Phase44 Linkage of Watering
“The prequel”


「おい!それマジか!?」

「わかんないよ!とにかく急ごう!」

B.C.F.を初めとした、ナチュラルたちの居住区画・空中コロニー“レクイエム”。

午後にもかかわらず、この日はコロニーの住人たちはやけに騒々しかった。

そのザワザワした雰囲気は、スピリチュアル・キャリバーの派遣隊員の3人―――ソレッタ・織姫、レニ・ミルヒシュトラーセ、ラチェット・アルタイル―――も伝わり、異変を感知した。

「ねぇ、何かあったの?」

レニは、偶然通りかかってきたスティング、オルガ、クロトの3人に話しかけた。

「フレスベルグがズタボロでドックに到着したってよ!」

「とにかく被害がひどいらしいんだ!」

「しかも“たった一人の相手にここまでされた”とか何とか、訳のわかんねぇことを言ってたって大騒ぎなんだよ!」

意味深な言葉を残し、彼らはそのままドックへと走っていった。

「……ねぇ、聞いた?“たった一人の相手にここまでされた”って…。」

「言ったデース……。」

「…何かの間違いじゃないのかしら…。」

ラチェットの意見はごもっともなところがある。

B.C.F.の旗艦・フレスベルグは並の戦艦を凌ぐほどのスケールを誇り、ちょっとやそっとの攻撃ではダメージは受けないはずだ。

その船があっさりとダメージを受けた。

しかもその相手は、“たった一人”……?

言い知れぬ不安を感じた3人は眼を合わせ、“フレスベルグ”が停船しているドックへと向かった。







B.C.F.の本部・ドミニオンベース。

その整備ドックに、彼らの旗艦・フレスベルグは停船していた。

船体は、聞きつけた情報どおり、“ズタボロ”の言葉しか思いつかないほどの大被害を被っていた。

特に、右舷格納庫はもはや跡形すらも残されてないかのように、破壊されていた。


その付近に設けられた休憩室。

フレイはその広い部屋の片隅でただ一人、気が抜けたように座っていた。

彼女だけじゃない。

ブリッジのクルーたちは全員、意気消沈の言葉が似合うほど、気を落としていた。

その傍には、偶然居合わせていたアウルが居た。

「…フレイ。」

「…何?」

ふと、扉から聞こえた声。

扉の前で警備しているシャニが呼びかけてきたようだ。

「また、“あの3人”、ここに来ている……。」

「ラチェットさんたちね……。通して。」

承諾を伝えると、ドアが開き、ラチェットたちが入ってきた。

「……かなり、大変なことになったね…。」

「…入ってきて、開口一番がソレ、レニ?」

フレイの冷静な突っ込みもスルーし、レニ、ラチェット、織姫の3人は手近な椅子にかけた。

切り出したのは、織姫だった。

「それにしても、今まで以上にダメージが大きかったデースね。」

「本当よ。」

「ところで、聞いた話じゃ“たった一人の相手にここまでされた”そうだけど……。ホントなの?」

早速問いだした、ラチェットの質疑。

フレイはそれに対し、幾分かの沈黙の後――――。


「……事実よ。それも、MSでもMAでもなければ、戦闘機や戦車でもない。本当の意味で、“たった一人だけ”だった。」


シードピアの歴史上、ありえないことだった。

生身の人間が兵器、ましてや大型戦艦一隻を相手に勝つなんて、どう考えてもありえなかった。

「相手の特徴とかは、覚えてる?」

「もちろんよ、はっきりとね。」

フレイが捉えた特徴は、次の点。


・相手は女の子で、10代前半くらい。
・服装は白で、手には少女の身長くらいの長さの杖。
・宙に浮いていて、不可思議な力を使う。


「圧倒的に考えたくない可能性なんだけど……あたしが見た点じゃ、あれはもう“魔法”でしかないって思ったわ。」

ま、絶対ありえない話だけど……と、フレイは付け加えた。

「…ところで、ネオが見当たらないけど…まだ船の中?」

そのラチェットの疑問に、織姫とレニもハッとした。

言われると、確かにネオの姿が見当たらない。

普段ならば彼はフレイと一緒のはずだが……。

ふと、ここで沈黙していたアウルが口を開いた。

「……もう、いないってよ。」

「「「え?」」」


「……ネオのやつ、今回の戦いで………。」















シグナルロスト”になっちまったってよ……!

















――――えええぇぇぇぇっ!!??

















それはB.C.F.にとって、ショックの大きさが計り知れない最大級の被害だった………。

























「どうだ、ドクターレイシー。」

「今のところ、命に別状はありません。」

ゴルゴ伯爵とドクターレイシーが、目の前の医療ポッドで眠る仮面の男を見つめる。

思わぬ存在の介入によって、“納得のいかない微妙な勝利”を経験したてれび戦士たちは、今回の戦闘によって撃墜された彼を保護していた。

雰囲気からして、どうやらB.C.F.の行動部隊の隊長のようだ。

そして、二人の傍らにはなぜか、金髪の少女の姿も。

「…ネオ……。」

ネオ――――。

おそらく、今、眠っている仮面の男の名前だろう。

どうやらステラは、このネオと言う男と親しみが深かったようだ。

後で詳しく、彼女から経緯を聞いたほうがよさそうだ……。




「いやー、それにしても凄いなぁ、この女の子。」

メディカルラボルームの正反対の場所に位置する、レイシー兄弟の部屋。

その一角で、非番となっているチアキが今回の戦闘のVTRを見返していた。

彼の机の傍らには、大好物の出来立てギョウザが、皿の上に大量に置かれていた。

それを適当につまみながら、今回の戦闘を鑑賞する。

特に、いきなり戦いに介入してきた“魔法使いの女の子”を中心に。

「魔法使いって滅多にいるもんじゃないって思ってたけど、そうではないみたいだね。」

ふと、背後のドアが開いた。

「チアキ。」

「あ、レッド隊長。」

戦闘の後の事後処理を終えたのか、レッドが部屋に入ってきた。

「お、“あの魔法使い”のVTRか?」

「はい。僕と兄さんとしても、非常に興味がありましてね。」

いいながらチアキは、自分のギョウザを小皿に取り分け、それをレッドに手渡す。

「……しかし、プレシアさん以外にも魔法使いがいたとはな…。」

受け取ったギョウザをつまみながら、今回の戦いを思い返す。

ふと、レッドはここであることを思い出した。

「あ、ところでチアキ、この間頼んでおいた“暗号”のほうはどうなった?」

「……?……あぁ、アレですね?」

VTRを止め、データを保存し、チアキは暗号関連のデータを引っ張り出した。

「フワニータさんたちが渡してくれた“暗号解読盤”のおかげで、思いのほか、スムーズに文字を見出せたのですが……。」

「見出せたが……?」

なんとなく間を空けたチアキ。

彼は徐に引き出しの中から、一枚の紙を取り出した。

そこには――――――。









ξ э φ г ж л → N A S T O E


л г й э щ → E T D A L









「な、何やこれ?」

思わずレッドは、石盤と読み取った文字を見合わせてみたが、間違いではなさそうだ。

「ここで足止めになってしまって……。」

“お手上げ状態”と言うべき口調でチアキは言った。


だが、この時点で“答えの終点”に大きく近づいていたことに、二人は気付くことはなかった………。









「確か、この辺りのはずだったが……。」

一方、ちひろは外で“あるもの”を探していた。

謎の魔法少女が戦闘に介入したとき、彼女が大型砲撃を放つ際、ちひろはモニター越しに、彼女の“魔法の杖”と思しき物から“何か”が飛び出るのを見たのだ。

何か関わりがあるのではと感じたちひろは、それを探すべく、単独で外に出たのだ。

彼女が現れた地点を推測し、その周辺を探していると―――――。


――――キラッ


「?」

何か光るものが眼に留まった。

その方向に目線をずらすと――――――。



「――――あれか!」



ちひろは、海岸に駆け寄り、波打ち際近くに転がっていた、金色に光る物体を拾った。

それは――――。









「金色の……銃弾…?」





















ライガーシールズの本部“G.L.B.”の司令室でも、ジェスからもたらされた情報の話題で持ちきりだった。

「突然介入してきた“謎の女の子”が行った“未知の攻撃”……。」

「それによってB.C.F.の船が――――。」

「予想を遥かに越える大打撃を受けて――――。」

「撤退を余儀なくされた……って、流れで、間違いないか?」

ニコル、マリュー、ナタル、カナードの順に言葉が発せられ、情報を提供したジェスに確認を取る。

「あぁ。だが、そのおかげでティアーズも一命を取り留めることができたみたいだがな。」

別の場所からその戦いを見守っていたキラとラクスも、肯定を示した。

「僕たちにとっても、“ビックリした”って言う言葉しか思い浮かばなかったよ。」

「信じられない光景でしたわ。」

「……にしてもさ。」

話を聞いていたバルトフェルドがここで会話に加わった。

「逆に言えば、“その影響でティアーズたちにとっては複雑な勝利だった”ってことも言えるんじゃないのか?」

ミリアリアとトールも彼の言葉に賛同する。

「確かにね。見ず知らずの存在にいきなり助けられるって言うのも複雑よね……。」

「まぁ、僕らも似たような経験をしたけれど、今回はそれ以上に複雑だよ…。」

カガリに至っては、内容自体の難解さに、頭がぐちゃぐちゃになってきていた。

「あ゛あ゛〜っ!!もう、訳がわかんねぇよぉ!!」









「思っていたよりも深刻な状況のようだな。」









―――――!!!??

アークエンジェルチームにとって、聞き覚えのあるこの声。

振り返ると、サングラスをかけた、見た目で20代くらいの男が立っていた。

叢雲…ッ…!」

「久しぶりだな、アークエンジェルチーム。」

叢雲劾(ムラクモ・ガイ)―――――。

ライガーシールズのもう一つの部隊でもある、隠密行動部隊・サーペントテールチームのリーダー。

コーディネイターであると言う経歴以外は、謎に包まれているのだが、MSパイロットとしての腕前は折り紙つきである。

「大方の話は聞いている。未知の存在との遭遇だそうだな。」

「…はい…。」

劾は彼らのもとへ歩み寄り、徐に彼らが持っていた写真を幾つか取り上げ、それらに眼を通した。

「なるほどな……。」

「とても信じられませんでした。まるで、魔法みたいな――――。」









「ストップ。」







――――?

キラの言葉を遮る、劾の声。

“まるで”じゃなくて、“本当に”魔法かもしれぬぞ、キラ・ヤマト。」

「えっ?!」

意外な答えに、キラは眼を見開いた。

劾は写真の一枚を手に取り、それを見せた。

それは、魔法使いの少女が砲撃を放った瞬間を捉えたものだった。

「ここまで質量が高い砲撃は、現代のシードピアの科学力を駆使しても、到底不可能だろう。ましてや、それを生身の人間が容易に放つ可能性など、0%に限りなく近いはずだ。」

「っ!……と言うことは…!!」

「考えられることはただ一つ。この少女は、いつぞやのティアーズとやらとはまた違う、別世界の人間だと言うことだ。」

“シードピアやテレヴィアとはまた違う、別世界”。

思っても見なかった新たなる事実に、言葉が出ないアークエンジェルチーム。

司令室の空気を、しばしの沈黙が包んだ…………。





















「……正体不明の魔法使い、か……。」

「はい。」

アストレイバー・アイランド“スピリード島”。

その娯楽施設・“シードピア・シアターハウス”の支配人室。

特殊部隊“スピリチュアル・キャリバー”の総司令・大神一郎は、突然戻ってきたジェミニとフワニータからの報告を聞き、内心では驚いていた。

その場に居合わせていたさくら、アイリス、新次郎も目を丸くしていた。

「…プレシア・テスタロッサが絡んできた一件の報告が一段落したかと思ったら、また別の魔法使いか……。」

「…言葉が、出ませんね……。」

新次郎も、叔父である大神の気持ちに便乗する。

「でも、てれび戦士のみんなをたすけてくれたんだったら、味方なんじゃないの?」

「あ、アイリス、それはちょっと、どうかと思うな、あたしは。」

メンバーたちの中では比較的幼いアイリスの言葉を、さくらが否定する。

「なんで?」

「B.C.F.を追い払ったことは嬉しいけれど……、それだけで“あの人たちは味方だ”って思うのは、まだ早いかなぁ、と……。」

「確かに、さくらくんの言うとおりだ…。」

人間、誰しも“第1印象が大事だ”と言うことは多い。

だが、必ずしもそれが全てだとは限らない。

自分たちの知らない“裏面”があるかも知れない。

それによって、相手への印象も変わることもあるからだ。

「とにかく、今後、戦闘がどこかで開始されたら、その魔法使いも介入してくるかもしれない。一応、注意してくれ。」

総司令の言葉が終わると、新次郎はジェミニたちにこう告げた。

「よし。ジェミニ、フワニータ、二人は引き続きニュートラルヴィアでの隠密行動をお願い。」

「イエッサー!」

「OK!」























「……予想を覆す事態に発展しているな、ジブリール。」

B.C.F.本部・ドミニオンベースの最深部。

マティス、ジブリール、天海僧正がいる謁見の間で佇む、一人の男。

“金色なる陰の軍神”の異名を持つ、B.C.F.最大の後ろ盾、ロンド・ギナ・サハクである。

「“ティアーズ”とやらの居場所を突き止め、意気揚々と奇襲攻撃を仕掛けに行ったのはいいものの、その最中にいきなり介入してきた謎の小娘の砲撃でフレスベルグは大損害、我々の戦力の半数を失い、挙句にはチームリーダーのネオ・ロアノークすらもMIAになってしまった……。」













「これでは、貴様のシナリオはコメディ同然ではないのか、ロード・ジブリール?」













痛罵を浴びせる彼の言葉に、さすがのジブリールも取り乱し始めた。

彼は拳を握り締め、背後の壁を「ダンッ!!」と殴りつけた。

「ふざけたことをおっしゃいますな、ロンド様!」

彼の怒声にも微動だにせず、不気味な微笑を浮かべたまま、ロンド・ギナは彼から視線を外さなかった。

「何年も続いているこのシードピアの戦争、是が非でも勝たねばならないと言うこの状況に、よくもそのように冷静でいられますね、あなたは……!」

マティスと天海も、この一件を受け、怒りを隠しきれるはずがなかった。

「それにしても、目障りなイレギュラーがまた増えちゃったわね……、あの小娘は何としてでもつぶさなきゃ!」

『当然であろう……いかなる存在であろうとも、コーディネイターを庇う者は我らの敵、この世界の“不純物”であるからな。』

「その通りですとも、我々は戦いを続けますとも!いかなる犠牲も惜しまず、勝つためにはどんな手段も用いてね!」

「フッ……それでこそ、我がB.C.F.の3大幹部…。」

多くの犠牲も躊躇うことなく戦い続ける。

それが、彼らの信念を支えるものの一つでもある。

ふと、ここでロンドが、ある話を切り出した。

「…で、ついてはひとつ、私のほうから提案がある。」

「…?…提案、ですと…?」







「ニュートラルヴィアとゾロアシア・ワールド、双方の国を一度に攻め立てることを可能とする、究極の手段がある……。」







『…何!?二つの国を一度に攻めるだと……!?』

ありえない話だった。

現状のB.C.F.の戦力では到底無理な話である。

だが、ロンドは話を続ける。

「実は、数日前に“ある男”が私に対して取引を申し出たのだ。『自分が用意した“量産型無人駆動兵器”を駆使すれば、シードピアの大地を手に入れるのも容易なことだ』、と。」

“量産型無人駆動兵器”

その言葉を聞き、幹部3人の目つきが変わった。

「その話は、本当なのですね、ロンド様?」

「もちろんだ。実は今回、その“取引相手”を連れてきている。」

反撃の狼煙を上げる絶好の機会が近いことを感じた天海は、不気味なくらい怪しい笑みを浮かべた。

『フフフフフフ……よい余興になりそうだ……ロンド、その人物をここに通せ。』

「…それでは。」





――――パンパンッ!





手を叩き、合図をすると、謁見の間の扉が開き、そこに一人の男が入ってきた。

赤みがかった茶色の髪を持った、怪しい雰囲気の男。

外見の若さからして、20代くらいと思われる。

男は、3人の幹部の前に寄ると、その場で跪いた。

「初めまして、B.C.F.の幹部の皆さん。私は、多目的複合事業“ダグラス・スチュワート・カンパニー(Douglas Stuart Company)”の代表取締役社長――――。」









―――――ブレント・ファーロング、と申します……。









---to be continued---


☆あとがき
今回のタイトル、直訳すると“波紋の連鎖・前編”と言う意味です。
文章が異常に長くなりそうなので、今回二つに分割させていただきました。(苦笑)

さて、今回のエピソード、初登場組が異常に多い回となりました。特にサクラ大戦シリーズキャラ中心で(苦笑)
そして、予告にもありましたとおり、新たなるキーパーソンキャラクターのブレント・ファーロングが初登場!
彼がB.C.F.にもたらす“量産型無人駆動兵器”とは一体?………って言っても、ブレントが出てきたならもう“アレ”しかありませんよね。(苦笑)
この辺はノーヒントと致しましょう。

さて、次回は後編、そろそろディスタンス・フォースのキャラも続々と出演させたいと思います。
???「わたしも出演しますので、お楽しみくださいね。」
……!?……い、今の声は…まさか!?

ヒント(反転)→・CV(キャラクターボイス)は浅野真澄さん










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