魔法使い介入騒動から数日後、シードピアは静かなときを取り戻していた。
しかし、相変わらずマスコミは魔法使いの話題ですっかり持ちきり。
内面では未だに噂が耐えなかった。
リュミエール岬に停泊しているティアーズも、ようやく落ち着きを取り戻していた。
船体のダメージも、どうにか修復しつつあった。
ドクターレイシーは、MSマサムネの量産を急いでいた。
正直な話、前回の戦いでは本領を発揮するどころか、あまりにも出番が少なすぎた。
不慮の事態だったとは言え、これでは不甲斐ない。
どうにか量産に加えて改良を急がねば……!
その思いを一心に、ドクターレイシーは“マサムネ”を、巨大な特殊機械にかけた。
MSが1機分すっぽり入るほどの大きさの箱の様なものが2台連なっている、その奇妙な機械。
その中の片方の箱の中に、マサムネが入れられた…。
この装置は、こんなこともあろうかと開発していた、発明2994・『MS(モビルスーツ)リアルコピーマシン』。
その名の通り、MS専用のコピー装置であり、この装置があれば20分に1機というペースで量産することが可能。
しかも、外部だけでなく、内部構造や武装など、MSのあらゆる部分を完璧にコピーすることができるのである。
ただし、エネルギーが切れてしまった場合、充電に4日間を要してしまうのが玉に瑕だが……。
「えーっと、コピーする数は……ひとまずこれにしておこう。」
ドクターレイシーは目の前のコントロールボードを操作し、コピーする数を6機にセットした。
「コピー量産実行!」
――――ピコンッ!
“Enter”が押され、機械が動き出した。
箱の中に設置された特殊レーザー光線がマサムネの体全体を行き交い、データを取る。
「それに早いとこ、みんなにもMSの操縦を覚えてもらいたいしね…。」
作り出したものは早いところ活用して欲しいと、ドクターレイシーは切に願っていた。
「ほぉ…随分大掛かりな量産方法を編み出したものだな。」
「いやいやそんなに大したことじゃ……って!?」
振り返ると、いつのまにか大魔導師が彼の傍に来ていた。
「プ、プレシアさん!?いつの間に…!?」
「ふふっ。」
よく見ると、今回は彼女の傍らに、付き人らしき女性の姿が。
外見の容姿からして、年齢はおそらく20代半ばくらいに見えた。
「で…今日はどんな用件で…?」
「…そうか…スウェンの奴の根回しだったのか…。」
顔に薄っすらと傷跡が残る金髪の男は、手近な椅子に腰かけ、この3日間傍にいてくれたステラの頭を撫でた。
「ネオ…無事でよかった……。」
ステラの表情は笑顔そのものだった。
どうやら様子からして、ステラはネオがとても大好きなようだ。
ブルーコスモス・ファミリーのリーダーである、“ネオ・ロアノーク”と呼ばれた男。
彼はティアーズに保護されてから2日後、ようやく眼が覚めた。
その後、彼の体力は徐々に回復しつつあった。
今では、人の手を借りてだが、歩けるほどにまでになっていた。
そして現在、彼はステラに連れられて船のブリッジへ足を運び、これまでの現状を聞かされた。
自分を保護したティアーズが何者なのか。
ステラがなぜティアーズの船にいるのかなど、全ての内容がレッドとゴルゴによって告げられた。
「最初はあんたたちのこと、ただ単に敵だと思っていて攻撃し続けてきたが、あんたたちがステラと仲良くやっているところを見て、しかも、あのスウェンが根回ししていたと知って、何だか怨む気がしなくなっちまったな……。」
それを聞き、レッドとゴルゴ、そしてその場に居合わせた竜一、七世を初めとしたてれび戦士たちは、内心ホッとしたのだが、ネオはそこで「だがな。」と切り出した。
「ステラを助けてくれたことは感謝するが、オレは決してあんたたちを信用したわけじゃないからな。勘違いするなよ。」
どうやら、わだかまりはしばらく続きそうだ。
―――シュイーン。
「お取り込み中、失礼します。」
ドクターレイシーがブリッジに上がってきた。
その傍らには、プラズマ界の大魔導師・プレシアの姿も。
「おぉ!プレシアさん!」
「ごきげんよう、ティアーズのみんな。」
マユとアリシアも、彼女の姿を確認するやいなや、すぐに傍まで駆け寄った。
「こんにちは!プレシアさん。」
「うむ。」
ふと、竜一はプレシアの傍らにもう一人女性がいることに気付いた。
格好からして、どうやらプレシアの付き人のようだ。
「あの…プレシアさん、あなたの傍にいるそちらのお方は……?」
「ん?……あぁ。紹介するわ。彼女の名はリニス。わたしの身の回りの世話をしてもらっているわ。」
「ティアーズの皆様、初めまして。」
リニスが礼儀よくティアーズに挨拶したそのとき、マユがリニスの帽子を気に入ったのか、隙を突いてそれを彼女の頭から取り上げた。
「あ。」
「え?」
「この帽子、なんだかかわいい☆」
「コラ、マユ!人のものを勝手に取ってはダメではない、か……って…!?」
ちひろがマユを叱ろうとした声が、突然止まった。
帽子が取れたリニスの頭に、ありえないものが付いていたのを見てしまったのだ。
当然、それはレッドやゴルゴ、竜一たちの眼にも飛び込んでいた。
「―――ッ!?」
リニスも事態に気付き、咄嗟に両手を頭にやったのだが、もう遅かった。
ね、ね、ネコ耳――――――――ッ!!!???
それを持っているリニス本人は、顔を真っ赤にしていた。
どうやら物凄く恥ずかしがっているようだ。
だが、無邪気な子供たるマユとステラは、より一層目を輝かせていた。
「うわ〜☆ネコさんだ〜☆かわいい〜☆☆☆」
「ねぇねぇ、もっと見せて〜☆☆」
「うぅ〜……恥ずかしい……////」
変な空気になってしまったようだ……。
竜一が気まずそうに尋ねた。
「あの…プレシアさん…これって、どういう……???」
「あらあら☆」
微笑を浮かべ、プレシアは事の次第を話し始めた。
「リニスはね、この世界では極めて珍しい、“使い魔”と呼ばれている存在なの。」
―――――…使い魔????
『…聞いたことがある。』
その話しに割って入ってきたのは、マユと命を共有するプレシアの娘・アリシアだった。
『自分の魔法力を使って、犬や猫とかの動物に新しい命を入れて、自分のパートナーにする方法があるって……。』
娘のその言葉を、母親は肯定した。
「そう、簡単に言うならばそう言うことよ。」
使い魔とは、死亡する直前、或いは死んだ後の動物に、魔法力による新しい命を与えることで誕生する、いわゆる人造魔法生命体。
使い魔として生まれ変わった動物たちは、それ以後は主の魔法力を源に生き続ける。
また、使い魔として生まれ変わっても、動物として生きてきたときの記憶はわずかに残ることがある。
体の一部分に動物の耳や尻尾があるのは、その名残と言われているのだ。
「ちなみに、リニスの場合は山猫を素体としているの。」
知られざる魔法の力に、てれび戦士たちは眼を丸くするしかなかった。
「ところで、今日はどんな用件で…?」
「あら?ごめんなさい。実はマユとアリシアに渡したいものがあるのよ。」
「『え?』」
思ってもなかったプレシアの返答に、名を呼ばれた二人は首をかしげた。
「でも、その前に…。マユ、その帽子、リニスに返してくれないかしら?」
「え〜?」
「それがないとリニスは人前に出れないの。猫の耳は確かに可愛いけど、他の人にそれを見られると変な人に思われることがあるんじゃないかしら?」
プレシアの言葉は確かに一理ある。
実際、それを目の当たりにしたレッドやゴルゴたちも、ビックリ仰天してしまったのだから……。
マユは少し悩んだ末、帽子を返してあげることにした。
「リニスさん、ごめんなさい。」
帽子を受け取り、それをすぐにかぶりなおしたリニスは、安堵の微笑を浮かべた。
「ありがとうございます、マユ。」
小さな問題は、やっと収拾がついた。
「さて、本題に入りましょうか。リニス。」
「はい。」
リニスは懐から何かを取り出した。
取り出したのは、“鏃”の形を彷彿とさせるオレンジカラーの台座に、六角形型のオレンジ色の宝石が埋め込まれた、小さなアクセサリーのようなものだった。
「わぁ〜、きれい…☆」
「これ…アクセサリー?」
「見た目はね。でも、イザと言うときには、武器として役に立つのよ。」
――――は?武器として???
第一印象で見る限りは、とても武器として使えそうなものではなさそうだが……。
「リニス。」
「はい。」
リニスは、そのオレンジ色のアクセサリーをマユの右手に握らせると―――――。
「姿を見せなさい、ハルバード。」
『Got it,my creator.』
―――――えっ!?
驚く間もなく、小さなアクセサリーはあっという間に大きな武器へと早変わり。
『うわぁお!!??』
全体の長さは、マユの身長より少し長めだろうか。
形は見る限りでは大きな斧。
斧の刃を象ったシルバーカラーの先端部分には、六角形のオレンジの宝石が埋め込まれ、グレー色の柄が縦に伸びていた。
「それが、自らの意志を持った魔法の杖・ハルバードよ。使い方とかは、これから少しずつ説明していくわ。」
「は、はい。」
『うん…。』
いきなり目の当たりにした“自分たちの武器”であろう杖を目の当たりにして、人一倍困惑を隠しきれないマユとアリシアだった。
「それにしても、驚いたねぇ…。」
ふと、そこにネオも会話に加わった。
「プラズマ界の大魔導師と、あんたたちティアーズが知り合いだったとはねぇ。」
声に気付いたプレシアはその方向に目線を向け、彼の顔を確認すると……。
「おや?そう言う貴様は、ネオ・ロアノーク……いや……。」
ムウ・ラ・フラガ、と呼ぶべきかな………?
『………………え?』
ブリッジにいた全員が声を揃えた。
特にステラは、いつも読んでいる名前とは違う名前で彼が呼ばれたことに、大きな疑問を持たずにはいられなかった。
「…フッ…、今じゃその名前は捨てたも同然さ。」
彼は意味深なセリフを残し、ブリッジから立ち去った。
「え…っと…、プレシアさん、さっき、彼のこと“ムウ・ラ・フラガ”って呼びました?」
「一体、何者なんですか?」
レッドとゴルゴはもちろん、てれび戦士たちとマユ、そしてネオと長い間連れ添ってきたステラも、状況が呑み込めなかった。
「私の眼に狂いがなければ、あの男は、ライガーシールズでその名を轟かせたエースパイロットであり、“エンデュミオンの鷹”の異名で知られたアークエンジェルチームのかつてのリーダー、ムウ・ラ・フラガであろうな……。」
―――――――――え゛っ!!!??
『ライガーシールズのエースパイロット!!!!????』
『アークエンジェルチームの元リーダー!!!!?????』
「…は、遼希…、い…今の、聞いた…!!??」
「う、うん……!!!!」
ティアーズの偵察を続けていた、ファントムレイダーズの遼希と梨生奈も、ブリッジから傍受した彼らの会話を聞き、固まってしまった。
ちなみに、B.C.F.のネオ・ロアノークに関する衝撃情報が二人の思考を支配していたため、プレシアがティアーズにもたらした“魔法の杖”に関することがすっかり吹き飛んでしまったのは、また別の話である。
それだけ、彼に関する情報はインパクトが強すぎたのだ……。
「B.C.F.のリーダーが……!!!!」
「ライガーシールズの“エンデュミオンの鷹”……!!!???」
『一体どういうこと〜〜ッ!!!????』
そのエリアにいた全員がそろって口にした、この一言。
“混乱”と言う爆弾が再びシードピア全土にばら撒かれるのは、もはや時間の問題かもしれない…………。
………と思われた矢先。
「そこの二人、何やってんだ?」
――――ギクッ!
遼希と梨生奈が振り返った目線の先には、カメラを携えた一人の青年。
金色のアクセントが入った紺色の髪と、全ての光景をありのままに見る澄んだ瞳。
「あ…あなたは……!!!」
「ライガーシールズの…情報屋……“野次馬のジェス”…!!??」
「…そう言うあんたたちは……“ファントムレイダーズ”だな…!?」
今までの隠密行動がここでバレた上、自分たちの組織までも見抜かれると言う最悪の事態。
「遼希、逃げよう!」
「うん!!」
二人は早急にアレクサンダーへと帰艦しようとして――――――。
「逃がすか。」
「そこまでだよ!」
“ジェス以外の影”に気付かなかった。
「あっ!?」
「うっ!!」
梨生奈の背後には、“ヴァジュラサーベル”を彼女の首筋に当てた、元B.C.F.副隊長のスウェンが。
遼希の目の前には、“パルスブラスター”を構えた、ライガーシールズの現リーダー・キラが。
それぞれ別の場所で待機していたのだ。
「サンキュー、二人とも☆」
「いいよ、別に。」
「フン……礼を言われる筋合いは、オレにはない。」
スウェンは、拘束される遼希と梨生奈から視線を外し、ティアーズの船に眼を向けた。
ファントムレイダーズの二人が耳にした情報がどうも気にかかるのだ。
それは、キラとジェスとて、同じであった。
それにしても、驚いたな……。
ロアノーク隊長がティアーズに保護されたことも然ることながら、彼がライガーシールズのかつてのリーダーであり、“エンデュミオンの鷹”だったとは……。
どうやら、詳しく問い質したほうがよさそうだな……。
---to be continued---
☆あとがき
今回のエピソードで初お披露目となりました、マユとアリシアの新たなるアイテム・ハルバード。
僕が考案したオリジナルデバイスでございます。
詳細は、ティアーズのページで紹介していますので、そちらを参照してください☆
さてさて、いきなりネオの素性がプレシアさんの口から暴露され、またまたティアーズ内部で大混乱が始まりました。
しかもそれがエターナル・フェイスにまたまた伝わるかと思ったら、そう何度も行きませんよね。
いつの間にか後をつけていたジェスたちによって捕まってしまった遼希と梨生奈、どうなってしまうのでしょうか!?
……って言うか、いつから彼らは二人をつけていたのでしょうか…?