Phase63 プリンセス・スキャンダル


『ニュースをお伝えします。昨日未明、ニュートラルヴィアにおいて、正体不明のモンスターが出現し、アプリリウス銀座・C−30地区を中心に、全体のおよそ40%近くの地域が被害にあうという、シードピア史上、前代未聞の大惨事が発生しました。』

城塞都市・ゾロアシアワールドの、エターナル・フェイス本部“ジェネシス・フォートレス”。

その休憩室のテレビで、ニュースキャスターが無機質な表情で事件のニュースを伝える。

『現場には、ベルナデット・ルルーさんが向かっています。中継でお伝えしていただきましょう。』

『…はい、ベルナデット・ルルーです。私は現在、アプリリウス銀座・C−30地区に来ています。』

ゾロアシアの人気キャスターのベルナデットが、現場であるアプリリウス銀座から、状況をリポートする。

ミネルバチームの面々が次々と集まり、ニュースの映像に見入る。

『私の後ろをご覧頂けるでしょうか?凄まじいことになっています。』

彼女の後ろには、建物すら見る影のない、アプリリウス銀座の一地区の無残な光景が広がっていた。

『あちらが、アプリリウス銀座C−30地区の成れの果てと思うと、とても信じられないことと思われます。』

テレビを見ていたメンバーたちが少しずつざわつき始めた。

『ここで、ライガーシールズと共に現場に居合わせていた、ジャーナリストのジェス・リブルにお話を窺いたいと思います。』

紹介されたとおり、カメラの前にジェスの姿が現れた。

全員が再びテレビに視線を向ける。



『ジェスさん、ここで一体何があったのでしょうか?』

『実は、この地区だけに留まらない事態なのですが、突如としてこのアプリリウス銀座のほぼ全域にわたって、見たこともない連中が現れたのです。』

『それは一体どんな…?』

『後で聞いた話ですが、協力してくれたてれび戦士の情報に寄れば、そいつらは“テレゾンビ”と呼ばれていて、人間の頭にテレビが合体したような、そんな連中だったんです。』

『なぜ、てれび戦士たちはその存在をご存知なんですか?』

『……おそらく彼らも、過去にテレゾンビを見たか、それに関わる歴史か何かを知ったのではないかと思いますが…、今のところ、はっきりとしたことは不明です…。』



ここで、テレビを見ていたシンは、脳裏にある可能性が過った。

(そう言えば、てれび戦士は“テレヴィア”って世界からやってきた連中だって言ってたよな…、そんな奴らがテレゾンビって言うバケモノを知っていると言うことは……、まさか……。)

『それと、ここで皆さんにお伝えしなければならない事態があります。』

「ん?」

再びテレビに視線を向けたシン。



『実は、そのテレゾンビを操っていた黒幕がいたんです。』

『そ、それは一体……!?』



次の瞬間に発せられたジェスの一言で、全員が呆然とする。





『その青年は自らを、闇の魔人“パトリック・ハミルトン”の配下、魔導騎士・葵叉丹と名乗っていました。』





――――闇の魔人パトリック・ハミルトン!?





もちろん、ゾロアシアの者たちは“彼”の存在を知っている。

しかし、現代にとっては御伽噺でしかない。



『あの…、それはまるっきり、冗談にしか聞こえないのですが……。』















『決して冗談ではありません。』



















――――!?



















突如として聞こえた凛とした声。

カメラマンと照明担当が、同じ方向を振り向いて驚愕し、その方向にカメラを向けた。

そこに居たのは、ゾロアシアにとっては予想外極まりない人物。

何より、ゾロアシアに無事に戻ってきたと思われていた人物。

つい最近まで慰安ライブを行っていたはずの人物だった。





『ラ、ラクス……さま……!!!???』





ゾロアシアの人間たちにとっては、絶句であった。

「ちょ、どういうことよ!?何でラクスさまがニュートラルヴィアにいるのよ!?」

ルナマリアだけではない。

おそらく、この放送を見ているゾロアシアの人間たちが困惑していることは確実だ。

『ラ、ラクスさま、なぜこちらに…!?ゾロアシア・ワールドに帰国されていたはずでは……!?』

『いえ、わたくしは、かの“血のバレンタイン”事件以後、この数年間ニュートラルヴィアに隠棲し、ライガーシールズのメンバーとして活動を開始していましたが故、故郷であるゾロアシア・ワールドには、あの事件以後、一度も帰省したことがございません。

『なっ!!なんと!!!!』

どよめきが大きくなった。

歌姫の衝撃の告白に、全員が動揺したのだ。

ニュートラルヴィアに避難して以来、一度も故郷に戻ってないことも然ることながら、彼女がライガーシールズとして活動していようとは思いもしなかった。









『その事については、僕が証人になりましょう。』









「!?」

新たに聞こえた声。

カメラが向けた先には、一人の青年の姿が。

彼はゆっくりとラクスの傍に歩み寄る。

ベルナデットは、青年に声をかけた。

『失礼ですが、あなたは?』

『申し送れました…ライガーシールズ“アークエンジェルチーム”隊長、キラ・ヤマトです。』

特捜機動部隊・ライガーシールズでも、指折りの強さを誇るエリートチーム・“アークエンジェル”の隊長が直々に、出てくるや否や、自分がラクスの言葉の証人になるとは、何とも唐突な話である。

『一応、お伺いしますが、あなたとラクスさまとはどう言った間柄で…。』

その質問に対し、マイクを向けられると、キラとラクスが向き合った。





次の瞬間―――――――――。























『えっ!!??』









『おい!!!』









何を考えたのか、テレビを介しての公衆の面前、しかも生放送中にも関わらず、二人は口付けを交わした。























「え゛!!!??」

あり得ない事態にシンは言葉をなくし――――。

「はい!!??」

ルナマリアは眼を見開いて、思わず真っ赤に染まった頬に両手を当てれば

「うそ!!!!」

妹のメイリンは両手を口元に沿え――――。

「な゛っ!!!???」

イザークを初めとする、テレビを見ていた全員が絶句した。

「なななっ、何をしとるんだあいつらはああああぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「ちょっ、おい、落ち着けイザーク!!!」

「イザーク先輩、気を静めてください!!!」

同僚のディアッカとシホが気を落ち着かせようとしても、当分は収まらないだろう。

いや、イザークが極限まで取り乱すのも無理はない。

シリアスムードぶち壊しの不謹慎な行為に、全員が絶句してしまったのだから……。



そして、ここ司令室にも――――。

「二人の関係は十分に理解したが……状況を考えてほしいな……。」

こめかみに手を当て、苦い表情をしているデュランダルがいた。





































その一方、こちらは某所に存在するダイダルストライカーズ本部の内部にある第1食堂(テレビ5台つき)――――。

『キャアアアァァァッ☆☆☆☆』

………文字通り、“黄色い歓声”が飛び交っていたようだ……。

「なになになに?!ヤマト隊長ってスッゴイ大胆じゃない!?」

「凄くドキドキです……!」

スバルとキャロを中心に、ダイダルストライカーズの女子メンバー(一部)が大騒ぎ。

彼女らもこの一件のニュースを見ていたのだが、まさかこんな展開になるなんざ思いもしなかった。

「…なぁ、何か、胃がもたれるのは、気のせいかな…?」

「大丈夫だ、セイコー。あたしもそう思ってたところだから。」

「正直、見てるこっちも恥ずかしいよね…。」

「そうだな…。」

食後のコーヒーを飲んでいたセイコー、アスミン、タカティンは、そろって大きなため息をついた。

「ンガ…もうおなかいっぱい…。」

「あれ?ヒロ委員長、もう終わり?」

「あれ見たら、急に食べたくなくなった……。」

「ま、気持ちはわからんでもないんやけどな…。」

大食漢のヒロ委員長でさえも、急激に食欲を失わせるほど、今回の二人のキス騒動は、衝撃が大きかったようだ…。







































「あれ?ちょっと待って。」

「「?」」

ふと、ルナマリアの脳裏である疑問が過った。

シンとメイリンが視線を彼女に向ける。

「どうしたの?お姉ちゃん。」

「確か、ラクスさまって、アスラン隊長と婚約者関係にあったんじゃなかったっけ?」

「…あ、そう言われれば……。」

エターナル・フェイスのメンバーたちでしか知らない、二人の内部事情。

もちろん、ゾロアシアの住人たちも、“ラクスに婚約者がいる”という話は一応聞いたことがあるが、あくまで触りの部分でしかない。

エターナル・フェイスからすれば、『これでは不倫も同然ではないか?』と受け取れる状況だ。

それを知ってか知らずか、ベルナデットは質問をぶつけた。

『あの…、ラクスさま……、確か、あなたには婚約者がいるとおっしゃってましたが、もしかして――――。』

『いえ、このお方は違います。』

そりゃそうだ。

そんなわけ――――。

『ですが。』

………ん?





















『もう既に、“その婚約者”との婚約は、解消しております。





















『えええぇぇぇぇ〜〜〜っ!!!!???』











ゾロアシアに、衝撃が走った。

このピンクの歌姫の告白は、ゾロアシアワールド全土に衝撃を与えた。

“ラクスはゾロアシアに戻り、歌声で人々に希望を与え続けていた。”

それがゾロアシアの住人たちの固定概念だった、はずだったのだが。

今のラクスの告白によって、今まで信じてきた固定概念が音を立てて崩れ去った。

“ラクスはニュートラルヴィアにいる。”

“婚約者の関係は解消され、新たな支えとなる人物と共に新たな道を歩んでいる。”

それが彼らの頭から離れなかった……。



















「…あ〜あ、お姫様ったら、大胆な行動に出たもんだな…。」

「決して良い行いとは言えぬが、これで奴らも“ゾロアシアで歌っていた”ラクスに対して、少なからず疑念を抱くことは、間違いないだろう……。」

ゾロアシアで密かに暮らすロベリアとサリュも、ラクスの衝撃の告白を視聴していた。

このタイミングでラクスが出てくること事態、彼女らにとっても予想だにしないことだった。

「…んで、どーする?アレ。いつまでもここに置いとく訳にもいかねぇんじゃねぇか。」

「…だろうな。」

二人が視線を移した先には、大型の冷凍保存装置が。







「アレをエターナルフェイスに引き渡したら、すぐにここから引き上げねばならんからな。」

「それに、余計な騒ぎは避けたいしな。」







今回のラクスの一件に匹敵する、衝撃度最大の事件。

あの男の化けの皮がはがれるのは、もはや時間の問題か……。



















「……チッ、やけにニュートラルヴィアの音沙汰がないと思っていたら…!」

パトリックは、モニターで事件のニュースを見てた。

“本物”のラクスがまだ生きていたと言うことも然ることながら、何よりも彼女の衝撃の告白が余計に苛立ちを助長させる。

「ベルナデット・シモンズ…、しくじりおったか……!!」

腕がたつ暗殺者だと聴いていたのだが、実際には使い物にならなかったようだ。

「叉丹も殺女も失敗したとなっては……!!」

ふと、背後に3人の影が現れた。

「パトリックさま。」

「…お前たちか。」

3人は、手短に要件を報告した。

「ご命令どおり、例の男を主に送りました。」

「奴らにとっては使い勝手のいい人材になりそうです。」

「洗脳技術も既にかけております。簡単には眼を覚ましません。」

「ご苦労…下がれ…。」

「「「はっ。」」」

とりあえず、彼を向こうに送るのはスムーズにいったようだ。

それだけでもよしとするか……。

パトリックは、視線を逸らした先にある彼女を見つめた。

天井から吊るされた鎖で両手を縛られ、意識を失っているピンクの舞姫。









「この人形も、もうすぐ用済み、か……。」















仮面の奥の紅い瞳が、怪しく輝いていた………。



---to be continued---


☆あとがき
キララクラブラブモード全開となった、今回は大幅な予定変更&路線変更なエピソードとなりました。
このタイミングで本物のラクスが表舞台に出てくると言う事態、書いている自分でも時期尚早だろうと思いましたけど……今更言っても遅いですよね……(苦笑)
お2人とも、ホントにごちそうさまです☆
しかし、この影響でゾロアシアは大混乱でしょうね。

さて、次回は“前半・てれび戦士”、“中盤・高町兄妹&ネガ鬼”、“後半・B.C.F.幹部”と言う構成で展開する予定です。
注目すべきは前半と後半の場面、衝撃の展開が待ち受けます!











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