「…ひっく…ぐすっ……。」
少女のすすり泣く声が僅かに響く。
心の底から大声を上げて泣いたなのはの声だ。
彼女は今、兄と姉の腕の中に包まれている。
その彼らの後ろには、ネガタロスとシゾーの二人もいた。
ややあって、名残惜しそうに二人は腕を解いた。
「なのは、もう、大丈夫だな?」
「……うん…っ…、ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。」
「…うん…、生きてて良かった、なのは……!」
[マスター。]
不意に聞こえた電子的な音声。
視線を向けると、ベッドの傍らの机に、自分の半身とも言える赤い宝石が輝いていた。
震える手で、なのははそれを手に取り、その宝石と向き合った。
「レイジングハート…っ…、無事だったんだね、良かった……!」
[マスター、私はあなたの持つ“不屈の心”。あなたが“あきらめない”限り、どんなときでも私はあなたの力となります。ですが……。]
言葉を濁し、少し間をおいて、レイジングハートは言葉を紡いだ。
[今回のように、また、とても苦しいことに直面したときには、言ってください。私も、あなたのパートナーとして、あなたのその涙を、あなたのその痛みを、苦しみを、少しでも分かち合いたいのです。]
クールなイメージを持つAI(人工知能)とは思えないほどの、情熱的な言葉に、その場に居た全員が胸を打たれた。
さらに、ヴィヴィオがレイジングハートの言葉を継ぐように口にした。
「誰かの支えになりたいということは、誰でもある。だけど、時には誰かに支えられていくのもまた、人として当たり前。一緒に歩くというのは、そういう意味でもあるんだよ。」
ヴィヴィオの言葉に、なのはも胸を打たれた。
いつも自分は、みんなと一緒にいたいと願い、誰かの支えになりたいと強く願っていた。
だけど、どうやら少し誤解していたようだ。
「みんな……っ…。」
あれだけ泣いたのに、また瞳から溢れる涙。
自分は、どれだけ弱虫だったのか……。
「ホントに、ありがとう……っ…。」
涙を流すも、微笑を浮かべたなのはは、感謝の意を表した。
「一段落したようね。」
――――――?
凛とした女性の声。
視線を向けるとそこには――――。
「……カイザーホエール指揮官・藤枝かえでか。」
ネガタロスが現れた女性の存在を認識すると同時に、僅かに疑問に思ったことが。
「なぜ貴様がここにいる?本来の持ち場に居るべきではないのか?」
「大丈夫よ。副指揮官のゲンヤさんが持ち場を守ってくれているし、それにあたしも、なのはさんのことが気がかりだったのよ…。」
彼女もかつては姉妹という関係を持っていた間柄、末の妹を心配する恭也と美由希に、少なからず共感を持っていた。
「でも、これでなのはさんのことは心配なさそうね。」
と、ここでシゾーが会話に加わる。
「で、かえでさん、戦局のほうはどうなってるピョン?」
その問いに対し、かえでは苦い表情を浮かべた。
「…はっきり言って芳しくないわ。新たに入った情報では、ゾロアシアに現れた巨大モビルアーマーは、実は可変式巨大モビルスーツだったって言うことよ。」
「ゲゲッ!!??」
どうやらかなり苦戦を強いられることになりそうだ。
そんな巨大な敵の猛攻をまともに食らってしまえば、下手すれば全滅は避けられない!
「増援を送るべきではないのか?」
「そうしたいところだけど、無闇に恭也さんたちやオーシャンガーディアンズを出すわけにもいかないし……。」
「ならば、俺たちが出向こう。」
―――?!
新たに聞こえた男性の声。
開放されている扉に視線を向けると、そこから3人組の男女が現れた。
シゾーとかえでは、その3人の顔に見覚えがあった。
「ありゃ!?」
「あなたたち!?」
『ビーム攻撃が来るぞ!』
『あぶねぇっ!』
『退避ぃっ!!!』
巨大モビルスーツから、縦横無尽に放射されるビームとミサイルの嵐。
攻撃しても大型シールドで阻まれる。
ゾロアシアの戦いは、熾烈を極めようとしていた。
B.C.F.の攻撃を阻止せんと、エターナル・フェイスが迎え撃ち、それを援護すべく、ダイダルストライカーズMS部隊“オルカファイターズ”も合流した。
しかし、想像以上の攻撃力の高さに、全軍が後手後手に回りつつあった。
「…近づくことすら出来ないなんて……!!」
“ネメシス”を駆り、出撃していたシンであったが、最大級の敵の猛攻に悪戦苦闘。
さらに周囲にはヤフキエルの大群と、非常に芳しくない。
だが、間髪もいれず、考える暇すらも与えず、ヤフキエルが襲い掛かる。
「しつけぇよ!こいつらぁっ!!!」
ネメシスのビームサーベルがヤフキエルを次々と切り裂くも、ヤフキエルの数は衰えを知らなかった。
『このぉっ!なめた真似を!』
ルナマリアも叫びながらビームアックスを振り下ろし、ヤフキエルを叩き割る。
『これ以上はやらせんぞ!』
『とことんやるぜ!』
『はああぁぁっ!!!』
イザーク、ディアッカ、シホも紛争する。
『俺たちをなめてもらっちゃ、困るんだよ!』
ヤフキエルだけでなく、B.C.F.のモビルスーツ・ナイトメアも率先して破壊するのは、エースパイロットのハイネだ。
この国は自分たちで必ず死守する!
その決意を胸に、ミネルバは奮闘していった。
さらに、大型戦艦・ワルキューレも、主砲、副砲、さらにはミサイルを一斉に吹かし、巨大モビルスーツにけん制を仕掛ける。
『“タンホイザー”を使って、ヤフキエル共々撃破し、シンたちの負担を軽減する!照準・敵巨大モビルスーツ!』
『了解!タンホイザー起動!』
キャプテンシートに座るタリアの指示により、艦の切り札・陽電子砲タンホイザーが起動。
船の責任者、アーサー・トライン指示の下、エネルギーが充填されていく。
『ターゲット・ロックオン!』
『タンホイザー、撃てぇっ!!!』
瞬間、陽電子砲の一閃が、巨大モビルスーツに直撃し、爆発と衝撃が広がった。
手ごたえを感じた………………。
しかし。
『おバカさん、そんな程度でこれが倒れるとでも思ってるの?』
――――!!!???
通信に割り込んできたミューディーの一言により、全員が背筋を凍らせた。
煙が晴れた先には―――――――――。
“大型陽電子シールドでタンホイザーを受け止めたDOOMの姿”があった。
「タ………タンホイザーも、効かないなんて………!!!」
シンの震える声は、全集波回線により、全員に響いた。
『……敵であると言うならば、ステラさんを討ちますか?』
ラクスのその言葉に、とうとう口を閉ざしてしまったスティング、アウル、フレイの3人。
組織の命令を取るか、友情を取るか。
……だが、その選択を迫られて、悩まないはずがなかった。
「……ダメ…、あたしには、できない…っ…。」
消え入りそうなフレイの声が響いた。
コーディネイターを庇う奴らはみんな敵だと教えられたけど……その相手が、自分たちの大切な仲間と考えると、絶対できない……。
だって、あたし…っ…、今でもステラと、一緒にいたいって…思ってるもん…。
できることなら……あの子に会って謝りたい…、もう一度、あの子が笑う顔が見たい…っ…!
あたしたちのせいで、あの子が悲しむ顔は、もう、見たくないっ!!!
徐々に泣き叫ぶような口調に変わっていき、最後の言葉を叫ぶときには、彼女の目じりに涙の粒が……。
ふと、嗚咽を漏らし、うつむいていた彼女の肩に、手が添えられた。
振り返ると、優しい笑顔を向けるキラの表情があった。
「…大丈夫。あの子…ステラちゃんと分かり合える日は来るよ。君が、そう望み続ける限り、きっと……。」
涙を湛えるフレイの泣き顔を、キラは優しく胸に抱き寄せた。
「…信じよう、そのときを……。」
「…っ…っ……、うん…っ…!」
優しくて、温かい………。
キラの腕の中、フレイはその温かさに、懐かしさを感じた。
そう………、今は亡き、父の腕の中……。
今思えば、どれくらいの間、その温かさを忘れていたのだろうか……。
「…っ…ぅ……ぅ…ぁ…っ…、うあああぁぁぁぁぁ…!!!」
心の中でずっと求めてたのかもしれない、心の傷にも沁みるような温かさに、フレイはとうとう耐え切れなくなったのか、大声を上げて泣き出した…………。
キラに縋りつくように抱きつき、今までの苦しさを吐き出すように号泣していた。
それでも、キラは彼女を放さなかった。
今は、好きなように泣かせてあげよう。
それで、彼女の心の重みが、少しでも軽く出来るならば……。
――――――――ピピピ、ピピピ……。
「あら?」
カオティクス・ルーイン内部にある“R.G.B.”に設置されたFAXが起動し、何かが送られてきた。
差出人は、てれび戦士たちだ。
「まぁ、これは…!」
「どうしたの、セトナさん?」
「なんかあったか?」
そこに合流したのは、ファンガイアの末裔・紅渡だ。
傍らにはいつものようにキバットが飛んでいる。
「渡さん、キバットさん、てれび戦士から“パスワード”の解読結果が届けられました。」
「ホント?」
「よっしゃ!とっとと封印を解くとするか。」
二人と1匹は、早速遺跡奥深くの扉の前へと向かった。
「いよいよ、全てが明らかになります。GUNDAMの最強装備の正体が…!」
どのくらいこの扉が封印されていたのか、それを思うとかなりずっしりと重く感じられる………。
その封印が解かれた先に待ち受けるものとは……何なのか。
「では、パスワードを入力しましょう。」
送られてきた回答結果は、以下の通りだ。