ラクスが語ったかつての婚約者、アスラン・ザラとの日々。
それは杏奈にとっても、そしてそれを密かに盗聴していた“ファントムレイダーズ”の遼希と梨生奈にとっても衝撃的なものであった。
まさか、彼女もまた“血のバレンタイン”の被害者だったとは思いもしなかったのだから……。
『それでその後、キラさんと知り合って、今に至るって訳ね…。』
『…はい。』
思わぬ大収穫をした遼希と梨生奈。
他に何か手がかりがないかと、引き続き盗聴を行うことにした。
ラクスの心の傷は想像以上に深かった。
彼女の過去を耳にした杏奈とラビはそう感じた。
曇りきっていた彼女の表情。
杏奈はそんな彼女の体を抱き寄せた。
「ずっと一人でそんな傷を抱えていても、余計に広がってしまうだけだわ。」
あの日以来、キラの前以外では涙を見せたことがなかったラクス。
でも、どうしてだろう。
この人は、まるで自分の心を理解しているかのようだった。
そう思うと、涙が止まらなかった。
「泣きたい時は泣いていいんですよ。誰だって、そういう感情は持っているのです。ね?」
やがて、ラクスの口から嗚咽が漏れ始め、それは次第に泣き声に変わった。
幼い少女が、母親に泣きじゃくるかのように、ラクスは声を上げて泣いた。
杏奈は、今まで見たことのない、歌姫の流す大粒の涙を受け止めた。
ラクスが泣き止むまで、ずっと、ずっと…………。
今、二人の間にかけがえのない友情が生まれようとしていた………。
杏奈とラビは、クライン邸を後にした。
別れ際、ラクスも「お話が出来てよかった」と、涙目になりながらも喜んでいた。
彼女と会話したことによって、幾つかの疑問が解けた。
「これで、ラクスさんの“かつての婚約者”についてと、彼女の過去についてが判ったわね…。」
「でも、話してくれた過去は、意外に重いものッス…。」
ラビは後ろの豪邸を振り返った。
「何だかラクスさんがかわいそうッス……。」
重い空気を感じつつ、二人はその場を後にした。
遼希と梨生奈は先ほどの彼女らの会話を聞き、頭が困惑していた。
彼らの話が本当だとするならば、ラクスはすでにアスランの婚約者ではないと言うことになる。
そして、万が一ここのラクスが正真正銘の本物だとすれば――――――。
「遼希、一旦アレクサンダーに帰還しよう!リーダーに報告しなきゃ!」
「うんっ!」
梨生奈に促され、ひとまず帰還を決意した。
「……何だと!?」
エターナル・フェイス総本部、ジェネシス・フォートレス。
その司令室でファントムレイダーズからの定時報告を受けていたデュランダルは、眼を軽く見開いた。
「間違いないのか、ブライアン。」
『Yes!ティアーズのメンバーの一人の追跡を行ったところ、ニュートラルヴィアにラクス・クラインが居るとの報告を受けました。』
ありえないことだ、絶対に!
現に彼女はこのゾロアシアで生活しているはずだ。
それが、ニュートラルヴィアに住んでいることなど、考えられない。
「何かの見間違えではないか?」
『ミーもそう思ったのですが、その調査報告の中で信じられない話が出てきたのです。』
次の瞬間ブライアンが口にした内容。
それは下手すれば、ゾロアシア全土に衝撃を与えてしまうかも知れないほどの、爆弾発言だった。
『ラクス・クラインは、あの“血のバレンタイン”に巻き込まれ、その際にシーゲル様を亡くしてしまわれたそうです!』
「なっ!?」
『さらにその際、アスラン・ザラと共に避難船でニュートラルヴィアに向かい、そのまま移住、その時に婚約を解消したとのことだそうです!!』
「そんなバカな!!?」
デュランダルは声を荒げ、思わず椅子から立ち上がった。
信じられん!
そんなことがあってたまるか!
思わず我を忘れてしまいそうになったが、ふと彼の脳裏に疑問が過った。
「……まてよ。そう言えばここ最近のラクス・クラインのイメージが180度変わってしまっているように見えるな…。」
ふと、何かを思い出し、再び椅子に腰掛けた。
長年シーゲルの傍らに付き、アスランとラクスの関係について色々と知ってきたデュランダル。
プライベートでも彼らの姿を目の当たりにし、その姿は理想のカップルにも思えた。
特にラクスは常に冷静で、アスランと二人で居るときも決して微動だにもしなかった。
だが冷静に考えてみると、最近よく見かけるラクスはアスランに対して積極的にアタックする傾向が強い。
人間、ほんのわずかでもイメージを変えることは必要。
やはり時間はかかるかも知れないが、悪いところを直すことは必要である。
だが、急激に人のイメージを変えてしまったら逆に相手が戸惑ってしまうことが結構多い。
それにテレビに出演するときも、パトリックと同じ主戦派の傾向が強い。
明らかに変わりすぎてはいないか?
何やら漂う言い知れぬ不安……。
しかし、これではまだ状況証拠。
確たる証がなければこちらとて動けない。
今は様子を見るしかなさそうだ。
「ブライアン、引き続きそちらのほうで調査を進めてくれ。もしかしたら、そちらのラクスが本物だと言う証拠があるかもしれない。こちらでも何か策を練る。」
『Roger!』
敬礼したブライアンは、通信を遮断した。
静まり返った司令室で、デュランダルは一人唸っていた。
もしも、こちらのラクス・クラインが偽者だとすれば……。
時を見て、パトリック・ザラに問いただしたほうがいいのかも知れぬ…。
彼女を自分の配下に置いているのは他ならぬ彼なのだからな…。
「そうやったんか……。」
「ラクスさんも、あの悲劇の被害者だったのか…。」
ティアーズ活動拠点・リーフに帰還した杏奈とラビは、ラクスが語ってくれた過去を報告した。
報告を聞いたメンバーたちは、悲痛な面持ちだった。
もし、自分たちがその事件に巻き込まれたとしたら……どんなに辛いことだろうか…。
「皮肉とはいえ、ラクスさんに関する情報は入手できたね。」
「でもこれは、俺たちだけの秘密にしよう。うかつには話せないよ、こんなの。」
望の意見に、みんなは賛同することにした。
ふと、さっきから気になっていたことをレッドが口にした。
「ところで…ゴルゴはどうした?今日の朝から全然見かけないんやけど……?」
「ゴルゴ伯爵だったら、レイシー兄弟を連れて“クリスティア島”に向かってますよ。」
「“カオティクス・ルーイン”について何か新しい発見がないか調べてくるって、張り切ってたけど…。」
望と幸生はあきれ口調だった。
大方、大発見をして、有沙女王からの好感度をあげようと必死なんだろう。
彼女に対する忠誠心だけは、人一倍大きいのが彼の取柄である。
「調子に乗ってバカをやらないことを願うばかりだな。」
「うんうん。」
全員が、そろってうなずいた。
―――は、ハ〜ックション!!
「うう…ちょっと寒気がしたような……。」
気のせいか。
そう言い聞かせて、作業を再開した。
「かぜですか?ゴルゴ伯爵。」
「あ〜、大丈夫だ。気にするな。」
ゴルゴは、レイシー兄弟を連れてカオティクス・ルーインに赴いていた。
相変わらず入り口は頑丈な石版で封印されているようだった。
「それにしても近くで見てみると、かなりでかいな…。」
「シードピアにこんな場所があるなんてねぇ…。」
チアキも始めて訪れる巨大遺跡に、驚くばかりだった。
「ところでチアキ、何か手がかりは掴めたか?」
「う〜ん…、これと言って新しい発見はどこにも―――。」
「ゴルゴ伯爵!!チアキ!!」
―――!?
別方向から聞こえた声。
ドクターレイシーだ。
二人は即座に彼の下に駆け寄った。
「どうしたドクターレイシー?何か、あったか?」
「こ、これを……!」
ドクターレイシーが何やら大きめの石版を抱えていた。
下手したら真っ二つに割れてしまいそうだ。
「おっとととと!」
咄嗟の判断でゴルゴが反対側を支え、石版を見た。
そこには何やら絵が描かれていた。
「な、何だこれ?」
「何か、絵が描いてあるみたいですけれど……。」
その絵は、5体のロボットと思しき物が巨大な敵に立ち向かっていくような、そんな雰囲気だった。
古ぼけたような感じからして、かなり前に描かれているものと推測できる。
「んんっ!?絵の左隅に何か文字が書いてありますよ?」
目線をそこに移すと、確かに何か描かれている。
どうやら英語のようだ。
「弟よ、その文字を読んでみてはくれないか?」
チアキがその文字に目を近づけ、朗読した。
「え〜っと…“GUardian Nexus-mankind Defend Awakening Maximum”……って書いてある。」
「はぁ?何だよそれ?」
3人にはチンプンカンプンだったが、文字を見ていたチアキがあることに気付いた。
「紅い大文字だけを読むと、“G-U-N-D-A-M”……『ガンダム』だって。何か変なの。」
―――ん!?ガンダム!??
チアキの言葉を聴いたゴルゴとドクターレイシーは、石版を地面に置き、その文字を見つめた。
確かに5つの単語の先端をつなげると、『ガンダム』と読める。
しかも、それらは全て大文字で紅く塗りつぶされてある。
「確かに、『ガンダム』とも読めなくもないな。」
「でも、なぜここだけ紅く……?」
3人は首をひねるだけだった。
「…!?これは……?」
「伯爵?どうしました?」
「見てみろ。ここにも何か文字が刻み込まれている。」
ゴルゴが指差したのは石版の右下。
そこにも文字が書かれてあった。
ゴルゴはそれを朗読してみた。
「なになに…?“Superior Evolutionary Element Destined-factor”…。何だこりゃ?」
すると、ドクターレイシーが衝撃的な事実に気付いた。
「ゴルゴ伯爵!この単語……先端をつなげて読むと…!!」
―――S-E-E-D
「「「SEED!!!?」」」
---to be continued---
あとがき:
非常に中途半端なところで区切ってます(苦笑)。
今回出てきた『GUardian Nexus-mankind Defend Awakening Maximum』と言う言葉、
僕が独自で考えたものなんです。かなりここも苦労しましたけど。
実はここだけの話、このシードピアにおける『GUNDAM』は“モビルスーツ”ではありません!
では一体どんな形で登場するのか?ぜひ、皆さんにも考えていただきたいと思います☆
さて、次回はまたまたゾロアシア視点でお送りします!
エターナル・フェイスの主力兵器も登場するので、お楽しみに!!