SEEDPIA CRISIS外伝 in ハルケギニア 〜結婚と裏切りと欲望の復活〜 〜Situation1:Regret nothing〜
「貴族たちの反乱…か…。」 『ええ。ここ最近、アルビオンやハルケギニアで貴族派の反乱同盟が暗躍を始めているそうよ。』 ディスタンスフォースの上層部の限られた人間でしか知る由のない、レンジャーズストライクへの依託回線。 普段はほとんどと言っていいほど使われることの無いこの通信回線に、珍しい人物が繋げてきた。 地上本部の総司令官補佐にしてその娘、オーリス・ゲイズである。 「その同盟の名は?」 『“レコン・キスタ”。現在、その上層部とも言うべき存在がアルビオンにいるそうよ。ただ、その組織の大半がならず者で構成されているらしく、“正規”として所属している構成員が誰なのかは分かっていないわ…。』 組織の名前はどうにか分かったと言うところか。 「オーリス秘書官、そのレコン・キスタの目的が何かは分かっているのかい?」 シュリケンジャーの質問に、オーリスが答える。 『詳しいことは分かっていないけれど、“貴族たちを結束させて、ハルケギニアの聖地を取り戻す”とか言っていたわ。それに、彼らはその手始めとして、アルビオンの王族に目をつけているそうよ。』 貴族である自分たちの力を見せ付けるための段階と言うことか…。 アルビオンの王族が狙われたと言うことは…。 「まさか…、アルビオンの王族を滅ぼそうとしているってことか!?」 ―――! 番場と共に通信の会話に加わっていたJが、一つの仮説を立てた。 その言葉に、オーリスも賛同する。 『可能性としては否定できないわ。元々、アルビオンの貴族たちの中に、王族の政治を良しとしない強硬派も居ると言う情報もあるし、或いは…。』 もしも、自分たちの予想が正しければ、ハルケギニアはおろか、ミッドチルダ全域の驚異的存在になりえない…! 番場は、今回オーリスが自分たちに通信をつなげた理由を理解した。 「…そうなると、我々の出番と言うことか。」 『そうよ。』 はっきり言って、今回の一件は地上本部の管轄外になるわ。 それと同時に、もし正規の部隊である我々が出動できても、国交間での問題に発展しかねない。 そこで、お前たち“レンジャーズストライク”に、この事件の解決を依頼するわ。 そして、もし可能であれば―――。 ――“アルビオンの王族”を救出しなさい。 『これは、私個人の依頼よ。』 ―――そのとき、“レンジャーズストライク”母艦“スピリット・オブ・レンジャー”、PM17:00 ―――Xデーまで、あと7日 ……かつて“記憶の麻薬”と言われた特定違法電子薬・ガイアメモリが蔓延していた風の街・ウインディヒルズ。 しかし、今となってはそれに関する事件も減りつつあり、街は平穏を取り戻しつつあった…。 「……“アルビオン”でガイアメモリが広まってきているだって!?」 そのウインディヒルズの片隅にある“鳴海探偵事務所”。 そこに突如として現れた珍客からもたらされた情報は、一同にとって意外なものだった。 「間違いないのか?ジャンパーソン。」 「あぁ。“アルビオン”に潜伏していた強行偵察魔導師からの連絡だ。」 翔太郎たちと会話を交わす、“ジャンパーソン”と言う名の一体のロボット。 ディスタンスフォース地上本部に所属するワンマンアーミーとして活動する自立駆動ロボットだ。 “魔導師”を主戦力とするディスタンスフォースにおいては極めて異例の存在である。 その彼から手渡された1枚の写真―――。 そこには、確かに“ガイアメモリ”のバイヤーと思しき人物と、アルビオンの住人との極秘裏の取引の様子が写し出されていた。 「でもちょっと待って!」 そこに待ったをかけたのは、探偵事務所チームの紅一点の少女・鳴海亜樹子。 「アルビオンって言ったら、“ハルケギニア王国”と同じくらいに古来の魔法を重視する魔法国家でしょ?そんな場所でどうして近代的な力のガイアメモリなんか買う人がいるわけ!?」 「……確かにそうだな。」 その疑問は、直後のジャンパーソンの言葉ですぐに氷解する。 「貴族派の反乱勢力“レコン・キスタ”の活動が活発になっていることが関係している可能性がある。」 「レコン・キスタ…!?」 アルビオンのみならず、ハルケギニア全土でも暗躍しつつある反乱勢力“レコン・キスタ”。 国家の枠にとらわれず集まった貴族の力を結束させ、ハルケギニアの伝説の“聖地”の復活を目論むと言われている一派である。 「どんな手段を使ってでもアルビオンを壊滅させようと言う魂胆か…。」 さらに、レコン・キスタの中には金で雇われたならずものも何十人か存在すると言われており、頭数をさらに増やしつつあるようだ。 亜樹子の脳裏で一つの“嫌な予感”が浮かんだ。 「もしかして、アルビオンの王様たちや軍隊をぶち壊しにして、自分たちの国を作ろうとしているんじゃないの!?」 その言葉に、翔太郎たちは目を見開いた。 「可能性は否定できない。」 検索をかけていたフィリップも彼女の言葉に同意する。 「“貴族による共和制の復活”と言う大義名分を掲げているレコン・キスタのことだ。アルビオンを壊滅させた暁には、その中心となる新たな国を創り、ハルケギニア全土も自分のものにしようと言う野望を実現させようとしているかもしれない。」 もしそうなれば、いずれはミッドチルダ全ての最大級の脅威となる。 「実は、それを知ってか知らずか、D.F.の非公認特殊部隊・レンジャーズストライクも行動を起こしている。既に今日の段階でアルビオンに潜入していると言う情報だ。」 「「「「……!」」」」 存在すらも有耶無耶で、実際に居るとしても誰が所属しているかすら不明と言われている、D.F.史上かつてない非公認部隊・レンジャーズストライク。 それが実在しているとすれば、彼らの今回の目的はもしや、レコン・キスタの討伐か…!? ―――そのとき、ウインディヒルズ・鳴海探偵事務所、PM19:00 ―――Xデーまで、あと3日 「“レコン・キスタ”?」 一方、クラナガンで暗躍している同盟“第7機関”でも、レコン・キスタの情報を掴んでいた。 「あぁ。数日中にも彼らが動き出す可能性はある。アルビオンの滅亡も時間の問題だ。」 “アルビオン”から帰還していたメンバーの一人、テイガーが持ち帰った情報は、中心人物のココノエの心を困惑させていた。 「もしそうだとすれば、いずれはミッドチルダ全ての脅威になるな…。」 “古来の魔法を受け継ぐ力を持つ貴族の我々こそが、魔法世界の真の支配者”。 彼らの信念を言い換えればそういうことだ。 簡単に言えば、“ミッドチルダにおいて魔法の力こそが全てであり、正義の象徴”と言うことになる。 そんな所謂“タカ派”とも言うべき貴族たちの存在が、更なる勢いを増してきている……。 「しかし、何でいきなり活動が活発してきたんだ?」 「“ガイアメモリ”と言う近代的な特殊アイテムが関係しているらしい。それを売り歩くセールスマンもいるそうだ。」 その言葉を聴き、さらに口を挿んだ者が…。 それは、二人の仲間である銀色のロボットだった。 「それってもしかして…、ウインディヒルズで話題になっていた“ドーパント”って言う奴か?」 「おそらくはな。」 ココノエはその予測を聞き、現在のレコン・キスタの状況を理解した。 「“ガイアメモリ”…近代的なロストロギアとしてその名を残す“記憶の麻薬”、か……。」 その力を借りてでも王族を倒して新時代を築く。 古の力だけでは満足せず、さらなる力を追い求めた結果が、そういうことか……。 「そういえば…。」 「「?」」 ふと、銀色のロボットが何かを思い出したようだ。 「最近、“財団X”がアルビオン国内で動き回っているって言う情報が、D.F.内で出回っているそうだ。ヤツラも幾つかガイアメモリを持っているそうだし、今回のレコン・キスタの活動を知っていても不思議はないはずだ…。」 死の商人と言う異名を持つ謎の組織・“財団X”。 かつて、ウインディヒルズの裏社会で暗躍し、仮面ライダーWとも激戦を繰り広げた存在でもある。 とある事情で、ウインディヒルズからは姿を消したものの、手に入れた技術を駆使して独自のガイアメモリの製造及び販売を続けており、未だにいつどこであっても不思議ではないと言う空気を醸し出す、ミッドチルダ最大の闇組織である。 「……だとすれば、最大の反乱がいつ起こっても不思議じゃないな。それだけの条件が出揃っていれば…。」 「…問題は、どんな奴がレコン・キスタとして活動しているかと言うことだ…。」 そう、レコン・キスタは“国境を越えた貴族たち”で集まった反乱組織。 …となれば自然と“ハルケギニアもしくはアルビオンに属する貴族の誰か”と言うターゲットが浮かび上がるのだが、その基準が曖昧で特定が難しい。 「だが、いつまでもジッとしていても始まらないな。」 ココノエは、完成させた新兵器のバズーカ砲を持って、頭の中で一つの結論を組み立てた……。 ―――そのとき、クラナガン某所・第7機関のココノエのラボ、PM20:00 ―――Xデーまで、あと2日 「……本当によろしいのですか?」 「……あぁ。私の意志に変わりは無い。」 それは、滅多なことでは客人を通すことの無い場所。 しかし、そこにはその国王に加え、珍客が一人…。 招かれた男は、白いテンガロンハットと白いスーツを着こなす壮年の男で、首元には虹色のネクタイを身に付けていた…。 あの子は、レコン・キスタを相手に、我が王国の誇りと名誉をかけて戦おうとしている。 “栄誉ある敗北”を知りながら、我らに賛同してくれた同志たちの心を奮い立たせ、希望の光として立ち上がってくれた。 非常に強い勇気を見せてくれた。 その気持ちには、言葉にならないほどに感謝している。 しかし、私にとってあの子の存在こそが、あの子が生きてくれることこそが、父親としての喜び。 あの子には、幸せになってもらいたいのだ……。 この王国が“栄誉ある敗北”によって滅びようとも、私の命が尽きようとも、我が血族だけは必ず守りたい…。 たとえそれによって、蔑まされ、傷つけられようとも…。 「それが、私の最後の願いだ……。」 …言葉を区切って一呼吸をつき、国王は窓際に置かれたフォトスタンドを手に取った。 そこには、もう二度と戻ることの無い、微笑ましくも輝いていた日々が…………、幼き頃の彼らと共に微笑む、自分たちの昔の姿が写っていた……。 王族であれ、貴族であれ、平民であれ、誰でも親が子に未来を託すのはよくあること。 その重圧がどうあれ、子は親から託された期待には、一度は応えなければいけない…! たとえそれが茨の道でも、たとえそれが凍てつく吹雪の中であろうとも……!! 「あの子の未来を君たちに託す。これが私の最初で最後の我侭だ…。後は頼んだよ…。」 ―――ソウキチくん…。 やわらかい月明かりが差し込む部屋。 名を呼ばれた男は、数秒の間を置き、その依頼を静かに了承した……。 ―――パァンッ!! 一方、アンリエッタ姫の依頼でアルビオンに訪れていたサイトとルイズだったが―――。 ルイズが、一緒に同行していたハルケギニア王国の魔法衛士隊のワルド子爵と結婚する運びとなったことにより、一件を受け取ったときから狂い始めた歯車がさらに悪化し、二人の仲にも亀裂が走っていた。 「サイトのばかっ!!!」 「ルイズ、お前はワルドと結婚式を挙げて戻って来い。俺は先に戻る。…今まで世話になった…。」 その亀裂は、最早直せないのだろうか…。 「……本気で言ってるの…!?」 「…あぁ…。それに、俺は無力な普通の人間だ…。俺じゃ、お前を守れない……。」 彼女の溢れた涙は、拭われることがないまま流れ続けた…。 「……意気地なし…!!!」 ―――あんたなんか、大っ嫌い!!!!!! 喧嘩別れ……。 生きている中で、最も経験したくない状況……。 それは、誰でも心が痛むものかもしれない…。 「さよなら、ルイズ……。優しくてかわいい…、俺のご主人様……。」 一人きりとなったサイトが、それに耐えられるはずがなく、涙を流していたことを、誰も知る由もなかった…。 ―――そのとき、アルビオン王国・ニューカッスル城 PM22:30 ―――Xデーまであと1日。 ……脱出船が出発する日の朝。 サイトは早くから港に来ていた。 その背中には、“相棒”の剣・“デルフリンガー”もいる。 あの後、寝るに寝れなかったサイトの目は、まるで一晩泣き腫らしたかのような状況になっていた。 しかしながら、今更後悔しても仕方が無い。 そう自分に言い聞かせ、歩を進める…。 「おい!」 「……?」 …呼び止める声? 自分を知る人間など、このプラズマ界にいるはずがない……。 いや、一人だけいた。 この世界に迷い込んで間もない頃、生活面以外で途方に暮れていた自分を導いた存在。 サイトにとっての“剣の師匠”だった。 「…一真さん?」 「よぉ。」 剣崎一真(けんざき・かずま)―――。 元ディスタンスフォース研究機関・“B.O.A.R.D.(ボード)”の研究員にして、“仮面ライダー”の一人でもある、“青き切り札の剣士”である。 「……そっか、あの子と喧嘩しちまったのか…。」 あの後、一真はサイトたちの今までの動向を話した。 もちろん、昨晩のルイズとの喧嘩別れのことも……。 「でも、それってお前の本心じゃないんだろ?それに、“あの子を守りたい”って気持ちはホントなんだろ?」 「……そうだけど…、俺なんか何の力もないただの人間だよ…。」 任務を受託し、アルビオンへと渡る際に出会った、ハルケギニア王国衛士隊・ワルド子爵は、自分の力よりも遥かに優れていた。 スクウェアクラスにして、“閃光”の異名をとる風の魔法使い。 さらにはルイズの昔からの婚約者。 そんな彼に比べ、自分の中のいい所なんて、何もありはしない…。 どうあっても、彼に勝てるはずが無かったんだ、最初から……。 「…“気持ちだけではどうにもならない”なんて言うし、お前の言いたいことは分からなくも無い…。だが、いつまでも落ち込んでても始まらないだろ?ましてや、それで人生が終わったわけでもあるまいし……。な?」 そんな彼を、自分なりの言葉で励まそうとする一真だったが、不器用なせいか、上手く言えない…。 「なんなら、俺と一緒にミッドチルダを旅してみるか?自由気ままに旅するのも、悪くは無いんじゃないか?」 「……旅…か…。」 何者にも縛られることも無く、気ままに流離う。 それも悪くないかもしれない……。 「おい、お前!」 「「!?」」 またしても呼び止められた声。 視線を向くと、2日前からアルビオンに潜入して捜査していた翔太郎とジャンパーソン、そしてガンギブソンがいた。 「翔太郎くんか!?」 「やっぱり…剣崎一真だったか…。」 「…?」 彼らが顔見知りと言うことをサイトは知るはずも無く、頭の中でハテナマークを浮かべていた。 「どうしてお前がここに…?」 「それはこっちの台詞だ。適当にミッドチルダを放浪していたら、偶然ここにたどり着いただけでな…。そういうお前たちは、ここに何のようだ?」 その質疑に、ジャンパーソンが答えた。 「アルビオン内部に潜んでいる“レコン・キスタ”と言う反乱勢力の調査だ。状況次第では、彼らの殲滅も厭わないとの指示だ…。」 「ただ、そのレコン・キスタが“ガイアメモリ”を所有しているらしいと言う情報を掴んでな…。俺たちもこの二日間、色々と調べて回ったんだが…、未だにかすりもしない…。」 翔太郎が渋そうな顔でそう言った。 (“レコン・キスタ”…、ハルケギニアとアルビオンの境目を越えて結ばれた貴族の同盟か……。) 一真も、世界を放浪している傍らで色々な話を聞いているせいか、レコン・キスタの存在は知っていた。 しかし、情報が少ないとなると、犯人の特定も非常に厳しいようだ…。 ―――ピピピピッ、ピピピピッ! ジャンパーソンの“バックレットコントローラー”に通信が入ってきた。 回線を繋ぐ。 『ジャンパーソン、私だ。レジアスだ。』 「総司令…!」 ディスタンスフォース地上本部の最高司令官に立つ男、レジアス・ゲイズ。 ジャンパーソンに今回の一件を依頼した張本人である。 『アルビオンに潜入してから二日が経った。現状はどうだ?』 「残念ながら、全く芳しくありません。レコン・キスタが多数のならず者を雇って、今日の正午に作戦を開始すると言う情報は手に入れたのですが、今回の一件の主犯格が特定できていません…。」 『何と言うことだ……。』 ジャンパーソンからの報告を聞き、苦虫を噛み潰したような表情になるレジアス。 『レンジャーズストライクの連中に頼ることしか出来ぬとは……!!』 非公認部隊レンジャーズストライクは、ディスタンスフォースの通常の指揮系統に属さない特殊チーム。 彼らの情報は正規のメンバーたちに届くはずが無い…。 『やむを得ぬ。ジャンパーソン、任務中止だ!すぐに脱出を―――。』 ―――待てっっ!!!!!! ―――!!!??? ふと、沈黙を保っていたはずのサイトが、声を荒げながら立ち上がった。 その目線は、明後日の方向を向いている。 ……だが、“今のサイト”にはそんなことなど関係なかった。 “左目の視界に何かが映る”状態の、今のサイトには……。 「これは…、ルイズの目…!?」 『……?』 「な、何だよ、相棒。何か見えるのか!?」 ずっと黙って様子を見ていた“デルフリンガー”も、急に何かを言い出したサイトに戸惑いを隠せなかった。 「ルイズの…、あいつの見ている景色が、俺の左目に…!!!」 「何!?」 「!」 この状況をいち早く理解したのは、比較的彼と長く接していた剣崎一真だった。 彼はすぐさまサイトの傍に駆け寄る。 他の一同も、すぐに集まる。 一真は、彼の左手を取る。 すると、手の甲に刻まれた使い魔の刻印が輝きを放っていることに気付いた。 “使い魔は主の目となり、耳となる。” 手の甲が輝いたのは、その言葉どおりの能力が発揮されていると言うことなのだ…。 「サイト、間違いないんだな?あいつの、ルイズの視界が見えるってのは…!」 「あぁ…!」 「どうやら、“ガンダールヴ”の能力の一つが発揮されたらしいな…。」 その会話を聞いていたレジアスは、一つの賭けに出た…! 『……ジャンパーソン、回線をオープンにしろ。空間モニター経由で繋げ。』 「…?…了解。」 指示を了承したジャンパーソンは、バックレットコントローラーを操作し、空間モニターを表示。 そこに、レジアス・ゲイズの姿が映った。 『使い魔の刻印を持つ者。』 「……。」 『ディスタンスフォース地上本部総司令官、レジアス・ゲイズだ。今回の一件に際し、君の協力を仰ぎたい。』 レジアス自身も、ハルケギニアにおける“使い魔”の存在とその能力に関することは、“予備知識”程度の内容として耳にしている。 しかしながら、人間でありながら使い魔の力を持つ存在と言うのは、例外中の例外だ。 興味を持ったと同時に、今回のレコン・キスタの一件の解決に導く糸口になるかもしれない。 君の手の刻印が光り、主の視界が見えていると言うことは、君の主が命の危険にさらされていると言うこと。 現状からすれば、“レコン・キスタ”に狙われる対象になっている可能性があると言うことだ。 君の左目に映る、君の主―――ルイズくんの視界。 そこに何が映っているか、我々に教えてくれたまえ。 一方、ニューカッスル城・礼拝堂。 レコン・キスタの軍勢が、数時間で押し迫る緊迫した状況にも拘らず、そこで行われることになった、ルイズとワルド子爵の結婚式。 内部には、式の主役の二人以外に、今回の式の挙行を快く了承したウェールズ皇太子と、彼と共に式を見守る一人の神父、そして“護衛役”として配備された一人の神官がいた。 それ以外は誰も居ない……。 ワルドがいつもどおりの格好をしている一方で、ルイズはアルビオンから借りた花嫁衣裳と新婦の被る冠を身に付けていた。 ちなみに、“新婦の冠”とは、いわゆる“ヴェール”のことである。 「では、これより、式を執り行う。」 ウェールズの言葉と共に、二人だけの静かな挙式が幕を上げた。 「私、ウェールズ・テューダーが、始祖ブリミルの名において、詔を唱えさせていただく…。」 新郎新婦の誓いの言葉。 これが正式に受理されれば、真に二人の絆が結ばれる。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」 「はい、誓います。」 ワルドの言葉には迷いが無い。 覇気の在るその声が証拠である。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は…」 式が進む中、ルイズは一人考えていた。 レコン・キスタの侵攻が迫るこの土壇場での結婚式。 確かにあの晩、自分はワルドと結婚すると言った。 確かにワルドは婚約者であり、自分にとっての憧れだった。 それに、こうして着飾って結婚することも、自分の中の夢だった。 しかし、あの言葉は本心ではなかった。 自分はどういう気持ちでサイトに打ち明けたのだろうか…? 自分はどうしてこんなにも迷っているのだろうか…? 本当に結婚していいのだろうか…? 「…?…新婦?」 「…ルイズ?…どうしたんだ?」 今でもその脳裏にサイトの笑顔があるのが、その迷いがある証拠。 答えは…自分で見出さなきゃいけない…! 「ごめんなさい、ワルド……。」 ――私は…、あなたと結婚できない。 「「…!!!???」」 その思いも寄らなかったルイズの返答には、ウェールズもワルドも戸惑いを隠せなかった。 「…確かにあなたには憧れていたし、結婚することも夢だった。でも、恋じゃないの…。ごめんなさい。」 “完全に振られた”。 こんな結末を誰が予想しただろうか…。 その瞬間―――。 ―――ガシッ! 「!!??」 ワルドがいきなりルイズの両肩を鷲掴みし、これまでにない強い剣幕でルイズに迫ってきた。 「世界だ!ルイズ!僕は世界を手に入れる!そのためには君の力が必要なんだ!!」 豹変したワルドの表情に押されるルイズ。 「子爵!式は中止だ!」 さすがに危機感を覚えたウェールズは、懐から愛用の杖を取り出し、ワルドに警告する。 「それ以上、ラ・ヴァリエール嬢に無礼を働けば、我が魔法の刃があなたを切り裂くぞ!」 その状況に、式を見守っていた神父がウェールズの後ろに回り、神官も同様に彼の後ろにつく。 分が悪いと感じたワルド、これ以上の悪あがきは無駄のようだ。 「…仕方ない…。ルイズの気持ちを掴もうと努力したが…、残念だ…。」 ―――目的の一つはあきらめるとするか…。 「目的…!?」 「…!?」 「「…!」」 “目的”―――。 その言葉に不安を覚える一同。 「この旅おいて、僕が密かに掲げた三つの目的―――。」 その大きな不安は、最悪の形で的中し―――。 「一つは、ルイズを手に入れること。一つは、君がウェールズから受け取った“アンリエッタの手紙”を奪うこと――。」 「!!!!」 そこまで聞き、ウェールズは彼の本性に気付いた。 「そして最後の一つは―――!」 それと同時にワルドが動き、ウェールズに迫り―――。 ―――ガキイイイィィィンッ!!!! 「……!?」 「「……!!!!」」 ワルドのウェールズへの攻撃が防がれた。 “神官”の持っていた剣によって。 「“最後の一つは、プリンス・ウェールズの抹殺”…。そう言おうとしたのかい、Old man!?」 「やはり、君はレコン・キスタだったか、ワルド子爵!!」 「なっ!!!???」 それは、ワルドの想定外の介入者だった…! --to be continued--
(ハルケギニア某所…………) コースケ:「……?あれは…、ルイズとサイト?」 (二人そろって手を合わせている……。) コースケ:「おい、二人とも、どうしたんだこんなところで。」 サイト:「あ、コースケさん…。」 コースケ:「…?…何か、元気がないような…。」 (何も答えないサイト。) (ルイズも何も口にせず、じっと動かない…。) (徐に、視線を彼らと同じ方向に向ける…。) コースケ:「…………!!!!!!」 (その瞬間、二人のしめやかな雰囲気を察した。) (同時に、コースケも信じられない気持ちになった。) (その先にあったのは、“二人の物語のクリエイターの眠る墓”があったからだ……。) コースケ:「…いつなの…?亡くなったのは…。」 ルイズ:「……4月の最初の頃…っ…。」 サイト:「ガンの治療を続けていたそうだけど…、それも叶わなくて…。」 コースケ:「…………。」 (よく見れば、ルイズも体を震わせて涙をこらえていた…。) (かけてあげる言葉が見つからなかったコースケは、そのまま瞳を伏せて合掌し、彼に黙祷を捧げた……。)