Phase49 逆襲!神の番人


「…と言うわけで、この無人駆動兵器ヤフキエルは、ダグラス・スチュワート・カンパニーのブレント・ファーロング氏の全面協力の下、我がブルーコスモス・ファミリーの新戦力として導入することが決定しました。」

コロニー“レクイエム”内部の某所に存在する、B.C.F.賢人機関、通称“ロゴス”。

それは、B.C.F.に忠誠を誓ったナチュラルの重役たちによる組織、言わばB.C.F.の意志ともとれる重大な基盤的存在を担っているのである。

その中心にある会議室では、今回のブレント・ファーロング登場に伴うことで導入が決まった、あの駆動兵器に関する報告が行われていた。

「まぁ、まだ試験段階的な運用ではありますが、早ければ半年以内、遅くても1年以内には正式採用と言うことになるでしょう。」

資料を手に高らかな説明を行っているのは、ナルシストな性格の青年、ユウナ・ロマ・セイランである。

かつてはニュートラルヴィアにおける有数の氏族の末裔だったのだが、政治家としての支持は決して高くはなく、自らの利益のために国の全てを敵に売り渡すほどの大失態を演じ、ニュートラルヴィア国家反逆罪として、父親のウナト・エマ共々、国外追放処分を通告されてしまったのである。

その後、彼らはB.C.F.に忠誠を誓い、ロゴスの幹部として活動することにしたのである。

「既に数十機のヤフキエルがロールアウトされ、それらがアルスターチームに提供されており、幾度かのシミュレーションを行った後、ニュートラルヴィア、ゾロアシア・ワールド、双方に対して大規模な攻撃を仕掛ける予定でございます。」

そうなれば、我らの悲願であったコーディネイターの殲滅も夢ではない。

ユウナの言葉には、それほどの自信もあった。

ヤフキエルの製造過程はD.S.C.内におけるトップシークレットとされており、手渡された資料である“設計図”も本物であるかどうかすらも判らない状況ではあるが、“無人駆動”であり“MSよりもコストが大幅に低い”と言う魅力は、見逃せないものであった。

「そのヤフキエルはどの程度借りることが出来る?」

質疑したのは、3大幹部や後見人のロンド・ギナに並ぶ実力者である、B.C.F.最高司令官・ホアキンである。

「合計で220機前後を予定しておりますが、“足りない場合はいつでも申し出てください”と、ブレント氏がおっしゃっておりました。」

「ほぉ……、いつでも大量生産が出来ると言うことか。」

「おそらくは、そういうことであるかと思います。」

ロゴスのメンバーたちも、迫り来たであろうコーディネイター完全撲滅の実現に、心躍らせた。

「我らの悲願が実現するのは、もはや時間の問題であろう。戦力の大半が消失してしまった今、我らの望みはそのヤフキエルのみだ。」

「今度こそ、奴らに完全なる死を味合わせてくれる……!」









全ては、蒼き清浄なる世界のために…………!!



























事の起こりは、半年前――――――。





プラズマ界に近いようで遠い、現実世界“リアルワールド”の日本・某所。

その一角で、奇妙な事件が起きた。





――――カタッ

「…?」

物音を察知した青年は、目を覚ました。

時間はまだ午前1時前。

ほとんどの住人たちは眠りについているはずだ。

一体誰が起きたんだ……?

父さん?

母さん?

いや、違う。

この気配は……まさか…!?

物音を立てないように静かに立ち上がって普段着に着替え、その気配を追い始めようとして―――。





「…恭ちゃん…?」





「…!?…美由希か?」





一番弟子の妹も起きてしまったようだ。

「ねぇ、この気配って……。」

「あぁ。間違いない、あいつだ。」

予想が確信へと変わりつつあると感じた二人は、念のため、自分たちの“愛刀”を手に、気配を追った。





着いた場所は、広大な海が見渡せる臨海公園だった。

時計塔の傍に、一人の少女が居た。

その肩に、一匹の“フェレット”を乗せて。

「あれって、なのはとユーノ、だよね。」

「あぁ。そうだな。こんな夜更けに何をやってるんだ…?」

傍らの草むらに隠れていた二人は、目の前の“妹”の姿を見ていた。

すると、彼女が何かを呟くと、彼女の足元に円形のピンク色の陣形が現れた。

しかも、その大きさは二人の隠れている草むらにまで及んでいた。

「あ、あれ?な、何これ!?」

「……?!」

すると、陣形の中心から強烈な光が発せられた。

「きょ、恭ちゃん、これってちょっと……!!」

「ま、まずいっ!」

気付いたときには、時、既に遅し。

その光に巻き込まれた二人は――――――。







「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「きゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」









「ハッ!!!!!」



勢いよく起き上がった彼女は、体中汗ビッショリだった。

肩を上下に動かして深呼吸し、自分を落ち着かせた。

「…夢……。」

またあの夢だ……。

半年前、兄と共に突然地球からこのプラズマ界に迷い込んだ時の記憶。

「美由希、大丈夫か?」

彼女の肩に手を据えて、ハンドタオルを差し出したのは、優しい兄だった。

「恭ちゃん……ありがと…。」

タオルを受け取り、汗をふき取る。

「…また、“あの夢”を見てたのか…?」

「…うん。……あれから、半年が経つんだよね…。」

「…そうか…もう、半年か……。」

二人の兄妹――高町恭也、高町美由希――は、半年前、地球は日本・海鳴市から、突然プラズマ界・シードピアに迷い込んだ。

見ず知らずの大地を、行く当てもなく彷徨っていたところを、特殊部隊ダイダルストライカーズの総司令である、ロンド・ミナ・サハクに助けられた。

その後、二人はD.S.の創設者のところに連れてこられた。

そこで二人の実力を高く見た創設者は『二人がD.S.のオルカファイターズに協力すること』を交換条件に、元の世界に帰す手助けを申し出た。

帰る手段が全く分からない二人は、これ以上彷徨うわけにも行かないだろうと判断し、その条件を受け入れることにした。

それ以来二人は、どの分隊にも属さない、オルカファイターズの特殊遊撃戦力として活動している。

「……なのは、どこにいるのかな…。それに、父さんと母さんも、あたしたちのことを心配しているはずだし……。」

少しだけ体を震わせていた妹を見て、恭也はその肩を抱き寄せた。

「…だが、それをいつまでも考えていても仕方がない。…今は、この戦いに生き残ることだけを考えよう。」

今にも泣き出しそうな妹を、恭也は傍で支えてあげるくらいしか出来なかった。

だが、逆を言えば、今、彼女を支えてあげられるのは自分しかいないということだ。

「大丈夫。なのははきっと無事だ。あいつは、俺たちよりもしっかりしているところがある。信じよう。」

「……っ…うん…。」

美由希は兄に寄り添って、静かに泣いた。

妹に早く会いたいと、切に願いながら…………。











「……ヤフキエル…か…。」

ダイダルストライカーズの独立部隊・オルカファイターズの活動拠点、潜水空母・キングロブスター内部に設けられた、二つの主力分隊の部屋では、隊員たちが訓練に励んでいた。

その内の一つである、第1遊撃部隊・チームスキッドの部屋の隊長席では、チームリーダー・角田信朗が一枚の写真をまじまじと見つめていた。

それは、チームシーアネモネの加山雄一が入手してきた、レクイエムで撮影された大量の兵器の写真だった。

「こんなに大量の兵器が一気にシードピアに来るなんてこと、ありえるのかね?」

「…いや、B.C.F.はいつもここぞと言うときに大胆な攻撃を仕掛けてくる。油断はできねぇよ。」

海賊服姿の女性隊員・アスミンがリーダーに対して指摘する。

「あんたも同意見だろ、山川副隊長?」

「そうねぇ、それにこのヤフキエルの詳しいデータも欲しいところよねぇ……。」

サブリーダーの山川恵里佳も同意する。

「それにしても、“ヤフキエル”って、神の番人って意味でしょ?自己中心的なB.C.F.にとっては、お似合いの言葉だよねぇ。」

「ま、自分たちこそがシードピアの神も同然だとか言っている奴らのことだ。名称的にも兵器的にもかなりの自身を持ってんじゃないか?」

「おい、タカティン、ウェンツ、その台詞をB.C.F.の連中が聞いたら下手すりゃ、確実に殺されるぞ。」

チームの中で緊張感が抜けている二人を、アスミンが指摘する。

獲物を睨みつけるかのような威圧感漂うその視線に、二人はビビった。

特にタカティンに至っては、「また余計な本音を言っちゃった…。」と思っていた。



一方、もう一つの主力部隊である、第2遊撃部隊・チームオクトパスも、出撃体制を整えつつあった。

リーダーを務める、カイト・マディガンがメンバーに視線を向けた。

「いいか?B.C.F.の連中は次の攻撃作戦で、確実に“ヤフキエル”を使ってくるだろう。未だに不確定情報も多い、謎の兵器だ。十分用心しろよ。」

サブリーダーのジャン・キャリーも、彼の言葉を引き継ぐ形で言葉を進める。

「ヤフキエルの出撃を確認したら、チームスキッドはニュートラルヴィアへ、我々はゾロアシア・ワールドへと出撃することになる。現場に到着次第、各個撃破だ。」

『了解!』















「さあ、今度こそコーディネイターに引導を渡しましょう。」





「命令はシンプルに、“ニュートラルヴィア及びゾロアシアの完全制圧”よ!」





「今こそ、我らの野望の達成のときだ!」





『全ては、蒼き清浄なる世界のために!』





――――ヤフキエル分隊、出撃せよ!!!











ブルーコスモス・ファミリーの新たなる化身、ヤフキエルの逆襲が始まった……!

















――――ヴィーッ!ヴィーッ!ヴィーッ!





艦内に突如として響いたアラート。

『第1級警戒態勢発令!クルーは至急配置につけ!』

目標次元・シードピアに向けて航行中のディスタンス・フォース“アースラチーム”の旗艦・カイロシアでは、そのシードピアに関する新たな動きを感知した。

「何があったの?」

艦長リンディ・ハラオウンを先頭に、フェイト、クロノ、アルフの3人もブリッジに合流した。

ブリッジクルーの裕太、エリーが報告する。

「目標次元・シードピアの大型空中コロニー・レクイエムから、中型機動兵器が多数出撃した模様です!その数200機以上!」

「しかし、それらから強大な魔法エネルギーと、生命体のエネルギーが同時に感知されています!」

エリーの意味深な報告を受け、リンディが首を傾げた。

「どういうこと?」

その問に答えたのは、戦況アナライズ担当の滉一だ。

「艦長!これを見てください!」

彼はすぐさま、コンソールボードを操作し、謎の機動兵器の調査結果を表示した。

その詳細を見たリンディの表情が一際険しいものになった。

クロノとフェイト、アルフも驚愕に眼を見開く。

「こっ、これは……!!!」

「まさか?!!!」

「降魔!!!!」

降魔とは、世界に蔓延る怨霊や悪霊を糧に成長する、もともとはシードピアには存在しない異形のモンスター。

しかし、これは何と言うことだろうか。

機動兵器をスキャンした結果では、兵器内部にその降魔の存在が確認されている。

しかも、その一体のみならず、全ての機動兵器に降魔の反応と全く同じものが確認されていたのだ。

「どういうこと!?なぜあの兵器の中に降魔が……!!!」

そこまで口にして、リンディは冷静にシードピアの現状を思い出していた。

確かあそこには“あの次元犯罪者”がいたはず。

だとしたら、彼が関わっているのでは………!!??

その予測を知ってか知らずか、クロノとフェイトの二人が進言してきた。

「艦長!この兵器の中身の降魔、おそらくあの男が絡んでいるかと思われます。」

「下手をすれば、広域次元干渉もありえます。リンディ艦長、出撃命令を!」

二人の進言に対し、リンディはしばしの沈黙の後―――――。







「……悪いけれど、今回は認められないわ。」







――――!!??



予想に反したリンディの判断に、二人は驚いた。

「ただでさえ、数日前のなのはさんの突然の介入で向こうは混乱しているでしょ?その影響がまだ残っているかもしれないのに、間髪いれずにあなたたちが出てきたら、ますます余計な混乱を招くんじゃないのかしら…?」

一理あった。

どこか抜けているような雰囲気のある彼女も、イザと言うときは冷静な判断を下す。

「ここは、向こうにいるなのはさんとユーノくん、はやてさんとヴォルケンリッターのみんなに任せましょう。」

「でも艦長。」

ここで会話に加わったのは、操舵担当の羅夢だ。

「一応“万が一”のために、急いで向こうに合流したほうがいいですよねぇ……。」

「そうねぇ、一刻も早く合流しましょ。羅夢、操縦はお願いね。」

その言葉を受け取った羅夢は、満面の笑顔で「待ってました!」と言いつつ、操縦桿のとなりのスイッチを押した。

するとブリッジ内部に、ノリのいいハードロックの音楽がかかりだした。

「これよ、これこれ!!!こうでなくっちゃね〜☆さて、久々にぶっ飛ばすわよぉ〜!!!

指を鳴らしながら、目つきを大きく変貌させた羅夢。

フェイトとクロノのみならず、クルー全員がすぐさま今後のことを察知した。

「ま、まずい……!!!」

「…?フェイト、どうした?」

彼女の使い魔のアルフは、普段は滅多にフェイトと行動する機会がないせいか、どうやら今後の状況を理解していないようだ。

「ア、アルフ、実は羅夢、アースラチーム最強のスピードクイーンなんだ……。」

「いつもは普通に操縦してくれるんだが、この状況で操縦桿を握ったら最後、限界速度までぶっ飛ばすらしいぞ…!

二人の言葉を聞き、状況を悟ったアルフも顔を青ざめた。













「う、うそだろ〜っ!!!???」



「みっ、みんなー!!つかまれ〜っ!!!!」







滉一の叫び声と同時に、全員がその場の手近なところにしがみついた。

だが、リンディに至ってはなぜか満面の笑みを浮かべていた。



「それでは皆さん、次元航行船カイロシア、全速前進!!!!!













ズゴゴゴゴゴ……、ドォ――――――ン!!!!!!!









『うわああぁぁぁぁ〜〜〜〜………!!!!!!』









F1レーサー顔負けの究極速度で、カイロシアはシードピアに向けて急発進した………。









---to be continued---


☆あとがき
大変長らくお待たせ!の第49話でございます!
いよいよヤフキエルの出撃でございます!果たして次回でどんな暴れっぷりを見せてくれるのでしょうか!?

さて、今回は何の前触れもなく新規キャラクターが多数登場でございます!
その中の一部のキャラ設定を、今回の更新で幾つか追加しております。詳細は、そちらで。
しかも、その中には、アキッキーさんのアイデアによって参戦した、あの二人も含まれております☆

さて、次回の戦闘パートですが、もしかしたら1ヶ月以上お待ちいただくかもしれません。
リアルワールドでの大学の講義が少しずつ忙しくなってきた影響か、執筆速度が急低迷し始めてきたのでございます。
何とか並行できるようこちらも努力したいと思いますので、どうか気長にお待ち頂ければと思います。すみません。










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