戦いは終わった。
アークエンジェル率いるオーブ軍艦隊の活躍もあって、機動要塞メサイアは陥落した。
メサイアの最後を、終始見届けたシンとルナマリアは、複雑な気持ちになっていた。
その後二人は、エターナルに発見され、そのまま収容された。
ブリッジへと向かった先に待っていたのは、懐かしい顔だった。
「シン……お姉ちゃん…っ…!」
真っ先に飛び込んできたメイリンの、涙目ながらも笑顔を作ったその表情。
胸が張り裂けそうな気持ちになっていたルナマリアは、思わず震える手でメイリンの頬に触れた。
懐かしいその肌の温もりを、パイロットスーツを通して伝わっていった。
その手に、メイリンの手がゆっくりと重ねられた。
ただでさえ泣き顔なのに、ルナマリアは思わずまた泣きたくなった。
「…会いたかった…っ…。」
メイリンの言葉が引き金になったのか、ルナマリアは勢いよく愛する妹の胸に飛び込んだ。
「…っ…メイリンのバカッ!あたしに心配かけさせて…死んだと思ったじゃない…っ…、あたしが、どれだけ心配していたと思っているのよ…っ…!」
姉の怒声を聞くのも、懐かしく想い、メイリンはそのまま姉の背に手をまわした。
その温かい手に、ルナマリアは思わず腕の力を込めた。
「でも………無事でよかった…!ありがとう……生きててくれて…っ…、あたしも…会いたかった……!!」
「…っ……ごめんね、お姉ちゃん…!」
抱き合って、お互いの温かさを確かめ合っていた二人の姉妹に、シンは思わず目が潤んだ。
ふとその時、キャプテンシートに座っていた少女が、声をかけた。
「またお会いできて、良かったですわね、メイリンさん。」
その声に、シンとルナマリアはドキッとした。
声のした方向を向いてみると、そこに居たのはピンクの妖精だった。
「えっ!?ま、まさかあなたは!?」
「はい。ラクス・クラインですわ。」
もしや今までのことを全部見られていたのか、ルナマリアは思わず顔を赤く染めてしまった。
「あ。す、すみません!お見苦しいところを……。」
とっさにルナマリアは謝ったが、ラクスはそれを全く気にしていなかった。
「お気になさらないでください。メイリンさんからお話は聞いております。あなたがお姉さんの…?」
「は、はい!ルナマリア・ホークであります!」
「ウフフ、そうかたくなさらずに。リラックスしてくださいな。」
「あ…はい。」
以前何度かあったときとは全然違う雰囲気に、ルナマリアは困惑した。
シンもその雰囲気に気付いたのか、彼女たちのそばまできた。
「ん〜、メイリンちゃんとは違って、結構勇ましいじゃないか。」
隣から聞こえた、ちょっと調子のいい声に、顔を向けると、そこに居たのは隻眼の男だった。
「ああ、これは失敬。アンドリュー・バルトフェルドだ。」
「アンドリュー・バルトフェルド……って、まさか“砂漠の虎”!!?」
「えええっ!?」
シンの言葉に、思わずルナマリアは声を上げた。
こんなところでザフトの歴戦の勇士に出会えるとは思っていなかったのだ。
「ひょっとして、エターナルを動かしていたのは………!?」
「ああ、そうだ。こう見えて僕も、アークエンジェルと同じオーブ支援部隊の一人でね。このエターナルに所属しているメンバーたちはいわゆる“クライン派”と言う、
ザフトのやり方に反乱を起こすレジスタンスみたいなものだ。」
想像だにもしなかった事実。
ザフトのかつての英雄視された戦士が、こうしてオーブとして動いていたことなど知る由もなかったのだから。
その時、なにやらブザーが鳴り響いた。
その音を聞き、メイリンが自席に着くと、バルトフェルドに告げた。
「ストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、帰等しました。」…と。
フリーダムとジャスティス―――その単語を聞いたシンは、すぐさま理解した。
アスランが戻ってきた……と。
それを裏付けるかのように、数分後ブリッジへと続く扉が開いた。
しかし、入ってきたのはアスランだけではなかった。
もう一人、鷲色の髪とアメジストの輝きを宿した瞳を持った少年が入ってきた。
年齢は、自分たちとさほど変わらないといったところか。
「キラ、アスラン!」
ラクスがすぐさま切り出して、彼らのもとへと駆け寄った。
「ただいま、ラクス!」
「お帰りなさいませ、アスランも。」
「ああ。」
返事をしてすぐさまアスランは、偶然居合わせていたシンたちに目を向けた。
「お前たちも、生きていたんだな。」
「あ…ああ。」
シンはやや戸惑いながらも、一応返事をした。
そして、キラの顔を見たシンは、何かを思い出したかのように突然目を見開いた。
「…っ!?あんた、あの時確かオノゴロ島で……!!」
その言葉に、キラも記憶を探るうちにその理由を理解し、なぜか顔が綻んだ。
「そうか……君はあのときの…。」
ブレイク・ザ・ワールド直後、一度だけオーブに寄港したミネルバ。
そのときにたった一度だけ外出した時だった。
オーブ・オノゴロ島の慰霊碑の前で、二人は一度だけであった。
そのときは、お互いに敵になることも知らずに………。
「慰霊碑…ですか…?」
「うん…そうみたいだね……。」
そのアメジストの悲観的な瞳とは対照的に、ルビーの瞳の奥からは、激しい憎しみの焔を宿していた。
「せっかく花が咲いたのに、波を被ったら、また枯れちゃうね…。」
「ごまかせないってことがわかっても、いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす………。」
キラはこのとき、彼の心の奥底からの憎悪を感じ取っていた。
それが何なのかは、定かではなかったが……。
「じゃあ君が、シン・アスカ。」
「っ!な、なんでそれを!?」
「アスランから詳しいことは、色々と聞いているよ……。僕の幼なじみが、世話になったね。」
―――幼なじみ!!?
シンとルナマリアはもちろんのこと、メイリンも予想外な言葉だった。
そう、キラとアスランは、月面都市コペルニクス時代からの幼なじみだったのだ。
「…ということは、あんたがフリーダムの……!」
その言葉に、キラはゆっくりと頷いた。
アスランがフリーダムのことに執着するのはそういう道理だった。
しかし、シンはそれに納得がいかなかった。
彼にとって、キラほどの腕前のパイロットがオーブにいることなど、考えがたいことだった。
自らの力を無駄にしているのと同じだった。
「なんで…なんであんたみたいな人がオーブにいるんだよ!!?」
突然響き渡ったシンの怒号に、キラは顔をしかめた。
「そんな力があったなら、どうしてそれを使おうと思うときに使わない!?」
「シン!お前、いいかげんに……。」
アスランの一括が飛び交う前に、キラが一歩前に出た。
「っ!…キラ!」
「大丈夫だよ。アスラン。」
そう言ってキラはシンの目の前まで出てきた。
「君も、何か大切な人を失ったんだね。」
まるで人の心を見透かしたかのような言葉に、シンは目を見開いた。
さらにキラは続けた。
「その意味じゃ、君と僕は似ているかもしれない……。」
―――似ている!?俺と、あんたが!?
「僕だって3年前に、自分が守りたかった友達を、目の前で失ってしまったんだ。だから……その気持ちはわかるよ。」
その言葉と同時にいつの間にか、シンはキラの腕の中に居た。
「なん…だよ、それ…。同情ならやめてくれ!!俺に優しくするな!!俺は、弱くなりたくない!!」
「そうやって、強がっていても、何も意味はないよ。」
即座に飛び込んできたその言葉に、思わず体が強張った。
「確かに、誰かを失った悲しみはとても大きい。力が欲しいと誰もが思う。でも、たとえ力を手に入れても、何も意味はないよ……。
それどころか、力ばかりに魅了されて、自分自身の未来の道を自分で壊してしまうんだ。」
一つ一つ紡がれていく、キラの言葉は、シンの心の氷を少しずつ、でも確実に溶かしていった。
「それに、たとえ自分の人としての弱みというものを持ってはいけないというわけじゃないんだよ。」
その言葉に、シンは再び目を見開いた。
「一人ずつ、その弱みがあるからこそ、自分自身の個性やいいところを見つけることが出来る。そして、お互いにそれを知って、支えあって生きていくからこそ、
僕たちはここに居る。そして、その個性があるからこそ、僕らのそれぞれの人生が、見つかるんだ。」
そして再び距離をおき、シンの目を見つめた。
「君だって、それがあるからこそ、オーブに住んでいたんでしょ?」
人としての根本的な存在意義、その全てを教えてくれたキラの言葉。
彼の腕をとおして伝わったこの温もり、ザフトに入って以来すっかり忘れていたものだった。
まるで、自分の兄さんが現われたかのような感覚だった。
それに包まれたシンの涙は、堰を切ったように止まらなかった。
「…ホントは判っていたことだった。でも、自分の力のなさを痛感してから、その未来への道すらも自分で無くしてしまった…っ…俺は…誰かを守りたかった…なのに…俺は…おれは…っ……!」
「シン様、もういいですよ、それ以上は言わなくて。自分を責める必要はありませんし、その涙を我慢しなくていいんですよ。それに、あなたはこれから、
先立ってしまった家族や守りたかった人たちの分まで、立派に生きなければなりません。」
うつむいていたシンは、ラクスの言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
そう、彼の人生はまだこれから。
父さんや母さん、マユ、ステラ…、そして、メサイアと共にこの世を去ったレイの分まで生きなければならないのだ。
それこそが、彼に出来る皆へのせめてもの贈り物だろう。
「それ以前に、お前はもう一人じゃない。俺たちだって居るし、ルナマリアやメイリンも居る。お前の周りには、支えてもらった大事な仲間も居るじゃないか!」
「アスラン…っ…。」
自分には、今まで支えてもらった大事な友達もいる。
これから一緒に生きていく、最高の仲間たちが。
「元気だして、シン。あたしたち、友達でしょ!?」
「そうだよ。何でも自分ひとりで背負わないで!出来ることだったらわたしたちもついてあげるから。ね?」
「メイリン……ルナ…っ…!」
彼らからの心からの笑顔に、また涙が溢れた。
シンは再びキラに目を向けた。
その表情は笑顔に満ち溢れていた。
キラはその笑顔のまま、ゆっくりと首をたてに振った。
「ね?君を必要としている仲間はたくさんいるよ。だから、安心して。」
そう言って再び抱き寄せられ、体中に伝わった温かみ。
シンはもはや、そのこみ上げてくる感情に、我慢することが出来なかった。
「…う……ううぅっ……ぁう……うぅっ……うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
シンの“心の呪縛”と言う名の鍵は、ついに解き放たれた。
彼はキラの背にしがみついたまま泣き続け、キラはシンが泣き止むまで彼の髪を撫で続けてやった。
その光景は、本当の兄弟のような感覚だった。
--End--
☆あとがき
機動戦士ガンダムSEEDDESTINY完結記念の特別補完捏造小説でございます。
読んでお分かりの通り、メサイア陥落直後の話です。
それにしても、ここにきて初めて書いたかも、キラシンと言うCPは。
一応言っておきますけど、決してBL傾向ではないのであしからず。
ちなみにイメージソングは、day after tomorrowの『Stay in my heart』です。(笑)
最後にこの場をお借りしまして、DESTINYスタッフの皆さん1年間お疲れ様でした!!