Phase48 深海の戦士


プラズマ界シードピアの海は、夜になると様々な星たちが、鏡のように映る。

まるで、今にも星が海に落ちてくるような幻想に捉われるかのように。

そのことから、シードピアの海は、通称“ネビュラオーシャン”と呼ばれている。





その海底の奥深くに、奇妙な海洋生物の姿が……。

外見で言えば、ロブスターの形状をしている………のだが、明らかに外観的に違うところがある。

大きさはライガーシールズやB.C.F.、エターナル・フェイスらが所有する戦艦よりも一回りも二回りも大きい。

それに、近づくたびに徐々に見えてくるのは、機械的な外観。

そう、それはロブスターに似た巨大な潜水艦だったのだ。

しかし、てれび戦士たちはもちろんのこと、シードピアの住人たちも、この潜水艦の存在を、知る由もなかった…………。





ロブスターの目の部分に相当するブリッジ内部では――――。

「それにしても、ここ最近は僕たちも暇だな…。」

『ん〜…、少なくとも、“てれび戦士”と呼ばれる子供たちが現れてから、“スキッド”と“オクトパス”のメンバーたちは、か・な・り、暇なんじゃない?』

キャプテンシートに座る40代後半くらいの男性と、傍で佇む20代くらいの男性の二人が他愛無い雑談をしていた。

そこに、隣にいた女性士官が会話に加わった。

「それに、“シーアネモネ”が入手してきたって言う“魔法使い”のことも気がかりだわ。」

「確かにな……。」

そう言った彼の手には、仲間たちが入手してきた情報の一端があった。



―――謎の魔法使い、シードピアに突然の武力介入!?



FAXを使って送られてきた新聞の一面の切り抜きには、そう言った大々的な見出しが載ってあった。

添えられた写真には、一人の少女が見た目から見ても派手な砲撃を放つ瞬間が捉えられていた。

「最初にこの情報が届いたとき、僕は何かの冗談だろと思ったからね、みんなもそうだろ?」

真っ先に返事をしたのは、紺色のショートヘアの女性オペレーターだった。

「はい、そもそもこの世界で“魔法”自体、ありえないことですからね。」

「一瞬、『新手のエクステンデッドなの?』って思ったですぅ。」

オレンジのロングヘアーを持つオペレーターも、同意する。

「で・も、簡単に空に浮いているって言う時点で、エクステンデッドだって言う考えはないわよ。」

「いくらシードピアの科学力でも、生身の状態で空を飛ぶなんてことはありえませんからね……。」

「…確かに、プラムと杏里の言うとおりだ。」

キャプテンシートに座る男性は、送られてきた写真に再び目線を向けた。

「……それに、いかんせん情報が少なすぎる。うかつに主力を動かしても無駄かも知れないな………。」

状況証拠であるかないかに関わらず、この件に関する詳しい情報は、今のところ入ってきていない……。

何か少しでも、進展があればいいのだが………。







――――ピピピ、ピピピ、ピピピ………。







通信の着信音が響いた。

『……ん?セイコー、マティアスから通信だ。』

「お?何かあったかな?メル、シー、回線を繋いでくれ。」

「「了解。」」

セイコーと呼ばれた男の指示で、オペレーターのメルとシーが、コンソールを動かし、回線モニターをオープンした。

『ごきげんよう、セイコー。相変わらず暇なようね。』

「開口一番にそれかい、マティアス。」

モニターに現れたのは、紳士を思わせる風貌の男。

しかし、声色は微妙に高く、女性の様な印象だ。

彼の名はマティアス。

かつては妹と共にB.C.F.に所属していた幹部的存在だったが、彼らの危険性を察知し、妹と敵対するのを覚悟の上で組織を脱走した。

現在はセイコーの指揮の下、ある特殊部隊の司令官として行動している。

『早速だけど、たった今、ブルーコスモス・ファミリーに関する新しい情報が届いたわ。』

「あいつら、まだ懲りてなかったのか。」

『執念、ってやつかしらね。それに、今回の情報はちょっと深刻なものよ。』

深刻な情報―――――。

一体何があったというのか。











「……つまり、お前たちエターナル・フェイスは既に俺たちの存在を知っていて―――。」

「シードピアにとって未知の存在たる俺たちがどんな組織で、どんな連中と関わっているかを知るために―――。」

「お前らファントムレイダーズが偵察活動をしていたってことだな?!」

竜一、レッド、ゴルゴの3人がそれぞれ、スウェンたちが捕まえたファントムレイダーズのメンバー、遼希と梨生奈に詰め寄った。

「…はい。」

「その通りです……。」

もはや全部隠す必要もなくなったのだろうか、二人はこれまでに傍受した情報を余すことなく白状した。

肯定を受け取ったてれび戦士たちは、頭を抱えそうになった。

「……まさか既に彼らに知られていようとはな…。」

「…完全に考えが甘すぎた…、クソッ!」

そして、アイリスの瞬間移動能力でブリッジに合流した、チアキ、さくら、ジェミニ、フワニータも、驚愕に目を見開かざるを得なかった…。

これから一体どうするべきか………。

「とりあえず、この二人はどうする…?これ以上こっちで預かるって言うのも、あかんやろうし……。」

「…かと言って、そのまま釈放するのも気が気じゃないぞ…。」

今回の処遇に関する処分は非常に難しい……。

「それにしても、こんな非常事態、有沙女王さまになんて言えばいいんだ!?これを聞いたら確実に怒るじゃないか!」

予想だにしない事態に取り乱し始めたのか、次第にゴルゴが上司に対する不満を口にするや否や、てれび戦士たちは、とある方向に目線を向けて“それ”を確認すると、全員その場から引き始めた。

「大体、あのお方は気に食わないことになるとすぐに怒るし、カルシウム不足が直ってないのかなぁ?ホ〜ントに怒りっぽいんだよねぇ!」

それに気付かずにペラペラとしゃべり続けるゴルゴ。

「だれが怒りっぽいじゃと?だれがカルシウム不足じゃと!!?」

「だから有沙女王さまですって、その上占いはほとんど当たらないし、あれもう少し勉強されたほうがいいと思うんですよね、あなたもそう思いま……。」















移した視線の先には“その本人”が目の前にいた。















「あ゛あ゛〜っ゛!!!!!あ、あ、有沙女王さまぁ〜!!!!!!」













偵察に出ていたはずの卓也たちが戻ってきていた。

「なな、なぜこちらに!!??まだ、ゾロアシアに居られたはずでは!!??」

その質問に答えたのは、彼女の後ろから現れた金髪の少女だった。

「へへぇ☆アイリスが“しゅんかんいどう”で連れてきたの☆」

補足したのはギョウザ大好きの科学者・弟。

「いやぁ、実は一応と思いましてアイリスを通じて彼ら4人にも今回の一件を今さっき伝えておいたんですよ。」


「貴様らぁ〜!!!!余計なことをするなぁ〜!!!!!!」


「ゴ・ル・ゴ。」



―――ギクッ!





二人を叱責したのも束の間、ゴルゴは女王の低い声にビクッとした。

ギギギッと、壊れた人形のようにふり向くと、体全体から電流と共に怒りのオーラをMAXに引き出してた女王がいた。

「さっきはよくも言いたい放題やってくれたものだな…。」

「あ、あ、あの…、あれは、ですね、その――――。」

「問答無用!!!!おしおきじゃ!!!!!!」

















アルティメット・サンダ―――――ッ!!!!!!!!!!





――――――バリバリバリバリ!!!!!!!!!!











「ぐげぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
















杖から放たれた、有沙女王の持つ最大級の電撃がゴルゴにクリーンヒットした。

「三途の川だぁ〜……。」

極めてヤバイ単語を口にした瞬間、ゴルゴは意識を手放した。

「うわあ〜っ!!!!ゴルゴ伯爵〜ッ!!!!」

「これ、今まで以上にまずいって〜!!!!」


望と幸生は大慌てし始めた。

「もぉ〜、どーしていつもこの男は一言も二言も余計なのよ〜!!??」

愛実も投げやりなあきれ口調で言葉を発しつつも、ゴルゴの下へと走った。

周囲は唖然とするしかなかった。

特に、初めてこの大威力の電撃を目の当たりにしたS.C.、キラ、スウェン、ジェス、プレシア、リニス、マユは、空いた口が塞がらないほどに仰天していた。

さらに遼希と梨生奈に至っては―――――。

「ティアーズの女王さまって……。」

「ものすごく、こわいぃっ……!!!!」

互いに抱き合って体を震わすほどに脅えていたのだった。



てれび戦士の中で怒らせると怖いのは、他ならぬ有沙女王。

全員が満場一致で、そう感じたのであった………。











一方、一人静かに席を離れたネオ・ロアノーク………いや、ムウ・ラ・フラガは、船の内部の病室についていた。

「さて、と……、これからどうしたもんかねぇ……。」

てれび戦士に保護されたのはある意味でいいものの、謎の魔法使いによって撃墜され、大魔導師によってあっさりと自分の正体を見破られてしまったと言う状況に、自分もとうとう焼きが回ってきたかなと思うようになってきた。

ふと、自分の首下に視線を向けた。

そこには、長い間身に着けていたペンダントがあった。

ロケットとなっているそのペンダントには、一人の女性の写真が収められていた。

それは、今となっては忘れられない記憶。

自分がライガーシールズ・アークエンジェルチームに所属していたときの記憶の欠片とも言うべきものだった。

「マリュー……今頃どうしてるかな……。」

彼がアークエンジェルに所属していた頃、現在の司令官マリュー・ラミアスとは恋仲関係にあり、部隊内でもちょっとした話題の種にもなっていた。

また、近いうちに婚約する約束も交わしており、幸せの絶頂に達するはずだった。

しかし、“サイクロプス戦役”によってその約束も果たされなくなってしまった。

おそらく、現状における“ムウ・ラ・フラガ”は既に故人の扱いとされているはずだ。

彼女に合わせる顔がない。

しかし、今となってはB.C.F.にも戻ることは出来ない。

「…ネオ……。」

「…?……ステラか…。」

思いふけっていたそのとき、いつの間にかてれび戦士たちの会話から席を外していたステラがその場にいた。

何も言わず、彼女はムウの傍に寄り添った。

「ずっと…いっしょに…いて……?」

「……あぁ…。」

現状において自分の居場所は、おそらく、“ステラの場所”以外、ないのかもしれない………。















「B.C.F.が最新兵器を造り出しているだって!?」

マティアスからの報告を受けたセイコーの表情がさらに険しくなった。

『これを見て頂戴。内部に潜入した加山くんが手に入れた写真よ。』

転送された写真には、見たこともない奇妙な機械兵器が点在していた。

顔面に相当する部分は五角形のホームベースの形をしており、背中には人工的な一対の白い羽が取り付けられていた。

だが、MSよりは小ぶりに見える。

『情報によれば、これらの機械兵器は、通称“ヤフキエル”と呼ばれているそうよ。』

ヤフキエル――――。

“神の番人”の意味を持つ、座天使の指揮官の名を冠する兵器。

自分らが“シードピアの神”だと主張するB.C.F.には打ってつけの名前だろう…。

『おそらく、今度はこれらを使って攻撃を仕掛けるつもりだと思うわ。』

“神の逆襲”――――。

そう取るに相応しい作戦が展開されようとしている。

「今度のターゲットはどっちだと思う?」

『今回は判らないわ。あるいは両方同時ってことも考えられるわ、製造する機数によっては。』

どうやら今回は今まで以上に警戒が必要なようだ。

「…わかった、後はこっちで対処しよう。引き続き調査を進めてくれ。」

『了解。』

その会話を最後に、今回の通信は終了した。

「ジョージ。」

『うむ、後でスキッドとオクトパスのメンバーを集めて、対策会議をしなければな。』

どうやら、我ら“ダイダルストライカーズ”の活動が再開するのは、時間の問題のようだ。



















「ほお……これはこれは…!!」

ロンド・ギナ・サハクは感慨の声をあげた。

その目の前には、これでもかと言わんばかりの“ヤフキエル”の数々が……。

先日、軍事的にも技術的にも提携協力を結んだブルーコスモス・ファミリーと、“ダグラス・スチュワート・カンパニー(D.S.C.)”のブレント・ファーロング。

ロンドはその後、早速彼の持つ軍事工場に案内してもらった。

その内部には、ぱっと見ただけで500機は超えるであろうヤフキエルの群れが、目覚めのときを待ち続けていた。

ブレントが内部を進みながら、簡単に説明する。

「この倉庫のヤフキエルは、一機残らず、モビルスーツの技術を応用して製造された特注のものだ。動力源には、企業秘密の特殊エンジンを採用しており、無限に近いエネルギーで稼動を続けることが出来る。」

ヤフキエルの製造過程は、D.S.C.の中でもトップシークレットの分類に入る。

知りたい技術が山ほどあって、喉から手が出るほど欲しいものだ。

「知っての通り、最大の特徴は“無人駆動”。ほとんど人の手を借りずに動くことを可能とする技術。無限に届く特殊赤外線通信を採用しており、遥か遠方に浮かぶこの“レクイエム”の本部からも、遠距離で指示を煽ることも可能だ。」

「ますますロールアウトが楽しみになってきたな。」

「最終調整も既に終わってる。2〜3日もあればロールアウトも出来るだろう。そのときにでもテストしてみるがいい。」

「フフフ……心が躍るな…!」

一段とロンドの心が飛躍して――――









………ガガガガガガ……!!!!













不意にそれが破られた。





突如動き出した一機のヤフキエルによって――――。







「こ、これは……!!??」

機体全体が振動しだしたかと思ったら、赤く光ったカメラの視線がロンドを捉えるや否や、ヤフキエルは彼に向かって歩き出した。

「な、何だ!?」

壊れかけた自動人形のようにゆっくりとロンドのところへ歩み寄ると、右腕を大きく振りかぶった。

――――攻撃される?!

察知したと同時に振りかぶった攻撃はロンドを捉え――――。









外れた。









咄嗟の判断でヤフキエルの懐へ飛び込むように回避したのだ。

その後、彼は即座にヤフキエルから離れ、ブレントの後ろ側に回った。

「これはどういうことだ!?暴走しているのか!!?」

「……ここは、私に任せたまえ。」

動揺の色を見せないブレントが前に出てきた。

ヤフキエルの顔面装甲の近くまで来ると、そこに不可解な文字を書き記した。

線を引くたびに響いた、パイプオルガンを彷彿とさせる奇妙な音が、耳に残ったような気がしたが………。

文字を書き終えるとブレントはゆっくりと後ずさり、数歩ほど歩いたと同時に、指を鳴らした。











―――パチンッ!!





―――ドガンッ!!



―――ガラガラガラガラ………!!










ヤフキエルは音を立てて崩れ落ちた。

内部からはどす黒い液体が大量に漏れていた。

しかも、内部の構造は、もらった設計資料よりも遥かに違っている雰囲気が窺えた。

ロンドはさすがに言葉を失い、眼を極限まで見開かせた。

「ブレント・ファーロング……!!一体コレはどういう……!!??」

震える声でたずねると、ブレントは何事もないかのようにこう言った。

「なぁに…稀にあるんですよ、ああいった不良品が、ね………。」

ブレントはそれを機に、この日は一切語ることはなかった…………。





見てはいけないものを見てしまった気がする………。







ロンド・ギナ・サハクの他愛ないこの予感は、後に、最悪の形で的中することになろうとは、知る由もなかった………。









---to be continued---


☆あとがき
1ヶ月近くも待たせてしまいました、今回の第48話。
前回の予告にあった“アキッキーさんからのアイデア”とは、今回初登場したシードピアの第7勢力『ダイダルストライカーズ』のことでした。
現時点で出演していないサクラ大戦シリーズのサブキャラや、アストレイシリーズ、さらには“ビットワールド”を含めた天てれシリーズの歴代出演者も所属していると言う、とてもスケールの大きな組織となっております☆
今回はそれに先駆け、セイコーやメル&シー、ワンペアの二人、マティアス、ジョージ、そして美沙さんにご登場いただきました☆
ダイダルストライカーズの主力や詳細などは、次回の更新で紹介しようと思います。
さて、次回はいよいよヤフキエルの初陣になります!ターゲットは、果たして……!!?










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