「Seed-Crystal?」
「それに…GUNDAMだって?」
「はい。ティアーズの会話の中で新たなキーワードとして出てきたのが、それです。」
隠密行動中のエターナル・フェイス特殊部隊“ファントムレイダーズ”。
極秘裏でティアーズたちの会話を傍受していた遼希と梨生奈の二人が新たに持ち帰った情報は、彼らに更なる疑問を与えた。
「GUNDAMって言ったら、古代シードピア時代に存在した伝説の…?」
「うん。多分そうだと思う。」
ティアーズたちが話していた言葉の中にそれが出てきたと言うことは、それが実在した可能性が出てきた、と言うことになる。
しかも、それに関わる重大なメッセージすらも、ティアーズたちが入手していると聞き、その可能性はますます高まった。
「でも、ちょっと待って。」
メンバーたちが躍起になりそうになったそのとき、一人の少年が静止をかけた。
ファントムレイダーズの最年少格、拓巳だ。
「もしも、そのGUNDAMの存在が事実だとしても、そのシードクリスタルって言うアイテムが、何処にあるのかって言うのがわからないと……。」
それを聞き、全員が「あ……」と言った。
だが拓巳の発言以外にも、幾つか問題がある。
確か、そのGUNDAMを手に出来るのは“SEEDを持つもの”と、ティアーズは言っていたはずだ。
SEEDとはおそらくシードクリスタルのことだろうが、それを見つければ、誰でも手にすることが出来るものなのかと言うのも、疑問になる。
「ん〜……、調査すべきことが思いっきり増えちゃった気がする……。」
―――うんうん。
謙二郎の意見は、ごもっとも。
―――ヴィーッ!ヴィーッ!
『Emergency!Emergency!』
突如、艦内に鳴り響いた警報。
「What?!」
「何が起こったのかしら?……江莉!」
小百合は、ブリッジにいる江莉を呼び出した。
モニターが出現し、すぐさま彼女が応答した。
『リーダー!またしても上空より、B.C.F.の機動戦艦と彼らのモビルスーツ部隊の接近を確認しました!』
「Dawn it!あいつら性懲りもなく……。」
またアプリリウス銀座を攻めるつもりかと思っていたのだが、その予測は大きく裏切られることになった。
『でも、この針路……!!ええっ!?うそ?!みんな、レーダーを見て!!』
表示されたのは、彼らの拠点・アレクサンダーを中心にしたレーダー映像だった。
画像を縮小させると、レーダーの青色の点(B.C.F.表記)が、アプリリウス銀座の方向とは別の方角に向けられていたことがわかった。
「あれ!?B.C.F.のやつら、みんな、“リュミエール岬”の方角に向かっていませんか…?」
拓巳の一言で、遼希と梨生奈の二人は即座に判断した。
確か、あの岬には――――――!!!
「遼希!リュミエール岬って、確か!!」
「ティアーズの機動戦艦が停泊している場所だ!!!」
二人の叫び声を聞いたブライアンは、その言葉に眼を見開いた。
「B.C.F.の奴ら、ティアーズの連中を片っ端から潰すつもりだな!?」
自分たち、エターナル・フェイスにとっては、複雑極まりない心境であった。
現状の自分たちの位置関係に、ブライアンは苦い顔をするしかなかった……。
今日も今日とて、穏やかな日々を過ごす、ニュートラルヴィアの住人たち。
その角にある喫茶店にて、静かなときを過ごす、カウガールの少女と、そのパートナー。
ジェミニとフワニータは、以前から任務として請け負っていた、「消えてしまった“マユ・アスカの魂”を捜索する」と言う任務の中間報告を済ませていた。
「…ジェミニ、アタシたちの予感が間違ってなければ…。」
「……うん…きっと、あの子…だよね。」
ティアーズの戦艦の施設が爆発する瞬間を目撃した二人が、立ち寄った際に偶然耳にした、一人の少女の告白。
自らを“死した存在”と激白した、悲劇の少女・マユ。
彼女の過去の記憶から、彼女こそが生前シン・アスカの妹として生きていた、マユ・アスカ本人であることは間違いないようだ。
だが、この事実はあまりにも重過ぎた。
この件は当面、ゾロアシアに滞在しているロベリアとサリュ、そして実の兄・シンには秘密にしたほうがよさそうだ。
知ってしまえば、どうなることか予測できない。
二人の間に重苦しい雰囲気が流れた。
「あれ?」
「ジェミニさんとフワニータさん。」
「!?」
「キラさん…、ラクスさん…。」
休暇中なのか、普段着の格好で現れたキラとラクス。
「…どうしたの?何か、元気がないみたいだけど……。」
「良くないことでも、ありましたか…?」
心配そうに瞳を向ける二人。
同盟の存在ならば、この二人に話しても大丈夫だろう。
そう考えたジェミニは事の次第を伝えようとしたが―――――。
―――ヴィーッ!ヴィーッ!ヴィーッ!
―――!?
突然、市街地周辺に警報が鳴り響いた。
『リュミエール岬にブルーコスモス・ファミリーが接近中!市民の皆さんは、大至急避難してください!』
――――リュミエール岬?!
そこにはティアーズたちがいるはずだ。
どうやらB.C.F.に居場所を感づかれたようだ。
ジェミニはフワニータとアイコンタクトを交わすと、すぐさま共にラリーに飛び乗った。
「ハイヤーッ!!ラリーッ!!!」
手綱を引き、二人は愛馬と共にリュミエール岬に駈けていった。
それを見届けたキラはラクスと眼を合わせた。
「ラクス。」
「……参りましょう、キラ。」
頷き、言葉を受け取ったキラは、彼女の手をとり、見せの傍らに止めてあった自分のバイクの後部に座らせた。
そして自分は前に乗り、ハンドルに手をかける。
「しっかり掴まってて!」
「はい。」
エンジンをフル稼働させ、二人はジェミニとフワニータの後を追いかけた。
避難する市民たちをビルの屋上から見下ろす、一人の少女。
「ユーノくん、ブルーコスモス・ファミリーって?」
少女は、ユーノと呼んだ、肩に乗っているフェレットに話しかけた。
「コーディネイターを嫌っている人たちだけで組織されたグループの呼び名だよ。彼らの目的は、コーディネイターの完全滅亡。そのためなら、どんな手段も選ばないよ。」
少女は、ユーノという名のフェレットの言葉を聴き、心の奥から“許せない”と言う感情が芽生えてきた。
そんな彼女の心境を察してか、胸元の紅い宝石が言葉を発する。
『マスター、少し落ち着いてください。』
「…?…レイジングハート?」
ユーノも、レイジングハートと呼ばれた宝石の言葉に便乗する。
「なのは、少し落ち着いて。許せない気持ちはわかるけれど、感情で動いたら元も子もないよ。」
「……そうだけど………。」
なのはと呼ばれた少女は、納得がいかなかった。
「…やっぱり、放っておけない。」
『マスター…。』
「だって、感情で動いているのは、あのブルーコスモス・ファミリーだって一緒じゃない。」
なのはの一言に、ユーノもハッとした。
言われてみれば、B.C.F.も“コーディネイターが敵だ”と言う怒りの感情だけで動いている。
そして、ただ単に“相手を滅ぼすこと”だけを考えて力を振るっている。
だけど、彼女は違う。
感情的に動くことが多いが、なのはは誰とでも解り合いたいと言う思いがある。
そして、その思いを遠くまで届かせる“不屈の心”がある。
「分かり合えないまま戦い続けるなんて、絶対イヤ!」
「…なのは………。」
既に、遠くで始まっているであろう戦いの場を、どこか悲しそうな瞳で見つめるなのは。
“困っている誰かが居たら、助けてあげたい”。
そう訴えている目つきと“リリカル”な性格は、出会ったときから変わっていなかった。
「行こう、なのは。」
ユーノはなのはに声をかけた。
「……うんっ!」
そして、長い間連れ添っているパートナーも。
『自重してくださいね。』
「にゃはは…☆」
「じゃあ、行こうか。」
「うん。行くよ、レイジングハート!」
『All right,My master.』
なのはは紅い宝石“レイジングハート”を手に取り、手のひらの上で浮かばせると、それを自らの目線の高さにまで上げた。
そして瞳を閉じ、“言霊”を紡ぐ…………。
“風は空に 星は天に 祈りを勇気に 思いを力に そして 不屈の心をこの胸に この手に奇跡の魔法の力を”
――――――レイジングハート・エクセリオン、セーット・アーップ!!!
――――――Stand by Ready. Set up.
その瞬間、少女の周りを、桜色の輝きが包んだ。
不意を衝かれたとはこのこと。
背後から突然奇襲されてしまうとは思いもよらなかったのだから。
てれび戦士たちは、突如として襲い掛かってきたB.C.F.にてんやわんやの大騒ぎ。
すぐさま、R.G.F.とU.W.B.の主力メンバーたちが“プラズマファルコン”と“ファイヤーガゼル”で出撃するも、後れを取ってしまっていた彼らにとって、戦況はあまりよろしくなかった。
しかも、今回のB.C.F.は全軍モビルスーツで出撃していたがゆえ、機動性と攻撃力、どっちをとっても相手のほうが圧倒的に有利だったため、ますますてれび戦士たちは後手後手のペースになっていった。
リーフのブリッジ内部も、緊迫を通り越して大混乱になっていた。
時折、相手の戦艦からの攻撃によって船体に更なるダメージが重なり、船全体を大きく揺らした。
「どわっ!……ユリア、状況はどうなってるんだ!?」
「R.G.F.、U.W.B.、ともに依然としてブルーコスモス・ファミリーのモビルスーツ・ナイトメアと交戦中!通信も繋がりません!」
「依然として最悪のムードは変わらないか…くそっ。」
このままでは戦艦ごと全滅も免れない。
どうすればいいものかと、竜一が対策を模索していたそのとき――――。
『ヒャ〜ッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!』
ドクターレイシーの笑い声が、通信越しで響いた。
同時に、モニターに彼の姿が映し出された。
「ドクターレイシーか!どうした!?」
『竜一さん、ついに完成いたしましたぞ!我々ティアーズの、オリジナルモビルスーツが!』
――――オリジナルモビルスーツ!!??
驚くべきことに、ドクターレイシーとチアキは極秘裏でてれび戦士専用のオリジナルMSを完成させていたのだ!
『これぞ、我らレイシー兄弟の大発明・呼称コードTMBS-00。』
『その名も、モビルスーツ“マサムネ”!じゃじゃじゃ〜ん!』
――――モビルスーツ“マサムネ”!?
格納庫で控えていたのは、1体の大型モビルスーツ。
姿形こそ、ライガーシールズのものと酷似しているが、外装とアーマーのカラーリングが多少異なり、肩の部分には“T.I.A.S.”の文字をあしらえた、“伝説のリモコン”のエンブレムが。
さらに、腰部には大型の日本刀も備え付けられていた。
『このモビルスーツは、ライガーシールズの皆さんの全面協力の下、シードピアのMS技術を応用し、我々二人で造り上げた完全オリジナルモビルスーツでございます。』
『基本システムとして、“テレヴィアンズWXPコンピュータ”も搭載しているため、機能の面も充実していますよ。』
「こいつはグッドタイミング!ドクターレイシー、すぐにでも出られるか!?」
『最終調整も完了済みです。乗り込んでいただけるのであれば、すぐにでも!』
「よし!俺が出る!七世、船の指揮とステラたちの面倒を頼むぞ!」
「OK!」
竜一はすぐさま格納庫へと向かうエレベーターに乗り込んだ。
レーザービームが飛び交い、そこらじゅうに響く爆発音。
『おらおらおらぁっ!待てっつってんだよ!』
「それを聞いて素直に『はい』って応えるか!」
ちひろの操るプラズマファルコンは、エンジンを全開に噴かしながら、相手の通信を突っ込み返した。
その後ろを追うのは、B.C.F.の高性能MS“ナイトメア”。
しかも、今回はそれが合計で15機以上。
対するティアーズは、いつもと同じ“プラズマファルコン”と“ファイヤーガゼル”が合計で13機。
数を取っても戦力を取っても、ティアーズが大幅に不利なのは火を見るよりも明らかだった。
このまま全滅を待つしかないのか?!
てれび戦士たちがそう覚悟した、そのとき。
『どけぇぇっ!!!』
ガッシャ――――――ンッ!!
『痛っ!!!』
背後に居たはずのナイトメアが、何かに落とされた。
彼女は、機体ごと視線を逸らすと、目の前に見たこともないMSが浮いていた。
だが、驚くべきことにそのMSの肩には、“ティアーズ”の証たる“伝説のリモコン”のエンブレムがあしらわれていた。
まさか――――――!!!
その予感は、次の瞬間に入れられた通信によって的中することになった。
『ちひろ、大丈夫か!?』
「り、竜一!?その機体は…!?」
『レイシー兄弟が用意した、俺たちの切り札だ!!相手のMSは俺が相手しておく!援護を頼むぞ!』
「…よし!」
百軍を得たような流れを感じたちひろは、すぐに機体を旋回させ、後方支援に回った。
「うわぁ……こりゃ凄いことになってるな。」
物陰から戦場の様子を窺う一人のカメラマン。
ライガーシールズの情報屋でもある“戦場カメラマン”、ジェス・リブルだ。
ジャーナリストと言う彼の本業柄、こう言った戦況の視察も行う。
てれび戦士たちの奮闘振りと、B.C.F.の猛攻の様子を、一枚一枚取り逃すことがないように、シャッターを切る。
もちろん、その中にはてれび戦士たちのオリジナルMSの物も混ざっていた。
「へぇ、てれび戦士もついにMSを創りだしたのか……、こりゃいいスクープになりそうだ☆」
戦況の中で所々に現れる決定的瞬間を逃さず、ひたすらシャッターを押していたジェス。
――――が。
突然彼の手が止まった。
―――――?
「今、何か変なのを見たような……?」
こういう雰囲気の場合、“気のせいかな?”と、確認もせずに気にしないほうへと向かうことがあるが、ジェスの場合は違う。
“真実”をこの眼で確かめ、それをシャッターに収めるのが彼の信条。
ジェスは、カメラのファインダーを覗き、辺りを見渡した。
すると、驚くべき光景が彼の眼に飛び込んだ。
「………!!!!」
―――――カシャッ
震える手でシャッターを切り、取った画像を確認する。
そこに写っていたのは……。
「そっ……空に、浮いている……お、お、女の子……!??」
---to be continued---
☆あとがき
これでもかなり加筆修正しました。今後の展開の辻褄合わせに一苦労です…。
さて、41話に初登場して間もなく、なのはがいきなり出陣です!
しかも、次回は色んな意味で“ド派手なデビュー戦”を飾ることになります。
どんなかと言いますと……“ネタばれ”ヒントはこちら↓(執筆中の原稿より抜粋+「」内反転)。
>ステラ「すごいすご〜い☆あの女の子のところにピンク色の星がたくさん集まってる〜★」
おそらく、『リリカルなのはシリーズ』のファンの皆さんなら、これだけでもうお解りかと思います。(笑)
そう、次回はいきなり“アレ”が出ます………!!(笑)