それは、少女の何気ない一言がきっかけだった。
「クリスマスって……何?」
その言葉に、シンはもちろんのこと、遊びに来ていたキラやラクスも固まった。
『ナンデヤネン!!』
ラクスのペットロボットのハロも、タイミングがいいように言葉を発していた。
「そう言えば………ステラ、クリスマスのことも知らなかったな……。」
どう説明すればいいか判らなかったシンは、頭を抱えるばかりだった。
と、その時、ラクスが何か思いついたかのように、手をたたいた。
「そうですわ!シンとステラさん、まだ新婚旅行しておられてませんよね?」
「「えっ?」」
唐突なラクスの言葉に、シンとステラはきょとんとした。
確かに二人は結婚してそろそろ4ヶ月になろうとしてる。
しかし、二人きりでの旅行と言うのは、まるっきり未経験だった。
「この際ですから、二人きりで新婚旅行も兼ねたクリスマスを二人で過ごすと言うのはいかがでしょうか?」
「二人きりでのクリスマス旅行か……まぁ、丁度俺も休みをもらいたかったところだしな……。」
シンはシャトルの中、一人呟いていた。
その隣には、無邪気に眠るステラがいた。
戦争が終わっての二人きりでの旅行は、彼らにとっては初めてのことだった。
そんな彼らの行き先は、月面都市・コペルニクス。
キラの話では、丁度今の時期、コペルニクスは季節が冬に設定されているはずだとか。
クリスマスシーズンを迎えるこの時期には、いい頃合だった。
それ以前に、シンにとってまともなクリスマスを迎えるのは本当に久しぶりだった。
数時間ほど経って、シャトルはコペルニクスへと到着した。
「シン……、ステラ、とても楽しみ…。コペルニクス…初めて……。」
「俺もだよ、ステラ。」
何気ないそんな会話を交えて、二人はコペルニクスの市街地へと入っていった。
外の空気は冷え切っているのか、乾燥した冷たい風が二人の体に吹き付けた。
「ううっ…寒い……。」
「大丈夫?ほら、これでも首に巻いておいて。」
シンはステラの首に、長くて赤い毛布のものを巻きつけた。
「あったかい……。これ、何?」
「“マフラー”って言って、とても寒いところに行く時につけるものだよ。そうやって首に軽く巻きつけておけば、大丈夫だよ。」
「…うん……ありがとう…。」
シンからもらったマフラーを自分の頬に寄せ、その温かさを実感しながら、ステラは彼の後ろについていった。
市街地を見渡せば、どこもかしこもクリスマス記念の祝い事で賑わっていた。
一般的なデパートから子供が喜ぶ玩具屋まで、すべてがクリスマス一色だった。
二人は賑わう街中を適当に彷徨いながら、その賑わいを聞いていた。
「シン……クリスマスって、こんなに楽しいこと?」
「うん、そうだね。クリスマスは、いろんな人にとっての楽しい日でもあるんだ。」
「どんなふうに?」
「例えば、アレを見て。」
シンが指差した先には、子供づれの親子が、おもちゃを買っているところがステラの目に映った。
「わ〜い、わ〜い!アハハッ!」
自分のほしかったおもちゃを買ってもらった男の子は、心からの笑顔を浮かべていた。
「小さい子供だったら、あんなふうに自分の好きなおもちゃを買ってもらえるってところかな?」
「あの男の子……嬉しそう…。」
そんな親子連れの姿を最後まで見届けた二人は、別の場所へと移動していた。
ふとその時、ステラから一つの疑問が。
「シン………、小さい子供の場合はわかった…。じゃあ、ステラたちや大きい人たちの場合は、どんな感じなの?」
「おもちゃとはまた別なんだけど、俺たちみたいな人たちだったら、自分の好きな相手が喜びそうなものを買ってあげるって言った感じかな…?」
その言葉を聞いてステラはきょとんとした。
しかし、しばらくしてその理由に気付いたのか、微笑を浮かべた。
「シン……、ステラ…何かほしい……。」
「よし。じゃあアクセサリーでも買ってあげようか。」
「…アクセサリー…?」
そう言ってシンが連れてきたのは、デパート内のアクセサリー売り場だった。
リーズナブルなものから、ちょっと手が込んでいて値段が高いものまで売られていた。
「キレイ……!」
「どれか好きなもの、買ってあげるよ。でも、壊さないようにね。」
「うんっ…!」
ステラは軽く返事をし、売り場の中を歩き回った。
彼女の相変わらずの無邪気さに、シンも思わず笑みを浮かべた。
“こんなクリスマスがあっても、悪くはないな。”
いつしかそう思うようになっていた。
そんな時、ほしいものが見つかったのか、ステラが手招きでシンを呼んでいた。
シンはすぐさま彼女のもとへと駆け寄った。
「シン、ステラ…これがいい。」
ステラが指差したものを見てみると、シンは微笑んだ。
彼女がみつけたものは、まさに“ステラらしいな”と思えるほどのものだった。
それは、貝殻をモチーフにしたペンダントと、巻き貝を象ったブローチに、ちいさなワインレッドの宝石が埋め込まれたものだった。
“海”が大好きなステラにとっては、うってつけのアクセサリーだった。
「このブローチの中の宝石、ステラの目の色と同じだ。」
「えっ?ステラの目も、こんな色?」
「うん。とてもキレイな瞳だよ。」
シンのほめ言葉に、ステラは頬をピンク色に染めた。
運がいいことに、この二つはセットで売られていて、値段も手ごろな価格だったので、シンは迷わずこれを購入した。
初めて買ってもらったプレゼントに、ステラは大喜びだった。
デパートをあとにしたシンとステラは、しばらくの間市街地を散策していた。
ステラの手には、シンに買ってもらったアクセサリーのケースが、しっかりと握られていた。
そしてコペルニクス内での時間が夜を告げようとしていたとき、二人はとある建物の入り口まで来ていた。
そこは、コペルニクス内でも有数のリゾートホテルだった。
「ステラ、今日はここで泊まるよ。」
「…とまる?」
「ここの部屋の一つで、俺と一緒に寝るってことさ。」
「…ふたりきり?」
「そういうこと☆」
ステラはすぐさまそれを理解し、とびっきりの笑顔でシンの腕に抱きついた。
二人はそのままチェックインし、今夜泊まる一室に案内された。
「うわ〜、ひろ〜い!」
ステラは、思っても居なかった部屋の広さに、興奮していた。
彼女にとってホテルに泊まるということは初めてだったのか、その無邪気さにシンはまた微笑を浮かべた。
ふとその時、ステラの目に大きな窓が映った。
そこから見下ろすコペルニクスの夜景は、爽快だった。
「シン!見て見て!!」
彼女の呼ぶ声に反応したシンは、すぐに彼女の傍まで寄った。
「すごい……!キレイだ………!」
「うん……。」
二人はしばらくの間、コペルニクスの景色を堪能した。
所々で照らされるその灯りは、二人の心を一層ときめかせた………。
しばらくして、「シン。」と呼ぶ声がして、彼はステラに目を向けた。
すると、いきなりステラが彼の体にギュッと抱きついた。
「えっ!?ステラ…?」
彼女からいきなり抱きつかれるなど、シンにとっては予想外なことだった。
「ありがとう…シン……。」
「……えっ?」
「クリスマス…とても楽しかった……。また、来年も…ね?」
「……うん…。約束するよ…ステラ…。」
その後二人は、誰にも気付かれることなく抱き合ったまま、息も忘れるくらいの甘い口付けをかわした………。
二人の心に、輝く星を……。
そして、この話を読んでくれているみんなの心にも、輝く星を……。
Merry Christmas!!
--End--
☆あとがき
クリスマス記念小説第2弾は、戦後パラレルのシンステです。
今回のイメージソングは、Kの「Girlfriend」です。
ステラの性格上、クリスマスを知らないと言う設定は真っ先に思い浮かんだものなんですけどね☆
でも、自分的には結構甘めに仕上がったと思います。