戦争が終結を迎え、いつもと変わらぬ日々を過ごしていたキラたち。
しかし、彼らが抱えた戦争の傷跡は、いたるところに残っていた。
キラたちの心の中にも………。
ある日の夜のこと、戦災孤児の一人としてキラたちと生活しているアイリスは、夜がふけているにも関わらず、一人出歩いていた。
「チチンのプイで治ります、ハイ♪チチンのプイで治ります♪」
一人楽しく、スキップしながら歌を歌っていたときだった。
「…あれ?」
立ち止まった場所は、マルキオ導師の礼拝堂だった。
幸い、ここは一般公開されている上、そのマルキオ導師はキラたちの家で眠っているので、怪しまれることなく入ることが出来た。
…と言うのも、アイリスはこの礼拝堂からなにやら“気配”を感じたのだ。
「……だれか、いるのかな?」
アイリスが、一番前のイスのところをそ〜っと覗いてみると、そこに一人の少女の姿があった。
彼女は、その外見に見覚えがあった。
「…ラクスお姉ちゃん?…」
そう、その少女の外見の姿がラクスと瓜二つだったのだ。
アイリスの声に反応したのか、少女はアイリスに目を向けた。
「やっぱり!こんなところでなにやってるの、ラクスお姉ちゃん?」
アイリスがそう言って少女の傍にきた。
すると、アイリスにとっては予想外の言葉が飛び出した。
「悪いけど、私はラクスじゃないわ。」
「えっ!?」
その言葉に、アイリスは少女の姿をよく見てみた。
確かに外見はラクスにそっくりと思っていたが………。
「あれ?あたまにつけているかざり……何かちがう?」
額につけている髪飾りが違っていた。
この少女は、星型の髪飾りをしていたのだ。
「……お姉ちゃん…だれ?」
アイリスの質問に、少女はしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「私は、ミーア。ミーア・キャンベル。あなたは?」
「イリス・シャトーブリアン。“アイリス”でいいよ☆」
月明かりの下、二人の少女は出会った。
…と思ったら、アイリスが単刀直入で思ってもいなかった言葉を口にした。
「お姉ちゃん、ひょっとして、死んだひと?」
予想だにしない言葉に、ミーアは目を見開いた。
「っ!?…あ、アイリスちゃん、何をいきなり言い出すの?あたし死んでいるわけが……。」
―――スウッ
必死に何かを隠そうとしているミーアに、アイリスはミーアに向かって手を差し出した。
すると、ミーアの体をアイリスの手が突き抜けた。
「……じゃあ、どうしてこんな風に、お姉ちゃんにさわることができないの?それに………。月のあかりがあるから“かげ”が出来るはずなのに……お姉ちゃん、“かげ”がないよ…?」
見た目は自分より幼い女の子なのに、聞かされた言葉は図星を指されまくりだった。
さすがのミーアも、言葉を失った………。
「…じゃあ、どうしてあなたは、私の姿が見えるの……!?」
「アイリスね、“霊力”って言うふしぎなちからをもってるの。モノをうごかしたり、キズを治してあげたり。お姉ちゃんが見えるのも、その“霊力”のおかげなんだよ。」
考えもしなかった不可思議な力を秘めた少女に、ミーアはただ驚くばかりだった……。
つまり、今ミーアとまともに話が出来るのはアイリスだけと言うことだった。
「ミーアお姉ちゃん、どうしておねえちゃんは死んでしまったの…?」
アイリスの質問に、ミーアは答えるのを躊躇った。
彼女にとっては、辛くも悲しいことばかりだった。
ましてや、自分より幼い子供にこの話をするのはどうしても出来なかった。
「お姉ちゃん、自分でつらいと思うことはがまんしちゃダメ!がまんすればするほど、自分のこころが痛くなっちゃう。つらくても、少しでもしゃべってくれれば、ラクになるよ。」
その言葉に落ち着きを取り戻せたのか、ミーアは自らの過去を語りだした。
私は元々、プラントの住人の一人だった。
元からラクスさまの歌が大好きで、よく唄ってた…、声もラクスさまに良く似ていた……。
ある日、デュランダル議長に言われて、自分が“ラクス”としてテレビとかに出るようになった…。
この姿も、かつての姿から大幅に整形したものだった。
それから、アスランに出会って色々と話をした。
彼自身は、私は迷惑だったかもしれないけど、私はそれでも良かった。
“ラクス”としてアスランの傍に居られるなら、それでもよかった…。
でも、それが逆に私の心を自分自身で傷つけることになってしまうことには気付かなかった。
そして、コペルニクスでのあの日……、私はアスランと再会し、本物のラクスさまに出会った。
私は最後まで自分をラクスだと言い聞かせたけど、本物の大きさには勝てなかった。
“ラクスの名をとっても、違う人間”。
その言葉が強くのしかかった。
私はこれ以上、自分に嘘をつけなかった。
でも、あの時ラクスさまの命を狙っていた奴が居て、私はとっさの判断であの人をかばった。
私は、ラクスさまを守れたことを、誇りに思った……。
それから私は……、意識を失ってしまった………。
話を終えると、ミーアはうつむいてしまった。
その目は、深い悲しみに満ちていた。
「ねえ、お姉ちゃん。“代役”という事は、“その人の変わりを自分がやる”と言うことだよね?じゃあ、その代役をやるのに
どうしてその人の名前まで使う必要があったの?それっておかしいと思わない?」
アイリスの言葉に、ミーアは驚きの目を向けた。
「お姉ちゃんがもし、ラクスお姉ちゃんの変わりにいろんな人の役に立ちたいって思ったら、姿や名前までまったく同じにする必要はないでしょう?
ミーアお姉ちゃんとしての“そのまま”の姿でやれば、少しはわかってくれる人がいたと思うの……。」
「…………!」
「ミーアお姉ちゃん……いろんな意味で自分で損していると思う……。何だか、かわいそう…。」
年齢から言っても自分より年下の女の子から、まさかそこまで言われるとは思わなかった。
アイリスには、自分より遥かに皆を説得する力があるかも知れない。
おそらく、ラクスと同じくらいの実力が………。
「…今更そんなことを言われても、もう遅い…。私はもう死んでいるもの……。」
「でも、意味がなかったわけじゃないと思うよ。」
アイリスの意味深な言葉に、ミーアは再び目を見開いた。
「確かにお姉ちゃんは、ラクスお姉ちゃんのマネをして色々なところを回っていった。名前まで似せたことはアイリスは許せなかったけど……。
その歌声と魅力でたくさんの人を喜ばせたんでしょ?その意味じゃ、アイリス、お姉ちゃんが羨ましかったな……。」
「あたしが……?」
「うんっ!ミーアお姉ちゃんの話を聞いているとね、まるで、ラクスお姉ちゃんに変わる『新しい天使の歌姫』みたいなイメージが出てきた。それに………。」
「それに…?」
「お姉ちゃんとしての“ラクス”の思い出は、どんな宝石にも決して負けない、自分にとっての宝物だよ。」
その言葉はミーアの胸に深く染みこんだ。
「アイリスちゃんに色々教えられたわ。本当に、ありがとう。もう私、悔いは残っていないわ。」
そう言ってミーアは立ち上がった。
その表情は、涙目でありながら笑顔を作っていた。
「これであたしは空に上がれるわ。」
その瞬間、彼女の背中から純白の翼が生えた。
その本物の天使のような姿は、アイリスにはまぶしすぎたかもしれない。
「お姉ちゃん……、もしかして、天国へ行くの?」
「ええ。アイリスちゃんと話せて良かった…!ありがとうっ!」
アイリスとミーアは、最後の別れ際にお互い抱きしめあった。
しばらくしてお互いの距離がつくられ、ミーアは言った。
「ラクスさまにあったら、『ミーアは空の上からあなたのために、平和の歌をいつまでも唄い続けます。』って伝えて。」
その言葉にアイリスは「ちゃんと伝えてあげる!」と笑顔で頷いた。
「本当に、ありがとう!さようなら………。」
そしてミーアは、静かに飛び立ち、姿を消した。
その瞬間、アイリスの目の前が真っ白になった…………。
「……ちゃん。」
―――だれ?アイリスを呼ぶの。
「…アイリス。」
「アイリスちゃん。」
―――……お兄ちゃんたち?
「…う……う〜〜ん…。」
アイリスが気がつくと、彼女の目の前にキラとラクスがいた。
外はもう朝になっていた。
「おはようございます。」
「おはよう、お姉ちゃん。」
まだ眠たいのか、アイリスは自分の瞼をこすった。
「一晩中そこにいたなんて思わなかった。心配したよ。」
キラの言葉に、アイリスは「てへっ☆」と舌を出しながら苦笑いした。
「………あれ!?」
そのとき、キラの表情が変わった。
「…キラお兄ちゃん…?どうしたの?」
「アイリス……君の傍にある、それは……!!」
―――えっ!?
目をやるとそこには、流れ星の髪飾りが置かれてあった。
アイリスはそれを確認すると、その髪飾りを手に取った。
形と言い色と言い、全てがあのときの少女のものとまったく同じだった。
「…これ……ミーアお姉ちゃんの!!」
―――ええっ!!?
キラとラクスは思わず声をそろえた。
「アイリス、ミーアに会ったのかい?」
「…うん、ミーアお姉ちゃん、死んでいた人間だったんだね…。体が透けてた。」
アイリスには彼女の姿が見えていたのだ。
思いもしなかった出来事に、キラとラクスは言葉が出なかった。
「ミーアさんと、お話をしたのですね…。」
「うん…。自分の苦しみ…全部アイリスに言ってくれた…。」
コペルニクスでわずかながら彼女と会話を交わしたラクス。
その記憶は今でも残っている……。
ラクスは、ミーアの髪飾りを手にとりそれを抱きしめるように胸の中で握った。
「お姉ちゃん…、ミーアお姉ちゃんからの伝言があるの…。」
「伝言……ですか…?」
その伝言は、いわば『死したものからの最後の遺言』でもあった……。
―――ミーアは空の上からあなたのために、平和の歌をいつまでも唄い続けます。
「ミーアお姉ちゃんが、ラクスお姉ちゃんに伝えてって、言ってた…。」
ミーアの伝言を聞き届けたラクスは、改めて彼女の遺品を見つめた。
その中から、あの歌姫の笑顔と笑い声が…、そして、綺麗な歌声が聞こえてくるようだった。
ラクスは、再びその瞳から涙を流した。
「…ミーアさん……わたくしもまた…平和の歌を、届けます…っ…この世界の、全ての人々のために……いつまでも……
だから…っ……わたくしたちの未来を…見守り続けて……ください…っ……!」
涙声になりながらも、ミーアに自らの想いを伝えた後、彼女は嗚咽を漏らしたまま泣き崩れた。
キラはそんなラクスを優しく抱きしめ、アイリスもまた、彼女の髪を撫でてあげた。
「ラクス…、僕たちが傍に居るよ、ずっと。」
「アイリスも、お姉ちゃんと一緒に唄ってあげる。だから…泣かないで…。」
それからしばらくの間、一人の歌姫の泣きじゃくる声と同時に流れる大粒の涙は、止まることはなかった。
--End--
☆あとがき
コラボレーション短編第3弾は、アイリス×ミーア+キララクです。
今回は、「ミーア追悼小説」と言う形で執筆しました。
時期的には、DESTINY本編最終回から1年後くらいと言う設定でしょうか?
第46話のミーアの最後、あれは僕もショックでした…。もう少し生きてほしかったです。
ご冥福を、お祈りいたします………。