Summer Bride





海が見渡せる浜辺の教会…。

強い日差しが照りつけるこの日…、二人の男女が、辛い壁を乗り越え結ばれようとしていた。

二度と離れぬのことを誓う、永遠の愛と共に……。




オーブ近海の孤島にある、マルキオ導師の伝道所……。

シンは、戦争が終結した直後、キラやラクスと共にこの島に住んでいた。

彼は、その大戦で家族を全員失いながらも、その苦難と戦いここまで生き抜いてきた。

その大戦のあと、彼は自分が大事にしたい存在と共に暮らす道を選び、ザフトを離れた。

しかし、まさかこうして再びオーブに住むとは思っていなかった。

ましてや、自分が恨みに恨んだ存在と共に……、生活することになろうとは……。

「シン。」

階段に腰掛け、何気なく浜辺を眺めていた時、背後から声が聞こえた。

振り返ると、そこには先の大戦でシンと共に戦った戦友であり、ライバルのキラ・ヤマトがいた。

「……何ですか?」

キラはシンのそばに腰掛けると、意味深な口調で話し出した。

「…君、ザフトを離れて、後悔していない……?」

その言葉に、ギクっとしたシンは目を見開いた。

とっさにその言葉を否定しようとしたが……。

「な…っ!何で唐突にそんなことを聞くんですか!?それにオレは、別に後悔なんか…。」

「……本当は、仲間たちと一緒に居たかったんじゃない?」

図星を指された。

シンは言葉を返すことが出来なかった……。

確かに、シンは仲間たちとの未練が残っていた。

特に、ザフトを離反する時、同僚関係にあったルナマリアには、最後まで分かってくれなかった…。

軍人として行き続ける道も、確かにあの時残されていた。

しかし、それじゃ自分の守りたい存在を守りきれない……。

それを熟知したがゆえに、決断したことだった………。

「……変なことを聞いて、ごめんね。」

不意に立ち上がったキラが、突然呟くようにそう言った。

「…えっ?」

そしてそのままその場から立ち去る時、こういい残した。

「もし君が、本当にあの子を一生守りたいという強い意志があるならば、その気持ちを伝えてね。
あの子はまだ幼い雰囲気が残っているけど、きっとシンのことを待っているよ。」

―――君の、本当の気持ちをね。

キラの言葉にハッとしたシンは、戦争が終わってから1年間ポケットにしまいっぱなしのものを思い出した。

あの女の子は、幼さが未だにあるがゆえに相手から聞き取る言葉の意味が分からないことがある。

しかし、自分を好きだという気持ちは偽りではない。

だからアレをいつか渡したいと思っていた。

なかなかそういう機会がつかめずにいたが、シンは決心を固めた。

自分に言い聞かせると同時にシンは、愛すべき人の下へと駆け出した。

今度こそ彼女を、幸せにするために……。

―――待っていろ……ステラ……!!


「キラ…。」

背後から自分を呼ぶ声がし、振り返った。

「ラクス。」

おそらく今までのことを見ていたのだろう、ラクスは微笑を見せていた。

シンが駆け出す姿を、小さくなるまで見送ったキラに、ラクスはふと呟いた。

「大丈夫でしょうか……、シンさんは…。」

「……うん、きっと彼なら、大丈夫だよ。」



孤島の岬にある、『戦死者墓地』。

そこは、地球連合・ザフト・オーブに関わらず、この戦争で儚くも命を落とした者たちが眠る場所だった。

ステラは、何気なくその場所にきていた。

彼女の目の前には、二つの墓があった。

そこにあった二人の名前……。


―――Sting Oakley

―――Auel Neider


その名前を確認した時、ステラは身震いを感じた。

二人は、ステラの知らない間に死んでいた。

短い期間であったが、共に仲間として行動してきた二人…。

ファントムペインとして行動し、兄弟同然のように生活してきた存在……。

その二人は、もう二度と戻ってこない…。

そう考えると、自然に涙が溢れた。

自分で自分の体を抱くものの、その悲しみは彼女には抑え切れなかった…。

「……ッ………スティング……、アウル……ッ…!」

耐えきれずステラは、その場に泣き崩れた。

―――……どうして…!

孤独と言う寂しさが、彼女の心にのしかかろうとしていた、その時。


「……ス…テラ…?」


―――…………え?

不意に呼ばれた声に反応して、振り返ると、そこにはシンがいた。

唯一、心の置き場所となる、温かい存在が。

ステラの顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

「…ッ…、シン……ッ…!」

「探したよ。まさかここに居たなんて…。どうし……!?」

瞬間、ステラが駆け寄りシンに抱きついた。

突然のことに、シンは戸惑ってしまったが、ゆっくり優しく抱きしめ返すと、優しい口調で彼女に聞いてみた。

「…どうしたんだい?」

「……ッ…スティングも…、アウルも……、死んでいたなんて……!……ステラ…知らなかった…ッ…!」

彼女の涙声の言葉を受け止めたシンは、自分の目の前の光景を確認した。

その光景に、シンは息を飲んだ。

「…!ステラ……、ここって、確か…!」

「……死んだ人たちの、お墓……。スティングも…、アウルも……そこに………!」

シンの胸に顔をうめながら、ステラはそう言った。

二人が眠る墓を確認すると、再びシンはステラに目をやった。

彼は、彼女の寂しさを改めて実感した。

『死ぬ』と言う言葉に恐怖を抱き、それと戦いながら生きてきたステラ。

しかし、兄弟同然に共に育ってきた二人が、死んでしまったことを知らなかった彼女にとっては、絶えることの出来ない心の傷みだった……。

今自分は、また一人になってしまったと思っているみたいだ。

シンは、そんな彼女を生涯守りぬきたいと、心に誓った。

「……え…っ…?シン…?」

その時、彼はステラを抱く力をより一層込めていった。

もう二度と放さないというような想いがこもっているように…。


「誰も、見ていないから…。」

「…えっ?!」

「誰も俺たちのことを見ていないから……、今は、好きなだけ、泣かせてあげるよ……。」


ステラは涙目になりながらも、ゆっくりと顔をあげ、シンの顔を見つめた。

その表情は、アウルのような無邪気さと、スティングのような温かみが宿っていた。

「…いい……の…?」

言葉を紡ぐのがやっとだったステラの言葉に、シンはゆっくりと頷いた。

ゆっくりと、ステラの金糸の髪をなでながら、彼女の肩口に顔をうめ、耳元でささやいた。

「時々は、思い切り泣いていいときもある。その涙を、我慢しなくてもいいんだよ、ステラ……。だから…ね。」

―――好きなだけ、泣いていいよ……。

シンはそう言って、再び、最高の笑顔をステラに見せた。

その温かさに、彼女はこみ上げてきた感情を抑えきれなかった……。

―――ごめんね…、スティング、アウル…!今だけ…、泣かせて…!!

それからしばらく、この墓地に響いた少女の泣き叫ぶ声は、治まることはなかった……。



ようやく泣き止んだステラを連れて、シンは墓地を後にしていた。

泣き止んだとはいえ、ステラはまだ嗚咽を漏らしていた。

シンは、彼女を近くにあったベンチに座らせ、自分も彼女の傍に腰掛けた。

闇夜に浮かぶ月明かりが、二人を照らしていた。

その満月に浮かぶ海が、とても綺麗だった。

ふと、ようやく落ち着いたのか、ステラは自分の手で涙を拭うと、顔を伏せたままおもむろにシンの片手に触れた。

「…シン…。」

自分の名を呼ばれたシンは、「ん?」と拍子抜けたような声を発しながら、ステラに目を向けた。

「…さっきは、ごめん…。」

さっき泣き続けたことを言っているのか、ステラはとても小さな声で言った。

その仕草に、シンは微笑みを浮かべ「気にしなくていいよ。」と言いながらステラの肩を抱き寄せた。

「ステラ。」

急に自分の名前を呼ばれたステラは、ゆっくりとシンに顔を向けた。

「確か、君はお父さんとお母さんが分からないって、言っていたよね…?」

ステラは頷いた。

……というよりも、その記憶がなかった。

ステラは物心ついたときから、生体CPUとして訓練を受け続けていた。

今となっては、親の顔がわからないのも無理はないかもしれない……。

「……じゃあ、俺たちずっと一人きりだったんだな。」

意味深な言葉に、ステラは驚きの目を向けた。

「…シンも、お父さんとお母さん…いない……?」

シンは首を小さく縦に振った。

「2年か3年くらい前、戦争で死んでしまってな……。」

「…えっ!?」

ステラはただ驚きの声をあげるしかなかった…。

両親を覚えているとはいえ、シンも一人ぼっちだったなんて知らなかったのだから…。

その時、ステラはおもむろにギュッとシンの腕に抱きついた。

「シンとステラ……、りょうしんが…、家族がいない……。」

「…うん。」

「さびしかったのね…、あたしたち…。」

するとシンは、何を考えたのか、ポケットに手を入れて何かを探し始めた。

それが見つかると、ステラにそれを差し出した。

彼の手のひらに乗っていたのは、小さな箱だった。

「これ…、もらってくれるかな?」

「…ステラにくれるの……?」

彼の手からそれを受け取ると、箱を開けてみた。

そこに入っていたのは、シンプルなシルバーカラーの指輪だった。

「……?なに、これ?」

さすがにステラには、わからなかったかもしれない。

「これは、指輪って言って、普通は飾りとしてつけるものだけど、この場合は『結婚指輪』って言って、男の人と女の人が
結婚するために必要なものなんだ。つまり、『自分と新しい家族を作ってください』と言う、証みたいなものかな…?」

シンの言葉を聞いて、彼の考えを察知したステラはこれ以上ないくらいに目を見開いた。

「それって……!シンはステラが、『好き』ってこと……!?」

「……指輪に、文字を入れてみたんだ。読めるかな…?」

この言葉を聞いたステラは、指輪を取り出し、すぐに指輪の内側に何かの文字が彫ってあるを見つけた。

そこに書かれていた文字を読んだ瞬間、ステラの目から再び涙がつたった。

―――大好きなステラへ

それが、指輪に書かれていた、シンの恋の告白だった。

シンはそれを確認すると、ステラの左手と指輪を取り、指輪を彼女の左手の薬指に通した。

「…ステラ、オレでよかったら、結婚してくれ……!オレと一緒に、新しい家族を作ろう…!!」

そう言ってシンは、ステラをやさしく抱き寄せた。

「大好きだよ……、ステラ!」

彼の唐突な告白に、ステラは一瞬戸惑ってしまった。

しかし、これからもずっとシンと一緒に居られる。

その嬉しさのほうが大きかった。

また涙声になりながらも、ステラは返事の言葉を紡いだ。

「あたしも……、シンが大好き……!ステラ、すごくうれしい…!!シンに会えて……よかった……!!」

そう言ってステラはシンの背中に自分の腕をまわした。

そして、自分からシンに、甘く深い口付けをした。

シンは躊躇うことなく、その口付けを受け取っていた。

それは、永遠に離れぬことを誓う、『愛の証』となった。



オーブの孤島にある、浜辺が望めるマルキオ導師の礼拝堂。

シンとステラはここで、結婚式を行うことになった。

コーディネイターとナチュラルの男女が結婚する。

この異例の結婚式は、以前に行われていたアスランとカガリの結婚式に次ぐ、2度目の快挙とも言うべき大ニュースとなり、全メディアが注目することになった。

そしてこの挙式の参列者にはそのアスランとカガリ、キラやラクスはもちろん、かつてのミネルバクルーの姿もあった。


挙式前、ステラは自分の左手を見つめた。

その手には、シンから手渡された指輪が光っていた。

ステラはその手を強く握った。

絶対離れたくないと、心の中で強く誓った。

その時、扉をノックする音が。

「ステラ?」

その声に、ステラは満面の笑みを浮かべた。

「シン!はいっていいよ!」

元気な声を確認したシンは、ドアに手をかけ、扉を開けた。

すると、勢いよくステラがシンに抱きついた。

結婚式当日にもかかわらず、相変わらずの無邪気さに、シンは思わず笑みをこぼした。

それに、純白のウエディングドレスをまとったステラの姿も、とてもまぶしかった。

「ステラ、綺麗だよ…。」

ほめ言葉に、ステラは頬をピンク色に染めた。

「ありがとう…☆これ、着るの初めて…。だから、似合うかどうか…?」

そう言い終わらないうちに、シンはステラを優しく抱きしめた。

「とてもよく似合っているよ。君にこそ、このドレスは良く似合う……!」

「……シン…!ありがとう…!」

ステラは、笑みを浮かべながらシンを抱き返した。

「シン…、ステラ…、守って…。」

「ああ……、大丈夫だ。オレが君を守る…!」

力強く、懐かしい言葉を聞いたステラは、目じりに涙を浮かべていた。

そして、再びこう呟いた……。

「シン……、大好き…!!」

そう言ってステラは目を閉じ、シンの唇に自分のそれを重ねた。

シンは、その甘い口付けを、ゆっくりと堪能した。

そして二人のシルエットは、名残惜しそうに離れた。

まもなく、挙式の時間だ。

「そろそろ、行こうか、ステラ。」

「うん……って、ヒャッ!?」

瞬間、ステラの体が宙に浮いた。

いつの間にかシンに抱きかかえられていたのだ。

シンは「このまま、式場まで連れてってあげるよ!」と言って、ステラに向かってウインクした。

突然の彼の行為に、ステラは驚きながらも、微笑みながら「よろしく!」と言って、シンの首に抱きついた。

その先に向かうチャペルから響く鐘の音は、二人の祝福を祝ってくれているに違いない……。



--End--




☆あとがき
突発的に思いついてしまいました、シンステの捏造結婚SS!!
いかがでしょうか?
もしステラが生きていたら、こんなプロポーズをシンから受けていたかもしれませんね……。


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