太陽が世界の周りを回り続ける世界。
シードピアにとっては当たり前の時間の流れでも、長年太陽が止まりっぱなしだったテレヴィアの人間たちにとっては不慣れであった。
それは、ティアーズの戦士たちにとっても同じことであった。
リュミエール岬に人知れず停泊するリーフ。
その一室に、シードピアの太陽の光が差し込まれる。
「………ふああ〜〜…よく寝た〜……。」
それが目覚まし代わりになっていたのか、甜歌がゆっくりと体を起こした。
昨晩遅くまでアストレイバー・アイランドのスピリード島で思う存分遊んだこともあったのか、その余韻がまだ残っていた。
「でも、昨日の夜は楽しかったな〜☆」
すると、一足遅れて愛実も目を覚ました。
「…う〜〜ん……おはよう甜歌…。」
「おはよ!愛実!」
軽い会釈を交わした愛実は部屋のカーテンを勢いよくあけた。
一気に部屋全体に、太陽の光が広がる。
甜歌はそのまぶしさに思わず目を細めた。
「それにしても………こんなまともな一日を迎えられたっていうのは、久しぶりね。」
「……地球と同じような時間の流れってこと?」
「そう。」
愛実に言われて甜歌も納得した。
二人はもともと異世界“地球”の人間。
テレヴィアとアンダーワールドにいたころは、生活のリズムが崩されていたのだ。
シードピアの世界は、普段どおりの時間の流れをもっている。
彼女たちにとっては偶然ながらも、うってつけの世界なのかもしれない。
窓の景色を眺め、まどろんでいた時、背後のドアをノックする音が。
「…?誰?」
「甜歌、愛実、起きた?」
「卓也さん…?」
許可を得て部屋に入ってきた卓也。
しかし、入ってきたのは彼一人ではなかった。
なぜか彼の後ろに一人の少女が居た。
その子の存在に、目を丸くした甜歌と愛実に、卓也は簡単に話を始めた。
一方その頃、ニュートラルヴィアから離れた海上に、一隻の大型戦艦があった。
その戦艦の司令室では、今回の指令が下されようとしていた。
「ところでネオ、さっき格納庫にあったあの大きなロボットみたいなの…なんなの?」
作戦概要を受託していたとき、フレイが口をはさんだ。
彼女の言葉を聞いたネオは、笑みを浮かべた。
「あれはな…俺たちの主戦力となるモビルスーツ“ナイトメア”だ。」
「ええっ!?」
モビルスーツ―――その言葉を聞いた一同は、目をキラキラと輝かせた。
「それじゃ、今回はそのテストも兼ねてあるってわけね。」
「ああ。今回の戦闘ではステラたちが搭乗することになる。ライガーシールズどもに目に物を言わせてやるさ!」
フレイも「当然よ。」と言わんばかりに冷笑を浮かべたのち、指示を出した。
「まずはクロトたちがシャドーアンカーでアプリリウス銀座を奇襲、その後ファントムペインを出撃させるわ!」
一方ブリーティングルーム。
出撃を控えたパイロットたちが集まる場所でもある。
そこには、すでにエリートチーム“ファントムペイン”が控えていた。
「いよいよ僕たちのモビルスーツをやつらにお披露目するときがきたか……楽しみになってきたな。」
「アウル、調子に乗って落とされるなよ。」
「解ってるって、スティング。」
二人がそんな雑談を交わしている間、ステラはまだボーっとしていた。
彼女が一体何を考えているのか、それは仲間たちですらも定かではなかった……。
そのとき、艦内全域に放送が鳴り響いた。
『“コンディション・レッド”発令!!“コンディション・レッド”発令!!パイロットは総員搭乗機にて待機せよ!!』
その警報と同時に、ネオが合流した。
「お前たち、準備は出来たか!?」
ネオの声を聞いたステラはすぐさま振り返り、笑顔を浮かべて彼の傍まで駆け寄った。
「ネオ!!」
ステラがブルーコスモスファミリーの一員になって以後、ネオは彼女にとっての父親的存在でもあった。
そんな彼女の相も変らぬ無邪気さに、ネオは思わず笑みをこぼし、彼女の金糸の髪を撫でてやった。
「ステラ、今日は俺も一緒に出る。しっかりやってくれ。」
「うんっ!」
「お〜い、そこの仲良しお二人さん!」
「さっさと出るぜ!」
雑談混じりの会話と共に、いざ出撃だ。
「えっ?あたしと甜歌が出かけているときにその子を見つけたの?」
卓也から少女に関するあらかたの主旨を耳にした愛実と甜歌は、首をかしげた。
「見た感じ、この世界の人間のようだったけど……どうも、彼女自身の記憶がないらしいんだ。名前はなんとか覚えているみたいだけど……。」
「名前以外は全然わからないって、重症じゃない?見た感じわたしたちと同じくらいなのに……。」
彼らが少女のことを今後どうするかと迷っていた時、突如艦内全域に警報が響いた。
『えらいこっちゃ、えらいこっちゃっス〜ッ!!アプリリウス銀座G-24地区に、未確認物体が侵入、市街地を次々に破壊しているっス!!総員、ブリッジに集合っス〜ッ!!』
その放送を受託した3人は、とりあえず謎の少女を連れてメインブリッジに向かった。
リーフ・メインブリッジにはてれび戦士が集合していた。
「ラビ、市街地の状況はどうなっている!?」
ちひろの言葉と同時にモニター中央に“アプリリウス銀座”のレーダーが表示された。
「これが現在の被害状況っス!被害率はまもなく20%を超えるっス!」
しばらくして市街地の中継映像が表示された。
すると、そこに巨大なロボットみたいな兵器が姿をあらわした。
「なっ…!?なんなのじゃ、あれは!!」
「もしかして街を破壊しているのはあれじゃないですか、有沙女王様!?」
ゴルゴが脅えたような震える声で、進言したそのとき。
一体のロボットが、手に持っていたライフルで次々に建物を破壊した。
「なんちゅう破壊力や!」
「!!??えらいこっちゃ〜〜!!さらに所属不明の飛行体が数機、編隊を組んで市街地に接近中っス!!」
ラビの報告を聞き、全員が“またこれ以上何か来るって言うのか!?”と思った。
だが、その予想に反し現われたロボット型の兵器は、街を破壊しているロボットと対峙する形を取っていた。
レッドは、そのロボットの肩の部分につけられているマークを見た瞬間、ピーンときた。
そのマークは“獅子”を象っていた。
「おい、竜一!あのエンブレム、もしかして“ライガーシールズ”とちゃうか!?」
「……!!間違いない、あいつらだ!!」
「レッドよ、ライガーシールズとは…もしや先日話してた……。」
レッドは「その通りです。」と言わんばかりの表情で頷いた。
有沙女王はしばし考えをまとめ、意を決した。
「ならば話は早い。彼らを見捨てるわけには行かぬ。ティアーズ、出撃じゃ!!」
『了解!!』
『アイアイサー!!』
有沙女王の指示と同時に、竜一が艦全域に非常警報を発令した。
「第一級戦闘態勢発令!全艦戦闘準備に移る!!リーフ、発進準備!ファイヤーガゼル及びプラズマファルコンの最終整備を急げ!!パイロットはブリーティングルームで待機せよ!!」
それぞれのメンバーたちが待機場所に向かおうとしていた時、愛実が有沙女王に告げた。
「有沙女王、悪いんだけどこの子、しばらくここで預かってくれない!?」
「言われずとも、わらわがその子をしかと守り通すぞ。」
その言葉を受け取った愛実は、「よろしくね!」と軽く返事をして、甜歌のあとを追っていった。
『やっとおいでなすったみたいだな、ライガーシールズ!』
出撃していたライガーシールズの面々は、通信回線を通して聞こえた意味深な発言に目を見開いた。
「な……なぜ僕たちのことを…!?」
『ま、まさか……あなたたちはブルーコスモスファミリー!!』
ニコルの発言に全員が驚きの目を向けていた。
『そうさ!これは僕たちのモビルスーツ“ナイトメア”さ!これで戦力はほぼ互角ってわけさ!』
ライガーシールズにとっては予想だにしなかった大誤算。
ブルーコスモスファミリーが極秘裏でモビルスーツを開発していようとは思いもしなかった。
しかも、ニュートラルヴィアとは負けずとも劣らぬ技術を持っているようでもあった。
「そんな……彼らがモビルスーツを造っていたなんて……!!」
キラも驚きを隠せず、唖然とするしかなかった。
ふと、そのときだった。
『……なに…?ステラたちがこわいの…?笑っちゃう。』
ステラの突発的な挑発は、カガリの怒りに火をつけた。
『…何だと……?あたしたちが臆病者だとでも言いたいのか…!?』
「ちょ……カガリ、いくらなんでもそれは…。」
キラの静止をかける声はもはや、彼女には届きはしなかった。
それを裏付けるかのようにさらに、相手が挑発を繰り返してきた。
『どうした!?この臆病者!悔しかったらかかってきなよ☆』
とうとう彼女の堪忍袋の緒が切れた。
『………もう許さんぞ!!貴様ら〜!!!!』
カガリは怒り任せでモビルスーツを動かし、敵に特攻をしかけた。
「カガリ!!あぁ、もう!カナードとニコルは周辺のモビルスーツをお願い!残りのメンバーはカガリを援護!!」
『了解!』
キラの指示でそれぞれが展開した。
しかし、その指示を出しても時すでに遅し。
カガリは周囲の静止を振り切って、怒り任せで突進してきた。
『お前たちは、どこまであたしたちを侮辱する気だ〜!!??』
モビルスーツ―――ライガーシールズの主戦力MS・セイリョウ―――のビームサーベルが相手を捕らえようとした時、背後に隠れていた別のモビルスーツのビームライフルがカガリを捕らえた。
『!!!』
『おばかさんよ、消えな!』
―――しまった!
カガリがまさに撃たれようとしていた、次の瞬間、一筋の光が、相手の武器を破壊した。
『!!??』
さらに周辺にいたナイトメアが次々と破壊されていった。
「こ…これは一体…?」
すると、キラのセイリョウに通信が。
その相手は意外な人物だった。
『キラさん、大丈夫ですか!?』
「テ……テンカちゃん!?」
―――まさか。
キラが目線をずらした先には、戦艦クラスの大型母艦が姿をあらわしていた。
その前方には、鷲型の真っ黒なフォルムと稲妻のアクセントが着いた戦闘機と、真っ赤なボディとレーザーキャノン、そしてコクピットの傍にドリルがついた特攻戦車が、編隊を組んで進軍していた。
ライガーシールズ、ブルーコスモスファミリー、そしてティアーズ。
前代未聞の三つ巴の大激闘の幕が、切って落とされようとしていた。
同じ頃、アプリリウス銀座に程近いとある場所で、一人の少女がその戦闘の様子を見守っていた。
時折吹く風にその髪を靡かせ、瞬き一つすることもなく、その戦いを見据えていた。
「…感じる…。体の奥底に秘めている“SEED”の輝き………。そして、“虹の勇者”の血を引くものたちも……。」
少女が呟いていた時、ふと背後に気配を感じ、その正体を察知すると、振り向きもせずに言った。
「来てたの…?ジェミニ……。」
ジェミニは返事一つせずに、少女の傍まで寄った。
「フワちゃん………また何か、感じ取ってたの…?」
フワニータは頷いた。
そのまま決して背後に振り返ることもなく、また言葉を紡いだ。
「まぶしいほどに輝いている……虹の光を感じるの…。」
―――“SEED”とはまた別の……。
少女の言葉に、ジェミニは目を細めた。
そして、彼女もまた意味深な言霊を、唱えるように紡いでいった。
『この世界に危機が迫りしとき、“SEEDを持つもの”と“虹の勇者”が、遺跡に眠る剣を手にし、巨悪に立ち向かうだろう……。』
あまりにも意味深な言葉に、フワニータはようやく振り返った。
「ボクたちの間でささやかれている言い伝えだよ。」
―――意味自体はマルキオさまのものとほとんど変わらないけど……。
ジェミニの言葉に、フワニータは目を軽く見開いた。
すると、不意に「ジェミニ。」と呼ぶ声がした。
名を呼ばれた彼女は、目線をフワニータに向けた。
「根拠はないけど………もしかすると、ジェミニたちの出番が来るかもしれない…。“スピリチュアル・キャリバー”の出番が……。」
「……フワちゃん…。」
唐突な少女の言葉に戸惑いと驚きを隠せないジェミニ。
―――……でも、ありえなくないかも…。フワちゃんは何気に勘がいいもの………。
そして後に、彼女の何気ない予感が的中することになろうとは、二人は知る由もなかった……。
---to be continued---
あとがき:
大学受験期間をはさんで、ようやく更新再開です!
大変お待たせしました!
ようやく12話までいきましたけど、MS戦を若干ながらUPできました。(汗)
さて、次回は3大組織の壮絶な三つ巴の戦いをUPしたいと思います。
まだ物語りは序盤同然。更新はまだ先かも………。頑張ります!!