Phase52 光と闇のプレリュード
〜3rd Blank 悲劇〜


「いい?マユ、アリシア、よく聞きなさい。」

シードピア辺境の孤島・テンポラル島の奥深くにある、プレシア・テスタロッサの間。

そこで、互いの魂を共有するマユとアリシアは、彼女と、その使い魔・リニスの言葉に耳を傾けた。

「あなたたちに渡した“ハルバード”は、あなたたちの思いを力に変える杖。このシードピアに二つとない、魔法の杖。」

二人は、マユの手にある斧型の魔導杖(まどうじょう)・ハルバードに眼を向けた。

長く伸びたグレーの柄、斧の刃を彷彿とさせる先端部分に納められた、六角形のオレンジ色の宝石。

「その杖は、自分の意志で様々な形に変えることが出来るわ。基本は、その“アックスフォーム”。名前の通り、斧の機能としても使うことが出来るわ。」

彼女の言葉を引き継ぐように、リニスが説明に加わる。

「他にも、フォームが2種類あります。前方と後方に刃が備わり、切り離して2本でも運用できる“ダブルエッジフォーム”と、大型の長剣となるフルドライブ・“バスターブレードフォーム”。」

「これらをうまく使い分ければ、あなたの戦いも勝てるはずよ。」















住民たちが避難し、ほとんど誰もいなくなった“アプリリウス銀座”のビルの屋上に、マユは佇んでいた。

自分は本当は戦いには出たくはなかった。

このまま、戦いと言うものを知らずに、残された時間をゆっくりと過ごしたかった。

でも、それじゃ逃げているのと同じ。

最悪の場合、愛する“兄”にも会うことが出来ない。

だから、戦うことを決めた。

それに、今の自分は独りじゃない。

自分を受け入れてくれた優しいてれび戦士たち、姉妹のような関係を作ったアリシアもいる。

だから、生きるために戦う。

てれび戦士のために、自分のために、そして、大好きな“お兄ちゃん”に会うために!!!











「お兄ちゃんに出会うまで、マユ、絶対負けない!!!アリシアちゃん、いくよ!



「オッケー!!!」





「ハルバードッ!!」


[OK.my dear ladys.]





二人の周りをオレンジ色の光が包み込み、全てが整った。







“我が乞うは、閃光の刃 闇を切り裂くもの 光をもたらすもの”

“言の葉に答え、契約の元、その力を解き放て”

“橙雷(とうらい)の戦斧・ハルバード、セット・アップ!”






―――――Stand by ready,Rouse up.







瞬間、アリシアは光の粒子となってマユと融合した。

その影響で、ブロンドカラーのマユの髪が金色に染まり、そこに白いリボンが巻かれ、ツインポニーテールの形となった。

衣服は、“ハルバード”の中に圧縮封印されたバリアジャケットに換装を開始していた。

黄色に黒のアクセントをつけ、両腕、両足が露出しているスーツの上には、表がアズールカラー、裏が朱色のマントを羽織り、そして両手・両足にも、重装備の鉄パーツが取り付けられた。

そして、融合に伴ってマユの瞳もサーモンピンクへと変わった。

{バリアジャケット装着完了!行くよ、マユ!}

「うんっ!」

[Flier Feather]

二人の意志に呼応して、ハルバードがマユの背中に、一対の黄色い羽を生み出した。

飛行補助魔法“フライヤー・フェザー”である。

その羽を羽ばたかせ、マユは大空に飛び立った。









「それにしても、なんや締まらん再会になってもうたな。」

「うん…でも、また会えて嬉しいよ、はやてちゃん☆」

ネビュラオーシャンの海上を飛行する、二人の少女―――高町なのは、八神はやて―――は、次元時空管理組織“ディスタンス・フォース”に所属する魔導師たち。

とある事情から、しばらくの間離れ離れで暮らしていたのだが、今回の事件を期に久々の共同戦線を張ることになった。

そして、なのはの肩に乗る一匹のフェレット、ユーノ・スクライアもまた、はやてたちとは久々の再会であった。

「それに、リインフォースさんも…。」

{うむ、その節では、主や守護騎士共々、世話になった。}

「いえ、こちらのほうこそ……。」



《なのは、はやて、ユーノ、リインフォース、聞こえる?》



再会を喜び合っている暇はなさそうだ。

フェイトの念話通信がそれを裏付ける。

『…!フェイトちゃん?』

『フェイトちゃん、久しぶりやなぁ。』

《うん。ぁ、それよりもみんな、今はどこにいるの》

『もうすぐニュートラルヴィアに到着する頃だけど……。』

《だったら丁度良かった。》

心なしか、今の彼女は少々落ち着かない雰囲気が窺えた。

《こっちのモニター解析で解ったことなんだけど、ニュートラルヴィアにあたしと瓜二つの魔導師が現れたのよ、たった今!》







『『『{えっ!!??}』』』







“フェイトと瓜二つ?”

思わず全員が空中で急ブレーキをかけた。

『ふぇ、フェイト、ちゃん……!?』

『ちょぉ、待ってぇな。』

『その話……。』

{本当…なのか!?}

《………うん。》

肯定したフェイトの声に、4人は呆然とした。

どうやら冗談抜きでホントの話のようだ。

《それで、その少女が何者なのか、そっちで調べてもらいたいの。頼めるかな?》

意表をつかれ、突発的に頼まれたこの状況に、4人はそろって困惑したのは、言うまでもない。

『え〜っと…何か、特徴とかって…ある?』

《大きな特徴は、魔力の光。オレンジ色の魔力光が見えたら、その子がターゲットよ。》

『オーケーや。調べとこ。』

『じゃあ、僕たちはこのままニュートラルヴィアへ――――――。』















{―――!!!???高町!!!!危ないッ!!!!!!!}















――――――グサッ!!!!!!!!
















「――――――え?」













[――――Master!!!!!!]















一本の鉄の羽で貫かれた、なのはの体。

その背後には、非情なる神の番人。

瞬間、なのはの足元にあった桜色の羽が砕け散り――――――。









「なのはっ!!!!!!」











落下しそうになったところを、ユーノが魔力を開放し“人間体”に変身し、その場で彼女の体を抱きかかえた。

「なのは!しっかりしてっ!」

「…ご、め…ん……。…油、断……し…ちゃ…っ…た……。」

胴体を刺し貫かれ、呼吸すら儘ならない。

「ユーノくんっ!!!!」

「っ!!!!!!」

はやてに名を呼ばれて、ハッとしたユーノは周りを見渡した。

いつの間にか自分たちはヤフキエルの大群に囲まれていたのだ。

「しまった…!!!」

{どうすればいい……}

「はよせんと、なのはちゃんが………!!」













『御神流斬式、奥義之陸・薙旋(なぎつむじ)!!!!』















――――――ズガガガッ!













1機のモビルスーツがすれ違い様、子太刀と思しき武器でヤフキエルに突撃した。

すると、大群のうちの4機が撃墜された。

『お前ら!大丈夫か?!』

「は、はい……。」

すると背後から、もう一機のMSが現れ、ヤフキエルを3機潰した。

『みんな!ひとまずあたしの機体の手の上に乗って。』

パイロットと思しき女性の声が聞こえ、彼らはひとまずそこに乗ることにした。

『恭ちゃん、あとは頼んだわよ!』

『あぁ。』

名を呼ばれたもう一機のMSのパイロットは、子太刀を構えなおし、そのまま静止した。

精神を集中し、自らの霊力も極限まで引き出す……。













『なのはを……“俺たちの妹”を傷つけた代償は……!』















――――高くつくぞっ!!!!!!!!













――――――ジャキイィィンッ!!!!!!














その刹那、彼の乗ったMSは文字通り、“瞬く間に”ヤフキエルたちの背後へと回った。

だが、攻撃している様子はなく、彼のMSも背を向けたままだ。

しかし、すでに決着はついていた。

彼のMSは子太刀を鞘に収め――――――。















『御神流斬式、奥義之極み――――。』















『閃』(ひらめき)――――――!!!















――――――カチンッ













――――――――ドガアアァァンッ!!!!!!













残り6機のヤフキエルは、その瞬間、爆散した。



















『ガーベラストレート、袈裟一文字切り!』



ロウの操るシーガルの特有装備・ガーベラストレートがヤフキエルを、一刀両断する。

これを初め、ダイダルストライカーズの装備の中にある武器の一部は、シードピアの中でも屈指の強度を誇る、希少価値が極めて高い超金属・レアメタルと呼ばれる物質を使用している。

それを剣のような実体武器に加工すれば、その鋭さは並みのモビルスーツの実体剣の群を抜き、ビームサーベル並みの切断力を得ることが可能である。

『ふぅ、粗方、片付いたかな。』

市街地の周辺には、先ほどまで飛び回っていたヤフキエルの残骸が大量に散らばっていた。

『すまなかったな、ロウ。』

「助かりました。」

『なぁに、いいってことさ☆』

すると、背後に再び現れたヤフキエルが爆散した。

現れた機体は、実体サーベルを携えた、シーガル・タイプM(機動特化型)。

『おぅ!アスミンの姐ちゃん!』

『どうやら、順調らしいな。』

『あぁ、もうひと踏ん張りってところ――――。』







『キラ!!!大変よ!!!』







オペレーター・ミリアリアからの緊急通信が入ってきた。

「どうしたの!?」

『ラクスさんたちの交戦ポイントのところに、ヤフキエル反応を新規に確認!しかも、一部に“新型”が含まれているわ!』

「なっ!!!!なんだって!!!!!??」

前触れもなくいきなり新規のヤフキエル反応?!

しかも、ラクスが危ないっ!

『キラ・ヤマト!この場は俺たちが引き受ける!お前はラクス・クラインのところへ合流するんだ!』

その通信のやり取りを聞いていたのか、劾がキラに進言した。

『歌姫さんをたのんだぜ、騎士(ナイト)さん☆』

『彼女のことを誰よりも想ってんなら、早く行ってやんな!』

ロウとアスミンも、冷やかし混じりながらも、キラを催促させる。

「…………はいっ!」

キラのMS・セイリョウはスラスターを最大に吹かせて、現場へと向かった。

「マリューさん!“シュナイダーユニット”を!」

『了解!“シュナイダーユニット”換装、承認します!』















『もぉ〜、しつっこいな〜!』

『ぜんぜん数が減らないよ〜。』

イライラが募っているこんどんの声と、間の抜けたようなみのぽーの声が通信越しに響く。

これでも彼女たちなりには必死にやっているつもりなのだが……。

『はああぁぁぁぁぁぁっ!!!』

オルカファイターズ・チームスキッドのリーダーである角田の操る指揮官機・ぺリッパーの固有装備・コレダーガントレットに稲妻が走り、そのままヤフキエルに突撃する。

ボディを貫かれたヤフキエルは火花を散らし、爆散する。

『おい!山川副隊長!ジャマー機能のほうはどうなってる!?』

『それが、どういうわけかジャマー機能が全然効いていないみたいなの!』

山川が操るシーガルは、固有装備として相手の機器系統を錯乱させる特殊ウィルスの散布能力が備わっているのだが、どんな理屈でこうなっているのか、そのウィルスが聞いている傾向が全然見当たらないのだ。

『くそっ…!ジャマー機能が効かないとは…!』

どうやらさすがのダイダルストライカーズも、防戦一方の状況になりそうだ――――。







「{雷電防壁!}」









[Thunder fall!!]














謎の声と同時に、ピンポイントで全てのヤフキエルに降り注いだ轟雷。

「…!?今の声……、まさかっ!!??」

予測を確信へと変化させた卓也は、MS・マサムネのメインカメラを空へと向けた。

そこには、オレンジ色の2枚の羽を背に、宙に浮いている一人の少女がいた。

『タクヤお兄ちゃん、聞こえる?』

「…!?マユ!?その姿は……!?」

『“ハルバード”のバリアジャケットだよ。アリシアと融合したら、こんな姿になったの。』

黄色を基調としたコスチュームに、空色系統のマント。

“魔法使い”と言う言葉にぴったりの格好だった。

しかも、アリシアを髣髴とさせる金色のツインポニーテールの髪と、サーモンピンクの瞳。

異世界の魔法技術ならではの風貌だった。

「……よし、マユ、君はこのまま僕たちの手助けに回って!」

『うんっ!ハルバード!』

[Double-eges form]

デバイスの電子音声と共に、ハルバードの柄の部分が1.5倍ほどに伸び、伸びきった反対側の先端にも、刃が構成され、その刃が、柄と垂直になるかように、90度回転した。

さらにその刃の部分から、オレンジ色の魔力刃が出現した。

{ダブルエッジフォーム、展開完了!}

アリシアのその言葉を合図に、マユは単身、ヤフキエルの群れに突撃していった。





「えええぇぇぇぇい!」





魔力刃の一閃が、ヤフキエルを一機、また一機と確実に撃墜していく。

『ふむ、あの少女、いつぞやのあの魔法使いと引けを取らないかもしれないな。』

『世の中、不思議なことが幾つもありますね〜。』

『でも、あたしたちだって負けないわよ!』

『よーし、がんばるぞー!』

チームスキッドも、この光景で気合が入り、再び戦闘を開始した。

『ティアーズ全軍、そなたたちもマユとアリシアに続くのじゃ!』

『了解!!』 『アイアイサー!!』

てれび戦士たちも、彼女に負けないよう気合を入れ直し、ヤフキエル撃退に挑む。

オルカファイターズのMSが気合と同時にヤフキエルを複数撃墜させれば、てれび戦士も負けじと、マサムネのコンビネーションプレイで相手を仕留める。

『全員怯むな!まだまだ出てくるぞ!』

『ニュートラルヴィアにこれ以上は行かせねぇぞ!』

無限に出てくるヤフキエルの数の多さに、戦士たちは体力を大きく消耗していくも、気力は充実していた。

















だが、次の瞬間―――――――――。

















――――――カアアアアアァァァァァァァァァッ!!!!!

















ニュートラルヴィアで――――――。















『あ、アプリリウス銀座の方角から強大な光を確認!』















ゾロアシアで――――――。















『なっ!?なんだ、この光!?』



『シン!?』















眩いほどの強大な光が、確認された。















『たたたたたっ、大変大変〜!!!!』



「!?エイミィ、何かあったの!?」

シードピアの衛星軌道上にて待機中の次元航行船カイロシアで、状況を見合わせているアースラチーム。

『ニュートラルヴィアとゾロアシアワールド、双方の国から強大なエネルギー反応が!!!!』

「なっ!?なんだって!!!???」

次の瞬間に報告されたデータ解析結果に、アースラチームはまたしても度肝を抜かれた。

『うっ、うそ??!!こんなの、ありえない!!!』

「何か判ったの!?」















『このエネルギー反応………………、もしかして……シード・クリスタル!!!!!』















『えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』







---to be continued---


☆あとがき
戦闘パートもいよいよ終盤に差し掛かってまいりました。
ちなみに、アリシア融合状態のマユのバリアジャケットは、完全にフェイト(第1期シリーズ)の色違いバージョンです。(笑)
それにしても、なのはがいきなり瀕死の重症になってしまいましたよ!!??
これから先、どうしよ………。(汗)

さて、次回はSEEDシリーズの主役キャラ二人が、久しぶりに大きく目立ちます!(特にシンが。〔笑〕)
しかも、今回の終盤で触れたとおり、ついにシードクリスタルが登場します!










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