Phase15 PAST DAYS


ファントムレイダーズに、ティアーズの偵察任務を一任させた、翌日。

アスランはいつもどおりの訓練を行おうと、部屋に足を伸ばしたのだが、この日だけはちょっと様子が違った。

「………ん?」

アスランは、今自分たちがいる部屋を見渡してみた。

すると、ルーキーメンバーの一人がいないことに気付いた。

「よう、アスラン。」

そこに、オレンジ色の髪をした一人の青年が入ってきた。

彼の名は、ハイネ・ヴェステンフルス。

ミネルバチームのメンバーの一人であり、アスランの同僚関係に当たる、兄貴分的存在だ。

「あ、ハイネ。シン・アスカって言うルーキーを見かけなかったか?」

「シン……。ああ、あの赤い目をした少年のことか?……そういや、今日は見かけてないけど…。」

すると、彼らの会話にルナマリアが割ってきた。

「シンだったら、外出してますよ。」

―――ん?……外出!?

彼女の言葉に、二人は目を軽く見開いた。

「“家族の墓参りに行く”って言ってましたよ。今日、命日に当たる日だとか……。」

彼女の言葉を聞き、ハイネが何か思い当たったかのように話し出した。

「そういや……、この前あいつと話をしたことがあるんだが、あいつ、数年前に家族を亡くしてしまったとか言ってたような…。」

「…!?ハイネ、それは本当か?」

「あぁ。何でも、“血のバレンタイン”以前に、コーディネイターを嫌うどっかのナチュラルに殺されてしまったって聞いたぜ。」

多分、あいつがブルーコスモス・ファミリーに対して、でっかい憎しみの炎を燃やしてるのは、それが原因だと思うぜ。

冷静に言い放った彼の言葉に目を見開いたアスランは、驚きを隠せなかった。

ただならぬ不安は、それが原因なのか………。

「そう言えば、シン、女の子が持つような可愛いピンクの携帯電話を、とても大事そうに持っているんですけど……。もしかするとあれは、亡くなった家族の……。」

「…そっか……。」



ゾロアシア・ワールドの市街地からさらに遠く離れた場所にある墓地・“ユニウス・セメタリーガーデン”。

シンはその入り口付近に車を止め、家族が眠る場所へと向かった。

入り口から2〜3分歩いた先に、彼の家族の墓場があった。

3つの墓前にそれぞれ花束を沿え、瞳を閉じると、彼の脳裏にかつての記憶が蘇る……。


もともとシンは、中立国・ニュートラルヴィアの住人だったが、彼の父の仕事の転勤により、このゾロアシア・ワールドに住むことになった。

ごく普通の平凡な家族として暮らしていた…はずだったが……。

悲劇は突如として訪れる。

ある日、家族や義妹とともに出かけていたとき、当時ゾロアシア・ワールドに潜んでいたブルーコスモス・ファミリーの襲撃に巻き込まれ、彼は家族とはぐれてしまった。

周囲に響き渡るブルーコスモス・ファミリーの猛攻。

悲鳴を上げて命を落とす住人たち。

そのときの彼は、恐怖のあまりうずくまるしかなかった……。

それからどのくらいの時間が流れただろうか……、彼は周辺の静けさに気付き、恐る恐る顔を上げた。

今の光景にシンは、さらに体を振るわせた。

その周囲に転がっているのは、襲撃によって銃殺された人間たちの死体だった。

「…父さん…母さん……マユ……ステラは…!?」

シンは、ゆっくりと立ち上がり、壁を伝うようにして家族を探し出した。

足に思うように力が入らず、壁にすがりながら歩くことしか、今の彼には出来なかった。

その時、目の前に何かが倒れているのを見つけた。

力を振り絞り、そこに向かうと、シンは驚愕した。

そこに倒れていたのは、彼の父親だった。

「…と……とう…さん…?!」

さらにそこから目を泳がすと、そこには母親と愛する妹の姿が。

しかも、その姿はとても痛ましく、体中に銃弾を浴びていた。

「…あ…あぁぁ…うぁ…ぁぁあ…っ…!」

シンの心が押しつぶされそうになった、そのときだった。

「…お…にい……ちゃ…ん……?」

「……っ?!」

聞き覚えがあり、かすれたような声が耳にとどき、そこに目を向けると、辛うじて目を開いていた妹の顔があった。

「マユ…!?」

足元がおぼつかないシンは、フラフラになりつつも、マユの傍まで歩み寄り、彼女の体を抱き寄せた。

「よかった……おにい…ちゃん…に…あえて……。」

「マユっ……どうして…こんな…っ……ちくしょう…っ……!!」

己の力のなさを悔やみ、涙を流し続けていたシン。

なぜ罪もなき自分たちがブルーコスモス・ファミリーに狙われなければならなかったのか。

その理由が、未だにつかめていなかった。

すると、不意に「おにいちゃん」と呼ぶ声がして、シンはマユに目を向けた。

ゆっくりと差し出された手には、彼女が大事にしていた携帯電話があった……。

「マユ……それ…!」

「おにいちゃん…これ…持ってて。」

「え…?」

「離れ離れは…嫌……だから…これ………。」

いつまでも自分たちのことを忘れないでほしい。

マユはそう言いたかったのかも知れない。

気がつけば、彼女の目じりにも一筋の雫が……。

シンは、妹の携帯電話を受け取り、涙目になりつつもマユに精一杯の笑顔を作っていた。

「ああ、大丈夫。俺たちはいつまでも一緒だよ。」

兄の言葉を受け取ったマユは、さらに続けた。

「おにい…ちゃん…。ステラと、はぐれ…ちゃっ…た。お願…い、探して……。」

どうやら逃げる途中でステラとはぐれてしまったようだ。

必死に懇願するマユに、シンはさらに涙した。

「判った…わかったから…っ…。もう、それ以上喋らないでくれっ…!」

必ず、ステラを見つけるから……、俺が絶対に…!

マユはその言葉を受け取り、最後の力を振り絞ったか、最高の笑みをシンに見せた。


「…よ…かった……。」


かすれつつも呟いたその言葉を最後に、マユは息を引き取った。

「―――!!!」

時間が経つにつれ、徐々に冷たくなっていくマユの死体を、シンは声を殺して泣き濡れたまま、強く抱きしめた。

その右手には、家族の形見となったピンク色の携帯電話が、しっかりと握られていた……。

「マユ……父さん…母さん……ごめん…っ…。」

楽しい日々なるはずだった日が、一瞬にして奪われてしまい、天涯孤独となった悲劇の少年、シン・アスカ。

その暗い出来事は、後の彼に頑丈な心の楔を作ってしまった……。

「う…ううっ…うぁぁっ…く…っ……うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!!」

シンはとうとう耐え切れず、妹の死体を抱えたまま泣き叫んだ。

その叫び声は、周囲に木霊していた………。


その後彼は、行方知れずとなった義妹を見つけるべく、ゾロアシア・ワールド中を探し回った。

しかし、それから数年たった今でも、その行方をつかめることがなく、迷宮入りと化してしまったのであった………。



今でも彼は、こうして家族の眠る墓へ向かうと、必ずその出来事が脳裏に過ぎり、涙するのであった……。

「父さん、母さん、マユ…。俺がエターナル・フェイスに入ったって知って、どう思っているかな……?」

シンは、まるで家族が自分の目の前に居るかのように、墓前に語りだした。

「笑っているかな?……それとも、怒っている…?」

どちらにしても俺は、これでよかったと思っている。

俺はもう一人じゃない。

アカデミー時代からの友達が出来た。

彼らと一緒に、生きていくから、安心してね。

「ステラは、まだみつかっていないけど…きっと必ず見つけてみせる!」

だから……俺のことをずっと見守っていてね。

一通りの挨拶をすませ、この場から去ろうとした、そのときだった。

「また、やってきたのかい?坊や。」

彼にとって聞き覚えのある声に反応し、振り返ると、そこにいたのは銀髪とボロボロの眼鏡をかけた女性と、ピエロのような外見のイメージをもった子供が居た。

「ロベリアさんに……サリュ…?」

銀髪の女性は、ロベリア・カルリーニ。

かつてはゾロアシア・ワールドで“シードピアの悪魔”と言う異名で恐れられた大悪党だった。

しかし、現在は裏家業から足を洗い、このセメタリーガーデン付近に人知れず、住居を構えている。

そして、ピエロのような外見を持つ子供の名は、サリュ。

シードピア・シアターハウスで名うてのマジシャン。

そんな彼も、かつてはロベリアの片腕として名をはせていた奇術師でもある。

彼女たちは、シンがエターナル・フェイスに所属する以前からの知り合いであり、旧友でもある。

二人はほぼ毎日のようにこの墓地を訪れては、散歩を楽しんでいる、いわば墓守的存在でもあるのだ。

「家族の、墓参りか…?」

「うん……。」

「そっか…。そういや、今日はあんたの家族の命日だったな……。」

シンたちは再び、家族の眠る墓に目をやった。

「聞いた話じゃ、エターナル・フェイスに入ったそうだな。以前はちっちぇガキだったのが、でかくなりやがって…☆」

ほめ言葉なのか、はたまた貶しているのかわからないような口調のロベリアに、シンは少々苦笑いした。

「ところで、訓練とかはよいのか?仲間たちが心配しておるはずだぞ。」

サリュの言葉を聞き、腕時計に目を向けると、時間は間もなく10時になるところだった。

「あっ、もうこんな時間か。隊長たちに怒られちゃうな。」

時間を確認したシンは、かるく会釈をして車へと向かった。

「それじゃ、俺はこれで。」

「こういう日でなくてもいいから、たまにはここに来てくれよ。」

「私たちも待っているからな。」

二人は、シンの車が見えなくなるまで見送った。

その直後、二人の表情が僅かながら険しくなった。

「サリュ……お前、気付いていたか?」

「お主もか。」

彼女たちはそう言って、シンが立っていた、彼の家族の墓前に目を向けた。

「どういうわけだか知らねぇが、妹さんの墓の中から魂の声が聞こえねぇぞ。」

一体どうなってやがんだ?

サリュは、シンの妹――マユ・アスカ――の墓石に自らの手を添えた。

すると、この墓石を通じて一つの手がかりをつかんだ。

「……ロベリア、もしかすると彼女の魂は、どこかで具現化されているのかも知れない…!」

「彼女が生きている……ってことなのか?」

「意味合いは違うかも知れないが…そう言う事になるかもな…。」

マユの魂が人の形となってシードピアのどこかにいる。

恐らく、兄であるシンにこのことが知れれば、とんでもないことになる。

そう確信したロベリアは、サリュに言った。

「もし何処かにいるのだとしたら……ニュートラルヴィアもしくは……ブルーコスモス・ファミリーのいる空中コロニーぐらいだろうな!」

「よし、ならば私がそこに赴き、彼女を探してくる。」

サリュは早速自らの霊力を使い、ニュートラルヴィアに向かおうとしたのだが。

「待ちな。たいした根拠もどこにもないのに、いきなりそこに向かうと言うのも、何かと思うぜ。」

「む……、それも確かに…。」

「早まる気持ちも判るが、ここはひとまず総司令に連絡して、判断を待ったほうがいいんじゃないか?」

「…うむ…仕方あるまいか……。」

相棒の言葉を聞き、僅かながら冷静さを取り戻したサリュは、ひとまず彼女に従うことにした。

ロベリアは、服の懐から携帯通信機キネマトロンを取り出し、本部につなげた。

「それにしても……、ややっこしいことになりそうだな…。」



---to be continued---


あとがき:
今回はシンの過去の記憶にスポットを当ててみました。
SEEDDESTINYの設定とは多少違うところもありますが…。(苦笑)

さて、今回の話でまたしてもNEWメンバー登場!
詳細は、スピリチュアル・キャリバーのページにて……。

次回は再び、スピリード島に焦点を当てたいと思います。
さらに、お待たせ!スピリチュアル・キャリバーのメインキャラクターのあの少女が、久しぶりの再登場です!!








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