それは、ティアーズがシードピアに訪れる前のこと―――――。
ニュートラルヴィアで“エンデュミオンの鷹”の異名で知られた、一人のパイロットが存在した。
“血のバレンタイン”事件以前から、ニュートラルヴィア防衛軍・MS部隊のエースとして活躍し、常に部下たちを見守ってきた、頼れる兄貴の様な存在であった。
また、特殊部隊・ライガーシールズに転属した後も、その腕の衰えを知らず、最前線において脅威の能力を見せた。
だが、その栄光の歴史も、長くは続かなかった。
“血のバレンタイン”事件から1年と経たない頃――――。
当時の総帥であるムルタ・アズラエルの指揮の下、ブルーコスモス・ファミリーによる、前代未聞の大計画が実行された。
彼らは、プラズマ界の宇宙空間上に、極秘裏で超巨大レーザーキャノン・“サイクロプス”を開発。
これを用い、他の組織諸共、シードピアの大地全てを荒野に変えようと言うのだ。
情報をいち早くキャッチしたスピリチュアル・キャリバーの手引きによって、計画を知ったライガーシールズは、この計画を阻止すべく、全モビルスーツ部隊を出撃、決死の大激闘に赴いたのだった。
さらに、事の端末を耳にしていたのか、ゾロアシア・ワールドのエターナル・フェイスたちも戦線に合流、一時休戦と言う形でライガーシールズと共闘することになった。
かくして、B.C.F.対シードピア連合と言う、史上かつてない大激闘の構図が完成した。
これは後に“サイクロプス戦役”と呼ばれた、シードピアの歴史の一つである。
一時的ながらも、二つの組織が手を組んだことにより、連合軍はますます優勢になっていった。
そして、最後の防衛ラインに到達し、あともう少しで“サイクロプス”を制圧できるかと言うところまで近づき――――――。
その期待は裏切られた。
連合軍の現在地のはるか後方、目の前のサイクロプスの正反対の場所に――――。
もう一基のサイクロプスが突然現れた。
なんと、アズラエルが用意していたサイクロプスは合計二基。
予想をはるかに裏切られた現状に、その場にいた連合軍全員が絶句した。
しかも、計画の首謀者・アズラエルは、ただ一人、現れたもう一基のサイクロプスのコントロールルームにいた。
その上、連合軍が攻めていた“サイクロプス”は彼らをひきつけるための、偽者でしかなかった。
つまり、これが現れるまで彼は連合軍とB.C.F.の戦闘の高みの見物をしていたと言うことなのだ。
勝利を確信したアズラエルは、コンソールを動かし、照準をゾロアシア・ワールドに向けた。
このままでは危ない!
弾かれたように飛び出した連合軍だったが、発射まであとわずか―――――間に合わない!!!
巨大レーザーが発射され、全員が国の滅亡を覚悟したそのとき―――――。
一機のMSがそのレーザーをシールドで受け止めた。
『……へっ…、やっぱ…オレって、“不可能を可能にする男”……だな…。』
その通信を最後に、“エンデュミオンの鷹”――ムウ・ラ・フラガ――のMSは、シグナルロストとなった……。
全員が悲しみに暮れたが、涙を流す暇など今はないと言い聞かせ、全MS部隊と全艦は、サイクロプス目掛け、最後の一斉砲撃を放った。
エネルギーをチャージしなければ、サイクロプスなどただの鉄の塊。
成す術を失ったサイクロプスは、レーザー発射口に全ての攻撃を集中され、エネルギーが逆流し、あえなく爆散した。
無論、一人だけコントロールルームにいたアズラエルは脱出する暇さえなく、サイクロプスと運命を共にせざるを得なかった。
その戦い以後、ムウ・ラ・フラガの姿を見た者はいない。
3ヶ月経っても発見できず、結局、彼の存在は『M.I.A.(“Mission in Action”の略称で、事実上の戦死者として扱われる表記)』とされてしまったのである………。
「公式記録の内容をまとめた上では、そう言う風になっているわ。」
てれび戦士たちは、“ムウ・ラ・フラガ”と言う人物に関する話を、プレシアから告げられた。
“絶句”――――――。
その言葉しか浮かばない衝撃の内容に、てれび戦士たちは呆然とし、沈黙が辺りを支配した……。
「……言葉が、浮かばねぇよな…。」
「…あぁ…。」
沈黙を破ったレッドとゴルゴも、その一言限りで口を閉ざすほど、この内容は衝撃が大きすぎた。
M.I.A.となり、既に死んでいた人物がまだ生きていたと言う事実も重なるとあって、この事態は今まで以上に大きな波紋を呼び込みかねない。
この事実はライガーシールズには伝えないほうがいいかも……。
満場一致でてれび戦士がそう考え――――――。
「失礼ながら―――。」
「さっきの話―――。」
「一つ残らず聞かせてもらったぞ。」
―――――――――!!!???
勝手知ったる人の船に立ち入ったスウェンを先頭に、キラもブリッジに上がり、ジェスもまたヒョコンと顔を出してきた。
「ゲッ!スウェンさん!?」
「ヤマト隊長に、ジェスさんも…!?」
一番聞かれたくない人たちが、この場に現れてしまった。
「も、もしかして、ネオって言う男に関することも……。」
「うん。偶然ながらも、聞かせてもらったよ。」
キラの肯定の意志に、全員が眼を見開いた。
「…て言っても、実は…今回は、俺たちだけじゃないぜ。」
意味深なジェスの言葉に、キョトンとするてれび戦士。
すると――――。
「それっ!」
――――グイッ!
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
――――ドササッ!
転がり込んできたのは、ロープで拘束された二人組み。
一人は、赤と白を基調とした服を着ている少年で、西洋の飛行機のパイロットを彷彿とさせる格好だった。
もう一人は、黒を基調としたドレスを身に纏った少女だった。
どちらも外見からして、てれび戦士たちとほぼ同年代と思われる。
「???」
「な、何だ、こいつら?」
見た目からして、どうやらこのシードピアの住人のようだが、ニュートラルヴィアの人間ではないように思える。
「先ほど、こいつらの持ち物を見てみたとき、ある物を見つけたんだ。」
そう言うと、スウェンが不意にステラに視線を合わせた。
「ステラ…、俺と同じB.C.F.の一員ならば、このバッヂに見覚えがあるんじゃないのか…?」
その言葉と共にスウェンが懐から取り出した一つのバッヂを、ステラに投げた。
受け取った彼女は、そのバッヂをまじまじと見つめた。
鳥の羽を彷彿とさせるフォルムと、イニシャルの「E.F.」の文字。
そして、バッヂ全体は紅の色に染まっていた。
ステラはそのバッヂを見て、思い当たる節を発見すると、眼の色を豹変させた。
「エターナル・フェイス……“ファントムレイダーズ”……!!!」
―――――ファントムレイダーズ……??
聞きなれないチームの名前に、てれび戦士たちはキョトンとした。
エターナル・フェイス所属のチーム名であることは確かなようだ………。
だが、どうやらプレシアはその存在を知っていたようだ。
「“幽霊部隊(ゴーストスクワッド)”の異名を持ち、情報収集、偵察、暗殺を受け持つ、エターナルフェイスのスペシャリスト集団…。」
「…さすがはプレシア・テスタロッサ、その通りだ。」
スウェンは彼女の言葉を肯定した。
実は、この数ヶ月、ボイラーヴィレッジと呼ばれる村で、“少年と少女の二人組みが怪しい行動をしている”との目撃情報が出ており、野次馬のジェスがずっと張り込みをしていたところ、ついにその二人を捕らえ、追跡していたのだ。
「その結果、どうやらこいつら、この数ヶ月間あんたたちティアーズの動きを偵察していたらしいんだよな。全く、恐ろしいもんだぜ。」
「そうだったのか…、ジェスさん、ありがとうございます!」
そこまで来て、竜一の思考が何にぶち当たった。
「!!??おい、ちょっと待て!!!」
「うおっ!?どした、竜一!?」
「この二人が、今まで俺たちのことを尾行し続けていたってことは……。」
「…ってことは…???」
もしかして、“ニュートラルヴィアにもラクスさんがいる”って言うこと事態も…既にゾロアシアにバレているかもしれない…って、ことじゃねぇのか…!!???
………あああぁぁぁ〜〜っ!!!!!!!!
見ようによっては“考えすぎなのでは?”と捉えられる言葉かもしれないが、ありえない話ではなかった。
自分らが知らず知らずの間に、尾行されていたのだから……。
「“GUNDAM”の封印をとく暗号が判っただって!?」
「ホントかい、チアキくん?!」
大河とジェミニが揃って、目の前の少年・ドクターチアキに詰め寄った。
「はい、間違いありません。」
チアキは肯定を示し、支配人室に集まっていたメンバーたちは躍起になっていった。
「自信がありそうだな……ならば、君たちの解読結果を見せてもらおうか。」
大神が切り出し、チアキの解読結果を聞くことにした。
すると、チアキは懐から一枚の紙を取り出した。
ξ э φ г ж л → N A S T O E
л г й э щ → E T D A L
「…な、なんだこれは…?」
メモを受け取った大神は、何が何だかさっぱりわからない。
この意味不明の文字の並びが答えだとでも言うのだろうか?
「最初は僕も石盤どおりに文字を見出したのはいいものの、でたらめな並び方に、大分考えさせられたのですが―――。」
一区切りおいたチアキは、思ってもいなかった答えを口にした。
「適当に文字を並び替えてみたら、答えが偶然出てしまったのですよ。」
――――――え?並び替え???
チアキの推測によれば、悪意のあるものがGUNDAMの力に触れてしまわぬよう、わざと文字をバラバラにしたのではないか、と言う。
「まぁ、もちろんそれ以外の防衛策とかも考えていることかと思いますが……。」
用意周到な雰囲気が窺えそうだ。
「で、並び替えた結果、答えは次のようになりました。」
ユーザーコード:SETONA
パスワード:DELTA
ふと、聞き覚えのある言葉に、さくらは気付いた。
「あれ?“SETONA”って、確かあのときの……。」
「はい、おそらく……。」
推測が確かなら、SETONAとは“GUNDAM”と一番関わりが深いであろう、セトナ・ウィンタースのことだろう。
彼女がもし生きていたら、詳しい事情が聞けたかもしれない……。
――――ピロリロピロリロ……。
部屋に突然響いた音。
チアキが持つ通信機“レイシーコミュニケーター”に入った通信だ。
着信音からして、どうやら兄のドクターレイシーからのようだ。
「もしもし、兄さん?」
「チアキ!今、スピリード島に居るのか?」
いつも冷静な兄の口調が、今回は取り乱しているように聞こえた。
「え?うん。S.C.のみんなに暗号の解読結果を伝えたところだけど…。」
「だったら丁度いい、そっちからも何人か引っ張って大至急こっちに帰って来い!」
「ちょ、落ち着いてよ兄さん、一体何がどうしたって言うのさ!?」
どうにか兄を宥めようとしたが、ドクターレイシーの次の言葉に、全員が驚愕することになった。
「エターナル・フェイスの連中が今まで俺たちのことを尾行していたらしいんだ!!」
―――――ええええぇぇぇっ!!!!????
---to be continued---
☆あとがき
さて、今回の第47話、ようやく暗号解読にまで至りました。
これで次の課題は“シードクリスタル”の捜索となりましたが、また構成に一苦労しそうです…(苦笑)。
一苦労と言えば……。
実は、シードピアにおけるネオ(ムウ)は記憶喪失とは違う方向で挑戦してみようと考え、逆に自分の首を絞めかけてしまったのですが、
H.N.(ハンドルネーム):アキッキーさんが素晴らしいアイデアを送ってくれたおかげで、今後の辻褄合わせがどうにかまとまってきました。
ホントに色んな意味で感謝です☆
……と言うわけで、次回はそのアキッキーさんが考えてくれたアイデアを採用しようと思います!お楽しみに☆