てれび戦士たち“ティアーズ”が、ブルーコスモス・ファミリーに勝利した直後であり、ステラが行方をくらます前のこと。
彼らはライガーシールズにつれられて、GLB司令室にやってきた。
しかし、その傍にはなぜか、あのとき戦闘に介入してきたカウガールも一緒だった。
甜歌は、そのカウガールの傍に近寄った。
「あの……あなたは一体……?」
視線を向けられたカウガールは、帽子をかぶりなおした。
「ボクは、ジェミニ・サンライズ。この世界じゃちょっと珍しい格好だけどね。」
確かに彼女の服装は、“時代遅れ”と言ったほうが相応しいかもしれないほど、変わっていた。
すると、予想もしなかった言葉が返ってきた。
「もしかして、君が“ティアーズ”のテンカちゃん?」
―――ええっ!!?
初対面の相手から、いきなり自分たちのチームの名前を言われた甜歌は、目を見開いた。
無論、他のてれび戦士たちも驚きの目を向けた。
「ど、ど、ど、どうしてあたしたちのことを知っているんですか!?」
「それには、僕が答えるよ。」
キラが会話に割って入ってきた。
「彼女は、僕たち“ライガーシールズ”の同盟と言っても過言ではない、ある秘密部隊の一員なんだ。」
―――秘密部隊!?
すると、ジェミニは胸ポケットの中から一つの小型ピンバッヂを取り出した。
それは大鷲をかたどったエンブレムに、イニシャルであろう『SC』の文字が刻み込まれているものだった。
「改めて自己紹介するね。ボクは『スピリチュアル・キャリバー』特殊派遣隊員、ジェミニ・サンライズ。よろしくね。」
キラは、彼女たち“スピリチュアル・キャリバー”に関する概要を説明した。
彼女たちの本来の姿、スピリード島の劇場内に隠された機密施設。
そして、そのメンバーの全て。
それはてれび戦士たちにとって、考えもしなかった事実だった。
「じゃあ…あのとき愛実と遊びに行った劇場が秘密基地で……。」
「劇団のメンバーが…その秘密部隊の隊員だったってわけね……。」
すると、ちひろがジェミニに質疑した。
「ジェミニさん、あなたは特殊派遣隊員だといいましたよね?では、あなた以外にも……?」
「うん。シードピアの世界各地に派遣隊員は何人かいるんだ。」
「ところで、ブルーコスモス・ファミリーに関して、何か有力な情報とかは……?」
それに対しては、彼女は首を横に振った。
「残念だけど、ボクでもそれは判っていないんだ……。」
ジェミニの答えに、その場にいたものが下を向いた。
だが、思ってもいなかった情報が告げられた。
「でも、彼らの居場所だと思う場所は暫定されている。」
―――え!?
「おそらく、空中コロニー“レクイエム”。」
ジェミニの話では、そのコロニーにも派遣隊員を3名送り込んでいるらしい。
彼らに関する情報が手に入るとすれば、彼らしか頼りがないだろう。
近いうち、彼らの本拠に攻め込む日がくるかもしれない。
そんな予感がしてきた矢先、突然誰かが入ってきた。
「キラ!大変だ!」
入ってきたのは彼らの情報屋だった。
「ジェス、一体どうしたんだい!?」
よくみてみると、彼の息は想像以上に荒く、肩で息をしているといった状況であった。
ジェスはそのまま、衝撃の情報を突きつけた。
「今さっきゾロアシア・ワールドから戻ってきたんだけど、そこに“もう一人のラクス・クライン”が現れたぞ!!」
―――な、な、なんだって〜〜!!!???
もちろん、当のラクス・クライン本人でさえも、目を見開いた。
「ジェスさん、それは本当なのですね……?」
「ああ。これがその証拠写真だ。」
甜歌と愛実もラクスの傍により、その写真を見た。
そこに写っていたのは、紛れもないラクスそのものの姿だった。
「……確かに、ラクスさんよね…?」
しかし、ここで甜歌があることに気付いた。
「あれ?でもよく見てみると……髪飾りが違うし、服装もまるっきり違う。」
確かに、この写真に写っている彼女とこちらのラクスは、違うところがある。
髪飾りは普段は三日月の形のはずが、写真の少女の髪飾りは星型をしている。
それに服装も、少々露出度の高い仕上がりになっている。
「言われてみれば……そうかもな…。」
ジェス改めてその写真とラクスを見比べた。
「どうやら、そいつは偽者のようだな。だけど、一体どうして……?」
カガリは今までの経緯を整理し、ふとある問題に気付いた。
「ジェス、この少女の評判のほうはどうだ?」
「それがさ、どういうわけか知らないが、その子こそが本物のラクスだと思い込んでしまっているようなんだ……。」
カナードは、事態の悪化を予感していた。
「もしこの情報が漏洩してしまったら、ますますニュートラルヴィアが大混乱になる。どうして彼女が“ラクス”として表舞台に立っているかを、徹底的に調べる必要があるな。」
「でも、カナードさん、うかつに僕らが動くわけには行きませんよ。ゾロアシアの“エターナル・フェイス”に気付かれたら、国交問題になり兼ねませんよ。」
―――エターナル・フェイス?
聞きなれない組織の名前に、てれび戦士は困惑した。
「ヤマト隊長、“エターナル・フェイス”とは一体…?」
「ゾロアシア・ワールドを所轄領域としている、特捜親衛騎団のことだよ。」
現状からして、どうやらライガーシールズの名はゾロアシアにも知れ渡っているようにも見える。
うかつには現場には入り込めなさそうだ。
ふと、そのときだった。
「お手伝いいたしましょうか?」
不意に聞こえた声。
その方向を振り向くと、そこにいたのは桃色の着物を身に纏った少女だった。
そして、なぜかその傍らには、金髪の少女もいた。
だが、ジェミニにとっては馴染み深い顔だった。
彼女らの存在を確認したジェミニは、驚きの声を上げた。
「さ、さくらさん!!それに、アイリスも!?どうしてここに!?」
「船でニュートラルヴィアへ向かおうとしたら、急に運行見合わせになって、何だか不安になったものですから。」
「アイリスの“しゅんかんいどう”でつれてきたんだよ。」
てれび戦士たちはどういう状況になっているのか、困惑して頭が追いつかなかった。
「これって一体…。」
「どういう?」
ふと、さくらはてれび戦士たちの困惑している状況が目に留まったのか、視線が彼らに向けられた。
するとさくらとアイリスの二人は、懐からあるものを取り出した。
驚くことに、それはジェミニの持つものとまったく同じピンバッヂだった。
「ええっ!?そのエンブレム…まさか!?」
「あなた方も“スピリチュアル・キャリバー”のメンバーだったのか!?」
「はい。私はスピリチュアルキャリバー隊員、真宮寺さくらと申します。」
「おなじく、イリス・シャトーブリアン。“アイリス”ってよんでね☆」
またしても予想だにしない展開に、てれび戦士たちはしばし呆然としていた。
今回の事件の一部始終と、ゾロアシアに現れた“もう一人のラクス・クライン”の一件。
そのすべてを耳にした二人は、真剣な面持ちになった。
しかし、ジェスが撮影してきた写真を見て、すぐさま異変に気付いた。
「……確かに、本物とは違いますね。」
「でも、むこうはこのひとを“ほんもの”のラクスお姉ちゃんとおもいこんでいるんでしょ?」
しかし、彼女が偽者だという証拠すら、まだ見つかっていない。
このままだとただの状況証拠だ。
こちらが不利になることも予測できる。
その場にいたもの全員が悩んだ末、竜一は一つの決断を下した。
「よし、決めた!」
その声を聞き、全員の視線が竜一に向けられた。
「危険だとは思うが、俺たちティアーズからゾロアシアに派遣部隊を送ることにする!」
―――えええぇぇっ!!!??
その言葉に、ライガーシールズは猛反発した。
「無茶ですよ!ゾロアシアはコーディネイターだけの城塞都市!あなたがたがナチュラルだと判ってしまえば、どうなることになるか!!」
「最悪の状況だけはなんとしても切り抜けなきゃいけない!俺たちがこのままじっとしているわけにも行かない!」
「しかし!!」
「静まれ〜ぃ!!!」
突然どこからかかかった制止の声。
振り向くとそこには、ライガーシールズの作戦参謀が控えていた。
「バ、バジルール長官!?」
ナタルは表情を変えないまま、彼らの中に入ってきた。
「今までの話は、失礼ながら聞かせていただきました。」
「ナタル…。」
まっすぐな視線はマリューを捕らえていた。
足元に落ちた写真を拾い、その中の少女の姿を見据えると、視線をキラたちに移し、やがて静かに言い放った。
「ご進言しますが、司令、今回は彼らに任せたほうが得策かと。」
「…何ですって!?」
確かに、ゾロアシアワールドはコーディネイターだけの住む鋼鐵の街。
そこに乗り込むには多少の覚悟を要する上に、ナチュラルというだけで拘束されることも考えられるでしょう。
だがしかし、真実を確かめる上ならば、その覚悟や勇気も必要!
危険と隣りあわせならば、それを乗り越えていくのも戦士としての勇ましさを試す試練!
彼ら“ティアーズ”には、どの人類とも平等に接していけるやさしさと、危険に立ち向かう勇気も持ち合わせている。
私は、彼らならば真実を掴んでくれると、確信しています。
「それに、今ならティアーズの名前は知られていないはずです。調査を行うならば、今がチャンスかと。」
「ナタル……。」
マリューやキラは、言葉を返せなかった。
てれび戦士たちはナタルを見据えた。
外見は冷静で、少々厳つい性格に思えた第一印象。
しかし、その反面、その冷静さがときに役に立つということを、彼らは身をもって知った。
すると、突然背後のドアから人影が。
入ってきたのは、てれび戦士たちの最高責任者だった。
「あれ?レッド隊長!?」
「ゴルゴ伯爵に、有沙女王まで!」
彼らの姿を確認したナタルは、3人に視線を向けた。
「ナタルさん、失礼ながら先ほどの会話、聞かせていただきました。」
「ならば、私の言葉の主旨は、ご理解していますね?」
「無論だ、ナタル殿。このティアーズ、正式に“ゾロアシア・ワールド”での極秘陰密任務を受託する。」
さすがのライガーシールズたちも、今回ばかりはティアーズに任せる以外なかった。
「よし、RGフォースからは甜歌と卓也、お前たちが行ってくれ。」
「「了解!」」
「愛実くん、今回は有沙女王さまもご同行になる。お前には女王様の護衛を頼むぞ!」
「アイアイサー。任せて!」
しかし、ここで一つの問題に気付いた。
「でも、あたしたちのこの服装じゃ、余計怪しまれそうな気が……。」
「ご安心ください。」
瞬時に反応したのはさくらだった。
「ここは、私のパートナーのアイリスの出番です。」
「まかせて!むこうにぴったりの“おようふく”、よういしてあげる☆」
すると、アイリスは何かを祈るように両手をからませ、呪文を唱えた。
「ゾロアシアワールドにぴったりの“おようふく”、でてこい!“トランス・コスチューム”!!えいっ!」
呪文と同時に、両手で押し出すような動作をしたアイリス。
すると、卓也たち4人の服装が瞬時にして入れ替わった。
「わ〜っ、すごい!」
スピリチュアル・キャリバーの特殊能力に、てれび戦士は驚いた。
「この服装なら、怪しまれずにすみそうだ!」
すると、アイリスは4人の傍に近寄り、4つの指輪を差し出した。
「このゆびわも、もっていって。」
それぞれに、赤、黄色、青、緑の宝石がはめ込まれたこの指輪。
これには特殊な力が備えられていた。
「これはあたしたちのアイテム“スピリード・リング”。ゆびにはめて、アイリスがいった“じゅもん”をとなえると、さっきのようふくにもどるよ。」
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。」
卓也は青の指輪、甜歌は黄色の指輪、愛実は赤の指輪、そして有沙女王は緑の指輪を受け取った。
真実を突き止める壮大な作戦が、展開されようとしていた。
その鍵は、卓也たち4人の運命に、託された。
一方、ゾロアシア・ワールドのジェネシス・フォートレス地下奥深く。
そこには、エターナル・フェイスの特殊部隊・ファントムレイダーズの作戦司令室が設けられていた。
任務を一任し、この日まで数多くの手はずを整えた彼らは、いよいよ明朝、ニュートラルヴィアに上陸することになった。
「いよいよ明日か……。」
メンバーたちが仮眠を取っていたその頃、ブライアンは一人、作戦司令室で思いふけっていた。
突然このシードピアに現れた謎の組織・ティアーズ。
ミネルバからの情報では、テレヴィアと呼ばれる世界からの来訪者とのこと。
このシードピアに住んでいる彼らでも、その世界を耳にしたことは一度たりともなかった。
偶発的に迷い込んだのか、あるいはここに来ることをあらかじめ計画していたのか……。
いずれにせよ、彼らに関する謎は未だ解明されておらず、それどころか、その謎が新たな謎を生み出しそうで、予想がつかないくらいになっていた。
「ともあれ、久しぶりに忙しくなりそうだな……。」
だがその翌日、ティアーズの一部のメンバーとファントムレイダーズの面々が、すれ違ってしまうことに、気付くことはなかった。
SEEDPIA CRISIS Episode1
GAME OVER
---To be continued Next Phase---
あとがき:
い、1ヶ月半以上も久しぶりの長編更新……(滝汗)
大変長らくお待たせいたしました、申し訳ございません!
さて、今回のこの第20話をもって、SEEDPIA CRISIS第1章は閉幕となりました。
次回からは第2章、ゾロアシアワールド中心の展開で連載しようと思います!
ゾロアシアワールドに突如現れた“もう一人のラクス・クライン”。
その謎を追うために派遣された卓也たち。
そこで彼らが目の当たりにし、耳にすること………。
果たしてそれが、後の卓也たちにどのような運命を残すのでしょうか!?
そして、ラクスの知られざる過去が明かされる………!!
SEEDPIA CRISIS第2章、近日公開します!お楽しみに!!