Birthday Surprise





強い太陽が照りつけ、焼け付くような暑さが続くこの時期。

もうすぐ一人の少年の誕生日を迎える。

愛する人からの、温かみがこもった贈り物と共に………。


シンとステラが、電撃的な結婚を果たして間もない頃……、二人はオーブ近海の島にある小さな一軒家に住んでいた。

幸い、ここはキラとラクスの住む家や、マルキオ導師の伝道所に程近い場所にあったので、時々彼らが直接、家にくることがあった。

そんな日が続いたある日のこと、今日もまたラクスがハロと一緒に家に遊びにきた。

「こんにちわ、ステラさん。」

『ハロ!ハロ!』

ステラは満面の笑みで彼女を迎えた。

「上がって!」

キラたちの助力もあって出来上がった、シンとステラの家。

彼らにとっては、こんなに立派な家に住むのは今までにないことだった。

「シンはどちらへ?」

「マルキオさんのところ。子供たち、遊んでる。」

シンは戦争が終結して、ステラと結婚してからと言うもの、マルキオ導師の元へと来る機会が多くなった。

そこで子供たちと遊んでいる時間が彼の最近の楽しみ。

平日は、モルゲンレーテの一社員として働いている。

「ステラさん、ここでの生活は慣れましたか?」

「まだ、慣れてないところ、たくさんある。だから…大変…☆」

ラクスはステラとそんな会話も交えて、リビングへと案内され、紅茶を受け取った。

ステラの働きぶりに、ラクスも感心していた。

「ラクスさん…、聞いていい…?」

「…?何ですか…?」


「…誕生日って…何…?」


ステラの口から発せられた唐突な質問に、ラクスは一瞬動きが止まった。

『ナンデヤネン!』

ハロの声と同時にラクスは目を点にしたかと思ったら、すぐにステラの性格を思い出したのか、クスクスと笑った。

「そう言えば、ステラさんはこの世界の色々なことを、全然知りませんでしたわね…。でも、どうしてそんなことを?」

「…9月のカレンダー…『1』のところ…赤く『○』がついている…。その下に書いてあった…。」

ステラは、壁にかかっているカレンダーを指差しながらそう言った。

ラクスはゆっくりと立ち上がり、すぐに『9月1日』のところを調べた。

すると、確かにそこにはステラの言うとおり、『誕生日』と言う言葉が書かれていた。

「…そう言えば、もうすぐシンの誕生日でしたわね……。」

そう呟くと、彼女の隣にいたステラに目を向けた。

「いいですか?『誕生日』と言うのは、簡単に言うと『自分がこの世界に生まれた日』と言う意味なのです。」

「…自分が…生まれた日……?」

「そう…、人は誰でも、自分の生まれた日を必ずもっているはずです…。」

「……ステラにも…、誕生日が…?」

幼げが残る少女の質問に、ラクスはゆっくり頷いた。

人間、誰しも、自分の生まれた日は必ずあるもの。

そして、その日を迎えると、自分はどれだけ大きくなったかなと、考え、その思い出を振り返ることがある。

「…シンの誕生日…ステラ…できること…ある…?」

「こんな日は、その人の誕生日をお祝いしてあげるのが一番ですわ。たとえ小さくても、その人の愛がこもっていれば、きっと喜びますわ!」

お手伝いしますわ、と、ラクスは笑みを浮かべた。

『テヤンディ!テヤンディ!』


その日からステラとラクスは二人で行動する機会が多くなった。

色々な計画を立てたりして、準備を進めていった。

そしてあっという間に、誕生日前日となった。

全ての準備が整い、あとは明日を待つのみ…とその時、ラクスがステラにこんなことを教えた。

「誕生日と言うのがある理由が、もう一つあるんです。」

「…理由…?」

「それはですね…………。」



9月1日―――――――――。

シンにとっては憂鬱なこの日。

自分の誕生日だと言うのに、彼は浮かない表情をしていた。

「俺の誕生日を祝ってくれる人なんか…、もういないのに……。」

戦前、家族と妹を目の前で失い、孤独となってしまったシン。

あの笑いあえた日々には、二度と戻れない。

そう考えると、喜ぶわけにはいかなかった…………。

「お帰り、シン。」

突然背後から呼ぶ声に反応し、シンは後ろを振り返った。

「…キラさん…?」

「元気ないね……。今日は君の誕生日なのに…。」

一番彼が気にしていたことを言われ、シンはついカッとなってしまった。

「それを祝ってくれる人なんかどこにもいないのに…、そんなこと…俺に言わないで下さい!!!」

シンの怒号に、キラはビックリしてしまった。

自分の言った言葉に責任を感じたのか、シンは下を向いてしまった……。

「…ごめんなさい…。」

自分の孤独と言う悲しみに耐えきれず、泣きそうになってしまった。

ふとその時、キラは自分の手をシンの肩にゆっくりと添え、言霊を紡いだ。

「大丈夫。今日はきっと君の人生の中で一番いい思い出になると思うよ。」

「…えっ?」

「家に帰ってみれば分かるよ。ステラが、君の誕生日を祝ってあげるために、色々準備をしてくれたんだから。」

その言葉に、シンは目を見開き顔を上げた。

ステラが俺のために……!?

気が付けばキラは背を向け、自分の家路についていた。

シンは足早に家に帰った。

そこまでの距離が、この日は遠く感じた。

家の玄関までたどり着くと、ほとんどの電気が消えていた。

扉を開けると、目の前にはロウソクの灯りだけで照らされた道が、リビングまでつながっていた。

そのリビングからは、わずかに光が漏れていた。

道をたどり、リビングの扉を開け、一歩足を踏み入れると――――。

―――パァーン!

突然クラッカーがなったと思ったら、同時に一気にリビングの全ての電気が点いた。

目の前のテーブルには、見事な料理が並んでおり、中央にはバースディケーキが置かれていた。

「…すごい…!!これは一体………!?」

滅多に見ない光景に、シンは目を丸くした。

「シン。」

その時、左にあったダイニングキッチンから、愛しい声が聞こえた。

その方向を振り返った直後、ステラがいきなりシンの首に抱きついた。

「…ス…テラ…!?」

「誕生日、おめでとう!!」

突然聞かされた、彼女からの祝いの言葉。

その言葉にハッとしたシンは、今日が9月1日だと言うことを忘れかけていた。

しかし、シンにとっては意外だった。

「でもステラ……、どうして俺の誕生日を…!?」

「ラクス…教えてくれた…。今日…シンにとって…大切な日ということ……!」

またも予想外なことに、シンは驚くばかりだった。

そう、元々このささやかなパーティの立役者は、ラクスだった。

彼女が居なければ、ここまで豪華なことは出来なかったのだ。

「じゃあ、これ全部…俺のために…!?」

「うん!ラクス…手伝ってくれた…。ステラも…頑張った…!」

心からの笑顔をシンに向けたステラの仕草に、彼の胸が感激のあまり熱くなった。

そしてその衝動にまかせて、ステラを強く抱きしめた。

「ありがとう…ステラッ……!」

「シン……☆」

しばらく抱き合った後、ステラはシンをエスコートしてソファに座らせた。

そして彼女は、シンの隣に座る。

二人きりのささやかなパーティが始まった。

ラクスの協力を得て、出来上がった数々の料理。

この数日間、練習に練習を重ねて、ようやく満足のいく仕上がりになったこの日だけのご馳走。

その一つ一つには、ステラからの溢れんばかりの愛がつまっていた。

「シン、どう?」

「うん…、おいしい…!」

その時、ステラはシンの目に涙がたまっているのに気付いた。

「どうしたの…?シン…、泣いてる…。」

「いや…、こんなに素敵な誕生日パーティ…、生まれて初めてだから…。何だか嬉しくて…!」

彼の素直な感想に、ステラも満面の笑みを浮かべながらシンを抱き寄せた。

「いっぱい食べてね。まだまだたくさんある…。」

「ああ…、ステラも一緒に、どう?」

「うんっ!」

まるで新婚とは思えないほどの雰囲気が二人を包んだ。

テーブルの上にあったバースディケーキ。

そのチョコプレートに書かれてあるメッセージ。

―――大好きなシンへ 誕生日おめでとう  byステラ・ルーシェ

その言葉が、シンの心をより一層ときめかせた…………。


月夜の灯りが照らす夜――――――――。

二人入るのに丁度いい大きさのベッドが、より一層シンとステラの心を温かくしていた。

「ありがとう、ステラ。とても嬉しかった…。」

愛しい彼の感謝の言葉に、ステラは頬をピンク色に染めた。

まどろんでいたその時、ステラが意味深な言葉を口にした。

「実は今日…シンのお母さんの墓…行ってきた…。“シンを生んでくれてありがとう”って…。」

「…えっ!?」

呟いたような言葉をシンは聞き逃さなかった。

でも何より驚いたのは、なぜ彼女が自分の母親の墓に行ったのかということだった。

「ラクスから聞いた…。誕生日…、それは、“自分を生んでくれたお母さん”…感謝する日…。
シン…生まれなかったら…ステラ…、シンに遭えなかったと思う……。だから………。」

そう言ってステラは、ゆっくりとシンの首に抱きついた。

そして、最高の贈り物とも言うべき言霊を、耳元で囁くように紡いだ。

「生まれてきてくれて……ありがとう…!」……と。

誕生日と言う日がある、本当の存在意義。

自分の母の微笑と温もり。

そして、自分がこの世界で生きていると言う喜びと、愛しい人が傍にいてくれていると言う、何よりの安らぎ。

その全てを、ステラとラクスは教えてくれたのだ。

今にも溢れそうなこの気持ちと温かさに、シンは我慢できずステラを力強く、きつく抱きしめた。

その表情は、堰を切ったように止まらない涙が溢れていたものの、笑顔を作っていた。

「今のステラの言葉…最高のプレゼントだ……っ…!今日は何から何まで…っ…最高の誕生日だ……っ…!!
俺…凄くうれしいよ…本当に、ありがとう…ステラ…ッ……!!!」

愛しい人から、最高のプレゼントをもらったシン。

彼のその嬉し涙は、一晩中とまることはなかったそうだ…。

そしてステラも、いつのまにかもらい泣きをしてしまった。

「シン…ッ……いつまでも…大好きだよ…っ…!!」


誕生日―――。

それは自分自身が、家族の笑顔に囲まれてこの世に生まれた、かけがえのない日。

シンは生涯、その日を大切にし、家族との思い出を胸にこれからも生き続けるだろう………。


Happy Birthday Shinn Asuka!!



--End--




☆あとがき
突発的に思いついたシン・アスカ誕生日記念SS!!
時期的には、フリー小説第1弾の『Summer Bride』の続編と言ったところでしょうか?
まあ、ステラの性格上“誕生日”と言う日自体をも知らなかったと言うのは、真っ先に浮かびましたけど。(笑)
でも意外とスムーズにかけました。
そして、「生まれてきてくれてありがとう」と言うステラの言葉には、
書いていた自分でもジーンとくるものがありました☆





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