動作を写真に収め、さらに卓也は、チアキが作り出した“プラズマ・ボイスレコーダー”を使って、彼女の声を正確に記録した。
ライブも終盤に差し掛かったころ、ここでライブの最後の曲が披露された。
「皆さん、このライブも残すところ、あと1曲となりました。最後を飾るのは、私の新曲“EMOTION”です!お聞きください!!」
イントロが流れ始め、“ラクス”は踊りだした。
それに合わせて、観客も一斉に拍手をし始めた。
それからしばらくして、大興奮のうちにライブは閉幕した。
てれび戦士たちはその後、ゾロアシア内で有数のリゾートホテルに泊まることになった。
その一室では、今後に関する対策が練られていた。
「それにしても、あのライブの影響は計り知れぬのう。」
「あの少女の人気はとても根強いみたいね……。」
「これから、どうします?」
4人はしばらく考えてみたが、なかなかいいアイデアが浮かばなかった。
「ひとまず、今は様子を見ましょ。いきなり飛び出してもいけないし……。」
ふとそのとき、甜歌がぽつりと呟いた。
「あの人が有名人なら、所属している“芸能事務所”とかに入り込めないかな〜。」
「…ん!?……それだっ!!!」
卓也は彼女の何気ない一言を聞き、ひらめいた。
そして、荷物の中からノートパソコンを取り出した。
「ここから、その“ラクス”に関する情報を探し出して、その芸能事務所のホームページに入り込めば、なにか手がかりがあるかも!」
ノートパソコンを起動させ、検索エンジンを引き出した。
「よし、検索ワードは…そうだな。“ラクス・クライン&芸能事務所”っと。検索開始!」
すると、適切な検索結果が表示された。
卓也はそれを調べてみると、“彼女”のデータが発見された。
「見つけた!……?なに?“スターダスト・プロダクション”???」
スターダスト・プロダクション――――。
それは、ゾロアシア有数の芸能事務所の名前である。
その所属メンバーの中に“ラクス・クライン”の名前はあった。
彼女の今後のスケジュールなどを調べていた、そのときだった。
―――ズドーン!!
―――!??
突如爆発音が聞こえた。
しかも、距離はここから遠くはなかった。
弾けたように、てれび戦士たちは外に飛び出した。
ベランダから周囲を見渡すと、すぐに爆発場所は判明した。
てれび戦士はすぐさま行動に移した。
「皆の者、行くぞ!」
「「了解!」」
「アイアイサー!」
現場周辺には、すでに多くのマスコミと消防部隊が駆けつけていた。
てれび戦士たちはホバーボードをつかい、現場に到着した。
火災場所は、ゾロアシアのリゾートホテルのひとつ。
先ほどの爆発音の影響か、すでにビルの大半が炎に包まれていた。
しかし、ここで重大な事実がマスコミの口から発せられた。
「ここで速報が入ってきました。たった今入った情報によりますと、こちらのリゾートホテルに、ラクス・クラインさんがチェックインしているとのことです!現在消防部隊が入って現場に急行していますが、彼女の安否が気遣われます!」
―――!?
これを耳にした彼らは、すぐさま行動に移した。
アイコンタクトで合図を交わし、RGリモコンとUWFブラスターを取り出した。
「「レインボーアタック、“早送り”!」」
「「リモコンブラスト、“早送りモード”!」」
「「「「3倍速!!」」」」
―――ピッ!!
―――ビビビビビ…………。
―――シュババッ!!
速度が増した4人は、一斉に炎の中へと突入した。
リモコン機能のおかげで、楽々と内部に入り込めたが、そこはすでに炎の海と化していた。
「あちち!!ここまで炎が燃え上がっているなんて。」
「気を緩むな!わらわたちが焼け死んでは元も子もないぞ!」
そのとき、愛実がUWFブラスターのマップ機能を使って、ホテルの現状を調べていた。
すると、意外な事実が明らかになった。
「みんな!この炎の勢いじゃ、あと2〜3時間も経たないでこのホテルは崩壊するよ!!」
「なんじゃと!?」
「しかもまだ炎が燃え移っていないところに、まだ生き残りの人間がいるわ!」
「ええ〜っ!!??それってやばくない!?」
もしかすると、そこに“ラクス・クライン”もいるかも知れない。
危機迫るタイムリミットに、焦りを覚えたてれび戦士たちは、すぐさま行動を移した。
「もう時間がない!リモコンの早送り機能を最大限に高めよう!!」
「よし、皆のもの、ゆくぞ!」
「「レインボーアタック、早送り!!」」
「「リモコンブラスト、早送りモード!!」」
「「「「10倍速(マックススピード)!!!」」」」
リモコン早送り機能の最大パワーを発揮させたてれび戦士は、超光速で上の階へと向かった。
炎の勢いがまだ届いていない11階以降の上の階の一室。
そこには、逃げ遅れていた客人たちも若干残っていた。
そしてその中には、不運にもそれに見舞われてしまった姉妹も居た。
「う……っ………うう…ぅ…っ…。」
メイリンは意識を覚醒させると、ひどく噎せた。
周囲を見渡すと、視界が白い煙で覆われそうになっていることに気付いた。
思わず彼女は脱出しようとしたが、咄嗟に一緒にここに来ている姉のことを思い出した。
一緒に泊まっている姉が気がかりになったメイリンは、手足を床につけて、這いずり回るようにして姉を探し出した。
「はぁ、はぁ……お姉ちゃん…どこなの……!?」
煙が予想以上に濃くなっていき、意識もだんだん薄れてきた。
「お姉ちゃん、聞こえたら返事して!……ゴホッ…ゴホッ!!」
叫ぶたびに口の中に入ってくる濃い煙。
視界もぼんやりして、這いずっていく力すらも無くなっていった。
そんな中、遠くから足音が聞こえてきた。
お姉ちゃんか、あるいは助けがきたのか。
どちらにせよ、今は誰でもいい、自分を見つけてくれることだけを願った。
「誰か……誰か、助けてぇっ!!」
手分けして救助活動を行うことにしたてれび戦士。
甜歌と愛実は、現在12階部分を調べていた。
周囲を見渡していたとき、突如どこからか叫び声が。
「…だ……たす……ぇっ…。」
それを聞いた甜歌は立ち止まった。
「愛実、待って!今、誰かの叫び声がしなかった!?」
「えっ!!?ど…どこなの?」
再び耳を澄ますと、今度ははっきりと聞こえた。
「……誰か助けてぇぇ…っ!!」
これを聞いた二人は眼を合わせた。
「今の声は……!!」
「あっちよ!」
声のした方向に向かって走り続けると、だんだん声が近くなってきた。
「助けてぇぇっ!!」
そして二人は、声が聞こえた場所の近くまで来た。
「この部屋みたいよ!」
しかし、ドアをこじ開けようにも、その鍵がとても頑丈だった。
押しても引いてもびくともしない。
「う〜〜〜ん!!はぁ、はぁ、このドア開かないよ。」
「任せて!」
愛実は、懐からUWFブラスターを取り出し、それをマグナムモードに設定した。
それを2〜3発ドア目掛けて発砲した。
次第にドアにひび割れが入り、体当たりでも壊せるくらいにもろくなった。
「甜歌、行くわよ!」
「OK!せーのっ!!!」
―――バッコーン!!
目論みどおり、ドアは粉々になり、二人はどうにか部屋に入り込めた。
そして、体当たりして倒れこんだ場所に、偶発ながらも逃げ遅れた少女を発見した。
ツインポニーテールが特徴的な可愛い女の子だった。
「大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
いつの間にか気絶してしまってようだ。
しかし、体を揺さぶられ意識を覚醒させると、自分が助けられたことを悟った。
その途端に、少女の目じりに涙が。
「う…うう……っ…、ああああぁぁぁぁ…!!」
安心しきったのか、少女は甜歌の肩口に顔を埋め、泣き喚いた。
「こわかった……さびしかった…わたし…、わたし…っ、うわあああぁぁぁぁ……!!」
ひたすらに泣き続けていた少女に、甜歌も愛実も困り顔になってしまったが、とりあえずあやすようにして彼女の気を落ち着かせることにした。
「大丈夫ですよ、あたしたちが助けに来ましたからね。」
すると今度は、愛実の後ろから声が。
「メイリンッ!」
「「えっ…?」」
振り向くと、そこに居たのは赤紫の髪の少女だった。
おそらく、甜歌があやしている少女の名前のことを叫んだと思える。
知り合いかな……?
甜歌と愛実はそう考えていたのだが、予想もしない言葉がメイリンの口から発せられた。
「…お…ねえ…ちゃん……っ…!」
「え!?」
―――おねえちゃん?!
二人が驚くまもなく、メイリンは彼女の胸に飛び込んだ。
「ごめんね…っ…一人っきりにして……さびしかったよね…っ。」
「おねえちゃん……っ…!」
多分、先ほどのメイリンの叫び声を聞いて駆けつけたのだろう。
ややあって、二人は抱擁の後、甜歌たちに眼を向けた。
「あなたたちが助けてくれたのね。ホントにありがとう。」
「い、いえ、お礼なんて……。」
思わず甜歌は頬を染めたが、そんな暇はなかった。
「褒められている場合じゃないわよ、甜歌!こうしている間にも、炎はもうすぐここに到達しちゃうわよ!」
「ああっ!そうだった!早く脱出しないと……って、ちょっと待って!」
二人を連れて脱出しようとした愛実だったが、甜歌が重大なことに気がついた。
彼女はRGリモコンを起動させ、卓也と連絡を取った。
「卓也さん、そちらにラクスさんは居ましたか!?」
『甜歌!?俺は今13階を探しているんだけど、とりあえず逃げ遅れたほかの人たちを助けて、避難はさせておいたけど……、肝心の彼女がぜんぜん姿が見当たらないんだ。』
二人の連絡を聞き、メイリンとその姉は目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待って!もしかして、ラクスさまがここに泊まっているんですか!?」
「テレビ局の人がその話をしていたから、多分間違いないと思うわ。」
愛実の言葉に、二人は血が引くような感覚に見舞われた。
これだけ広いホテル、ましてやその部屋の数は予想以上に多い。
その中からラクスを見つけるのは、とても絶望的に思えた。
ところが、思いも寄らない連絡が入ってきた。
『皆のもの、聞こえるか!?』
『「「有沙女王さま!?」」』
『今わらわは最上階15階の一室におるのだが、この階にラクス・クラインと思しき声を確認した。』
彼女がまだ生きているかもしれない。
そう安堵した矢先、最悪の事態が起こった。
『じゃが、この15階に特殊時限爆弾が仕掛けられているのじゃ!』
時限爆弾―――。
それを聞いただけで背筋が凍ってしまったにもかかわらず、さらに驚愕の事実が判明した。
『しかもそれを調べた結果、あの忌まわしきBCFの所有物であることが判明したのじゃ!!』
――――ブ、ブルーコスモス・ファミリー!!!???
このことから判明した事実。
それは、今回のホテル爆破事件が、ブルーコスモス・ファミリーによる無差別報復テロだったということ。
『この時限爆弾が爆発するまであと僅かしかない。早く彼女を見つけねば、わらわたちも危ないぞ!』
言葉を聴いた甜歌は、決断した。
「愛実、この人たちを連れて脱出して!あたしは今から15階に行く!」
それを聞いたメイリンは反論した。
「無茶です!ラクスさまが心配なのはわかりますけど、もうこれ以上ここに居るのは…。」
「ムチャは承知の上よ。甜歌、急ぎなさい!」
「OK!レインボーアタック・早送り!10倍速(マックススピード)!!!」
メイリンの反対をよそに、甜歌は最高速の早送りモードで一気に15階に駆け上がった。
音速をはるかに超えたスピードに、メイリンもその姉も唖然とした。
この間に愛実は、卓也と連絡を取った。
「卓也?悪いけど、あとは甜歌と有沙女王に任せて、あたしたちは撤収するわよ!」
二人が必ず、ラクスを助けてくれるだろうと信じて……。
ホテルが完全に倒壊するまで、あと5分足らず……。
---to be continued---
あとがき:
更新再開第1弾は、同時にこの作品の第2部開始と言う形になりました!
……ですが、SEEDPIA第2章開始早々、てれび戦士がいきなり大事件に巻き込まれてしまいました!
しかも、もう一人のラクスがいきなり大ピンチ!
甜歌と有沙は果たして救出に間に合うのか!?