ここは、芸能界有数の大手プロダクション『765プロ』本社。
その企画課のオフィスでは、今回開催されることになっているオーディションの準備を整えていた。
「遂にいよいよか・・・、765プロ主催『765どライブ』・・・。」
企画発案者であり、敏腕プロデューサーでもある中川空。
今日のこの日を待ちに望んでいた一人である。
「これに勝てば、私達の新たなアイドル候補生になれるんですね。」
その傍らには、765プロが誇るトップアイドル・天海春香の姿があった。
彼女は今回のオーディションに際し、空と共に審査員を任されている。
「そゆ事。しかし・・・、春香達がアイドルアルティメイトに優勝してから半年で大量の新人候補が来るとは・・・。」
アイドルアルティメイト(IU)―――。
それは文字通り、芸能界最強のトップアイドルを決める、もっともシビアな大会。
その中で春香たち765プロは、ライバルである961プロと延べ数ヶ月に渡る戦いの末、見事、春香が優勝を果たしたのだ。(アイドルマスターSPシリーズ参照)
それ以来、春香の人気ぶりは急上昇、彼女に憧れる女の子だって少なからずいるはずだ。
「空さん的にティンと来たのはいたんですか?」
「若干ね・・・。まぁ、1つ悩みとすれば・・・。」
「悩みとすれば・・・?」
「ほら、書類審査をしたのがダイスケでしょう?アイツって・・・、我那覇が『変態』って言うくらいのエロ親父(いや、エロ青年か・・・?)で独特の理論を元に選んだからちょっと微妙なんだよね・・・。」
そう、今回のオーディションには空の直属の部下であるダイスケも審査員として参加しているのだが、同時に彼女の一番の悩みの種でもある。
「あ〜、確かにあの人の理論にはついていけませんよね・・・。」
そうこうしているうちに、いよいよオーディション開始時間10分前。
「そろそろ時間ね・・・。春香、ちゃんと審査しなさいよ!!」
「了解です、プロデューサーさん!!」
審査会場には、すでに多くの新人候補生が集まっていた。
「・・・。それでは、本日の審査員を紹介します。まず、765プロ企画課課長にして、765プロ専属構成・脚本家の中川空!!」
司会を兼任するダイスケの言葉で、オーディション参加者たちが一斉に拍手で空を出迎える。
「中川空です。本日はよろしくお願いします。」
そんな彼女をまじまじと見つめる参加者たちの中に、一人の少女の姿が・・・・・・。
(アレが、765プロの影の首領・・・。美人で優しそうに見えるけど・・・、威圧感は有りまくりだな・・・。)
彼女が、この物語の主人公とでも言うべき少女、日高愛。
「続いて、765プロ所属アイドルを代表して天海春香さん!!」
拍手に出迎えられた春香は、持ち前の元気な声で参加者たちにエールを送る。
「天海春香です!!皆さん、一生懸命頑張ってください!!」
(アレが天海春香さん・・・、一緒の事務所に入れると良いな・・・。)
「そして、私、徳井ダイスケが司会も兼任しながら審査していきます。」
役者もそろい、いよいよオーディションの開幕だ。
「早速、コチラのワゴンをご覧ください。」
視線を移すと、そのワゴンには、1枚の紙が入ったカプセルがたくさん入っていた・・・。
「コチラのカプセルには、『○』の紙と『×』の紙が入っています。『○』だと次の審査に移れますが、『×』だと帰ってもらいます。まぁ、早い話がくじ引きですね。」
(くじ引きって・・・、どういう事?)
1次審査でいきなりくじ引き!?
愛はもちろん、他のオーディション参加者たちにとっても予想外だった。
すると、空が前に出てきて解説した。
「このくじ引きでは、あなた達の運を試すわ。アイドルにとってオーディションの順番等はくじ引きで決めてるから・・・。言い忘れたけど、外れても、今回私と高木社長が推薦する中〜小規模の事務所を書いてあるから、そこに紹介して良ければ採用されるわ。」
(なるほど・・・。こういうのって、良くバーゲンで一点買いしてるから私の得意だもんね〜!!)
当たり外れのある場合だけを考えれば、確かにバーゲンの一点買いに近いかもしれない。
「それでは、出演者の皆さんは1列に並んでステージへ来て下さい。」
数分後・・・
「私は・・・コレッ!!」
愛は、自分の運を信じ、カプセルを選んだ・・・・・・!
「全員いきましたね。それでは、カプセルを開けてください!!」
――――――パカッ!!
ダイスケの合図で、全員がカプセルを一斉に開けた。
(当たってますように・・・。)
祈る愛のカプセルの中にあった一枚の紙。
書いてあったのは――――――――。
『○』
「やった〜!!」
愛を初め、運良く『○』を引き当てた人たちは歓喜の声を上げた。
「○の紙を持ってる人はおめでとうございます。×の紙を持ってる人は申し訳有りませんが、お帰りください・・・。」
1次審査を突破した愛たちは、別室に移された。
次の審査は――――?
「第2審査は、筆記試験です!!」
(テスト〜!!私、勉強とかしてきてないよ〜!!)
春香の手で、愛たちに筆記試験の問題用紙と解答用紙が配布された。
「筆記試験の内容は、765プロに関する問題と芸能界の基礎常識を中心に構成されてます。筆記用具はコチラでお貸ししますのでご安心下さい。」
「合格点は7割となりますので皆さん、頑張ってください!!」
「それでは、始め!!」
空の合図で、テストがスタート。
(え〜っと・・・、『中川空がアイドルアルティメイト本選決勝戦で、我那覇達を首にした黒井社長に怒りのあまりした事とは?』あっ、コレ前に見た。答えは『殴った』・・・っと)
ちなみに、この筆記試験、同じく765プロのアイドル、秋月律子が製作を担当している。
それだけあってか、その難しさは折り紙付だった。
(さすが、律子製作のペーパーテスト。難易度ちょっと高めに作ってあるわね・・・。)
1時間後・・・
「ハイッ、終了〜!!んじゃあ、後ろから回して・・・。」
さすがに少しピリッとした空気だったのか、全員一斉に力が抜けた・・・・・・。
「一旦、昼食休憩として筆記試験の合格発表は午後イチにいたします。」
「う〜ん・・・、お昼に食べるサンドイッチは最高〜!!」
つかの間の休息、愛はお弁当のサンドイッチで上機嫌。
(そういえば、お母さんに関連する問題が1個あったけど・・・。ううん、オーディション中は、お母さんの事は考えないって決めてるんだから!!)
なぜか彼女は自分の母親に関することで気にかかることがある様子。
それは・・・・・・・・・。
一方、こちらは審査員控え室。
先ほどの筆記試験の答え合わせ中。
「あ〜、採点が難しい〜!!」
・・・なのだが、ダイスケがなにやらわめいているご様子・・・。
「文句言わないの!!」
「そうですよ!!ダイスケさんが、筆記試験をやった方が良いって言ったんですよ!!」
言いだしっぺが文句を言うというのも、確かに妙な話だ・・・。
「了解。ところで・・・、先輩に、春香ちゃん。ちょっと良いですか?」
「何?」
「いや、今日の『765どライブ』に『撃墜王』ってのが来てるんですよ。」
誰かがつけた異名なのか、随分とスゴイのが来たらしい・・・。
「『撃墜王』?誰?」
「この、『日高愛ちゃん』です。知り合いの話によると、大手のオーディション全て応募して全て後一歩のところで不合格になってるんですよね・・・。」
「なるほど・・・、だから『撃墜王』ね・・・。」
“全てのオーディションに応募して、全てが合格手前で落選”。
確かにある意味すごい・・・・・・。
・・・と、ここで春香があるところに気付いた。
「ところで・・・、日高って事は・・・。」
「えぇ。母親は、日高舞。18年前の初代『アイドルアルティメイト』ソロ部門チャンピオンです。」
「なるほど・・・、やっぱり日高の娘か・・・。」
そう、なんと日高愛はかつて人気絶頂期にあった超大人気アイドルの実の娘だったのだ。
「確か・・・、14年前に人気絶頂で結婚するために引退したとか・・・。」
春香自身も、その人気アイドルに関する話題は少なからず耳にしている。
しかし、そんな母親の存在が彼女の中でコンプレックスになりつつあることを、3人は知る由も無かった・・・。
「筆記試験は、満点という好成績で合格しています。」
「となると・・・、次の『お笑い審査』と『パフォーマンス』に期待するしかないわね・・・。」
「そうですね。」
1時間の昼休みが終わり、いよいよ2時審査の結果発表がやってきた!
「お待たせしました!!筆記試験合格者の発表です!!」
(確認もたっぷりした・・・、受かりますように・・・。)
全員が神妙な面持ちで結果が口にされるのを待つ。
「今回、満点合格がいました!!それは・・・、日高愛さんです!!」
いい意味で予想を裏切った自分の好成績に、愛自身もビックリ仰天!
(嘘〜!!適当にマーキングしただけなのに・・・。)
文句なしの2時審査突破だ。
「不合格の皆さんは、申し訳有りませんが、お帰りください。」
(良かった・・・。)
再び会場を別の場所に移して、いよいよ3次審査だ。
「さあ、コレから実技試験!!まずは、『お笑い審査』です!!」
「今から、一発芸やコントに挑戦してもらって春香が笑った人が次の『パフォーマンス』に行けるわ。」
ユーモアやボキャブラリーが問われるであろうこの審査、合格基準がかなり高そうだ・・・。
(お笑いか・・・、難しそう・・・。)
「それでは、最初の人からどうぞ!!」
愛の案の定、この審査は想像以上に困難を極めたようだ・・・。
「死んでしまう〜!!」
「・・・。」
ある挑戦者がギャグを披露しつつも、春香は無表情。
(日テレの矢島アナの名セリフか・・・。)
空とダイスケとしても、かなり不評だった様子・・・。
「声は矢島アナに似ていたわね。けど、春香が笑っていないので、不合格よ。貴方なら、東口プロレスの実況が出来ると思うからそこを紹介するわ。」
さすがにこれは、かなり厳しそうだ・・・・・・。
(次は私の番・・・。)
「次、日高愛さん。どうぞ!!」
ダイスケに名前を呼ばれ、早速ステージに上がり、即興で考えたネタを披露する。
「私、特技がありまして。」
「特技?」
「ハイッ、金魚すくいです。こう、ポイを返すのにテクニックがいるんだけど、大きかったっけ?・・・ってコレ『テニスラケット』じゃん!!」
「ぷっ・・・プハハハハッ!!プロデューサー、面白いですよ!!」
見事に春香の笑いのつぼをついたようだ。
「確かに・・・、あのノリツッコミは良いできよ。合格!!」
3次審査突破!
いよいよ採用が目に見えてきた・・・!
「ありがとうございます!!ところで・・・、1つ質問ですが・・・、」
「何かしら?」
「なんでお笑いの企画なんですか・・・?」
確かに、アイドルのオーディションとしてはかなり異例だ・・・。
すると空は彼女に質問で返した。
「愛さんに聞くわ・・・、真のゴールデン枠って何処だと思う?」
「真のゴールデン枠・・・。だいたい、夜の10時〜深夜の11時っていった所ですかね・・・。」
「深夜ってのはあってるわ。まぁ、私の持論だと・・・、『夜23時から長くて放送終了時間』ぐらいね・・・。」
「あっ、なるほど・・・。確かにあの時間帯に放送してる番組って私が出ていなくてもつい見ちゃいますよね〜!!」
話のネタに乗ってきた春香、妙なところで納得している様子・・・・・・。
「春香・・・、納得しない・・・。」
「は〜い・・・。」
「分かりました・・・、ありがとうございました。」
―――パタン。
直後、春香が何気なく思ったことを質問してみた。
「ところで・・・、プロデューサー・・・。」
「何?」
「さっき、愛ちゃんが言っていた『ポイ』って何ですか?」
「あっ、自分もソレちょっと分からないんですよね。自分・・・、昔から祭りとか行っても屋台の食べ物を食ってるだけだし・・・。」
さすがにそう言う細かいことに関しては、2人は知らないようだ。
「『ポイ』っていうのは金魚すくいで使われる専用の網よ。ほら、紙とプラスチックで作られたアレ」
「あぁ、なるほどあの網がポイって言うんだ!!」
「最近は紙製のが多いけど・・・、昔は最中の皮で作られたポイあったのよ。」
「へ〜・・・。」
今となっては、それを知る人はほとんど少ないかもしれない・・・・・・。
ここまで勝ち上がったのは、愛を含め、指で数えられるくらいの人数のみ。
「さぁ、いよいよ最終審査の『パフォーマンス』です!!」
「最終審査は自分の得意な事にチャレンジしてもらうわ・・・。歌・ダンス・楽器・・・とにかく何でもOK!!コレが最後のチャンスよ。みんな、頑張って!!」
これで765プロダクションに配属できるかどうかが決まる。
まさに大一番だ!
「愛さんは、歌とダンスですね。」
「ハイッ、そうです。一生懸命歌います!!」
「選曲はコチラで決めさせてもらったわ。それじゃあ、初めて!!」
――――BGM『きれいな旋律』
(コレッて・・・、お母さんの代表曲・・・。)
愛は、この曲を何度も聴いたことがあるのか、自然とその歌詞がこぼれるようだった。
「アナタの足音 キレイな旋律・・・。」
歌いだしと共に、愛のパフォーマンスが始まった。
(歌唱力は、親譲りね・・・。)
(あの子・・・、研けば良い娘になるぞ・・・。)
「一緒にレッスンしたり出来ると良いな。」
「ひとつひとつに いとおしい音」
母親顔負けの歌唱力とパフォーマンス。
愛は、この最終審査に自分の全てを注ぎ込んだ。
「お疲れさま。発表が有るまで控え室で待っていてね。」
「ハイッ!!」
こうして、全ての審査が終了し、後は最後の結果を待つのみ…!
果たして、日高愛は765プロに入れるのか!?
「続きを知りたければ、『アイドルマスターDS』を予約してね☆」by 中川空
--Following 『THE IDOLM@STER Dearly Stars』in NINTENDO DS…--
--ニンテンドーDS専用ソフト『アイドルマスター“ディアリー・スターズ”』につづく…--
あとがきと言う名のフリートーク(DaisukeP[以下:D]、中川空[以下:空])
DaisukeP「今回は、『アイマスDS』の販促ショートストーリーですがいかがですか?」
空「愛ちゃんのストーリーをDaisukePなりにアレンジしたけど・・・。」
DaisukeP「ちなみに・・・、お笑いのアレはあくまで、自分の持論ですのでご了承下さい。」
空「それでは!!」