ふと気が付けば、見渡す限りの広大な砂漠だった。
どこにも街やらが見当たらず、水すらもない、荒れ果てた大地……。
シンは、そんな砂漠の中心部に位置する場所にたっていた。
「……何だよ…ここは…?」
知らぬ間に広がっていたこの大地。
シンは、当てもなく彷徨いだそうとしていたその時、突然足元でグニャッとした感覚が走り、恐る恐る目線をおろした。
そこに転がっていたのは、死体だった。
―――!!??
目を見開いたシンは、さらに目線を泳がすと、我が目を疑った。
いつの間にかおびただしい数の死体が、これでもかと言わんばかりたくさん横たわっていた。
「うわああぁぁっ!?」
声にならないような悲鳴を上げたシンは、足がすくんでしまい、その場で後ろに倒れこむようにして座り込んだ。
「…な…っ……何だよ、これは……!?」
体を大きく震わせながら、言葉を紡いだシンの背後から、突然声が……。
「この4〜5年間で、死んだ人たちの死体だよ。」
―――なっ!??
不意に聞こえた声にビクッとしたシンは、後ろを振り返った。
そこに居たのは、カーディガンを肩にかけた、銀髪の人間だった。
その容姿から、シンとほぼ同年代と窺える。
しかし、外見男に見えるとは思ったものの、何か雰囲気が違うように感じた。
「………あんた…誰だ…?」
「…レニ・ミルヒシュトラーセ。200年以上も昔に死んだ人間なんだけどね……。」
「……女か、あんた…。」
「……どうして、判ったの?」
「…何となくだ。」
シンは、レニに今この世で起こっている戦争の全容について、説明した。
世界は今、ナチュラルとコーディネイターという二つの人類が居ること……。
コーディネイターとは何なのかと言うこと…。
そして、その二つの種族が、敵対して戦争を起こしていること……。
レニは、自分たちが住んでいた世界が、ここまでひどくなってしまっていると言う現実に、驚きを隠せないでいた。
「…ボクたちがやってきた戦いとは、明らかにスケールが違いすぎるよ……。」
その言葉に、シンは軽く目を見開いた。
「えっ?どういうことだ?」
その質問にしばしの沈黙の後、レニは口を開いた。
「ボクは昔、日本という国、丁度今の“東アジア共和国”の一部の島の中心都市である、東京と言う街を守るために活動する秘密組織の一員だったんだ。
そのとき起こった“降魔戦争”は、あわや都市全土壊滅かと言うくらいの大被害を受けたものだから……。」
レニのその経緯は、シンが予想だにしていたこととは、はるかに違ったものだった………。
「……あんたも…辛い体験をしたんだな………。」
シンの言葉に頷いた後、レニはゆっくりと立ち上がった。
「でも……これはあまりにも、酷すぎるよ………。」
そう言いながら周りに転がっている死体たちを見つめた。
今の世の中で広がっている戦争の火種に、彼女は嘆いた。
その目じりには、うっすらと涙が浮かんでいた。
「だが、俺の家族はこの戦争で、みんな死んでしまったんだ!!」
突如耳に入ったシンの言葉に、レニはゆっくりと振り返った。
気が付けば、シンの手は握り締められていたまま震えていた。
「俺は自分自身の非力さが、とても悔しかった!だから俺はこの戦争で……。」
「“力を手に入れて家族の敵討ちをする”…とでも言うの?君は…。」
言おうとしていた言葉を見透かされ、シンは思わず目を見開いた。
「……そんなことをしても、家族が喜んでくれるはずがないよ…。」
レニの言葉に、シンは怒りをあらわにした。
「何だよそれ……復讐してもなんの得にもなんねぇとでも言いたいのかよ、あんたは!!」
レニは何も言わず、シンを見据えていた。
彼の瞳は真紅の瞳。
それゆえに瞳の奥には、怒りの炎が燃え盛っていた。
「オーブの奴らのような奇麗事をぬかしやがって!あんただって家族や友達は大事だろう!!そいつらが殺されてしまった時の憎しみは
ないと言うのかよ、あんたは!!そんなの普通じゃ……。」
「うるさいっ!!!!」
―――バシッ!!
レニの一喝と同時に、乾いた音が響いた。
シンはたたかれた頬を抑えながら目を見開き、レニを見つめた。
彼女のマリンブルーの瞳は、怒りに満ちていた…。
「確かに、仲間を失った悲しみは消えないと言うのはボクにもわかるさ。殺した相手が憎いと言う気持ちもあったよ。
でも、その家族の仇をとったとしてもボクはそんなのですっきりするはずがないよ!!第一、仇を殺したところで
君の家族が戻ってくるはずがないじゃないか!!!君はそんなことも忘れたって言うの!?」
いつの間にかレニの瞳から涙が流れていた。
その雫は、堰を切ったように止まらなかった。
シンは、レニの率直な言葉とその涙に、反論できずにいた。
レニは自分で涙を拭い、重い口を開いた。
「ボクは君の話を聞いて、こう思ったよ。『どうして人は人を傷つけてしまうのか?なぜ誰もが争うのか?』……とね。」
その言葉を聞き、シンはハッとした。
コーディネイターもナチュラルも、もとは同じ“人間”。
どうして人は人の命を奪ってしまうのか……。
地球の長い歴史上で、人としての根本的な問題が今も根強く残っている。
レニの言葉は、シンの心に深く突き刺さった。
シンは、彼女の心の砂漠を見つけていた。
自分たちの心は、彼女のように砂漠と成り果てていた。
ただ相手が憎いから、戦争だから、敵だからと、そんな単純なことで人間たちは人を殺してしまう。
仲間以外を殺してしまうと言うのが、人の生まれながらの意思であり、全ての人類の歴史……。
しかし、それゆえに人間たちは、人への愛情というものを失ってきている。
大人へと成長していくごとに、それを少しずつ無くしている。
シンはそれに気付いていた………。
「…俺達は…今まで世界の平和を願って戦ってきた……自分たちがやってきていることが正しいと信じて…。」
閉ざされていたシンの口がゆっくりと開いた。
その声に、レニは顔を向けた。
「だけど、それは逆に自分自身を傷つけること、人への愛情を捨てるやり方だった……。俺は…何と戦うべきだったんだ!?」
シンは、自分自身に問い掛けるような言葉を紡いだ後、嗚咽を漏らしたまま泣き崩れた。
すると、レニは震えたまま泣いているシンの肩に自分の手を添えた。
彼はゆっくり後ろを向くと、聖母のような微笑を作るレニの姿が。
「……その答えは、君自身の力で見つけてみて。どこまでも自分自身で考え、答えを探す…。それが『生きる』と言う、自分にとっての終わりなき旅なんだ。
いつもそんな旅を続けていくことを、忘れないでね。」
すると、レニの体が光の幕に包まれた。
「君は、そのなくなってしまった家族の分まで強く生きるんだ。自分自身にとってのドラマと、歴史を作ること。それが、家族へのかけがえのない贈り物だよ!」
その言葉と同時に、全てが光に包まれた…………。
「…ぅ……う〜…ん……。」
シンが目が覚めた時、自分はミネルバの自室に居た。
「…夢だったのか……。」
ゆっくり体を起こし、いつものように軍服に着替えた時、背後に気配を感じた。
後ろを振り返るとそこには、あの女性が居た。
―――レニ………!?
「シン…、自分に迷わず、強く生きていくんだよ………!」
その言葉と同時に、レニの姿が消えた。
唐突な出来事に、シンは動揺を隠し切れなかった。
しかし彼女の言葉が、シンにとってのエールとなった。
―――ありがとう……レニ…!!
そしてシンは、今日も戦場に赴く。
大切な仲間を守るために……、そして、これから作り出す未来を掴み取るために………。
--End--
☆あとがき
短編コラボレーション第1弾!!
まずは、SEEDDESTINYのシン・アスカとサクラ大戦のレニ・ミルヒシュトラーセのコラボです!
タイトルは思いっきし、過去9年間のサクラ大戦の歌謡曲の中から取りました。
ちなみに、サクラ大戦の時代設定とSEEDの世界を強引にリンクさせてます。(おい!)
「なぜ人は人の命を奪ってはいけないのか?」
これは天才てれびくんの特番でもやっていた、重大なテーマでした。
この問題はおそらく、SEEDの世界にとっても大切なことなのではないかと僕は思います。
『生きる』と言うことは、ある意味で難しいことですね……。