天動説の世界“プラズマ界”。
それは、太陽が常に自分たちの国の周りを回っている世界。
そんな世界にも、現実世界と同じように“年の初め”と言うのはある。
例えばここ、シードピアでもそうだ。
ここは、シードピアの中立国・ニュートラルヴィア。
その一角に、一際熱いカップルが一組。
「キラ。二人きりで元旦を迎えるなんて、久しぶりですわね。」
「うん。幸い、今日からしばらく正月休。ゆっくり過ごそう、ラクス。」
彼女は笑みを浮かべながら、自分の頭をキラの肩に預けた。
二人は、年初めの日の出を見るために、リュミエール岬に向かっていた。
時間はプラズマ・リアルタイムで只今6時。
住民はほとんどが、夢の中だ。
ふとそこに、大きな戦艦が停泊していた。
プラズマ界・テレヴィアの精鋭部隊『ティアーズ』の大型戦艦・リーフだ。
ふとそのとき、二人の少女が、大きななべや食器などを抱えて出てきた。
キラとラクスは、まさかと思い、彼女たちのもとへと駆け寄った。
「え〜っと、こっちはここに用意して…。」
甜歌と愛実は、このリュミエールの海岸で初日の出を迎える準備をしていた。
運がいいことに、この海岸には誰かが造ったであろう、木の机とイスが置かれてあった。
「甜歌、プラズマ界でお正月を迎えられるとは思わなかったわね。」
「うん!」
彼女たちは、異世界の住人。
太陽が一時たりとも動くことのないテレヴィアで暮らしていた彼女らにとっては、実質上久しぶりのお正月だった。
「愛実さ〜ん!甜歌ちゃ〜ん!おせち料理の準備ができたよ〜!!」
「餅つきの用意もできたよ〜!」
卓也と幸生も、二人のお手伝いをしていた。
「こっちですよ〜!」
幸生は、大量に作られたおせち料理を机一杯に広げた。
そして卓也は、どこからか取り出した餅つきの道具をその机のそばに置いた。
「ふ〜っ。あと用意するものと言えば………。」
ふとそのとき、背後から声がした。
「へ〜っ。随分にぎやかになりそうだね。」
突然の声に、4人はドキッとした。
振り返ると、そこに一組のカップルがいた。
「あ〜っ!キラさんとラクスさん!!」
「やあ、テンカちゃん!」
「まあ…随分と豪華なご馳走ですわね…。」
「え…?はい…まぁ…。」
すると、今度はレッド隊長とゴルゴ男爵、竜一と七世がやってきた。
レッドとゴルゴが持っているのは、大量のもち米だ。
「お〜い!もち米が炊き上がったぞ〜!!」
竜一と七世も、台車を使って何かを運んできた。
「もち米はまだまだこっちにもあるぞ〜!」
「お醤油ときなこも持ってきたわよ〜!」
レッドたちは、甜歌たちの傍まで来たところで、初めてキラたちの存在に気付いた。
「あれ?ヤマト隊長に、ラクスさん?」
「お邪魔しています。」
「こんばんわ、皆様。」
「丁度よかった。これから俺たち、新年会をやろうと思っていたところだったんですよ。初日の出を見ながら。良かったら、お二人もご一緒に、どうです?」
レッドとゴルゴは早速、炊き上がったばかりのもち米を、臼の中に入れた。
キラとラクスは、何が始まるのか想像が出来なかった。
まずは卓也が槌を使い、もち米を潰し、準備を始めた。
しばらくすると、もち米はお米の形をとどめず、少々粘り気のある塊になった。
「OK!準備できた。」
「よし、幸生やるぞ!」
「アイアイサー!」
ゴルゴの合図で、幸生は卓也から槌を受け取って、臼の前に立った。
「キラさん、ラクスさん、ちょっと危ないですよ。」
そう言って幸生は槌を大きく振りかぶって、もち米をつき始めた。
ゴルゴと息を合わせて、もちをついていく。
「よいしょ!」
「はい!」
掛け声を繰り返し、しばらくして幸生の体力がなくなりかけた頃、餅つきの手をやめた幸生は、汗を拭い、槌をキラに差し出した。
「良かったら、やってみます?」
「えっ?」
「結構楽しいですよ。」
キラは幸生に進められるままに、槌を受け取った。
ずしりとくる槌の重さに、キラはなぜか笑みを浮かべた。
今度は、レッドが臼の傍に来た。
「いいですか、レッドさん?」
「準備OKや!いつでもええで!」
「それっ!」
「ほいよ!」
餅つきの軽快な音と威勢のいい掛け声が、周りに響いた。
キラの手際のよさに、全員が感心の目を向けていた。
ラクスはそんなキラの様子を、笑顔で見守っていた。
すると、リュミエール岬の水平線の彼方から、シードピアの太陽が昇りだした。
プラズマ界の初日の出だ。
「うわ〜、初日の出だ〜!」
甜歌の無邪気な声に反応して、その場にいた全員がその太陽をみつめた。
オレンジ色のその太陽は、シードピア全土を包み込もうとしていた。
「久しぶりだわ…こんなにキレイな初日の出……。」
愛実もしばし、その光に酔いしれた。
「ちょうどいいところで、お餅がつきあがったな!」
レッドは、憑きたてアツアツのお餅を持ち上げ、机の端っこに置いた。
「さてと…。あとは竜一たちに任せるぜ!」
「オッケー!」
「いいよ。七世頑張る☆」
二人はレッドの言葉を合図に、お餅の取り分けを開始した。
半分は黄な粉につけて、半分はしょうゆに漬けて海苔をまく。
二人の作業を、卓也も手伝う。
「あ!そうだ!キラさん、ラクスさん、私と愛実で作ったお雑煮、食べてみませんか?」
その作業を見守っていた時、甜歌が突然切り出した。
「お雑煮…ですか?」
「温かくて、おいしいですよ。」
愛実は、そう言ってお鍋のふたを開けた。
中には、四角く切られたお餅がたくさん入っていて、鶏肉やニンジンなども彩りを添えていた。
甜歌はそれを、お椀の中に取り分けて、キラとラクスに差し出した。
「このお餅、私と甜歌であらかじめ造っておいたものを入れたんです。」
「口に合うかどうかわかりませんが………。」
揃って苦笑いを浮かべた二人。
キラとラクスは、二人の作ったお雑煮に口をつけた。
すると、二人揃って微笑みを浮かべた。
「……いいお味ですわ。」
「うん…とてもおいしい…!温まるよ。」
甜歌と愛実にとっては予想外な言葉だった。
二人の反応に思わず慌てた。
「え…ほ、ホントですか!?」
「はい。お二人の温かい気持ちも、この料理の中に込められています。」
「それが最高の調味料だよ。ありがとう。」
思わず御礼まで言われてしまった二人は揃って、頬を赤く染めてしまった。
ふとそのとき。
「お〜い!こっちも出来たぞ〜!!」
竜一が甜歌たちを呼んだ。
どうやら向こうのお餅も、調理が終わったようだ。
「うわ〜、こっちも美味しそ〜〜☆いっただっきま〜す!」
即座に幸生がお餅に手を伸ばし、ガツガツとむさぼりついた。
「ちょっとちょっと、そんなに食べ過ぎたらノドにつまっ…。」
「ウ!ウグググググ!?」
愛実の警告空しく、幸生は餅をのどに詰まらせてしまった。
「おい幸生!!まったくお前と言う奴は……。」
言いながらゴルゴは幸生の餅をだそうとしたがすぐに…。
―――ゴックン。
「あ〜〜、美味しかった。」
「「「「「「「うわぁお!!」」」」」」」
これにはてれび戦士とレッドとゴルゴはずっこけ、キラとラクスは呆然とするしかなかった。
この時全員が幸生にこうつっこんだ。
「少しはゆっくり味わってよ!!」……と。
それからしばらくの間、新年会を堪能したキラとラクスは、その余韻に浸りながら帰路に着いた。
その手には、お土産に少し分けてもらった、お餅があった。
「キラ……今年も、よろしくお願いしますね。」
「こちらこそ…ラクス…。」
何気ない会話のはずが、いつの間にかお互いの視線が絡まり、合図となってしまった。
その後、二人は人目を気にすることもなく、長く深いキスを続けていたとか……。
そしてその翌日のこと。
その様子をどこかの新聞記者が捉えていたのか、その日の新聞の1面には大々的にこう報じられた。
『新春早々の大スクープ!!ニュートラルヴィアの歌姫 熱愛発覚!?』………と。
このニュースが引き金となり、国全土、いや、シードピアの世界全土が大騒ぎになったとか。
--End--
☆あとがき
2006年・年はじめの更新はこちらの短編小説です。
お年玉代わりのフリー小説として配布いたしました☆
今回は、連載中の長編ノベル『SEEDPIA CRISIS』の番外編でございます!
ちなみに、最後辺りの新聞には、二人のキスシーンの写真が載っていて
それを撮ったのは、ジェス・リブルだとか………(笑)。