ここは、テレヴィアとアンダーワールドのおよそ数倍の面積をもつ、もう一つのプラズマ界・“シードピア”。
広大な大海原、その海に浮かぶ数々の島々、そしてそのシードピアの世界の上空にある“コロニー”と呼ばれる空中居住私設。
この不思議な世界では、中立地帯・“ニュートラルヴィア”と呼ばれる島を中心に、人種差別による大問題が起こっていた。
「水の中に 夜が揺れてる 悲しいほど 静かに佇む♪」
ニュートラルヴィアの市街地の中心地にある広場に響く、天使のような歌声。
そして、その歌声に合わせて流れるピアノの音色……。
その音楽に、周りの市民たちは足をとめ、その声と音に酔いしれる…。
ラクス・クラインは、このニュートラルヴィアでその名を知る者はいないほど有名なアイドルであり、“平和の歌姫”の二つ名をもっていた。
そして、そのパートナーであるニコル・アマルフィ。
彼は若干15歳でありながら、天才的なピアニストとして活躍していた。
そして、二人は曲を終えると、ラクスは静かに口を開いた。
「ニュートラルヴィアの皆さん、開戦から早2年、これまで数々の血塗られた歴史が刻まれてきました……。しかし皆さん、思い出してください。誰も初めからこんな戦争を望んではいないはずなんです。ナチュラルとコーディネイター、我々が共存するこのニュートラルヴィアのように、平和な世界がいつの日か築かれることを、私たちは信じています!」
彼女の力強い演説に、周囲の人間も拍手喝采となった。
そして、大方の工程が終了した二人は、車に乗って帰路に着いた。
「お疲れ様でした、ラクスさん。」
「はい、あなたもお疲れ様でした、二コルさま。」
しかし、今回の野外演奏以外のこともあるのだろうか、二人とも疲れ切っていた。
車のドライバーをしていたカナード・パルスは、二人を気遣っていた。
「二人とも、少し寝ていたほうがいいぞ。最近、戦闘に出てばかりで疲れがたまっているだろう。それに、基地までまだしばらくある。ゆっくり眠っときな。」
「はい……。じゃあ、お言葉に甘えて…。」
「では、私も……。」
そう言って二人は、眠りについた。
バックミラーで二人の寝顔を確認すると、カナードは笑みを浮かべた。
「それにしても、最近戦闘続きでオレたちも疲れたかもな……。でも、あいつはそんなのは関係ないかもしれないな……。」
二人に聞こえないくらいに呟いて、彼は自分たちの隊長を心配していた。
カタカタ………。
不規則な、コンピューターのキーを打つ音が部屋中に響く。
過去2年間の戦闘記録が、コンピューターにずらりと並んでいた。
「もう2年か……。」
コンピューターを打っていた少年はそう呟いた。
そのとき、後ろのドアが開いた。
仕事をしていた手を止め、後ろを振り返った。
そこに立っていたのは、髪の長い女性士官だった。
「マリューさん。」
そう呼ばれた女性は、ゆっくりと少年の傍に歩み寄ってきた。
「キラくん、あなたここのところ全然休んでいないじゃないの…。少しは休んだほうがいいんじゃないの?」
そう言ってマリューは、コーヒーの入ったカップをキラの机の上に置いた。
「そうはいきませんよ。いつどこで戦闘が起こるか分かりません。そのときのために、こうして今までの戦闘データを確認しているんですから。」
「いくら私たちの隊長とはいえ、頑張りすぎじゃないの?」
“隊長”…それは彼、キラ・ヤマトの役職である。
しかし、彼は彼女の気遣いを無駄にするはずがなかった。
「……ふぅ。確かに、ちょっと疲れすぎかもしれませんね…。すみません、ラミアス司令。」
「フフフ……、そう硬くならないの。」
「え?僕、変でしたか?」
その二人の会話と笑い声は、まるで一つの親子のような感覚だった。
ふとその時、キラが意味深な言葉を口にした。
「ところでマリューさん、気になったことがあるんですけど……。」
その言葉と同時に、キラはあるメモを差し出した。
それを見た直後、マリューの表情が険しくなった。
それは、シードピアの世界で有名になっている“盲目の伝道師”・マルキオの唱えた言葉だった。
「……これは私も気になっていたことよ…。ナタルにとっては“夢物語”同然の話だけど…。」
そのメモには、次の言葉が記されていた。
『この世界が闇に包まれる時、世界の破滅が訪れる時………、“SEEDを持つもの”が現われ、“虹の勇者”たちとともに、この世界を救うだろう……。それこそ、シードピアに残された最後の希望である……。』
SEEDを持つもの……。
虹の勇者……。
このシードピアでもほとんど聞きなれない言葉であるこの二つの言葉。
これが意味するのは一体何なのか……。
---to be continued---
あとがき:
第1話は、シードピアを代表する3大勢力の様子をお送りします!
その第1弾は、ニュートラルヴィアの“ライガーシールズ”の話です。
おそらく、この勢力が一番のメインになるかもしれません。
さて、次回はブルーコスモス・ファミリーサイドをUPします!!