Feeling of thankfulness


誰にでも、奇跡を起こす力は、まれに眠っているもの。

小さい奇跡や、大きな奇跡。

それは、天が授けた、贈り物かもしれない…。

そして、ここにも一つの奇跡を授かり、幸せな日々を送る家族が……。


人工的に気温を調節され、今、冬の一大イベントを迎える、月面中立都市・コペルニクス。

ここは、コーディネイター、ナチュラルに関わらず、様々な人々が暮らしている。

「お父さーん、お母さーん、早くー。」

「待ってよー。」

その片隅の市街地を歩く、一つの家族。

それは、今から8年前に一つの奇跡を授かった家族でもあった。

無邪気に走り回る娘の後を、楽しそうに追いかける母親。

今思うと、この光景が夢のように思えた。

「ミユにとっては、初めてのコペルニクスか…。」

彼女らの後ろをついていく一人の青年、シン・アスカは、一人呟いた。

彼は戦時中、敵対関係にあったステラ・ルーシェに恋した。

数々の戦いを潜り抜け、二人は生き延びることが出来た。

互いに大切な存在を失ったと言う、耐え難い傷を胸の中に残しつつも、お互いに支えあった二人。

種族の関係を越えた恋は実り続け、やがてそれは奇跡を生み出した。

“エクステンデッド”と言う、地球連合軍の強化人間として生かされたステラが、子を宿したのだ。

コーディネイターとナチュラル、二つの人類の血を受け継ぐ子供の誕生は、コズミック・イラにおける、新しい歴史の幕開けにもなった。

それだけでも驚きなのだが、さらにもう一つの奇跡が訪れた。

二人が授かった子供は、シンの生き別れの妹、マユ・アスカに酷似していたのだ。

「妹が生まれ変わった姿かもしれない。」

かつての戦友・キラに言われた言葉は、現実のものとなった。

二人はその女の子を、“ミユ”と名づけた。

それから8年間、子育てこそおぼつかない日々だったが、どうにか生活ももとの軌道に乗りつつあった。

今では、性格こそステラ似だが、姿形はマユに瓜二つとなっていった。

そんな中で迎えたクリスマス。

今まで子育てや仕事に追われ、なかなか思うように全員そろってのクリスマスは迎えられなかったが、今年は全員で迎えられることとなった。

そこで、今年はコペルニクスへと向かうこととなったのだ。

ここは、シンとステラにとっても思い出深い場所。

まだ新婚だったころ、“クリスマス”と言う日を知らなかったステラのために、ラクスとキラに薦められて、
クリスマスを兼ねた新婚旅行に訪れたのが、このコペルニクスだった。

あの日から8年、こうして再びコペルニクスへ足を運ぶことになるとは思わなかった。

「シンー、早くー。ミユが迷子になっちゃうよー!」

「今行くー!」

母と娘、そろって無邪気な性格に、シンも笑みを浮かべつつ、彼女らの後ろを着いていった。


コペルニクスのデパート内、シンたちはぬいぐるみ売り場に来ていた。

「ミユね、ぬいぐるみがほしいの。かわいいぬいぐるみ☆」

娘の一言がきっかけだった。

「よし。ミユ、お母さんと一緒に、欲しいぬいぐるみを探しておいで。父さんはここで待ってるからね。」

「うんっ☆お母さん、いこっ!こっち!」

ミユはステラの手を引いて売り場の奥に向かって走っていった。

ステラは娘に手を引かれながらも、笑顔で付いていった。

シンは二人の姿が小さくなるのを確認すると、手近な小型のベンチに腰掛けた。

この辺りはクリスマスプレゼントを探す親子の姿が点々と見かけられた。

こんな平和な日々がずっと続けば………。

そう願いつつ、シンは夢の中に誘われた。



「……ここは…。」

迷い込んだ夢の世界、その周囲は星で彩られていた。

「よぉ。お前さんが、シン・アスカか。」

背後から聞こえた声。

振り返ると、そこに居たのは二人の青年だった。

「…?…あんたたちは…?」

「俺は、スティング・オークレー。」

「ボクは、アウル・ニーダ。ステラが世話になってるね。」

彼らの名と、その言葉を聴くと、シンの表情が一変した。

「ま、まさか、あんたたちは…!!」

「そ。ステラのかつての仲間さ。」

兄弟同然のように育ってきたステラのかつての戦友、通称ファントムペインの面々。

シンたちミネルバの精鋭たちと激戦を演じた因縁の宿敵が、まさかこんな少年たちだったとは思いもしなかった。

「…とはいっても、死ぬ直前までボクらはステラのことすら、覚えていなかったんだけどね。」

苦笑い交じりに言った言葉、それはエクステンデッドとしての定めだと言うことは、シン自身もよく判っていた。

「ステラ…、あんたたちが死んだことを全く知らなかったって言って、すごく泣いていた。」

「あぁ。それは俺たちも知っている。だからここに来た。」

意表をついたスティングの言葉に、シンは眼を見開いた。

スティングの表情は、笑顔そのものだった。

「俺たちは、あのときの戦争で死んで、未練を残しっぱなしだった。ステラにも辛い思いをさせてしまったと思っている。」

「でも、その未練はお前が埋めてくれた。おかげで、ボクたちも安心して眠れるよ。」

二人の表情は満面の笑顔そのもの。

人生に悔いを残していないと言うような表情だった。

「そっか……。」

ふと、どこからか声が。

『シン。起きて。』

「お。ステラがあんたを呼んでる。ボクたちはここで失礼するぜ。」

二人の去り際、スティングが振り返った。

「そうだ。ステラに伝えてくれねぇか?“俺たちはいつまでも傍にいるから、悲しむな”って。」

兄としての最後の言葉を、シンは確かに受け止めた。

「あぁ。伝えるよ、必ず。」

「それじゃ、ステラたちを頼むぜ。」

スティングとアウルは光の粒子となって、消えていった………。



「シン、シン。」

「お父さん、起きて。」

夢から覚めたシンは、ステラとミユの姿を認め、笑顔を作った。

「ごめん、二人とも。思わず眠っちゃった。」

ステラとミユも、その言葉に思わず笑った。

「ところで、欲しいものは見つかったか?」

「うんっ!これ☆」

ミユが差し出したのは、比較的小さい2体のぬいぐるみだった。

一方は、赤色のワンピースを着ているウサギの人形。

もう一つは、黄色いドレスを着ている女の子の人形だった。

「へぇ、可愛いじゃん。コレが欲しいの?」

「うんっ☆あとね…、これ!」

そう言ってミユが差し出したのは、白のシャツと黒のズボンを着た男の子のぬいぐるみだった。

「え…?もしかして、それも欲しいの?」

すると、ミユはかぶりを振った。

でも彼女は、ぬいぐるみをシンに差し出している。

何を考えているのか、少し判らなくなってきた。

視線を逸らすと、ステラの手にも女の子のぬいぐるみがあることに気付いた。

その子は、青と白のワンピースを着ていた。

「あれ?ステラ、その人形…。」

すると、彼女は意外な言葉を口にした。 「シン、あのね……、ミユがね、そのお人形さん、シンにあげたいって…。」

意表をつかれたその言葉に、シンは軽く眼を見開いた。

「同じ様なこと…ステラにも言った…。」

ミユは、ステラにも同じような言葉を口にして、人形を渡したと言う。

道理でステラがそれを持っているわけである。

だが、その真意がわからなかった。

「ミユね、ひとりはイヤなの。」

「……?」



「クリスマス、みんなにプレゼント、あげたい。だから、お父さんとお母さんにも、プレゼント、あげたいの!」



「……!」


自分一人だけ楽しむのはイヤだ。

自分一人だけがプレゼントをもらうのはイヤだ。

大好きなお父さんとお母さんにも、何かプレゼントをしたい。

ミユはそう言いたかったのだろう。

まだ8歳の子供なのに、こんなことを考えていたなんて思わなかった…。

シンとステラの心が、とても暖かくなっていった。

「それに…。このぬいぐるみさんたち、ミユたちみたいだから…。」

言い切らないところで、シンは自分の愛娘の体を優しく抱き寄せた。

「ありがとう、ミユ。その気持ちだけでも、すごく嬉しいよ…!」

ミユにとって、誰かに抱きしめられるのは初めての経験だった。

思わず笑みを浮かべ、その温かさに甘えることにした。

ステラも思わず涙を浮かべ、彼女の髪をなでてあげた。

「ミユの優しさ、ステラも嬉しい…!」

“家族”と言う存在を手にすることが出来て、本当に良かった。

シンとステラは心の中で、そう感じた。


結局その後、ミユが選んだぬいぐるみを4つとも買うことにした。

家族みんなにプレゼントをあげたいと言う愛娘の愛情に、シンとステラは心から感謝した。



その晩、宿泊先のホテルにチェックインし、楽しい一日が終わろうとしていた頃……。

ミユは、買ってもらったぬいぐるみを傍において、眠りについた。


宿泊部屋の片隅で、シンとステラは夜景を眺めていた。

「こんな夜景を見るのも、久しぶりだな…。」

「うん……。」

二人の脳裏に、まだミユが生まれる前の頃、初めてここに訪れたときの記憶が蘇った。

ステラはシンの肩に自分の頭を預けた。

寄り添って、ゆったりと流れるときを過ごす。

……ふと、シンは意味深なことを口にした。

「そうだ……。」

「……?」

次の言葉で、ステラは眼を見開いた。

「デパートの売り場で君たちを待っていたとき、夢を見たんだ…。君の仲間の夢を……。」

彼女の脳裏に、苦楽を共にした兄弟分たちの顔が瞬時に浮かんだ。

そして、シンは彼らの言葉を伝えた。


―――― 俺たちはいつまでも傍にいるから、悲しむな


「スティングとアウルが、君に伝えてって言ってたよ…。」

彼女の瞼から涙が溢れた。

彼女より先に旅立ったスティングとアウル。

彼らの遺言は、ステラの胸にまた一つ、温かい贈り物を残してくれた。

「シン…、このまま…ギュッて、して…。」

「…うん。」

震えるステラの体を、シンは優しく抱き寄せた。

そっと、彼女の顔を覗き込むと、その少女の目じりには、一滴の涙が……。

「……泣いているの…?」

ステラはかぶりを振った。

僅かな距離をつくり、言葉を紡いだ。

「…とても、嬉しいの。でも、どうしてか……涙が出てくる…。」

少女の涙混じりの笑顔は、シンにとってはとても綺麗に思えた。

シンは、そんな彼女の顔を自分の胸に押し付けるかのように、華奢な体を抱きしめた。

言葉すらも何も交わさず―――。

いや、これ以上の言葉は必要ないのかも知れない。

ステラは、あの世へと向かったスティングとアウルに“ありがとう”と心の中で言い続けた。

この言葉が、空の上の二人に届くように……。



--End--




☆あとがき
クリスマス小説inシンステ捏造未来小説でございます!
しかも、二人の子供のミユ(名付け親:籃 美縁さま)もしっかり出演しています☆
さらにスティングとアウルも特別出演でございます☆
ちなみに今回の小説は、僕のサイトで以前フリー配布したシンステクリスマス小説「Girlfriend」とリンクしています。
できるだけほのぼの系を目指して書いたつもりですけれども、いかがでしょうか?






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