コーディネイター……。
それは、受精卵の段階で人為的な遺伝子操作を受け、肉体、頭脳などあらゆる面においてナチュラルの数倍の能力を持つようになった、シードピアにしか存在しない“新人類”…。
しかし、その能力の違いによって大きな軋轢の差を生むことになる。
そして、シードピア歴2943年2月14日、後に“血のバレンタイン”と呼ばれたこの事件は、全てのナチュラルにとって悪夢と言うべき現実を見せ付けられた。
それは、“ゾロアシア・ワールド”に住むコーディネイターたちの反逆テロだった。
この混乱を阻止しようとナチュラルたち旧ゾロアシア軍は、反乱同盟軍に対抗したが、お互いの種族の能力の違いをまざまざと見せ付けられ、旧ゾロアシア軍はあえなく全滅した………。
そして、ゾロアシア・ワールドに住んでいたナチュラルたちは、空中に浮かぶ人工コロニーに居住することを余儀なくされた……。
その日以来、その世界はコーディネイターたちの一大拠点となっていった。
ここは、厳重警戒態勢がしかれ、ニュートラルヴィアの住人たちでも立ち入り難い海上城塞都市“ゾロアシア・ワールド”。
かつてはここも、コーディネイターとナチュラルが共存していた大地だったが、“血のバレンタイン”事件を境にコーディネイターだけの住む大都市に発展していった………。
そしてここには、この城塞都市を所轄領域とし、穏健派の総司令官ギルバート・デュランダルの指揮のもと活動を起こす、特捜親衛騎団がいた。
彼に“永遠の忠誠”を誓うその存在を、人々は“エターナル・フェイス”と呼んだ。
特に、エリートチーム“ミネルバ”への道のりは、鬼門同然のものだった。
彼らの仲間として認められるのは、デュランダルの絶対の信頼を置かれた人物でしかならないのだ。
そしてこの日、新たにそのエターナル・フェイス『ミネルバチーム』に加わることとなったメンバーが、司令室にそろった。
ドアが開き、ルーキーたちは姿勢を正す。
入ってきたのは、ルーキーたちとほとんど同年代と言っても過言ではないほどの、藍色の髪を持った青年だった。
彼は目の前のソファに腰掛け、話を始めた。
「君たちが、今回“ミネルバ”へ配属されたと言う新人たちかい?」
『はっ!』
「それじゃ…、早速だけど名前を確認させてもらうよ。」
そう言って彼は、手に持っていた機械を操作し、新人の名簿のデータを引き出した。
「まずは…、シン・アスカ!」
「はっ!」
黒髪に、赤い瞳を持つ少年、シン・アスカ。
限られた人間にしか着ることを許されない、『赤服』を身にまとっている。
その瞳の奥からは、情熱が宿っているような感覚があった。
「次は、ルナマリア・ホーク!」
「はっ!」
ルナマリアの着ている制服には個人的に手を加えた形跡がある。
その点が、女の子らしい特徴を持つ。
「そして、メイリン・ホーク!」
「はい!」
唯一、緑色の一般兵士服を着用しているメイリンは、ツインポニーテールが特徴的。
報告書によると、彼女はルナマリアの妹らしい。
「最後は、レイ・ザ・バレル!」
「はっ!」
金色の長い髪が特徴的で、貴公子のような風貌を持つレイ・ザ・バレル。
しかし、出生に関することなどは一切謎に包まれている。
「……以上で全員だね。」
ソファに座っていた青年がそういうと機械の電源を切った。
「改めて、ようこそ“エターナル・フェイス”へ!優秀な新人たちが来てくれて、俺も嬉しい限りだ!俺は、アスラン・ザラ。これからお前たちの隊長を務めることになる。よろしく!」
「はい。」
「よろしくお願いします!」
「そこにかけてよ。楽にしていいから。」
アスランの気遣いを受け取り、ルーキーたちはソファに腰掛けた。
「ところで、アカデミーはどうだった?案外、苦手なものとかってあったと思うけど。」
卒業したアカデミーの話題に、真っ先に切り出したのはシンだった。
「ええ、俺なんか特にMS工学が全然ダメ!配線図だのなんだのって、全然訳がわかりませんでしたよ!」
「そうそう、シンは実技はともかく理論がね〜。ま、あたしも苦手だけど、特にメカ関係。」
「人のこと言えないでしょ、お姉ちゃん!」
そんな雑談が飛び交う中、レイが意味深なセリフを口にした。
「しかし、シンは1対1のナイフ戦では教官をねじ伏せてしまうほどの上達ぶりではないか。」
その言葉にアスランは目を見開き、シンも頬を染めた。
「へぇ!……と言う事は、シンはナイフ戦トップか!」
「あ、はい…。まあ……☆」
ルーキーの意外な実力を耳にしたアスランは、突然立ち上がった。
「シン、ナイフ戦、俺と手合わせしてみるか?」
「ええっ?ここで…ですか?」
「遠慮するな。」
隊長からの突然の誘いで戸惑ったシンだが、「全力でかかってこい!」といったアスランの力強いセリフで、シンの目つきが変わった。
ナイフを手に取り、構えを取った。
―――さて、どれほどの腕前か楽しみだな……!!
アスランは、ルーキーのシンの実力を楽しみにしていた。
先に切り出したのはアスラン。
しかしシンは、瞬間的にかわした。
その後もお互いに一歩も譲らない攻防が続いた。
その光景にルナマリアたちも目を見開いた。
「…凄い…!シン、アスラン隊長と互角じゃない…!」
その時、アスランがナイフをシンに向けて突こうとしたが、紙一重でシンがその攻撃をかわし、逆にアスランの手首をつかみ、そのままナイフの刃を首元に当てた。
しかし、敗北を実感しつつもアスランは、シンに期待を抱いていた。
―――……やるな!
気が付いたときシンは、慌ててナイフを引っ込めた。
「す、すみません!つい……。」
だが、アスランは笑っていた。
「気にするな。さすがは俺と同じエリートの証である『赤服』を着ているだけのことはある。」
上司からのほめ言葉に、シンはまた頬を染めた。
ここで、アスランからこのエターナル・フェイスについての説明を受けた。
「いいか?我々『エターナル・フェイス』は作戦成功率が非常に高いことで知られており、損害も少ない。この成果は、情報収集から作戦立案・隊長の指揮・現場での状況判断が全て連動して、初めて成功を収めることができるんだ!後日、そう遠からず出撃命令が出ると思うが、君たちも頑張ってくれ!出てしまったら、そこは実戦だ!!」
『了解!』
ルーキーたちの敬礼を受け取った直後、突然部屋の扉が開いた。
そこに居たのは、左から、白服を身にまとった銀髪の青年と、一般兵士服を着用している金髪の青年、そして赤服を身につけた長髪の女の子だった。
「ああ、お前たちか。丁度良かった。」
「アスラン、ルーキーの配属は終わったか?」
「丁度ね。」
どうやら雰囲気からしてアスランの知り合いのようだ。
アスランがルーキーたちに彼らを簡単に紹介した。
「君たちの先輩に当たる、俺の同僚だ。」
ルーキーたちは、すぐに自分たちの上司だと気付き、即座に敬礼した。
銀髪の青年から順番に、自己紹介が簡単に述べられた。
「本日付でミネルバチームに配属となった、イザーク・ジュールだ。宜しくな。」
「俺は、ディアッカ・エルスマン。イザークの副官を務めている。お見知りおきを。」
「同じく、元ジュール隊のシホ・ハーネンフースよ。これから宜しくね!」
「「はっ!」」
「「宜しくお願いします!!」」
アスランは、イザークと目で合図をし、付け加えた。
「彼らは、俺とほとんど同等の力を持っているエリート戦士たちだ。何かわからなかったら彼らに聞いてみるといい!」
そう言ってアスランは時計を確認しこう言った。
「さて、この後彼らがこれから君たちが生活する宿舎へと案内してくれる。そこで荷物をほどいたら食事を取れ。」
「分かりました。」
「「はい。」」
「ありがとうございました。」
そして立ち去り際、彼らに期待の意味をこめた言霊を紡いだ。
「みんな……、死ぬなよ!!」
その言葉を受け取ったルーキーは、再び敬礼し、強く叫んだ。
『…はい!!』
この数日後、彼らは初の任務に赴くことになる。
しかし、彼らもまた、この世界の一大危機の中枢に飲み込まれていくことを、知る由もなかった……。
---to be continued---
あとがき:
ファーストエピソード第3弾は、エターナル・フェイスの話。
しかも、シンたちが初めてミネルバに配属されたころの話です!
いきなりエターナル・フェイス主力メンバーが総出演です!
さて、彼らはどんな運命に立ち向かうことになるのか!?
これからの彼らに期待しましょう!!
さて、次回はいよいよ第2話。
この物語のもう一つの主人公たち、“テレヴィアの勇者”てれび戦士が登場です!
もうすぐ彼らも、シードピアに着くのではないでしょうか!?