2月14日―――――。
それは世の多くの女性にとって、心をときめかせる日。
そして、多くの男性がドキドキする日でもあった。
「…もうすぐ2月14日。バレンタインですわね…。」
シンとステラの住む家に遊びに来たラクスは、ふとそんな言葉を口にした。
「……バレンタイン…って、何…?」
幼げが残る少女が口にした何気ない一言。
ラクスも大方予想はしていたが、まさかそれすらも知らなかったとは思わなかった…。
思わず彼女は苦笑いしてしまった。
「いいですか?ステラさん。バレンタインとは、女の子が、自分の好きな男の人に“チョコレート”をあげる日とされているのですよ。」
自分の好きな人―――。
それを聞いて彼女の脳裏には、真っ先に愛するシンの笑顔が浮かんできた。
同時に、ステラの顔が綻び、頬がピンク色に染まった。
「ステラ…シンに…チョコレート…あげたい……☆」
ラクスの顔も綻んだ。
「きっとシンも喜びますわ。よろしければ、一緒に作りますか?」
「うんっ!作り方、教えて。」
「はい☆」
女の子にとっての一大イベントと言っても過言ではない、2月の特別な日。
大きなチョコに小さなチョコ。
ハート型の形や変わった形。
種類や大きさは色々あるけれど、それに込められた愛は変わらない。
「ねえ、ラクスさん…。」
「何ですか?」
「ラクスさんのチョコ、あげる人…もしかして、キラ…?」
「え!?」
突発的なステラの発言に、ラクスも顔が真っ赤になった。
案外、彼女はおませなところもあるのかも知れない……。
2月14日―――。
ステラがわくわくしながら待ち望んでいたこの日。
「チョコレート、シンが帰ってきたとき…わたそうかな……。」
胸をドキドキさせながら楽しみに待っていた……のだが…。
『ごめん、ステラ!仕事が長引いて帰りが遅くなりそうだ!』
夕暮れ時に突然届いたメール。
ステラは一気に落ち込んでしまった……。
でも、いつまでも帰って来れないわけじゃない。
そう言い聞かせて、彼が帰ってくるまで待ち続けることにした。
しかし、夜の帳がだんだん深くなるに連れ、ステラに襲ってくる睡魔が次第に強くなっていった。
「眠っちゃ、ダメ…。シン、かえって…くるまで、おき…る……。」
とうとうステラは、睡魔に負け、眠ってしまった………。
――――――ガチャ。
「うわ〜、遅くなっちゃったよ…。」
仕事が随分と長引いたせいか、この日のシンの帰宅は10:30過ぎだった。
シンは急いで荷物を部屋に置いた。
「ステラ、ただいま……って、あれ?」
リビングに下りると、そこにはソファで眠っているステラの姿が……。
その手元には、リボンをした小さな包みが。
「……なんだ、これ?」
ステラを起こさないように、そっとその包みを取り、それを開けると――――――。
――――――ステラから、だいすきなシンへ。
その小さな手紙と同時に入っていたのは、ハート型に象られた小さなチョコレートがたくさん入っていた。
「そう言えば、今日はバレンタインデーだ…!」
シンは、傍らで眠っている少女に眼を向けた…。
このチョコレート、まさかステラが……?
だとしたら……もしかして、俺が帰ってくるまでずっと待っててくれたのかな…?
そう思うと、シンは彼女に申し訳ないと思ってしまった。
バレンタインのチョコレートだけでも嬉しかったのに、俺をずっと待ってくれてたなんて…!
シンは、眠っているステラをそっと抱き寄せた。
「ありがとう…ステラ…。」
彼のささやかで静かな感謝の言葉が、ステラに聞こえたかどうかは定かではないが、彼にとってこれ以上の言葉は、なかったかも知れない……。
後日談ではあるが、その翌日のこと。
ステラは、昨日はなかなか帰ってこなかったシンに対して、少し怒っていたが、
いつの間にか自分がベッドの中でシンの腕に抱かれながら眠っていたことに気付き、怒る気にもならなかったとか……。
--End--
☆あとがき
よしおか むぎさんから突然『誕生日プレゼントを下さい!』とねだられて、急遽書き上げたバレンタインネタの特別短編小説です!
“一年の中で一度だけ来る特別な日”と言うキーワードでシンステを書くと、必ず『それって…何?』と言うステラの性格で
始まるのが、完全に僕の中では定番化してしまっているようですね……(苦笑)。
僕が今まで書いた短編小説の中では、比較的短い文章ではありますが、よしおかさん、楽しんでいただけましたでしょうか?