SEEDPIA CRISIS外伝 in ハルケギニア
〜結婚と裏切りと欲望の復活〜


〜Situation4:Time Judged All〜


「「はああぁぁぁっ!!!」」

「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!」




コマンダードーパントとなったワルドと、オーズの力を得たサイト、そして赤き魂の後継者・アキッキー。

その一戦は思いのほか激しいものになっていた。

「相棒!俺を使え!」

「おう!」

デルフに呼ばれたサイトが彼を手に取る。



―――ピカアアァァッ!!!

「「「!?」」」




すると、左手のガンダールヴのルーンがオーズの力と共鳴し、デルフリンガーが光に包まれた。

「何っ!?」

「デルフ!?」

思いも寄らなかった展開に、3人は怯んだ。

「これは…!」

アンクも予想していなかったらしく、驚くと共に興味深さも芽生えた。

「すげぇ!力がこっちにまでみなぎってくるぜ…!」

光に包まれたデルフリンガーが徐々にその形を変え、黒い大型の剣に変貌したのだ。

「……!!!」

サイトは言葉を失ったと同時に、相棒のいきなりの変身に心を高ぶらせた。

「すごいぜ…!」

オーズに変身すれば、相棒のデルフもそれに併せた姿に変わる。

おそらくはそういうことかもしれない。

「よし、行くぜ!」

「おう!」

士気を上昇させたサイトはその剣を手にワルドに迫る。



「そうはさせるか!!」

―――シュバババババッ!!!




しかし、ワルドも負けじか、自身の持つユビキタスを使って再び分身を作り出した。

「またその手か!」

「くそっ…、どうすれば…!?」

これにすぐに動いたのはアキッキーの方だった。



「だったら、これだ!ソウル降臨、ニンジャレッド!!」

<CHANGE、“NINJA-RED”>




アキッキーはその名の通り忍者の意匠を持つ赤い戦士に変身した。



「隠流忍法・分け身の術!!」



そしてすぐに、忍者としてはよく耳にするであろう、分身の術を使い、ワルドの分身を相手に立ち向かっていった。

サイトにとっては別次元の戦い。

こんなのについていけるのか…!?

「サイト!」

ふと、背後からアンクの声が聞こえ、振り向いた。

…と同時に、自分の目の前に2枚のメダルが飛び込んできたので、反射的にそれをキャッチする。

受け取ったのは、それぞれクワガタムシとカマキリの姿が描かれた緑色のメダルだ。

「赤と黄色のメダルをそれに差し替えろ!」

「わ、分かった!」

言われるままに、“タカ”“トラ”のメダルを引き抜き、代わりに“クワガタ”“カマキリ”のメダルを装填する。

そして、それをスキャニングすると―――。







[クワガタ!カマキリ!バッタ!]

[ガ〜タガタガタキリッガタキリ♪]








クワガタの意匠を持つ仮面と、カマキリを思わせる腕に変化し、特有の変身ソングが鳴り響いた。

「が、ガタキリバ!?」

先ほどの“タトバ”と言い、初見からすれば変な名前のフォームだなと思うのは必至。

「それにさっきの歌といい…、なんなのこれ…!?」

また、変身の際の特有の変身ソングも違和感を覚えるのも当然である。

しかし―――。

「歌は気にするな。それよりも、そのコンボなら、あいつの分身に対抗できる。

「!?」

すると、脳裏にある光景が過ぎった。

それは、ガタキリバコンボの戦い方だった。

「……よし!!!」

それを学んだサイトはデルフを再び手に取り、意識を集中させた。



―――シュババババババッ!!!



次の瞬間、瞬時にサイトの分身が多数作られた。

その数、なんと50人!



「行くぞ!」

『おおおぉぉぉっ!!!』




しかも、“ユビキタス”の魔法と同等の力を持っているようで、それぞれが実在した分身且つそれぞれの意志を持ち合わせていたのだ。

「何!!!??」

「うわ、これはすごい…!!」

自分たちの分身の十倍に相当する数に、驚きを通り越して恐怖に値したワルド。

対抗するどころか、分身の数から圧倒的な状況になっていた。

『どおおおぉぉぉりゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

アキッキーたちとサイトたちは、一気にワルドに襲い掛かった。



「ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!??」

―――ズドドドドドドドドドド…。




……悪く言えば“集団リンチかよ”と突っ込みたくなる、恐ろしい一斉攻撃だった。

攻撃終了後、サイトとアキッキーは分身を解除して距離を保つ。

その攻撃で一気に体力を削られたワルドだったが、まだまだ戦いは終わらない。

「まだだ…!まだ終わらんぞ!!」

ワルドは再び立ち上がり、二人に迫ってきた。

「サイト!次はコレだ!!」

「!?」

再びアンクから投げ渡された3枚のメダル。

それは、先ほどの“トラ”のメダルと、“ライオン”“チーター”が描かれた、黄色系統の3枚のメダルだった。

「分かった!」

緑のメダルをそれに全て総取替えし、スキャニング!









[ライオン!トラ!チーター!]

[ラッラットラーター♪]










ライオンをイメージした仮面と、トラをモチーフにした腕、そしてチーターを思わせる脚。

猛獣系の力を備えた黄色い姿・ラトラーターコンボだ。



「だったら、ボクはコレで行こう!ソウル降臨・ガオレッド!!」

<CHANGE、“GAO-RED”>




味方が猛獣ならこちらは百獣の力を借りる。

アキッキーはライオンをモチーフにした赤い戦士に変身した。

その名も――。

「灼熱の獅子・ガオレッド!!!」

第3ラウンドの準備は整った。

「「いつもより、やる気マンマンだぜ!!!」」

どこかで聞いた気合の一言と共に、ワルドに向かっていった。



―――ビュウウゥゥゥン、ズガッ!!??

「ぬおっ!!??」




…のだが、チーター並みの脚力を備えたサイトは想像以上のスピードでワルドに迫っていき、すれ違いざまの一撃を浴びせた。

「こ、これはすごい…!」

「早っ!!」



アキッキーはもちろん、サイトもこの早さには驚かざるを得なかった。

「ちょこまかと!」

「させるか!!」

―――ピカアアァァッ!!!

「ぐうぅっ!!??」



ワルドは反撃に移ろうとしたが、ライオンメダルの力を使った閃光攻撃で目を晦まされた。

「今だ!」



―――ブレイジング・ファイヤー!!!

―――ズバッ!!!

「ぐおおぉっ!!??」




その隙を突いたアキッキーが、この姿での固有装備“ライオンファング”を取り出し、炎をまとった一撃を炸裂させ、ワルドを吹き飛ばした。

「よし、次はこのコンボだ!!」

―――ヒュッ

続いてアンクから手渡されたのは、銀色のメダルが3枚。

“サイ”“ゴリラ”“ゾウ”がそれぞれ描かれている。

メダルを受け取ったサイトは先ほどのメダルと取り替えて、装填した3枚の銀色のメダルをスキャニング。









[サイ!ゴリラ!ゾウ!]

[ゴー!…ゴー!!]










サイの意匠を思わせる白い仮面と、ゴリラを思わせる大きな手甲、そしてゾウのような足。

それぞれの特徴は、“体重が重くて力強い動物”の繋がり。

“重力”を操ることの出来るパワー系コンボ“サゴーゾ”である。

「うおぉ、これは強そうだ!」

「ゴリラのドラミングの要領で胸を叩きまくれ!周りの重力を操れる!」

「分かった!」

そのアンクの指示に従い、サイトは無我夢中でドラミングを開始した。



「うおおおおぉぉぉぉ!!!だあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

――ドンドンドンドンドンドン……!!!!




「な、何だ!?」

そのドラミングに共鳴し、ワルドを中心にした周囲の重力が操られ、宙に浮いた。

「うおおぉぉっ!!??」

宙に浮いた状態ではワルドも身動きがとれず、ジタバタするしかなかった。



「ソウル降臨・デンジレッド!!!」

<CHANGE、“DENJI-RED”>




その間にアキッキーは、頭部に電子機器を埋め込んだ赤い戦士に変身した。

その手には、この姿での特有装備である銀色の大型グローブが。

それをガンガンとこすり合わせながら、全速力でワルドに迫る。



「“デンジパンチ”!!!」

―――ドゴッ、バゴッ!!!

「ゴフッ!!??」




強烈な一撃がボディブローの如く決まり、再び壁に叩きつけられたワルド。

この怒涛の攻撃には、いかにドーパントとなって強靭な体になったワルドの体も、もつはずがない。

いよいよまずいことになってきた。

「怯むなサイト!今度はコレを使え!!」

――ヒュッ!

しかし、まだまだ戦いは終わらない。

続いてアンクから渡されたのは、青のメダル3枚。

“シャチ”“ウナギ”“タコ”のメダルを装填して、再びメダルを読み込む。







[シャチ!ウナギ!タコ!]

[シャシャシャシャシャシャ♪]








シャチを思わせる青い仮面、ウナギをモチーフとした腕、そしてタコをイメージした脚。

海洋系生物の力をまとった姿、“シャウタ”コンボである。

「おのれえぇ!!」

このまま負けてたまるかと、ワルドもミサイルを発射させて反撃に転じる。

「ハァッ!!!」

しかし、ウナギの力を借りた電気鞭・ボルタームウィップを発動、全てのミサイルを叩き落した。

「何っ!?」

ミサイルまで全て落とされたとあっては、ワルドも最早、万事休すか!?



「ソウル降臨、“アカレンジャー”!!」

<CHANGE、“AKA-RANGER”>




その傍らで、アキッキーはマントを身に付けた赤い戦士に変身、仮面から固有アイテムを取り出した。

鞭型の万能アイテム・レッドビュートである。

―――ビシッ それを使って、ワルドを縛る。

さらにサイトも、両腕の鞭を使ってワルドをさらに拘束。



「「せ〜のっ、たあああぁぁぁぁっ!!!!!」」

「ぬおおおおぉぉぉぉぉ!!!??」




すると二人は息を合わせてワルドをブンブンと振り回し始めたではないか!



「「それええぇぇぇっ!!!!」」

「うわああぁぁぁぁ!!!」




そして勢いそのままにワルドを真上に放り投げてしまった。

「な、何と言う…!」

「圧倒的。」

「すごいわね…!」

今まで戦いを見ていたルイズたちも、ここまでの快進撃は思っても見なかったから、言葉が出ない…。

「サイト、これでとどめだ!!」

とどめと称して渡されたのは3枚の赤いメダル。

“タカ”“クジャク”“コンドル”―――。

いずれも鳥の姿を模ったものだ。

それを装填し、スキャニングする。







[タカ!クジャク!コンドル!]
[タ〜ジャ〜ドル〜♪]








赤みを増したタカの仮面と、クジャクをモチーフとした腕、そしてコンドルをイメージした足。

炎をまとった翼の戦士・“タジャドル”コンボである。



「サイト、ボクも一緒に飛ぶぞ!ソウル降臨、レッドホーク!!」

<CHANGE、“RED-HARK”>




アキッキーも最後の仕上げと言わんばかりに、鳥の意匠をその体に宿す赤い戦士に変身した。

「よし、行こう!!」

「おう!!」


二人は翼を羽ばたかせ、上空へ飛び立った。

「番場さん、僕たちも追いかけましょう!」

「よし!イクス、“スピリット・オブ・レンジャー”を出してくれ!」

『了解!』

「俺たちも追うぞ、グランジェイカーに乗ってくれ!」

「OKだ!」

一同はそれぞれの飛行戦力で、サイトたちの後を追いかけることにした。



















アルビオンからさらに上空、成層圏にも届きそうな遥か上。

「くぅっ……よもやこの僕がここまで追い詰められるとは…!」

ワルドは今回の戦いにおいて自分がここまで完膚なきまでに叩きのめされるとは思いも寄らなかったことに、悔しさを滲ませる。

しかも現在自分は振り飛ばされて上がりきって、急降下中である。

――バサッ!

「!」


そこに現れたのは、彼の使い魔であるグリフォンだ。

「フッ、助かったぞ。」

さて、グリフォンが来てくれたとあれば、最早ここに用は無い。

早急にここから脱出を―――。



「ワルドオオォォ!!!!!」

「!!!」




サイトの叫び声がその思考回路を中断させた。

「ルイズを、アンリエッタ姫を、ハルケギニア全てを裏切ったてめぇだけは…、
絶対に許さねぇ!!!」


タジャドルとなったサイトのそばを、アキッキーが翼を羽ばたかせて続く。



「この一撃で決着をつける!お前の野望もここまでだ!!!」

「よかろう!返り討ちにしてくれる!!!」




ワルドもそれに受けて立つ覚悟で、グリフォンの手綱を握り、サイトたちに迫る。

しかし、ここにきてワルドはあることに気付いた。

「…!?」

サイトのベルトのバックルにメダルが無いのだ。

だが、それに気付いたのも、時、既に遅し。









――――カンコンキンカンコンキン………

――――ビキュゥン!

[タカ!クジャク!!コンドル!!!ギン!!ギン!!ギン!!]

[ギガスキャン!!!]












実はこの上昇中までの僅かな間に、サイトはベルトのメダルを左腕の特有装備“タジャスピナー”に装填していたのだ。

それを使ってメダルを一挙に6枚スキャンし、オーズの力を極限まで高めたサイトは炎に包まれた。

さらに彼はダメ押しといわんばかりに、手に持ったデルフリンガーの中に、タジャスピナーのセルメダル3枚を投入し、それもオースキャナーで読み込ませた。









―――カンコンキン、シャキイィンッ!!!

[トリプル!スキャニングチャージ!!]










力を溜めたデルフリンガーは、まるで刃を磨がれたように鋭さを増していた。

さらにアキッキーもベルトの“ブリンガーソード”を抜刀し、サイトの炎の中に同化した。



「これがボクたちの最後の一撃!」

「そしてこれが、お前に捨てられたルイズの怒りの炎だぁっ!!!」




その姿は、まさに“炎をまとった巨大な不死鳥”だった…!!

















「ま、まさかあぁっ!!!???」

















「豪炎繚乱!!!」



「煉獄一閃!!!」





マグナフェニックスブレイカアアァァッ!!!!!!





―――ズガアアアアァァァァンッ!!!!!!


















まさしく“不死鳥の怒りの大突貫攻撃”と表現すべき、最大級の決め技が炸裂したのだった。









「燃え尽きろ!!」

「偽りの恋と共に!!」

―――パチンッ!!






決め台詞と共に指を鳴らし、ついに戦いは決着した。





「こ、こんな、バカな…!!!」

―――ドガアアアァァァァンッ!!!!








使い魔までも巻き込んだ大爆発によって、ワルドの変身は強制解除された。

――ヒュウウウゥゥゥ……。

力を全て使いきったワルドとグリフォンは、そのまま自由落下していった。











「フル・ソル・ウインデ!」











ふと、その彼らに“リビテーション(浮遊)”をかけた声。

“スピリット・オブ・レンジャー”の甲板に来ていたタバサだ。

もちろん、キュルケたちも、番場たちも甲板に合流しており、その傍にはグランジェイカーに乗って合流していたジャンパーソンたちもいる。

その浮遊魔法で甲板に下ろされたワルドたち。

彼の後を追ってサイトたちも合流し、アキッキーと共に変身を解除した。

「キャ〜ッ!ダーリン、物凄くかっこよかったわぁ☆」

「君がここまで出来る人間だったなんて思わなかった、本当に凄いよ…!」

「強かった…。」

仲間たちがサイトの下へと駆け寄る。

普段は無表情なタバサも僅かに微笑むことから、今回のことは彼らの記憶にも非常に印象強く残ったことだろう。

だが、賞賛された本人はその言葉を耳に止めておく程度にし、足早にルイズに近寄った。

「ルイズ…。」

「サイト…。」

今日の出来事がジェットコースターのように過ぎていったのを感じていたのか、二人はお互いに言いたいことがあったはずだったのが、全て飛んでしまったらしい。

なかなか言葉が出なかった。

ようやく言葉を搾り出したのは、サイトのほうだった。











「…昨日は、ごめん。」

「…!」









「意地っ張りだったよな…、俺…。」

サイトは、自分のことを自嘲するかのように、懺悔にも似た言葉を紡いだ。















ホントの事言うと…、俺、ワルドに嫉妬していてさ…。

最初、自分でもワルドのことが凄くかっこよすぎるって思ってたし、“ルイズの婚約者”だって言っても何の不思議も無いって思ってた。

でも、あれから何度も二人を見るたびに、胸の奥がギスギスするって言うか、ズキズキするって言うか…、心が痛かったんだ。

何の力も備わっていないただの平民の使い魔。

そんな自分の不甲斐なさを何度も考えるたびに、イライラしてさ…。

ルイズは俺のことを気にかけてくれてたのに…、そのイライラをお前に無理矢理押し付けてたんだよな…。
















「あんなんじゃ、お前に嫌われるのも当然だよな…。」

瞳を逸らしたサイトの悲しそうな笑顔。

ルイズは見たことのなかったその表情を見た途端、胸の奥で“チクリ”と言う小さな痛みを感じた。

“そんな顔を見たくない”。

その気持ちが強かったから…。

「……もういいわよ、その事、気にしなくても…。」

「……え?」

思っても見なかった言葉に、サイトは少しだけ目を見開く。

ルイズは何も言わずに彼に近寄ると、ゆっくりと抱きしめた。

「……さっきのあんたの言葉、恥ずかしかったけど…嬉しかったから…。それで許してあげる…。」

「ルイズ…!」

「…その代わり、もうどこかに行っちゃあ、やだよ…!」

か細く聞こえるルイズの言葉に、サイトは優しく抱きしめることで応えた。

「む…、何だかうらやましいんだけど…。」

「一体、あの二人に何が…?」

「…知らない。」

蚊帳の外になってしまったキュルケたち、どこか気に食わない雰囲気を感じていた…。

一方で、二人の微笑ましい円満の様子に笑みを浮かべるアキッキーたち(一部を除く)。

そして、翔太郎もワルドの傍に寄り、二人を見ながらワルドに説く。











“恋愛”ってのは、男女がどれだけ長く接しているかでその大きさが決まるものじゃねぇのかな。

それを“遊び”だと称したり、何の根拠も無い“口実”や“道具”だとするのは、どっかの三流の詐欺師のやり方だ。

あんたはサイトと比べて、ルイズと接していた期間があまりにも短すぎたんじゃないのか?

それに、お前は大きな力ばかりを貪欲に求め、“婚約者”と言う関係すらも計画の道具として利用した。

故に行き着いたのが、このガイアメモリと言う禁断の力。

そしてその結末は……、見ての通りさ。












ワルドの視線の先には、先ほどの攻撃で見事に強化アダプターごと“メモリブレイク”された、自分のガイアメモリがあった。

「…フッ…、まさか、少年の心の気持ちでやられてしまうとは…。」













―――…僕の、負けだ…。






























〜After Situation:翔太郎の事件報告書 -Love Wars-〜


……Xデーから数日後、ミッドチルダ・ウインディヒルズ、鳴海探偵事務所。





翔太郎は今回の事件の報告書を、昔ながらのタイプライターで打ち込んでいた。





こうして状況は終了し、今回の事件の黒幕となったジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵は、“ハルケギニア国家反逆罪”、“特定電子麻薬取締法違反”、及び“ウェールズ皇太子殺害未遂”の現行犯で逮捕され、ジャンパーソンのグランジェイカーによって地上本部に護送された。
また、これによって、ウェールズを除くアルビオン王家は滅び、同国に潜み彼らを襲撃した“レコン・キスタ”の同志やゴロツキも、レンジャーズストライクの攻撃によって全滅し、“浮遊大陸の白き王国”は、歴史の闇と共に、ミッドチルダの地図から消えた…。
間もなく裁判が開始されるだろうが、ワルドが有罪となる可能性は高いと見ている。 財団Xと接触し、ガイアメモリを手に入れているところから見ても、あの男に対する判決は相当重いものになるだろう。

アルビオンを脱出した後の俺たちの行動について、記録を書き足しておこうと思う。















「ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!」

「姫さま!」




事件終了後の翌日、ルイズはサイトたちと共にハルケギニアの王城へとやってきた。

今回の一件の依頼を申し出た王女に、任務の終了を報告するためだ。

「無事に帰ってきたのね、ルイズ!」

「はい、姫さま!」

その背後には、一緒にハルケギニアにやってきたアンクの姿もあった。

「サイト、誰なんだ、あの女。」

「ハルケギニアのアンリエッタ姫だよ。ルイズとは幼馴染だってさ。」

「なるほど、道理で親しいわけだな。」

彼らに聞こえないようにひそひそと話す二人。

サイトの話を聞いてアンクは納得した表情になる。

「件の手紙は無事に取り戻しました。」

「あぁ、よかった…。あなたに頼んで本当によかったですわ。」

手紙を受け取り、安堵の表情を浮かべるアンリエッタ。

「ところで…そのお方は…?」

ふと、彼女はアンクの存在に気付き、首を傾げる。

「アルビオン王国の生き残りのアンクです。」

「レコン・キスタとの戦いに協力してくれたので、一緒についてくることになりました。」

簡単に紹介されたアンクは―――。

「まぁ、とりあえずよろしくな、お姫さん。」

ぶっきらぼうに答えた。

「ちょっと、アンク!」

「失礼なんじゃないのか!?」


サイトとルイズが咎めたが―――。

「いいのですよ、二人とも。なかなか凛々しくていいではないですか。」

アンリエッタは個性的な仲間が増えたと認識し、笑みを浮かべて二人を制する。

「…ところで、ワルド子爵は?」

「「!」」

……聞かれるであろう、一番答えにくい質問を言われてしまい、言葉が出ない二人。

「……?…あぁ、“レコン・キスタ”に組していた、白髭のオッサンか?」

「!!!」

アンクのざっくり且つバッサリと言い切ったその言葉に、アンリエッタは息を呑んだ。

「あ、あの子爵が“レコン・キスタ”ですって!?魔法衛士隊に裏切り者が居たなんて…!!」

信じられない気持ちに動揺するアンリエッタ。

ルイズも苦しい気持ちで彼女に報告する。

「私が結婚を断った途端にワルドが豹変して、手紙を奪い取ろうとしたんです。その時に、ウェールズ皇太子も襲われて…。」

―――っ…!!!

ワルドの目的はウェールズの抹殺。

どうしてそれを察せられなかったのか…。

「裏切り者を使者に選ぶなんて…っ…、わたくしがウェールズさまを殺したようなものだわ…っ…。」

肩を震わせて自分の不甲斐なさに涙するアンリエッタ。

そこにアンクが口を挿む。

「お姫さん、あんた、王子様のことが好きだったのか…?そのウェールズって奴を…。」

「えぇ…、私は彼を愛していたわ…、たとえ迷惑だと言われてもいい…、傍に居て欲しかった…。」

その涙と言葉に偽りは無い。

彼女にとって、彼の存在こそが全てだととっても差し支えなかった…。

「なるほどな…。」

彼女の気持ちを理解したアンクは一言そう言い―――。











「―――…聞いたとおりだぜ、ウェールズさんよ!」



「……え…!!??」












その視線を後ろに向けた。

耳を疑ったアンリエッタはアンクの視線の先――、扉の向こうに眼を向けた。

すると、その扉の向こうから、二度と会えないと思っていたその凛々しい顔と姿が入ってきた。

「…!!!」

今度こそ驚きで言葉を失った。

「確かにウェールズは“襲われた”と言ったが、“死んだ”とまでは言ってねぇぜ。最後まで聞けっつーの。」

アンクの突っ込みにルイズとサイトは苦笑い。

“人が悪い”と言われそうな展開だったが、彼女にとってそんなのは関係なかった。

「ウェールズさま……!」

「アンリエッタ…!」


名を呼ばれたアンリエッタはそのまま彼の元へ駆け寄り、抱きついた。

「よかった…、ウェールズさま……!」

ウェールズにとってはまだ複雑な心境だった。

いかに父上の願いとはいえ、敗戦を味わった国の王子が、こんなところで生き残っていいものかと言う迷いがあったからだ。







「…おい。」

ふと、アンクがルイズとサイトに声をかける。

「しばらく、二人きりにさせるか?」

「…そうね、久しぶりの再会だもの。二人でゆっくり話をさせましょ。」

「あぁ、わかった。」

3人は、気を利かせてその場から一時退場、この場には二人しかいないことに…。







「……ウェールズさま…?」

やがて、アンリエッタは彼の様子が少し違っていたことに気付いた。

「アンリエッタ…、僕はまだ分からないんだ…どうしていいのか…。」

「…?」





僕はあのときの戦いで、死ぬつもりだったんだ。

君が異国に嫁いで新たな同盟を結ぶと言う手紙を見て、僕もそのほうがいいと思っていた。

アンリエッタのために死ねるなら、それもまた僕の誇りだと…。

君への叶わぬ恋を、あの世まで持っていってしまおうと思ってた。

だけど……僕はこうして生きて君のところへ来てしまった。

敗戦国の末裔など、僕にとっては生き恥をさらすも同然だ…!






「だから、僕は―――。」

そこから先の言葉がいきなり塞がれた。

アンリエッタからの不意打ちの口付けによって。

「……!!!!!!」

これにはウェールズも驚くしかなかった。

「それ以上は言わないで下さい…っ…。」





あなたがどのようなお覚悟で戦いに挑んだのかは存じ上げません。

しかし、わたしにとってそのような誇りは関係ありません。

たとえそれが、あなたにとっての生き恥であろうとも…、それが元で蔑まされてしまおうとも、私はあなたさえいればそれで良いのです。

私は、心の底からあなたを愛しているのです。

私はあなたへのこの愛を胸に、これからずっと二人で生きて行きたいのです。

その苦しみと悲しみを、私に分けてください。

私がずっと笑顔で居られるように、そして、あなたがずっと、笑顔で居られるように…!






「アンリエッタ…!」

目じりに涙をたたえて見つめたまま紡いだ自分の想い。

真っ直ぐに見つめられたウェールズは、反論が出来なかった…。



「…それとも…、こんな私のことを、お嫌いですか?」

「ッ…!!!そんなわけないだろっ!!!」




意地悪な気持ちも少し含まれていたアンリエッタの質問に、ウェールズも言葉を荒げた。

「僕だって、君を心から愛しているんだ。でも、君が悲しむ姿を見たくなかった…。だから僕は―――。」

「“誇りを胸に命を賭して戦う”。そうおっしゃるのですか?」

「!」

言葉を悟られた。





王家の“誇り”や“名誉”など、もう拘る必要はありません。

それは全て捨ててください。

私を愛し、守りたいと思うそのお気持ちは痛いほどに分かります。

しかし、それと同じように、私もあなたを愛しているからこそ、あなたを守りたいのです。

もしも、本当にあなたのことを蔑む方がいるのであれば、そのときは、私がウェールズさまを守ります。

あなたのその涙を受け止める、ウェールズさまのアンリエッタでありたいのです。






「……!」

優しいほどのその笑顔に、ウェールズの涙腺が緩んだ。

それはまるで、自分の胸の痛みを受け止めてくれる母のような慈愛であり、聖母のような輝き、女神のような勇ましさであった。

「愛しています、ウェールズさま…。」

アンリエッタは彼の頬を両手で包み込むと、優しく引き寄せ、柔らかい口付けを交わす。

そのとき、二人の瞳から涙がこぼれたことを、誰も知らない。

しかし、それは決して悲しみから来るものではないことを、二人は知っている……。

二人の脳裏には、かつて愛を誓い合った瞬間の言葉が過ぎっていた。



―――風吹く夜に…。

―――水の誓いを…。












後で聞いた話だが、実はサイトとルイズがアルビオンに来ていたのは、ハルケギニア王国のアンリエッタ王女の依頼に関係していたのだそうだ。
あの時王女は、アルビオンを乗っ取るであろうレコン・キスタの襲撃に備えて、同盟を結ぶための政略結婚を行おうとしていたらしい。 その婚姻を妨げる最大の要因が、ルイズたちが手に入れた“アンリエッタとウェールズの恋文”だった。 これが世間に知らされれば、その政略結婚と共に同盟は破棄され、ハルケギニアは最大のピンチに見舞われただろう。
恐らく、ワルド子爵はどこかでその情報を耳にし、その手紙を強奪するために今回の旅に参加したのだろう。 彼がレコン・キスタの仲間に加わっていたのは、そのときからずっと前の可能性が高い。
もし恋文の件もずっと前に知っていたとすれば…、ワルドはかなり狡猾な人物だったと言うことになる。 今思えば、あの男は恐ろしい存在だ。













ウェールズとアンリエッタが二人きりで話しをしていた頃、その場から席を外したサイトとルイズは、二人の居る謁見の間から少し距離を置いた廊下まで移動していた。

「なんだか、色々ありすぎて、言葉が出ないよな…。」

「そうね…、でも良かった。やっと二人が巡り合えて…。」

「あぁ…。」

離れ離れになっていた従兄妹同士であり、恋人関係を持つ二人。

これからじっくりと今後を話し合ってもらうとしよう。

「……ねぇ、サイト。」

「…?」

「…あのとき、“私のことが大好きだ”って言ったわよね…。それ…ホントなの…?」

…改めて聞かれた、サイトの叫びの真意。

ルイズのその言葉に、サイトはゆっくりと頷き肯定を示す。







あの時俺も、無我夢中って言う感じで叫んじまったから、“どうしてあのタイミングで?”って言う気持ちがあったんだけど…、ルイズのことを思ったり、ルイズの顔を見る度に、胸がドキドキしてたのは、間違いなかった。

今でも俺、ルイズと二人きりで居るってだけでドキドキしててさ…。

最初は、“恋”なんてしていないって思ってたんだけど……、ルイズが他のカッコイイ男と一緒に居るところを見ていたら、そいつに嫉妬していたりして、ルイズに八つ当たりするくらいに、俺は胸がズキズキしてさ…。

今思えば、その気持ちがルイズへの“恋心”だったんだよな…。

ルイズがスキだって分かったのは、ルイズが危険にさらされているって分かって、胸が高鳴ったときだった。

俺はそのときから、その気持ちを抑えきれなくって、それで、あのときに……。








ルイズは彼の告白を聞いて、目を丸くしていた。

サイトのその気持ち…、それはまるで…。

「なんか、みっともなかったかな…。俺が嫉妬してルイズに八つ当たりするなんて…。」

顔を真っ赤にして俯きながら自嘲するサイトの手を、ルイズは静かに握った。

「……そんなことないよ。」

「…え…!?」







あたしだって、あんたには何度も嫉妬してた。

あたしだけの使い魔のはずなのに、キュルケやタバサや姫さまやメイドにデレデレしていたし、そんな光景を何度も見る度にあたしはその数だけ怒ってたし…。

それに、あたしも恋なんてしていないって言い聞かせてたんだけど、頭の中に浮かぶのはサイトの顔ばかりだったし、サイトのあの叫びを聞いた途端に、あたしの胸も凄くドキドキしてきて…。

その時に、私の迷いが消えたの。

あたしも、このときだけは素直になろうって…。








「だから…、あのときの返事をさせて。」

ルイズは、頬を真っ赤に染め上げながら、サイトの顔を見てはっきりと言った。





―――あたしも、サイトが好き





その告白に、サイトの目が見開いた。

サイトは震える声で、彼女に問うた。

「……本当に…?」

「…うん…っ」

二人の胸はコレ以上ないくらいに早く脈打ち、抑え切れない喜びと共に二人は躊躇なく抱きしめあった。

「ルイズ…!ルイズ…っ…!!」

「…サイト…っ、大好き…っ…!!」


お互いの体が壊れるんじゃないかと思うくらい、二人は強く抱きしめていた…。





因みに、そこから少し離れた廊下の角でアンクが密かに見ていたのだが…。

「八方丸く収まったって感じだが……、急展開過ぎるぞ…。」

…と、若干呆れていた…。













一方、そんな二つの恋が芽生えていたハルケギニアの城の外では、今回の戦いに協力していた翔太郎が“デンデンセンサー”のゴーグルモードを使って、その様子を見ていた。

隣には、サイトに剣術を叩き込ませた師匠・剣崎一真の姿も。

「今回はまさに、“恋”がらみの戦いと言った感じだったな。」

ワルドとルイズの“偽りの恋”に始まり、ルイズとサイトの“主従を越えた恋”と、ウェールズ皇太子とアンリエッタ姫の“従兄妹同士の恋”、か…。」

この異色とも言うべき恋の模様を、二人は興味深く見守っていた…。













人が誰でも恋愛をするのはよくあることだが、その形も人それぞれ。 今回の恋はどれも他人からすれば“異常”だと捉えるかもしれない。
だが、“使い魔”と“主”と言う関係すらも超えた、あの二人の今後の人生が、俺はどうも気になって仕方が無い。
あの二人は、意外と素直じゃないところがあるから、それが原因でぶつかり合って大喧嘩してしまうことがこれからも多々あるだろう。 だが、その分あいつらはお互いを理解しあって、大きな絆へと成長させるかもしれない。 “あの二人に幸あれ”と祈らせてもらうとしよう。


…そうそう、今回の戦いで一足早く活動していたレンジャーズストライクだが、俺たちを地上まで送り届けた途端、嵐のように去っていってしまった。
忽然と現れて忽然と姿を消した戦士たち。 おそらくはメディアに掴まることを考慮しての対応かもしれないが…、結局彼らが何者であるかと言うのは分からずじまいとなった。
ただ言えるのは……、“噂”の存在でしかなかった“レンジャーズストライク”が、確かに実在していたと言うことである。
彼らと再び出会えることがあるとしたら、それはいつになるだろうか…。 その心と体に宿した五色の光は、今も何処かで輝いているのだろうか…。


……いや、きっと必ず輝いているはず。 そう信じたいと思いながら、この報告書の紐を結うとしよう。




<鳴海探偵事務所・所属探偵:左翔太郎>
<“白の国・アルビオンの最期の戦乱事件”報告書より抜粋>











--Mission Complete(状況終了)--




☆あとがき

特別短編これにて完結ッッ!!!!!!

…と行ったわけでございまして、約2ヶ月間・計4話の特別短編、いかがでしたでしょうか?
シードピアとしては久しぶりとなった短期連載、無事に終わらせることが出来て良かったです☆
“ゼロの使い魔シリーズ”の登場キャラの調整の際に、“ウェールズ皇太子は生存している形で行きたいと思いますが、それに関する出来事にレンジャーズストライクを活躍させましょう”と、アキッキーさんからのメールで頂いたのが全てのきっかけでした。
それから数ヶ月、こうして特別短編と言う形でその外伝を作ることが出来て、本当に嬉しい限りです☆☆
なお、ウェールズ皇太子には、シードピア本編でも活躍していただきたいと思っていますので、今後も見守っていただきたいと思います!

では、これからもシードピアシリーズをよろしくお願いします!





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