見渡す限りの大平原。
月明かりに照らされた大地。
ステラは気が付けば、その大地に立っていた。
周りは、一面の花畑となっていた。
「……ここ…どこ…?」
そう呟いた瞬間、不意にどこからか声が聞こえた。
「…アハハ…フフフ…!」
ステラはその方向を振り返った。
そこには、彼女とほぼ同等の年齢と思われる一人の少女が、笑みを浮かべながら舞い踊っていた。
すると、その少女はステラに気付いたのか、彼女のもとへと駆け寄った。
「こんにちわ!」
「……??」
いきなり挨拶されても、ステラはキョトンと首を傾げるしかなかった。
その時、少女は両手を差し出した。
「一緒に、踊ろう?」
「……おどる?」
ステラは戸惑ったが、ゆっくりと少女の手をとり、その手を軽く握った。
最初は少女からのいきなりの誘いに、ステラは困惑したが、しばらくすると楽しくなり、ステラもようやく笑顔を見せた。
しばらく踊りあったあと、二人はそのあたりに座りこんだ。
二人は微笑んだまま、花畑の地平線を見つめていた。
すると、ステラは不意に彼女に聞いた。
「…君…誰…?」
少女は、軽く目を見開き、ステラの顔を見た。
よく考えてみれば、お互いにまだ名前を知らなかった。
まずは自分から名前を教えることにした。
「あたし……ステラ…ステラ・ルーシェ。」
「ステラって言うんだ。私はマユ、マユ・アスカ。」
少女の名前を聞いて数秒後、ステラは何かを思い出した。
「…マユ・アスカ……!?…シンと同じ…『アスカ』の名前……?」
少女は、その言葉を聞くと、ゆっくり頷いた。
「マユはね…お兄ちゃん…シンの妹なの……。」
――――いもうと!?
ステラは目を見開いた。
「……きょうだい…?」
「…うん。でもマユは……。」
「言わないで。」
何かを言おうとした矢先、ステラが言葉をはさんだ。
思わずマユは「えっ!?」と言って驚いた。
……知っているから……、君が…死んだこと……。
…シンに……聞いたから………。
マユはこれでもかと言わんばかりに目を大きく見開いた。
ステラは彼女がシンの妹だと聞いた時、彼がかつて自分に言った告白を思い出していた。
ある日の昼下がり、シンは自分の部屋で携帯電話を見つめていた。
その時、急にステラが部屋に入ってきた。
彼女の手には食事と紅茶が置かれたトレーがあった。
「シン、食事…持ってきた…。」
「ああ、ありがとう。」
ステラがトレーを机に置いた時、不意に彼の携帯電話が目に入った。
その画像には、シンと少女が映っているフォトデータが表示されていた。
「…シン、その絵、映っている女の子…だれ…?」
「…ああ。こいつはな…俺の妹だ…。たった一人の…。」
「……きょうだい…って言えばいいの?」
シンは悲しい表情で、ゆっくりと首を縦に振った。
「でも、戦争で父さんや母さんと一緒に、死んでしまって…。そのときは、とても悲しかった…辛かった……っ…。」
オノゴロ島の悲劇を思い出したのか、シンは嗚咽を漏らしながら静かに泣き出した。
彼の悲しい顔を見たくなかったのか、ステラはシンを優しく抱きしめた。
「……ごめんね、シン…変なこと…聞いて…。」
シンはステラの胸に顔を埋めたまま、かぶりを振った。
「落ち着くまで…一緒に居てあげる…。」
「…う……うん…っ…。」
彼の心が弱くなっていく時、彼女はこうしてゆっくりとシンを抱きしめてあげることしか出来なかった。
シンにとってステラは、温かい心の置き場所なのだから………。
「シン…マユ…いなくなって…寂しかったって…言ってた……。」
ステラのその言葉に、マユは若干表情が暗くなった。
「そっか……。」
その時、不意にどこからか声が聞こえた。
――――マユ〜、そろそろ行くわよ!
「あ、お母さんだ。は〜い!」
ステラとマユはゆっくりと立ち上がった。
そしてマユがどこかに行こうとしたとき、突然立ち止まってステラの方に顔を向けた。
「お兄ちゃんにあったら伝えて。『マユは家族全員でお兄ちゃんを見守っているから、寂しがらないで。
マユたちはいつまでもお兄ちゃんのことが大好きだよ』って。よろしくね。」
そう言ってマユは、両親の所へと消えていった。
「……マユ…またいつか…会おうね…!」
ステラは笑顔でそう呟いた。
朝日の光が、ガラス窓に差し込む。
ステラはその光で、ゆっくりと目を覚ました。
だるそうな体を起こし、周りを見渡してみた。
そこにあったのは、いつもどおりの寝室の風景だった。
「…夢……?」
ステラは昨晩みた夢の光景を思い出していた。
少女と踊った時に握った手の感触が、今でもこの手に残っているのが、実感できた。
「…マユ……、天国から…会いにきたのかな……。」
ステラがそんな言葉を呟いた時、隣からなにやら視線を感じ、その方向を向いた。
シンが軽く目を見開いたような目つきで、ステラを見ていた。
「シン…おはよ…。」
「おはよう、ステラ。」
シンはゆっくりと体を起こしながら、ステラにたずねた。
「ステラ、さっきお前、マユがどうとか言ってなかったか?」
ステラはその質問に、しばしの沈黙のあと、微笑んだままゆっくりと頷き、そしてこう言った。
「夢の中…マユ…会ったの……。ほんの少しだったけど……。」
彼女のその言葉を聞いた時、シンの脳裏にマユの笑顔が再び横切った。
「…そうだったのか…!」
思わず顔が綻んだ矢先、ステラはシンに向かって言霊を紡いだ。
「それでね…、マユ…シンに伝えてほしいことがあったって!」
その言葉にシンが「えっ!?」と驚いた瞬間、いきなりシンはステラに抱きしめられた。
そして、その伝言を紡いだ。
「マユはね……『いつまでもお兄ちゃんが大好きだよ』って。『家族でシンのことを見守っているから、寂しくない』って……、そう言ってたよ…。」
ステラのその言葉と声が、マユの声に重なっているように聞こえた。
シンはその温かさに、思わず涙を流した。
その涙は、堰を切ったように止まらなかった。
「…優しい家族…居てくれて……、良かったね…シン……。」
ステラの言葉は、シンの妹のマユ・アスカの温かさに似ていた。
「……っ…う………うう……っ……、ああああああぁぁぁぁぁぁ……!!」
こみ上げてくる感情に耐えきれず、シンはステラにすがりつき、泣きじゃくった。
ステラを通じてもらった、“妹”からの温もりと優しさ。
その温かみは、彼の心に深く染みこんでいった………。
マユ…、ステラ……シンにちゃんと伝えたよ……。
ステラ、家族の記憶…わからない…。
だから…家族の大切さ…判らなかった……。
でも、マユ…夢の中…来てくれて…それが何なのか……わかった気がする……。
ステラ…シンと一緒に……新しい家族……創っていく…。
マユがくれた…その優しさ……大事にしながら……。
マユ……ステラのところ…来てくれて………ありがとう……!!
--End--
☆あとがき
サイト10000ヒット記念の短編小説です。
しかも、シンステなのにマユもゲスト出演です!
何だか今回は夢オチみたいな感じになっちゃったかな……!?
でも今回のことで、シンは妹からの温かみを改めて知ったのではないでしょうか?