シードピアの世界は、テレヴィアとは違い、太陽が動いている世界。
そのため、昼と夜が常にある。
テレヴィアでは滅多に見ることの出来ない、満天の星空。
その星空の帳が来ると、シードピアの世界で一際目立つ灯りがともる。
今宵もまた、シードピアの住人たちを夢の世界へ連れて行く………。
ここは、ニュートラルヴィアの大地から遥か南、シードピアの中心に位置する島々“アストレイバー・アイランド”。
この島々は、『スピリード島』を初めとするこの島々は、この世界の永世中立地帯と定められており、住人たちはここで日ごろの疲れを癒している。
甜歌と愛実は、その島々において大人気を誇る劇団“スピリード・オペラッタカンパニー”の劇を見るために、シードピアの定期船でその島へと向かっていた。
そもそものきっかけは、今から数時間前R.G.F.の面々がG.L.B.に訪れた時のこと……。
ある程度の挨拶を終え、そろそろ自分たちの母艦に帰ろうとしたその時。
「テンカちゃん!」
突然背後から名前を呼ばれ、振り返るとそこにはキラとラクスがいた。
「これ、今日助けてもらった御礼!」
そう言ってキラが差し出したのは、何かのペアチケットだった。
甜歌はおもむろにそれを受け取ると、そのチケットには次の文章が記されていた。
―――シードピア・シアターハウス レビューショウチケット
「…?何ですか、これ?」
「レビューショウのチケット。このシードピアの中心に、“アストレイバー・アイランド”って言う島々があるんだ。」
「その中心地にある“スピリード島”と言う島にある、シードピアの劇場で行われているチケットなんです。」
シードピアの劇場―――それはチケットに書いてある“シードピア・シアターハウス”のことだと、甜歌はすぐさま理解した。
「いいんですか?もらっちゃって…。」
甜歌は一瞬もらうのを躊躇ったが、キラとラクスは『遠慮はしないで』と言うような笑顔を甜歌に向けた。
「お友達の誰かと一緒に、楽しんでいってください。」
ラクスの温かい言葉を受け取った甜歌は、そのチケットを受け取ることにした。
その後、リーフに戻った甜歌は、丁度ゴルゴ伯爵たちと戻ってきた愛実と鉢合わせをし、彼女を誘った。
最初は愛実は若干の抵抗を感じたのだが、ゴルゴ伯爵がこう言った。
「愛実くん、少しは休みも必要だろう。久しぶりに友達と行ってきなさい。」
そしてレッド隊長もまた、彼女たちを気遣った。
「船の守りは俺たちにまかせておけ!」
「…ありがとう!」
「それにしても、このチケットをくれたって言う人たち、とても優しかったのね。」
「うんっ!」
幼なじみ同士でお出かけをすると言うのは、本当に久しぶりのことだった。
「でも、あんなに優しい人も居るのに、どうしてここの人たちは、戦いをやめないのかな……。」
「…そうね、甜歌…。あたしもちょっと、気になっていたところよ……。」
コーディネイターとナチュラルと言う二つの種族の争いが続くこの世界に、甜歌と愛実はどこかしらの不快感を覚えていた……。
ふとその時、背後からなにやら声が。
「…あれ?テンカちゃん?」
子供のような愛らしい声に反応した甜歌は、まさかと思い、振り返った。
そこには、薄緑の髪を持った少年が居た。
「あ、あなたは確か…、ニコルさん!?」
「やっぱり!」
思わぬ偶然に、ニコルは声を上げてしまった。
ニコルは周囲を見渡したが、幸いにも全員自分たちに気付いてなかったようだ。
今度は声を若干抑えて、彼女たちと会話をした。
「テンカちゃん、君の隣にいる女の子って、友達?」
「うん!甜歌の幼なじみの愛実!」
紹介された愛実は、ニコルと握手を交わした。
「ニコル・アマルフィです。初めまして!」
「あたしは愛実。よろしくね!」
3人はお互いに挨拶した後、話の場所を移すべく、船の中のカフェに立ち寄った。
甜歌と愛実は自分たちのこれまでの経緯を彼らに簡単に話した。
自分たちがどういう存在なのかも………。
「なるほど…、コスチュームが違うから違うチームかと思っていたのですが、君たち自体が元々一つの組織だったのですか。」
「ちょっと紛らわしかったかな?」
甜歌は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
するとここで、愛実が話を始めた。
「ところで甜歌、この世界にはナチュラルとコーディネイターという種族がいるって話は聞いたけど…。そもそも、その二つの種族が争いを始めたのはいつ頃なの?」
「ニコルさんたち、ライガーシールズの話によるとね、今から2〜3年前に“ゾロアシア・ワールド”と言う城塞都市で起こった、コーディネイターの反逆テロ、通称“血のバレンタイン”がきっかけらしいよ。」
しかし、未だにその理由はつかめていない……。
なぜ彼らは唐突にナチュラルを滅ぼそうと考えているのだろうか………。
それは彼らライガーシールズでも全然知る由もなかった……。
「ところでさ、話は変わるけど…。」
切り出した愛実は、懐から一枚の写真を取り出した。
その写真には、象形文字が書かれた一枚の石盤だった。
「…!愛実、何これ!?」
「あたしたちU.W.B.はね、『クリスティア島』と言う島に訪れたの。そこで、マルキオ導師と言う人にあったの。」
マルキオ導師―――その名を聞いたニコルは目を見開いた。
「あの人にあったんですか!?」
「あんたもさすがに名前は聞いたことがあるとは思っていたけどね……。」
シードピアの世界において知らぬものはいない盲目の伝道師・マルキオ。
彼が唱えた説は、シードピアの世界に知れ渡っているが、大半が夢物語じゃないのかと言う話が多い。
だが、この後発せられた愛実の言葉で、それが事実だと言う手がかりがつかめることになる。
「この写真に載っている石版は、その島にある“カオティクスルーイン”という巨大遺跡の入り口にあったらしいよ。その文字を簡単に訳すると、『この世界が破滅に導かれるとき、“SEEDを持つもの”がこの扉を開くだろう』って書いてあるらしいのよ……。」
「SEEDを持つもの?」
「何か、ナチュラルやコーディネイターに関わらず、特別な存在であることは確かだって。でもそれ以上はマルキオさまでも分からないみたいよ……。」
まさに、シードピアの秘められし謎である………。
「ツグミさん、もしこれが本当だとしたら……、そのSEEDを持つものがこの世界のどこかにいるということですよね……?」
「おそらくね…。でも、案外近くにあるものかもしれないわよ。」
愛実の言葉は間違いではなかった。
実際、SEEDを持つものが本当にいるとしても、ほとんど自覚がないものだ。
大半の人間は、“そんなのは夢物語さ”などと言って一笑しているが、マルキオの言葉は、どこかに真実を含んでいるもの。
いや、その言葉自体が事実なのかもしれない…………。
そんな多種折々な不安と期待を抱え、船はまもなく“スピリード島”に到着しようとしている…。
今宵もまた、夢の世界の入り口が開かれる……………。
---to be continued---
あとがき:
今回は久しぶりの更新です。しかもいきなり船の上!
何だかまともに更新できなくて申し訳ございません(汗)。
さて、これから3人が向かうスピリード島、そこに秘密組織が居ることは、
甜歌と愛実は当然知りません。これから知ることになるでしょうね。
今後の彼らが一体どうなることか!?ご期待ください!