「ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!」
「姫さま!」
事件終了後の翌日、ルイズはサイトたちと共にハルケギニアの王城へとやってきた。
今回の一件の依頼を申し出た王女に、任務の終了を報告するためだ。
「無事に帰ってきたのね、ルイズ!」
「はい、姫さま!」
その背後には、一緒にハルケギニアにやってきたアンクの姿もあった。
「サイト、誰なんだ、あの女。」
「ハルケギニアのアンリエッタ姫だよ。ルイズとは幼馴染だってさ。」
「なるほど、道理で親しいわけだな。」
彼らに聞こえないようにひそひそと話す二人。
サイトの話を聞いてアンクは納得した表情になる。
「件の手紙は無事に取り戻しました。」
「あぁ、よかった…。あなたに頼んで本当によかったですわ。」
手紙を受け取り、安堵の表情を浮かべるアンリエッタ。
「ところで…そのお方は…?」
ふと、彼女はアンクの存在に気付き、首を傾げる。
「アルビオン王国の生き残りのアンクです。」
「レコン・キスタとの戦いに協力してくれたので、一緒についてくることになりました。」
簡単に紹介されたアンクは―――。
「まぁ、とりあえずよろしくな、お姫さん。」
ぶっきらぼうに答えた。
「ちょっと、アンク!」
「失礼なんじゃないのか!?」
サイトとルイズが咎めたが―――。
「いいのですよ、二人とも。なかなか凛々しくていいではないですか。」
アンリエッタは個性的な仲間が増えたと認識し、笑みを浮かべて二人を制する。
「…ところで、ワルド子爵は?」
「「!」」
……聞かれるであろう、一番答えにくい質問を言われてしまい、言葉が出ない二人。
「……?…あぁ、“レコン・キスタ”に組していた、白髭のオッサンか?」
「!!!」
アンクのざっくり且つバッサリと言い切ったその言葉に、アンリエッタは息を呑んだ。
「あ、あの子爵が“レコン・キスタ”ですって!?魔法衛士隊に裏切り者が居たなんて…!!」
信じられない気持ちに動揺するアンリエッタ。
ルイズも苦しい気持ちで彼女に報告する。
「私が結婚を断った途端にワルドが豹変して、手紙を奪い取ろうとしたんです。その時に、ウェールズ皇太子も襲われて…。」
―――っ…!!!
ワルドの目的はウェールズの抹殺。
どうしてそれを察せられなかったのか…。
「裏切り者を使者に選ぶなんて…っ…、わたくしがウェールズさまを殺したようなものだわ…っ…。」
肩を震わせて自分の不甲斐なさに涙するアンリエッタ。
そこにアンクが口を挿む。
「お姫さん、あんた、王子様のことが好きだったのか…?そのウェールズって奴を…。」
「えぇ…、私は彼を愛していたわ…、たとえ迷惑だと言われてもいい…、傍に居て欲しかった…。」
その涙と言葉に偽りは無い。
彼女にとって、彼の存在こそが全てだととっても差し支えなかった…。
「なるほどな…。」
彼女の気持ちを理解したアンクは一言そう言い―――。
「―――…聞いたとおりだぜ、ウェールズさんよ!」
「……え…!!??」
その視線を後ろに向けた。
耳を疑ったアンリエッタはアンクの視線の先――、扉の向こうに眼を向けた。
すると、その扉の向こうから、二度と会えないと思っていたその凛々しい顔と姿が入ってきた。
「…!!!」
今度こそ驚きで言葉を失った。
「確かにウェールズは“襲われた”と言ったが、“死んだ”とまでは言ってねぇぜ。最後まで聞けっつーの。」
アンクの突っ込みにルイズとサイトは苦笑い。
“人が悪い”と言われそうな展開だったが、彼女にとってそんなのは関係なかった。
「ウェールズさま……!」
「アンリエッタ…!」
名を呼ばれたアンリエッタはそのまま彼の元へ駆け寄り、抱きついた。
「よかった…、ウェールズさま……!」
ウェールズにとってはまだ複雑な心境だった。
いかに父上の願いとはいえ、敗戦を味わった国の王子が、こんなところで生き残っていいものかと言う迷いがあったからだ。
「…おい。」
ふと、アンクがルイズとサイトに声をかける。
「しばらく、二人きりにさせるか?」
「…そうね、久しぶりの再会だもの。二人でゆっくり話をさせましょ。」
「あぁ、わかった。」
3人は、気を利かせてその場から一時退場、この場には二人しかいないことに…。
「……ウェールズさま…?」
やがて、アンリエッタは彼の様子が少し違っていたことに気付いた。
「アンリエッタ…、僕はまだ分からないんだ…どうしていいのか…。」
「…?」
僕はあのときの戦いで、死ぬつもりだったんだ。
君が異国に嫁いで新たな同盟を結ぶと言う手紙を見て、僕もそのほうがいいと思っていた。
アンリエッタのために死ねるなら、それもまた僕の誇りだと…。
君への叶わぬ恋を、あの世まで持っていってしまおうと思ってた。
だけど……僕はこうして生きて君のところへ来てしまった。
敗戦国の末裔など、僕にとっては生き恥をさらすも同然だ…!
「だから、僕は―――。」
そこから先の言葉がいきなり塞がれた。
アンリエッタからの不意打ちの口付けによって。
「……!!!!!!」
これにはウェールズも驚くしかなかった。
「それ以上は言わないで下さい…っ…。」
あなたがどのようなお覚悟で戦いに挑んだのかは存じ上げません。
しかし、わたしにとってそのような誇りは関係ありません。
たとえそれが、あなたにとっての生き恥であろうとも…、それが元で蔑まされてしまおうとも、私はあなたさえいればそれで良いのです。
私は、心の底からあなたを愛しているのです。
私はあなたへのこの愛を胸に、これからずっと二人で生きて行きたいのです。
その苦しみと悲しみを、私に分けてください。
私がずっと笑顔で居られるように、そして、あなたがずっと、笑顔で居られるように…!
「アンリエッタ…!」
目じりに涙をたたえて見つめたまま紡いだ自分の想い。
真っ直ぐに見つめられたウェールズは、反論が出来なかった…。
「…それとも…、こんな私のことを、お嫌いですか?」
「ッ…!!!そんなわけないだろっ!!!」
意地悪な気持ちも少し含まれていたアンリエッタの質問に、ウェールズも言葉を荒げた。
「僕だって、君を心から愛しているんだ。でも、君が悲しむ姿を見たくなかった…。だから僕は―――。」
「“誇りを胸に命を賭して戦う”。そうおっしゃるのですか?」
「!」
言葉を悟られた。
王家の“誇り”や“名誉”など、もう拘る必要はありません。
それは全て捨ててください。
私を愛し、守りたいと思うそのお気持ちは痛いほどに分かります。
しかし、それと同じように、私もあなたを愛しているからこそ、あなたを守りたいのです。
もしも、本当にあなたのことを蔑む方がいるのであれば、そのときは、私がウェールズさまを守ります。
あなたのその涙を受け止める、ウェールズさまのアンリエッタでありたいのです。
「……!」
優しいほどのその笑顔に、ウェールズの涙腺が緩んだ。
それはまるで、自分の胸の痛みを受け止めてくれる母のような慈愛であり、聖母のような輝き、女神のような勇ましさであった。
「愛しています、ウェールズさま…。」
アンリエッタは彼の頬を両手で包み込むと、優しく引き寄せ、柔らかい口付けを交わす。
そのとき、二人の瞳から涙がこぼれたことを、誰も知らない。
しかし、それは決して悲しみから来るものではないことを、二人は知っている……。
二人の脳裏には、かつて愛を誓い合った瞬間の言葉が過ぎっていた。
―――風吹く夜に…。
―――水の誓いを…。
後で聞いた話だが、実はサイトとルイズがアルビオンに来ていたのは、ハルケギニア王国のアンリエッタ王女の依頼に関係していたのだそうだ。
あの時王女は、アルビオンを乗っ取るであろうレコン・キスタの襲撃に備えて、同盟を結ぶための政略結婚を行おうとしていたらしい。
その婚姻を妨げる最大の要因が、ルイズたちが手に入れた“アンリエッタとウェールズの恋文”だった。
これが世間に知らされれば、その政略結婚と共に同盟は破棄され、ハルケギニアは最大のピンチに見舞われただろう。
恐らく、ワルド子爵はどこかでその情報を耳にし、その手紙を強奪するために今回の旅に参加したのだろう。
彼がレコン・キスタの仲間に加わっていたのは、そのときからずっと前の可能性が高い。
もし恋文の件もずっと前に知っていたとすれば…、ワルドはかなり狡猾な人物だったと言うことになる。
今思えば、あの男は恐ろしい存在だ。 |
ウェールズとアンリエッタが二人きりで話しをしていた頃、その場から席を外したサイトとルイズは、二人の居る謁見の間から少し距離を置いた廊下まで移動していた。
「なんだか、色々ありすぎて、言葉が出ないよな…。」
「そうね…、でも良かった。やっと二人が巡り合えて…。」
「あぁ…。」
離れ離れになっていた従兄妹同士であり、恋人関係を持つ二人。
これからじっくりと今後を話し合ってもらうとしよう。
「……ねぇ、サイト。」
「…?」
「…あのとき、“私のことが大好きだ”って言ったわよね…。それ…ホントなの…?」
…改めて聞かれた、サイトの叫びの真意。
ルイズのその言葉に、サイトはゆっくりと頷き肯定を示す。
あの時俺も、無我夢中って言う感じで叫んじまったから、“どうしてあのタイミングで?”って言う気持ちがあったんだけど…、ルイズのことを思ったり、ルイズの顔を見る度に、胸がドキドキしてたのは、間違いなかった。
今でも俺、ルイズと二人きりで居るってだけでドキドキしててさ…。
最初は、“恋”なんてしていないって思ってたんだけど……、ルイズが他のカッコイイ男と一緒に居るところを見ていたら、そいつに嫉妬していたりして、ルイズに八つ当たりするくらいに、俺は胸がズキズキしてさ…。
今思えば、その気持ちがルイズへの“恋心”だったんだよな…。
ルイズがスキだって分かったのは、ルイズが危険にさらされているって分かって、胸が高鳴ったときだった。
俺はそのときから、その気持ちを抑えきれなくって、それで、あのときに……。
ルイズは彼の告白を聞いて、目を丸くしていた。
サイトのその気持ち…、それはまるで…。
「なんか、みっともなかったかな…。俺が嫉妬してルイズに八つ当たりするなんて…。」
顔を真っ赤にして俯きながら自嘲するサイトの手を、ルイズは静かに握った。
「……そんなことないよ。」
「…え…!?」
あたしだって、あんたには何度も嫉妬してた。
あたしだけの使い魔のはずなのに、キュルケやタバサや姫さまやメイドにデレデレしていたし、そんな光景を何度も見る度にあたしはその数だけ怒ってたし…。
それに、あたしも恋なんてしていないって言い聞かせてたんだけど、頭の中に浮かぶのはサイトの顔ばかりだったし、サイトのあの叫びを聞いた途端に、あたしの胸も凄くドキドキしてきて…。
その時に、私の迷いが消えたの。
あたしも、このときだけは素直になろうって…。
「だから…、あのときの返事をさせて。」
ルイズは、頬を真っ赤に染め上げながら、サイトの顔を見てはっきりと言った。
―――あたしも、サイトが好き
その告白に、サイトの目が見開いた。
サイトは震える声で、彼女に問うた。
「……本当に…?」
「…うん…っ」
二人の胸はコレ以上ないくらいに早く脈打ち、抑え切れない喜びと共に二人は躊躇なく抱きしめあった。
「ルイズ…!ルイズ…っ…!!」
「…サイト…っ、大好き…っ…!!」
お互いの体が壊れるんじゃないかと思うくらい、二人は強く抱きしめていた…。
因みに、そこから少し離れた廊下の角でアンクが密かに見ていたのだが…。
「八方丸く収まったって感じだが……、急展開過ぎるぞ…。」
…と、若干呆れていた…。
一方、そんな二つの恋が芽生えていたハルケギニアの城の外では、今回の戦いに協力していた翔太郎が“デンデンセンサー”のゴーグルモードを使って、その様子を見ていた。
隣には、サイトに剣術を叩き込ませた師匠・剣崎一真の姿も。
「今回はまさに、“恋”がらみの戦いと言った感じだったな。」
「ワルドとルイズの“偽りの恋”に始まり、ルイズとサイトの“主従を越えた恋”と、ウェールズ皇太子とアンリエッタ姫の“従兄妹同士の恋”、か…。」
この異色とも言うべき恋の模様を、二人は興味深く見守っていた…。
人が誰でも恋愛をするのはよくあることだが、その形も人それぞれ。
今回の恋はどれも他人からすれば“異常”だと捉えるかもしれない。
だが、“使い魔”と“主”と言う関係すらも超えた、あの二人の今後の人生が、俺はどうも気になって仕方が無い。
あの二人は、意外と素直じゃないところがあるから、それが原因でぶつかり合って大喧嘩してしまうことがこれからも多々あるだろう。
だが、その分あいつらはお互いを理解しあって、大きな絆へと成長させるかもしれない。
“あの二人に幸あれ”と祈らせてもらうとしよう。
…そうそう、今回の戦いで一足早く活動していたレンジャーズストライクだが、俺たちを地上まで送り届けた途端、嵐のように去っていってしまった。
忽然と現れて忽然と姿を消した戦士たち。
おそらくはメディアに掴まることを考慮しての対応かもしれないが…、結局彼らが何者であるかと言うのは分からずじまいとなった。
ただ言えるのは……、“噂”の存在でしかなかった“レンジャーズストライク”が、確かに実在していたと言うことである。
彼らと再び出会えることがあるとしたら、それはいつになるだろうか…。
その心と体に宿した五色の光は、今も何処かで輝いているのだろうか…。
……いや、きっと必ず輝いているはず。
そう信じたいと思いながら、この報告書の紐を結うとしよう。
<鳴海探偵事務所・所属探偵:左翔太郎>
<“白の国・アルビオンの最期の戦乱事件”報告書より抜粋> |
--Mission Complete(状況終了)--
☆あとがき
特別短編これにて完結ッッ!!!!!!
…と行ったわけでございまして、約2ヶ月間・計4話の特別短編、いかがでしたでしょうか?
シードピアとしては久しぶりとなった短期連載、無事に終わらせることが出来て良かったです☆
“ゼロの使い魔シリーズ”の登場キャラの調整の際に、“ウェールズ皇太子は生存している形で行きたいと思いますが、それに関する出来事にレンジャーズストライクを活躍させましょう”と、アキッキーさんからのメールで頂いたのが全てのきっかけでした。
それから数ヶ月、こうして特別短編と言う形でその外伝を作ることが出来て、本当に嬉しい限りです☆☆
なお、ウェールズ皇太子には、シードピア本編でも活躍していただきたいと思っていますので、今後も見守っていただきたいと思います!
では、これからもシードピアシリーズをよろしくお願いします!