Phase73 流星の刃


「…ひっく…ぐすっ……。」

少女のすすり泣く声が僅かに響く。

心の底から大声を上げて泣いたなのはの声だ。

彼女は今、兄と姉の腕の中に包まれている。

その彼らの後ろには、ネガタロスとシゾーの二人もいた。

ややあって、名残惜しそうに二人は腕を解いた。

「なのは、もう、大丈夫だな?」

「……うん…っ…、ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。」

「…うん…、生きてて良かった、なのは……!」





[マスター。]





不意に聞こえた電子的な音声。

視線を向けると、ベッドの傍らの机に、自分の半身とも言える赤い宝石が輝いていた。

震える手で、なのははそれを手に取り、その宝石と向き合った。

「レイジングハート…っ…、無事だったんだね、良かった……!」

[マスター、私はあなたの持つ“不屈の心”。あなたが“あきらめない”限り、どんなときでも私はあなたの力となります。ですが……。]

言葉を濁し、少し間をおいて、レイジングハートは言葉を紡いだ。

[今回のように、また、とても苦しいことに直面したときには、言ってください。私も、あなたのパートナーとして、あなたのその涙を、あなたのその痛みを、苦しみを、少しでも分かち合いたいのです。]

クールなイメージを持つAI(人工知能)とは思えないほどの、情熱的な言葉に、その場に居た全員が胸を打たれた。

さらに、ヴィヴィオがレイジングハートの言葉を継ぐように口にした。

「誰かの支えになりたいということは、誰でもある。だけど、時には誰かに支えられていくのもまた、人として当たり前。一緒に歩くというのは、そういう意味でもあるんだよ。」

ヴィヴィオの言葉に、なのはも胸を打たれた。

いつも自分は、みんなと一緒にいたいと願い、誰かの支えになりたいと強く願っていた。

だけど、どうやら少し誤解していたようだ。

「みんな……っ…。」

あれだけ泣いたのに、また瞳から溢れる涙。

自分は、どれだけ弱虫だったのか……。

「ホントに、ありがとう……っ…。」

涙を流すも、微笑を浮かべたなのはは、感謝の意を表した。









「一段落したようね。」









――――――?









凛とした女性の声。

視線を向けるとそこには――――。

「……カイザーホエール指揮官・藤枝かえでか。」

ネガタロスが現れた女性の存在を認識すると同時に、僅かに疑問に思ったことが。

「なぜ貴様がここにいる?本来の持ち場に居るべきではないのか?」

「大丈夫よ。副指揮官のゲンヤさんが持ち場を守ってくれているし、それにあたしも、なのはさんのことが気がかりだったのよ…。」

彼女もかつては姉妹という関係を持っていた間柄、末の妹を心配する恭也と美由希に、少なからず共感を持っていた。

「でも、これでなのはさんのことは心配なさそうね。」

と、ここでシゾーが会話に加わる。

「で、かえでさん、戦局のほうはどうなってるピョン?」

その問いに対し、かえでは苦い表情を浮かべた。

「…はっきり言って芳しくないわ。新たに入った情報では、ゾロアシアに現れた巨大モビルアーマーは、実は可変式巨大モビルスーツだったって言うことよ。」

「ゲゲッ!!??」

どうやらかなり苦戦を強いられることになりそうだ。

そんな巨大な敵の猛攻をまともに食らってしまえば、下手すれば全滅は避けられない!

「増援を送るべきではないのか?」

「そうしたいところだけど、無闇に恭也さんたちやオーシャンガーディアンズを出すわけにもいかないし……。」

















「ならば、俺たちが出向こう。」

















―――?!

















新たに聞こえた男性の声。

開放されている扉に視線を向けると、そこから3人組の男女が現れた。

シゾーとかえでは、その3人の顔に見覚えがあった。

「ありゃ!?」

「あなたたち!?」
















































『ビーム攻撃が来るぞ!』

『あぶねぇっ!』

『退避ぃっ!!!』












巨大モビルスーツから、縦横無尽に放射されるビームとミサイルの嵐。

攻撃しても大型シールドで阻まれる。

ゾロアシアの戦いは、熾烈を極めようとしていた。

B.C.F.の攻撃を阻止せんと、エターナル・フェイスが迎え撃ち、それを援護すべく、ダイダルストライカーズMS部隊“オルカファイターズ”も合流した。

しかし、想像以上の攻撃力の高さに、全軍が後手後手に回りつつあった。

「…近づくことすら出来ないなんて……!!」

“ネメシス”を駆り、出撃していたシンであったが、最大級の敵の猛攻に悪戦苦闘。

さらに周囲にはヤフキエルの大群と、非常に芳しくない。

だが、間髪もいれず、考える暇すらも与えず、ヤフキエルが襲い掛かる。

「しつけぇよ!こいつらぁっ!!!」

ネメシスのビームサーベルがヤフキエルを次々と切り裂くも、ヤフキエルの数は衰えを知らなかった。

『このぉっ!なめた真似を!』

ルナマリアも叫びながらビームアックスを振り下ろし、ヤフキエルを叩き割る。







『これ以上はやらせんぞ!』

『とことんやるぜ!』

『はああぁぁっ!!!』






イザーク、ディアッカ、シホも紛争する。



『俺たちをなめてもらっちゃ、困るんだよ!』



ヤフキエルだけでなく、B.C.F.のモビルスーツ・ナイトメアも率先して破壊するのは、エースパイロットのハイネだ。

この国は自分たちで必ず死守する!

その決意を胸に、ミネルバは奮闘していった。

さらに、大型戦艦・ワルキューレも、主砲、副砲、さらにはミサイルを一斉に吹かし、巨大モビルスーツにけん制を仕掛ける。

『“タンホイザー”を使って、ヤフキエル共々撃破し、シンたちの負担を軽減する!照準・敵巨大モビルスーツ!』

『了解!タンホイザー起動!』

キャプテンシートに座るタリアの指示により、艦の切り札・陽電子砲タンホイザーが起動。

船の責任者、アーサー・トライン指示の下、エネルギーが充填されていく。

『ターゲット・ロックオン!』













『タンホイザー、撃てぇっ!!!』













瞬間、陽電子砲の一閃が、巨大モビルスーツに直撃し、爆発と衝撃が広がった。















手ごたえを感じた………………。















しかし。



















『おバカさん、そんな程度でこれが倒れるとでも思ってるの?』



















――――!!!???

























通信に割り込んできたミューディーの一言により、全員が背筋を凍らせた。

煙が晴れた先には―――――――――。



















“大型陽電子シールドでタンホイザーを受け止めたDOOMの姿”があった。



















「タ………タンホイザーも、効かないなんて………!!!」

















シンの震える声は、全集波回線により、全員に響いた。















































『……敵であると言うならば、ステラさんを討ちますか?』





ラクスのその言葉に、とうとう口を閉ざしてしまったスティング、アウル、フレイの3人。

組織の命令を取るか、友情を取るか。

……だが、その選択を迫られて、悩まないはずがなかった。

「……ダメ…、あたしには、できない…っ…。」

消え入りそうなフレイの声が響いた。



















コーディネイターを庇う奴らはみんな敵だと教えられたけど……その相手が、自分たちの大切な仲間と考えると、絶対できない……。

だって、あたし…っ…、今でもステラと、一緒にいたいって…思ってるもん…。

できることなら……あの子に会って謝りたい…、もう一度、あの子が笑う顔が見たい…っ…!









あたしたちのせいで、あの子が悲しむ顔は、もう、見たくないっ!!!

















徐々に泣き叫ぶような口調に変わっていき、最後の言葉を叫ぶときには、彼女の目じりに涙の粒が……。

ふと、嗚咽を漏らし、うつむいていた彼女の肩に、手が添えられた。

振り返ると、優しい笑顔を向けるキラの表情があった。

「…大丈夫。あの子…ステラちゃんと分かり合える日は来るよ。君が、そう望み続ける限り、きっと……。」

涙を湛えるフレイの泣き顔を、キラは優しく胸に抱き寄せた。

「…信じよう、そのときを……。」

「…っ…っ……、うん…っ…!」

優しくて、温かい………。

キラの腕の中、フレイはその温かさに、懐かしさを感じた。

そう………、今は亡き、父の腕の中……。

今思えば、どれくらいの間、その温かさを忘れていたのだろうか……。











「…っ…ぅ……ぅ…ぁ…っ…、うあああぁぁぁぁぁ…!!!」











心の中でずっと求めてたのかもしれない、心の傷にも沁みるような温かさに、フレイはとうとう耐え切れなくなったのか、大声を上げて泣き出した…………。

キラに縋りつくように抱きつき、今までの苦しさを吐き出すように号泣していた。

それでも、キラは彼女を放さなかった。











今は、好きなように泣かせてあげよう。

それで、彼女の心の重みが、少しでも軽く出来るならば……。















































――――――――ピピピ、ピピピ……。













「あら?」

カオティクス・ルーイン内部にある“R.G.B.”に設置されたFAXが起動し、何かが送られてきた。

差出人は、てれび戦士たちだ。

「まぁ、これは…!」













「どうしたの、セトナさん?」







「なんかあったか?」













そこに合流したのは、ファンガイアの末裔・紅渡だ。

傍らにはいつものようにキバットが飛んでいる。

「渡さん、キバットさん、てれび戦士から“パスワード”の解読結果が届けられました。」

「ホント?」

「よっしゃ!とっとと封印を解くとするか。」























二人と1匹は、早速遺跡奥深くの扉の前へと向かった。

「いよいよ、全てが明らかになります。GUNDAMの最強装備の正体が…!」

どのくらいこの扉が封印されていたのか、それを思うとかなりずっしりと重く感じられる………。

その封印が解かれた先に待ち受けるものとは……何なのか。

「では、パスワードを入力しましょう。」









送られてきた回答結果は、以下の通りだ。








































ヒントとなる言葉を英語表記に換え、その文字数と、[TEREVIFIGHTERS]の中の文字を手がかりにしていけば、残りの言葉が判ってくる仕組みとなっていたようだ。

そして、太い枠の中に入った文字を抜き出して、文字を並べ替えると、[METEOR]の文字が出来上がる。









そう、パスワードは[METEOR]だったのだ。

















「……パスワード入力、[M・E・T・E・O・R]」

















『パスワード承認、GUNDAMアタッチメント・“ミーティア・スライガー”、システムアップ。』

















――――……ミーティア・スライガー?

















その瞬間、閉ざされていた扉が、轟音と共にゆっくりと開かれ、部屋の周辺にライトが点った。

現れたのは、ジェットエンジンを積んだ大型武装バイクの両端に、巨大ビーム砲が取り付けられたかのようなものだった。

しかも、GUNDAMにあわせるように開発されたこともあってか、同型機が5機も用意されていた。















「これが……!」













「GUNDAMの最強装備……!」













「ミーティア・スライガー……!!」
















壮観。

その言葉が似合う光景。

この装備が、SEEDを持つものたちにとっての、新たな剣となれば――――。



















『ほぉ、ニンゲンがここにくるとは……久しぶりだな…。』



















「「「!?」」」



















不意に聞こえた電子的な音声。

周囲を見渡すが、何処にも気配はない。

「どっ、どこにいるんだ?」

『こっちだ、コウモリ。』

「?」

キバットは、聞こえた声の方向へゆっくりと振り向くと、何やら壁際に、仕事場のデスクのような、大きな机が一つ置かれているのに気付いた。

その上には、一般的なパソコンが一台と、幾つかの資料、そして、少々分厚い、黒い携帯電話が一つ、充電器に繋がれた状態で置かれている。

セトナと渡もそれに気付いた。

「……なぁ、明らかにどう見ても…。」

「不自然……、だよね…。」

「………?」

彼らの頭に疑問符が浮かび上がった。

徐に、そのデスクに近づいた、そのとき――――――!



















カチャッ!



















「「「!!!」」」



















カチャカチャカチャ………、チャキッ!



















液晶画面がひとりでに開いたかと思ったら、いきなり手足が組み立てられた。











「うえっ!!!??」

「うわっ!!!??」

「キャッ!!!」












案の定、3人とも一瞬の出来事に驚いた。

『フフ…驚いたか…?世界広しと言えど、このシードピアでこんな芸当が出来るケータイなど、見るはずがないだろうからな。』

「し、しかもしゃべった!?」

確かに、自立駆動の携帯電話とは、前代未聞である。

「…おめぇ、何者だ?」

「…フォンブレイバー01(ゼロワン)。それが俺の名だ。」



---to be continued---


☆あとがき
今回から『ケータイ捜査官7』より、フォンブレイバー01が登場!
様子からして、どうやら何百年も眠りについていたようですが、果たしてどんな役回りになるんでしょうか。
さらに、今回から登場した新装備・ミーティアスライガー
イメージとしては、“ミーティア(ガンダムSEEDシリーズ)”に“ジェットスライガー(仮面ライダー555)”が合体したものと考えれば分かりやすいでしょう。
次回では、ゼロワンによって、ミーティア誕生秘話が語られます☆


<次回予告:第74話>

>ブレント「奴らはもう用済みだ…!」



>???「闇の一族の判決を言い渡す……、だ!!」








>ロンド・ギナ「ブレン…ト……!貴、様…ッ…、裏切りおったのか!!??」











次回、B.C.F.幹部に闇の粛清が下る!!!!????










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