君とのキオク



いつもどおりの登校風景。

いつもどおりの授業。

いつもどおりのクラスメートの顔。

それぞれが今となっては、輝いているように見えた。

あの日、ママから信じられない言葉を聞いたときから………。

もうすぐ、通っている学校とのさよならが近づいてくる。

でも、バイバイなんてしたくなかった。


シン……離れたく…ないよ…。



Story 1
GLORY DAYS




シンが高校生になってからまもなく1年。

もうすぐ2年生、自分よりひとつ年下の新入生が入ってくる。

“自分が先輩になる”と言う興奮に、胸が高鳴っていた。

そんな期待を胸に、シンはいつもどおりに学校に行き、教室のドアを開けた。

「おはよー!」

人一倍元気のいい声に反応したシンのクラスメートは、笑顔で答えた。

「よう!シン!おはよ!」

ヴィーノと目が合い、最近のドラマやゲームなどの話題に話を膨らませていた、そのときだった。

なにやらいつもとどこか違う雰囲気を感じた。

その方向に目を向けると、なぜかいつも以上に暗い雰囲気を持つガールフレンドがいた。

様子がおかしいと思い、ルナマリアに声をかけた。

「ルナ……ステラ、一体どうしたんだ?かなり暗い感じがするけど…。」

「あたしも知らない。今日、学校に来てからいつもあんな調子よ……。」

何かショックな出来事でもあったのか……。

そんなシンの不安は、最悪の形で的中してしまうであろう事は、本人ですら知る由もなかった……。


それから1日中ステラは、終始暗い表情のままだった。

こんな彼女を見るのはシンですらも初めてだった。

そして、放課後のホームルームの時間となり、担任を務めているラミアス先生が入ってきた。

「え〜…。解散する前に、皆さんに非常に残念な知らせがあります。」

しかし、彼女の口調はいたって尋常ではなかった。

ステラと同じくらいにテンションが低かったのだ。

クラスメートのみんなも、自分たちの先生の様子がおかしいことには、気付いていた。


「この3学期をもって、ステラ・ルーシェさんが転校することになりました。」


「……えっ…!!??」

――――えええ〜〜〜〜〜っ!!!???

クラスメート全員が驚いた。

特に一番驚いたのは、高校に入学する時代から付き合っていたシンと、彼女ととても仲の良かった女子たちだった。

「…ステラ、それ本当なの…!?」

「…うん……ルナ…みんな…だまってて、ごめんね…。」

ステラはそう言い、両手で顔を覆い泣き出した。

ルナマリアはそんな彼女を見ていられず、ステラを抱き寄せた。

ラミアス先生はそんな彼女たちの痛ましい姿を見つつ、話を続ける。

「ステラさんのお父さんの仕事の都合で、転勤が決まったそうです。」

私も非常に残念です。

クラスメート全員が静まり返った。

1年間ずっと一緒だったクラスメートとお別れをするのは、それくらいショックだったと言うことだ。

ふと、シンが切り出した。

「先生、ステラの家族の引越しって、いつですか…?」

「……3月の上旬ごろよ。だから、ステラさんが学校にこれる日は、実質上あと2週間くらいと言うことになるわね。」

シンの頭には、今の現状についていくことが出来なかった。

判っているのは、ステラとの別れが近づいていると言うことだった。

この1年足らずの間、ずっと彼女と一緒に付き合ってきた彼にとって、このようなショックは今まで経験したことがなかった……。



その日の帰り道は、足取りが重かった。

“ステラが転校する”

この言葉だけが頭の中をぐるぐると駆け巡り、離れることはなかった。

彼はその足取りで家に帰り着いた。

玄関を抜けて彼はそのまま自室に入った。

幸い、同居させてもらっている義兄は帰っておらず、家には一人だけだった。

ボーっとした目線でリビングに降り、イスにかけた。

脳裏に、ステラと楽しんだ日々の思い出が蘇っていった。

『初めまして!君、名前は?』

『ステラ。ステラ・ルーシェ。』

『俺はシン。シン・アスカ!』

高校に入学したとき、初めて出会った女の子が、ステラだった。

彼女は言葉遣いが非常に幼く、自分の年齢になれば判る言葉でさえも、判らなかったと言う、困った一面も併せ持っていた。

そんな彼女との初めてのデートは、遊園地だった。

『ステラ、今日は君が乗りたいと思ったところに行こう!』

『うんっ!たくさんあそんでいこう!!』

満足に会話ができない二人にとっては、そんな幼い会話で十分伝わっていた。

言葉で伝えられなくても、その思いは通じ合っていた。

思い出せば思い出すほど、彼の胸が熱くなっていった………。

「…う…ぅっ…ぅ…くっ…うう…。」

彼女は自分自身の半身と言っても過言じゃないくらいに、二人は惹かれあっていたのだ。

「…ううっ…ぅぅ……うわあああああぁぁぁぁぁ!!!」

耐え切れずシンは、その場に顔を伏せ、泣きじゃくった。

いくら泣いても、涙は止まらなかった。

「う…っ…ひっく……ステラ……ステラァッ……うわあああぁぁぁっ!!!」

それからしばらく、彼の号泣と溢れる涙は止まることはなかった。


日も暮れて、夜の8時前。

家のドアが開いた。

「………?」

いつの間にか、泣きつかれて眠っていたシンは、ドアの開いた音で目が覚めた。

「シン、ごめんね。遅くなっちゃ…って……?」

入ってきたのは、シンの理解者でもあり、彼の義兄とも言うべき存在だった。

「…キ…ラ……!」

「…どうしたのシン?…目元が真っ赤だよ。」

「う…ぐっ…ひっく……兄さあぁん!!!」

また泣き出したかと思ったら、今度は勢いよくキラの胸に飛び込んできた。

義弟の予想外の行動と、小さな子供のように泣きじゃくると言う、今の彼の現状にキラは困惑しかけた。

「…え…えっ?…ちょ……シン、一体どうしたのさ。」

「ううっ、ひっく…2週間後に…ステラが…転校するって……。」

―――えっ!?ステラって確か………!?

その名前を聞いた途端、キラの脳裏にある光景が浮かんだ。

シンは以前に何度か、自分たちの住む家に、そのステラと言う女の子を連れてきたときがあった。

ふわふわっとした金髪と、どんな宝石にも勝るワインレッドの瞳。

そして、幼さが残るようなかわいい表情。

シンと二人で並ぶと、本当の兄妹にも思えた。

その子が、もうすぐ転校する。

ようやくキラは、義弟がここまでひどく泣きじゃくっている理由がわかった。

シンはそこまで彼女を愛していたのだ。

「……そうだったのか。」

キラは彼を抱き寄せた。

しばらくシンは、泣き止みそうになかった。

「寂しくなるね、シン……。」

「……信じたく…なかった…。ステラと…離れ離れ……なんて…絶対に…嫌だったんだ……!なのに……なのに……!」

顔はすでに涙で濡れていて、嗚咽をもらしていた彼の心は、想像以上に大きなダメージを受けていることは、
今まで一緒に暮らしていたキラも、よく判っていた。

かつて、実の家族が事故で先立ってしまい、天涯孤独となったつらい過去を持つシン。

その中には、妹の無残な姿もあった。

そんな彼の心の支えにもなったキラとステラ。

しかし、そのステラがもうすぐ転校する。

義兄が傍にいるとはいえ、また孤独になってしまうのではないか……?

そんな恐怖が、今の彼にのしかかろうとしていたのだ。

しかし、あの日以来、義弟として彼のそばにつき、いつも彼の心の傷を癒し続けてきたキラ。

ゆっくりと、彼の痛みを癒すべく、言葉を紡いでいく………。

「でも、いつかお別れを言う日は必ずくるものさ。ひどい言い方だと思うけど、それは仕方ないよ……。」

ステラちゃんの家族がとった道、とても辛いことだと思うけど…。

彼らの今までの付き合いを、誰よりも多くこの目で見てきたキラにとっては、彼の痛みは自分の痛みととっても過言ではなかった。

「だけど、その別れは永遠に続くってわけじゃないんじゃない?」

―――えっ!?

シンにとっては予想外の言葉だった。

彼は驚きの目を、キラに向けた。

「別に二度と会えないわけじゃない。きっと、いつかまた会える日が来る。」

別れが永遠になるか、一時的になるか、その答えは人それぞれ。

「だからこそ、彼女との残り少ない時間を楽しく使っていこう。」

ステラちゃんと一緒に暮らしてきた思い出が、宝石にも勝る、最高の宝物になるように。

それが、彼女にとっての暖かいプレゼントになるよ、きっと。

キラの温かい言葉に、シンはまた涙した。

今まで何度、義兄の言葉に救われただろうか………。

「…っ……兄さん…っ…!」

涙目のまま笑顔を作り、シンはまたキラの胸に顔を押し付けた。


その晩、自室に戻ったシンは、意を決して携帯を取り出した。

メールを打ち込み、送信する。

『ステラ………こんどの休みに、デートいかない?』

しばらくして、返事のメールが届けられた。

『いつものばしょで、まってる。』

そのメールを受け取り笑みを浮かべるも、シンは確信していた。

おそらく、今度が彼女との最後のデートになるだろう………と。



--to be continued--




☆あとがき
サイト初の中編小説、第1話でございます。

学園パラレルの転校ネタです。いきなり物語が動きまくってますが(汗)
次の第2話は、シンとステラのデートの模様をお送りします☆








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